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第142話:揺らぐ天秤、凍てつく自問


荒野に響く轟音のただ中で、ジョエルとリナの魔力が激しく火花を散らしていました。


ジョエルの大地魔法が幾重もの防壁を築き、リナの冷気がその隙間を容赦なく穿つ。


しかし、戦況が膠着する中、リナは魔法の出力を落とすことなく、あえて言葉を投げかけました。


「ねえ、ジョエル! あんた、本当にこれが『正義』だと思ってるの!?」


「……何だと?」


杖を突き立て、岩の巨腕を練り上げていたジョエルの動きが、一瞬止まりました。


「あんたの目は節穴じゃないはずよ。あの王都を見て、何とも思わなかった? 誰も笑わず、誰も怒らず、ただアレクシスの顔色を伺って呼吸してるだけの、あの死んだような街を!」


「……秩序には、痛みが伴うものだ。かつての腐敗した世界に戻るよりは……」


ジョエルの声には、自分に言い聞かせるような硬さがありました。しかし、リナはその僅かな揺らぎを見逃しません。


「嘘をおっしゃい! あんた、自分たちの部下が隠れてバルカスの肉を食べてるの、気づいてたんでしょ? それを見逃してたのは、あんた自身も『正しさ』だけじゃ腹が膨れないって分かってたからじゃないの!」


リナの瞳が、射抜くような鋭さを帯びます。


「アレクシスは壊れてる。かつての村の悲劇に囚われて、世界を丸ごと凍らせようとしてるのよ。……あんたまで、一緒に凍りつくつもり?」


「それは……」


ジョエルの脳裏に、無機質な白銀に染まった王都の光景と、かつて自分に見せたアレクシスの穏やかな笑顔が重なりました。


今のアレクシスが掲げるのは、もはや平和ではなく、恐怖による静止。


その一瞬の**「ためらい」**が、鉄壁を誇るジョエルの魔力に、決定的な綻びを生みました。


「隙ありっ!」


リナが氷の杖を大地に叩きつけました。


「極氷結・白夜のミッドナイト・コフィン!」


ジョエルの足元から、大地の水分を一気に奪い去るような超低温の波動が広がります。


ためらいによって魔力の供給が遅れた岩の防壁は、凍結膨張の餌食となり、内側から粉々に砕け散りました。


「くっ……しまっ……!」


「遅いわよ!」


砕けた岩の破片が氷の牙へと変じ、ジョエルの手足と杖を瞬時に氷柱で縫い止めました。


大地との接続を絶たれたジョエルは、荒い息を吐きながら膝をつき、目の前に突きつけられた氷の刃を見上げました。


「……私の負けだ。君の言う通り、私の魔法は……迷いがあった分、この土地の熱に負けたらしい」


ジョエルは力なく笑い、抵抗を止めました。 その視線の先では、アレクシスの光が大きく揺らぎ、クレーターの中から立ち上がる「友」の姿がありました。

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