第124話:四天王襲来! 魅惑の罠と鋼鉄の大胸筋
魔王軍の正規軍が、ついに王都を目指して進軍を開始しました。
その進路上には、アレクシスが「死に体」だと思い込んでいた、あの筋肉の要塞が立ちはだかっています。
「ガハハ! 来たな、魔王軍! さあ、俺の広背筋で受け止めてや――」
城門の前で仁王立ちするディエスの前に、紫の煙とともに一人の絶世の美女が舞い降りました。
魔王軍四天王の一人、「魅惑の幻影」リリスです。
「あら、こんな辺境に美味しそうな野生動物がいるじゃない……」
彼女が指先で空を描くと、甘い香りの魔力が漂い、ディエスの脳内には
「最高の美女たちに囲まれてプロテインを献上される」という完璧な桃源郷が映し出されました。
「お、おおぉ……! 美女! 筋肉! 美女! 筋肉! ガハハ、ここは天国かッ!?」
鼻の下を限界まで伸ばし、デレデレとだらしない顔でリリスに歩み寄るディエス。
「ちょっ、ディエス様! 何鼻血出してんのよ! 四天王よ、敵よ!」
「ディエス様、あれは術です。欲望に忠実すぎて、心の壁が紙屑のように突破されていますね」
リナのツッコミとハンスの冷静な分析も、今のディエスには届きません。
「さあ、その熱い活力を私に頂戴……」
リリスが妖艶な笑みを浮かべ、ディエスの筋骨隆々とした胸板にそっと手を触れました。
彼女の術は、接触した相手の魔力と活力を吸い尽くすこと。しかし、触れた瞬間に彼女の表情が凍りつきました。
「な……に、これ……? 硬っ!? 石……? いえ、これダイヤモンドより硬くない……!?」
ディエスの大胸筋は、魅了による興奮で極限まで膨れ上がり、もはや生物の組織とは思えない**「鋼鉄の甲冑」**と化していたのです。
「痛っ……指の爪が割れた……!? しかも、吸い込もうとしても魔力が筋肉の密度に押し返されて入っていかない……! なんなのこの生き物、硬すぎて全然美味しくないわよ!!」
「ガハハハ! 美女に触られて、俺の筋肉がかつてないほど喜んでいるぞぉぉッ!」
ディエスは幸せそうにデレデレしたまま、リリスの激しい打撃(という名の拒絶)を食らって地面を転がっています。
「……リナさん、安心してください。ディエス様がボコボコにされているように見えますが、ダメージを受けているのは『ディエス様の尊厳』と『リリスの指先』だけです」
「いや、尊厳死してるじゃない! 誰かあの筋肉ダルマを正気に戻して!」
リリスは「もういいわ、こんな不味そうな塊にかまっている暇はないの!」と、激しい拒絶反応を示して術を解除。
彼女たちの目的はあくまで王都。
この変な要塞と関わるのは時間の無駄だと判断し、街に大きな被害を与えることなく、ディエスだけを放置して王都へと進軍を再開しました。
「待ってくれぇ! まだ触れ合い(トレーニング)の途中だぁ……!」
地面に這いつくばりながら去りゆく四天王に手を伸ばすディエス。
「……ねぇハンス。魔王軍が通り過ぎてくれて助かったけど、私たちのリーダー、あれでいいの?」
「リナさん。少なくとも、魔王軍の四天王を『ドン引きさせて追い返す』という防衛には成功しました。結果オーライです」
こうして、開拓地は「ディエスが精神的にボコボコになる」という最小限の(?)被害で、魔王軍の第一波をやり過ごすことに成功しました。
しかし、リリスの目的地は、潔癖症で「不浄な接触」を何よりも嫌うアレクシスが待つ王都です。




