第112話:主の不在、加速する筋肉要塞
王都の執務室にて、アレクシスは不敵な笑みを浮かべてペンを走らせていました。
「ふん、ディエスめ。ミスティの報告によれば『ただの脳筋キャンプ場』らしいが、念には念を入れねばならん。奴を開拓地から引き剥がし、発展を停滞させてやる」
アレクシスが送りつけた親書の内容はこうです。
『先の魔物襲撃により王国軍は疲弊している。よって、新兵の引率と討伐経験を積ませるため、開拓地領主であるディエス・フォン・バルカスに王都への一時帰還を命ずる』
「名君」の顔をした、実質的な「嫌がらせの召集令状」でした。
「……というわけで、王都へ行ってくる! 新兵どもを筋肉の虜にしてやるぞ!」
荷物をまとめ、意気揚々と開拓地を出発するディエス。
リナとエルザは「王都で暴れないでくださいよ!」と心配そうに見送りますが、ハンスだけは眼鏡の奥で異様な光を放っていました。
「お気をつけて、ディエス様。……心ゆくまで、存分に王都を筋肉で染め上げてきてください」
ディエスが街道の彼方に消え、その姿が完全に見えなくなった瞬間。
ハンスは流れるような動作で、隠し持っていた「真の設計図」を広げました。
「さて……**ようやく邪魔者がいなくなりましたね。**全工作兵、集合!!」
ハンスの号令に、開拓地が震えます。
「いいですか、諸君。ディエス様がいると、『まずは丸太を担ごう』『まずはスクワットだ』と、建築効率を無視したトレーニングが始まってしまい、作業が遅滞するのです。しかし、今の我々にブレーキは必要ありません!」
ハンスは冷徹に、かつ超高速で指示を飛ばし始めました。
「第一班、重機代わりのスクワットは禁止です。滑車とレバーを使いなさい。第二班、地ならしはディエス様の踏み込みを待つ必要はありません、改良型プレス機を投入! 第三班、余った筋肉はすべて運搬へ回せ! 今この瞬間から、我が開拓地は**『24時間3交替ノンストップ・マッスル建築モード』**に移行します!」
一週間後。王都で新兵相手に「まずは大胸筋のピクピクからだ!」と無益な講義を垂れ流していたディエスのもとに、開拓地からの定時報告が届きました。
「な、なんだこれは……!? 我が家が、城壁が、一週間前より三倍速く建っているだと!?」
報告書を読んだディエスは愕然としました。
彼が不在の間、ハンスの精密な指揮と「ディエスの筋肉教育」によって極限まで鍛えられた工作兵たちが、トレーニングという名の無駄な動きを一切排除し、**「純粋な建築作業」**に没頭した結果、街の発展度は爆発的に跳ね上がっていたのです。
開拓地の事務所では、山積みの金貨と完成予想図を前に、ハンスが優雅にハーブティーを啜っていました。
「ふふふ……やはりディエス様がいないと、経済理論が正常に機能しますね。アレクシス様には感謝しなければ。これほどまでに効率よく作業が進むとは……。いっそ、もう一ヶ月ほど王都で足止めしてくれませんかね?」
「ハンスさん! 喜びすぎですよ! 顔がすっごい悪役になってますから!」
リナのツッコミが響く中、主不在の開拓地は、今日も明日も、これまでにない速度で「鋼鉄の筋肉要塞」へと成長していくのでした。




