第121話:商人の矜持と、筋肉の流通革命
ドワーフたちが打ち出した、魔獣素材製の「超軽量・高耐久スコップ」が完成した頃。
開拓地の頑強な城門の前に、見覚えのある派手な馬車が到着しました。
「ひぇぇ……なんだよこの要塞は! 本当にディエスの領地かよ!? しかもこの城壁、ハンスが言ってた『筋肉土木』の完成形か……?」
馬車から降りてきたのは、小太りの商人マルコ。
かつて王都の路上で、アレクシスに敗れ死に体だったディエスに、破産覚悟でハイ・ポーション百本を流し込んだ男です。
「ガハハハ! マルコ! よく来たな! あの時のポーションの味、今でも筋肉が覚えているぞ!」
ディエスが豪快にマルコの背中を叩くと、衝撃でマルコの足元がふらつきました。
「痛てぇ! 相変わらずの馬力だな……。ハンス、お前も元気そうじゃないか。王都で『ディエスの右腕が消息を絶った』って噂になってたけど、まさかこんな地獄の果てで要塞を作ってるとはね」
「お久しぶりです、マルコ殿。貴方があの夜、非合理的なまでの『過剰投与』でディエス様を繋ぎ止めてくれたおかげで、今のこの景色があります。……もっとも、あの時の借りはまだ返せていませんがね」
ハンスは事務的に眼鏡を押し上げ、一通の目録をマルコに手渡しました。
「借りを返すどころか、さらに大きな商談ですよ。これを見てください」
マルコは商人の目になり、目録と、バルバドスが叩き上げた試作品のスコップを手に取りました。
「……軽い、それでいて鋼鉄より硬い。おい、これ一本で王都の騎士団の支給品がゴミに見えるぞ。素材は……魔王領の魔獣か? 正気かよ、こんなのどこで仕入れた?」
「昨日のスタンピードで、向こうから飛び込んできました。現在、我が領ではこの素材が『在庫過多』です」
ハンスの淡々とした言葉に、マルコは顎が外れそうになりました。 「スタ、スタンピードが在庫……!? お前ら、本当にバケモノだな。……なるほど、これをアレクシス様にバレないように、俺のルートで捌けってことだろ?」
「ええ。アレクシス様には『ディエスは飢え死に寸前』だと思わせておかなければなりません。ですから、これらはすべて『帝国の新進気鋭の工房で作られた新製品』として市場に流してください。出所を隠蔽するための伝票偽装は、貴方の得意分野でしょう?」
「へっ、買い被るなよ。俺はただの『発注ミスが多い商人』だ。……だがいいぜ、俺の配送網を使えば、王都の検問なんて『賄賂という名の高級ワイン』で素通りだ。ついでに、王都で余っている高級食材や医療物資を、二束三文でここに運び込んでやるよ」
「助かるぞ、マルコ! 食い物が良くなれば、筋肉もさらに喜ぶからな!」
ディエスの笑い声が響く中、ハンスとマルコはがっちりと握手を交わしました。
「知略」と「商魂」が手を組み、アレクシスの知らないところで、王都の市場は少しずつ、しかし確実に「筋肉製」の製品に浸透されていくのでした。




