第127話:王都の悲鳴、乱舞する死の翼
王都の防衛線は、もはや限界を迎えようとしていました。 空を覆い尽くすのは、魔王軍の飛行部隊――**「怪鳥族」**の群れです。
「上だ! 上を見ろ! 障壁を維持しろッ!」
ノーマンの絶叫が響きますが、一般兵たちの手は恐怖で震えていました。
上空から急降下してくるハーピーの鋭い鉤爪は、魔法軍の不完全な防護を突き破り、兵士の肩を軽々と掴んで空へと連れ去っていきます。
「ぎゃあああッ! 助け、助け……っ!」
無慈悲に放り出された兵士が地面に叩きつけられる音が、戦場のあちこちで響き渡ります。
魔法軍の防護障壁は、四方八方から飛来する羽礫によって、水面に広がる波紋のように激しく揺らぎ、削り取られていきました。
さらに、地上ではより狡猾な恐怖が蔓延していました。リリスの配下である**「サキュバス」**たちが、魔法兵の隊列に紛れ込んでいたのです。
「おい、どうした……? なぜ魔法陣を解く!」
ジョエルが異変に気づき叫びました。
最前線の兵士たちが、うつろな瞳で笑いながら、自らの杖を投げ出し、隣の戦友に魅了された眼差しを向けていたのです。
「ああ……美しい。戦わなくていいんだ……」
兵士たちの耳元で、実体のないサキュバスの影が甘い吐息を吹きかけます。
かつてアレクシスが捨て去った「故郷の安らぎ」を幻視させ、兵士たちの戦意を根こそぎ奪い去っていく。
「正気に戻れ! 術にはまるなッ!」
ジョエルが必死に解呪の魔力を振りまきますが、一度綻んだ精神の鎖は簡単には戻りません。
一般兵たちは、空からの蹂躙と内側からの魅了によって、逃げ場のない「袋のネズミ」となっていました。
「……見苦しい」
血と泥にまみれた戦場の中央で、アレクシスだけが孤高の輝きを放っていました。
彼は武器など手にしません。ただ優雅に指先を動かし、空中に複雑な魔法陣を描くだけで、周囲の空間を圧倒的な光で塗りつぶしていきます。
「ノーマン、ジョエル。下がれ。……無能な者に守れるほど、この国は安くない」
アレクシスが両手を広げると、彼の周囲に幾重にも重なる巨大な光の魔法陣が展開されました。
「聖域の審判」
放たれたのは、熱線とも呼ぶべき純白の奔流。
それは空を舞うハーピーの群れを数百羽まとめて蒸発させ、地上を覆うサキュバスの霧を力技で浄化しました。
剣を振るうような野蛮な動作はなく、ただ静かに「不純物」を消去していくような、冷徹な光の暴力。
「おお……アレクシス様! 救世主万歳ッ!」
兵士たちが歓喜の声を上げますが、アレクシスの瞳には何の感情も宿っていません。
彼が見ているのは、目の前の敵でも、称賛を送る民衆でもなく、ただ「自分が頂点で全てを制御しきれるか」という一点のみ。
しかし、至高の魔法を維持するための消耗は激しく、アレクシスの額には微かな汗が滲んでいました。
独りで全てを背負うという傲慢なまでの決意が、少しずつ彼の魔力を、そして精神を削り始めていたのです。




