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131.5話 正義と監獄

王都の喧騒の中心に位置する酒場「黄金の麦穂亭」は、今夜も立錐の余地もないほどの活気に包まれていました。しかし、その熱気の正体はかつてのような無頼漢たちの騒ぎではなく、魔王軍四天王を討ち取った「救国の大英雄」アレクシスへの心酔と、彼がもたらした冷徹な秩序への反応でした。

「……聞いたか? 東区を牛耳っていたあの強欲な徴税官、昨日ついに広場で首が飛んだらしいぜ」

カウンターでエールを煽っていた商人が、興奮を隠しきれない様子で隣の男の肩を叩きました。

「ああ、見たさ! アレクシス様のおかげで、この都からドブネズミのような汚職貴族が一掃されたんだ。商売敵を賄賂で動かすような不公平もなくなった。これこそ俺たちが待ち望んだ『真の秩序』だよ!」

店内のあちこちから、アレクシスを称える唱和が巻き起こります。酒場の意見のおよそ八割は、彼がもたらした「光」を全肯定する声でした。

「全くだ! アレクシス様が法になってから、夜道で路地裏を歩く恐怖がなくなった」

「魔王軍四天王を屠ったあの実力。アレクシス様こそが、この腐りきった王国を浄化してくれる唯一の神だ!」

市民たちは、彼がもたらしたあまりに清廉で、あまりに完璧な世界に酔いしれていました。しかし、酒が深まり、夜が更けていくにつれ、隅のテーブルからは異なる響きが漏れ出します。酒場の残りの二割――それは、眩しすぎる光に焼かれる者たちの、震えるような囁き声でした。

「……なあ、でもよ。隣のパン屋の親父、知ってるだろ? 兵士にちょっと不敬な口を叩いただけで、今朝連行されていったんだ。そのまま帰ってこねぇ……」

「しっ、声がデカい! ミスティ様の監視網がどこにあるか分かったもんじゃないぞ」

若者が怯えたように周囲を見回すと、古参の傭兵らしき男が、苦い酒を飲み干しながら低く呟きました。

「秩序は結構だが、あのお方の法には『慈悲』って概念がねぇ。ほんのわずかな過ち、ほんの些細な怠慢さえも、容赦なく根こそぎ刈り取られる。王都全体が、アレクシス様という巨大な鏡に常に監視されているような気分だ。……ここは楽園か? それとも、あまりに美しい処刑場か?」

一瞬、そのテーブルを重苦しい沈黙が支配しましたが、すぐに隣の席からの「アレクシス様に栄光あれ!」という乾杯の音頭にかき消されました。

人々の熱狂的な喝采と、心の奥底に澱のように溜まる息苦しさ。

アレクシスの支配する王都は、その「完璧すぎる正しさ」ゆえに、静かに、しかし確実に二つの感情に引き裂かれようとしていました。

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