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第115話:変わり果てた我が家、あるいは筋肉の聖域


王都からの「待機勧告」という名の体り良い追放から数日。


街道の整備(という名の時間稼ぎ)をようやく終えたディエスが、鼻歌交じりに開拓地へと戻ってきました。


「ガハハ! やはり我が家の空気はいいな! さて、みんな丸太を抱えて待っているか――」


しかし、愛する領地の入り口に立ったディエスは、その場で石像のように固まりました。


「……ハンス。俺は、いつの間に帝国の国境要塞に迷い込んだんだ?」


ディエスの目の前に広がっていたのは、以前のような「ただの荒れ地とハリボテのテント」ではありませんでした。


まず、街の周囲を囲うように、巨大な石積みの**「城壁」がそびえ立っています。


その上には筋肉隆々の見張り台が等間隔に配置され、さらに城壁全体には、青白く光る高度な「魔法障壁」**が展開されていました。


「お帰りなさい、ディエス様。予定より二時間早い帰還ですね」


城門から涼しい顔で現れたハンスが、眼鏡をクイと押し上げました。


「ハンス! この壁は何だ!? それにこの堀……。いつの間にこんな深く掘ったんだ?」


「ディエス様が新兵をシゴいている間、こちらの工作兵たちも『シゴき』が必要でしたので。重機を使わず、人力のみで掘削させました。大臀筋のトレーニングに最適だと言ったら、一晩でこの深さです」


ハンスの背後では、住民たちが以前のような「不安げな流民」ではなく、統制のとれた**「軍隊(工作兵団)」**として動いていました。


重い資材を運ぶ「輜重兵」、城壁の補修を行う「工兵」、そして魔獣の接近を待ち構える「歩兵」。


それぞれの役割が完璧に分担され、彼らの瞳にはギラついた闘志が宿っています。


「ハンス、あいつら……なんだか雰囲気が変わったな?」


「ええ。対魔獣格闘訓練を体系化したところ、住民たちの間で『魔獣は貴重なタンパク源であり、最高のトレーニングパートナーである』という認識が定着しまして。今では、魔獣の咆哮が聞こえると『今日のノルマが来たぞ!』と全員で取り合いになる始末です」


「……戦闘狂集団になってないか、それ?」


リナのツッコミが響く中、ディエスの視線はさらに街の外縁へと向きました。


そこには「人間耕運機」たちが爆速で耕し終えた、美しい**「広大な段々畑」**が山裾まで広がっていました。


「ほう……。あそこまで耕したのか。あれならもう、帝国からの輸入に頼らずとも腹一杯食えるな!」


「左様です。肉による筋肉の構築と、野菜による腸内環境の整備。この両輪が揃ってこそ、難攻不落の要塞は完成します」


ディエスは、あまりにも整然と、そして強固に発展した自分の領地を見渡し、大きく息を吸い込みました。


「ガハハハ! 面白い! 留守の間にこれほどとは、さすがは我が右腕ハンスだ! よし、この新しい城壁を使って、さっそく全員で『城壁懸垂ウォール・プルアップ』千回の刑だッ!!」


「……ハンスさん、せっかく合理的に作った城壁が、一瞬で巨大な健康器具にされちゃいましたよ」


「構いませんよ、リナさん。……彼らが鍛えれば鍛えるほど、この『要塞』の防御力は上がっていくのですから」


ハンスの不敵な笑みの下、開拓地はもはや王都の誰もが想像し得ない「筋肉の聖域」へと変貌を遂げていたのでした。

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