第120話:地獄の工房と、奪還すべき同胞たち
開拓地に到着した伝説の鍛冶師バルバドスは、地下倉庫に案内された瞬間、その場にへたり込みました。
「な……なんだ、この量は……っ! 魔王領の火焔蜘蛛の牙が千本、ミノタウロスの角が数百、それに大蜘蛛の糸が……っ。これ、全部本物か!?」
「ガハハハ! 全部お前のものだ、バルバドス! 好きなだけ叩けッ!」
ディエスが豪快に笑いながら肩を叩くと、ハンスが冷徹に一枚の分厚い「発注リスト」を差し出しました。
「ではバルバドス殿、本日中に工作兵100人分の『魔獣骨製・超軽量強化スコップ』と、ディエス様用の『一トン・ダンベル』10対の鍛造をお願いします」
「……あ? 一日で100人分だと? バカ抜かせ! 職人の仕事をなんだと思っていやがる! こんな貴重な素材、一朝一夕で加工できるわけねぇだろうが!」
バルバドスは激昂してハンスに詰め寄りますが、ハンスは眼鏡を光らせて淡々と答えました。
「効率こそが正義です。一人で無理だと言うのなら、なぜ**『一人』**でやろうとするのですか?」
「……何だと?」
「この世界において、貴方たちドワーフや獣人といった亜人は迫害され、帝国では家畜同然の『奴隷』として売られています。……ディエス様、ちょうど良い出物がありますよ」
ハンスが提示したのは、帝国の裏市場に流れた、バルバドスの元弟子たちを含むドワーフの熟練工たちの名簿でした。
「こいつらは……っ、俺の村が帝国に焼かれた時に捕まった連中じゃねぇか! 生きていたのか……!?」
「ガハハ! よし、決まりだ! 仲間がいなけりゃ連れてくればいい! ハンス、金貨は昨日のスタンピードで稼いだ分が山ほどあるな!」
「ええ、有り余っています。アレクシス様にバレないよう、帝国の商人を通じた『不良在庫の買い取り』という名目で、彼らを一括で『救出』……いえ、仕入れてきましょう」
数日後。 ハンスの根回しにより、帝国から数台の檻車が開拓地に到着しました。中には、希望を失い、ボロ布を纏わされたドワーフたちが詰め込まれていました。
「……おい。ここはどこだ。また新しい鉱山か?」
怯える彼らの前に、ディエスが仁王立ちしました。
「お前たち! 今日からここが、お前たちの新しい『工房』だ! 枷は外せ! その腕は、これから筋肉と未来のために振るってもらうぞッ!」
ディエスが素手で鉄格子をひん曲げると、奥からバルバドスが叫びながら飛び出しました。
「野郎ども! 久しぶりだな! 泣いてる暇はねぇぞ、見てみろこの素材の山を! 叩き放題、食い放題だぁーッ!!」
変わり果てた師匠と、見たこともない最高級素材、そして「住民全員が筋肉で笑っている」という異常な光景を前に、ドワーフたちは呆然としながらも、その瞳に職人の火を灯しました。
「……バルバドス師匠。ここ、本当に人間の領地なんですか?」 「ガハハ! ここは人間とか亜人とか関係ねぇ! 筋肉がある奴は全員仲間だ! さあ、地獄の鍛造を始めるぞ!!」
開拓地に鳴り響く、数百の槌音。 迫害されていたドワーフたちは、ディエスの圧倒的な「熱」によって、最強の「バルカス工作兵団・工芸局」へと生まれ変わるのでした。




