第117話:大地の顎(あぎと)、ハンスの「効率的」防衛術
地平線を埋め尽くす魔物の波。城壁の上では、傷だらけのディエスが咆哮を上げ、拳一つで巨大な魔獣を叩き伏せていました。
しかし、魔王領から溢れ出す絶望の数は、一人の英雄の限界を確実に削り取っていきます。
「ディエス様! もう障壁が持ちません! このままでは城内に雪崩れ込まれます!」
リナが氷結魔法で迫りくる魔物を足止めしますが、数に押され、防衛ラインは今にも崩壊寸前。
「ガハハ! ならば城門を打って出、一人残らずこの腕で捻り潰してやるッ!」
血塗れのディエスが門へ飛び降りようとしたその時、背後から冷徹な声が響きました。
「……お待ちなさい、ディエス様。筋肉を無駄遣いするのは感心しません。予定通り、**『大規模土木罠』**を起動します」
ハンスが懐中時計を閉じ、合図の旗を振りました。
その瞬間、地上の工作兵たちが一斉に動き出しました。
彼らがいたのは城壁の外ではなく、地下の広大な空洞。開墾の際に「人間耕運機」たちが過剰なまでの脚力で掘り進め、ハンスが綿密に計算して残した、街道の真下に広がる「空洞」です。
「野郎ども、準備はいいか! 支えの杭を……一斉に引き抜けぇッ!!」
工作兵団の班長の号令とともに、数百人の筋肉たちが、地上を支えていた巨大な杭を人力で一気に引き抜きました。
ドォォォォォォンッ!!!
悲鳴さえかき消す轟音とともに、街の正面にいた数千の魔物たちが、足元の地面ごと忽然と消えました。
街道そのものが巨大な「落とし穴」と化し、スタンピードの主力部隊は、なす術もなく暗黒の底へと飲み込まれていったのです。
「……な、何が起きたの?」 リナが穴の底を覗き込み、顔を引きつらせました。
そこはただの穴ではありませんでした。
底には、工作兵たちが開墾で出た廃石をノミで削り出した、**「超硬質の巨大な槍」**がびっしりと敷き詰められていたのです。
数トンの自重で落下した魔物たちは、その衝撃だけで次々と串刺しになり、断末魔を上げる暇もなく「素材」へと変わっていきました。
「ハンス……。これ、あんたが設計したの?」
「ええ。穴を掘る筋肉と、落ちる重力。これほど安上がりで確実なエネルギーはありませんから。さらに見てください、穴の底はスロープになっており、そのまま**『地下解体処理場』**へと繋がっています。死骸を運ぶ手間も省けて、戦後の清掃もラクラクですよ」
ハンスが事務的に説明する傍らで、ディエスは傷だらけのまま大笑いしました。
「ガハハハ! まさか地面そのものを顎にして食わせちまうとはな! さすがだハンス、おかげで少し筋肉を休める時間ができたぞ!」
「……いえ。休む暇はありませんよ、ディエス様。穴を逃れた残党の掃討、そして地下に溜まった『素材』の仕分け作業が山積みです。さあ、住民の皆さん! 明日のプロテイン代を稼ぎに行きますよ!」
絶望のスタンピードは、ハンスの「効率重視」な罠によって、史上稀に見る「自動仕入れイベント」へと変貌を遂げたのでした。




