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第111話:筋肉の街道、商人の欲望、そして女の勘


工作兵たちが「人間耕運機」として大地を耕す傍ら、もう一つの巨大なプロジェクトが完成を迎えようとしていました。


ディエスの圧倒的な重機並みの馬力と、ハンスの精密な設計によって、帝国へと続く最短ルート――**「バルカス筋肉街道」**が全通したのです。


ハンスの戦略は「通行料を無料にして、商人を一人でも多く引き込むこと」。


この狙いは的中し、街道には珍しい魔獣の素材や帝国の物資を求める商人たちが続々と押し寄せ、開拓地は一気にバブルの様相を呈し始めました。


そんな中、新設された商談用のテントで、ディエスは鼻の下を伸ばしきっていました。


目の前にいるのは、帝国からやってきたという妖艶な女商人、カトリーヌです。


「……まぁ、バルカス様。なんて逞しいお体……。この太い腕、私のような弱い女には、まるでお城の柱のように見えますわぁ」


「ガッ、ガハハハ! そうか? まぁ、これでも毎朝の丸太担ぎは欠かさんからな!」


ディエスは、カトリーヌがわざとらしく胸元を押し当ててくるたびに、筋肉のキレが良くなるのを感じていました。


「そんな素敵なバルカス様にお願いがありますの。これからお宅の建設に必要な『高品質な石材』を、私たちが特別に納入して差し上げますわ。ただ、少ぉしだけ運搬コストがかさんでしまって、相場の三倍のお値段になってしまうのですけれど……」


「三倍!? ほう、それは高品質なんだな! 我が筋肉の家に相応しい。いいぞ、会いに来てくれるならいくらでも買おう! ハンス! 今すぐ全棟分の契約を――」


「いいわけないでしょうがぁぁッ!!!」


テントを切り裂かんばかりの勢いで、リナの怒号が響き渡りました。


「ちょっとディエス様! 何をトチ狂ったこと言ってるんですか! その石材、さっき市場で見たやつの使い回しですよ! なんでそんな、吹っかけられた値段で二つ返事しちゃうんですか!?」


「お、おうリナ……。だが、彼女は『弱い女』なんだぞ? 困っているなら助けてやるのが男の筋肉というもの……」


「その『弱い女』、アンタの資産を骨までしゃぶろうとしてますよ!」


リナは、カトリーヌが差し出していた見積書をひったくり、ビリビリに破り捨てました。


「お姉さんもいい度胸ね。うちの脳筋を色仕掛けで転がそうなんて百万年早いわよ! 契約は全部ハンスさんを通しなさい!」


カトリーヌは舌打ちをしながら退散していきました。


その様子をテントの隅で眺めていたハンスが、深く、重いため息をつきながら眼鏡を拭き直します。


「……ディエス様。貴方には『余計なこと』をしないようにと、あれほど監視リナさんをつけておいたはずなのですが。お願いですから、大人しく筋肉のパンプアップだけに集中していてくれませんか? 貴方が一言喋るたびに、私の計算した予算案が筋肉のように弾け飛んでいくのですから」


「ガハハ! すまんハンス! だがリナ、お前が怒るときの腹筋の収縮、なかなか見事だったぞ!」


「褒めてないわよ!!」


活気づく経済の裏で、リナやハンスの心労は増すばかり。


しかし、この「女の勘」と「ハンスさんの計算」がある限り、バルカス開拓地が商人たちに食い物にされることはなさそうです。

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