第116話:魔王領の咆哮、筋肉の防壁
ディエスが帰還し、新たな城壁と「筋肉兵団」の訓練に熱中していた、その日の夕刻。
突如として、大地を揺るがす地鳴りが響き渡りました。
それは、数年前にこの地を捨てさせ、王国が目を背けてきた「絶望の記憶」の再来でした。
「あれは……スタンピード!? 馬鹿な、なぜこの時期にこれほどの大群が!」
見張り台から叫び声が上がると同時に、城壁の外にはおびただしい数の魔物の群れが押し寄せてきました。 かつてこの地を壊滅させた、魔王領からの**「大侵攻」**です。
「落ち着け! 全員、持ち場へ! ハンス、防壁の魔法障壁を最大展開だ! リナ、エルザ! 住民の避難誘導を!」
ディエスの指示が飛ぶと、訓練の成果が発揮されます。
住民(工作兵団)は統制の取れた動きで城壁へと向かい、ハンスは魔導炉の出力を最大に引き上げました。青白い魔法障壁が、一瞬にして光を増します。
「ガハハハ! いいぞ! みんな、今日の『対魔獣格闘訓練』の時間だ! 今日は特別、数が多いぞ!」
ディエスは城門の前に仁王立ちし、腕の筋肉を漲らせます。
だが、今回はこれまでとはレベルが違いました。
魔物の波は城壁を覆い尽くし、先行部隊が魔法障壁に体当たりするたび、閃光と轟音が周囲を包みます。
「ディエス様! 城壁の一部に亀裂が! 魔法障壁の出力が持ちません!」
ハンスの叫びと同時に、数体の巨大なミノタウロスが障壁を突破。城壁によじ登り始めました。 ディエスは単身、城壁の上へと跳び上がります。
「この壁は、俺たちの筋肉で築いた聖域だ! 貴様らのような軟弱な魔物に、指一本触れさせん!!」
ディエスは素手でミノタウロスを掴み、その巨体を軽々と持ち上げては城壁の下へと投げ落としました。
しかし、数で勝る魔物は次々と這い上がってきます。ディエスは全身を魔物の爪や牙で切り裂かれ、血が滲み始めました。
その頃、城壁の下では、リナとエルザが避難誘導を終え、魔物と対峙していました。
「リナ! 前線が突破されそうよ!」
エルザが叫ぶと、リナは自身の周囲に魔力を集中させました。
「くっ……! まだ魔力は回復してないけど、やるしかない! 『氷結の檻』!」
リナが魔法を放つと、前線に殺到していた魔物たちの足元から急速に氷が広がり、瞬く間に凍り付かせました。魔物たちは氷の檻に閉じ込められ、身動きが取れなくなります。
「よし! 足が止まったわ! エルザ、ここから一気に!」
「分かってるわ! みんな、リナがくれたチャンスよ! 引っ掻かれるな!」
エルザは愛用の剣を抜き放ち、住民(工作兵団)たちと共に凍り付いた魔物たちへ突撃しました。
剣、斧、スコップ、そして素手――訓練された彼らの連携攻撃で、魔物たちは次々と打ち倒されていきます。
しかし、魔物の群れは終わりが見えません。
ディエスは血と汗に塗れながら、それでも咆哮を上げ、次々と襲い来る魔物を打ち砕いていきました。彼の全身は深手を負い、肉は裂け、骨が軋む音すら聞こえてきます。それでも彼の瞳には、一切の諦めがありませんでした。
「(これが……この場所が捨てられた理由の『絶望』か。だが、俺は……俺たちは、ここで諦めない!)」
魔物の波は止まらず、城壁の一部がついに崩落。 ディエスの肉体は限界を超え、意識が遠のきそうになります。
その時、彼の耳に、力強い住民たちの叫び声が届きました。
「ディエス師匠! 私たちが援護します! 足りない筋肉は、みんなで補えばいいんです!」 「ここは私たちが守る! ディエス様は休んでください!」
満身創痍のディエスを、リナとエルザ、そして血気盛んな工作兵団が支え、次の魔物の波に立ち向かおうとします。
「ガハハハハ!! いいぞ野郎ども! その意気だ! ならば、この絶望をぶっ潰すまで……俺たちの筋肉は止まらんッ!!」
ディエスは再び立ち上がり、全身の傷を無視して、まるで筋肉が意志を持っているかのように咆哮しました。
血みどろの領主と、彼を信じる住民たち。捨てられたはずの開拓地で、再び「絶望」と「希望」の戦いが始まろうとしていました。




