表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/159

第109話:スクワットと石積み、筋肉が紡ぐ街並み


ミスティが去り、開拓地に日常が戻りました。


しかし、その「日常」は王都の常識からはかけ離れたものです。


早朝、開拓地に鳴り響くのは鶏の声ではなく、ディエスの地鳴りのような号令でした。


「よし、朝のウォーミングアップだ! 建築資材の運搬キャリーを始めるぞ! 姿勢を正せ、腰を入れるんだ!」


ディエスの指示で、元野盗から流民まで、数百人の住民が一斉に動き出します。


彼らが手にしているのは、ハンスが帝国の設計図を元に簡略化した、堅牢な石造り宿舎のための巨大な建材です。


「見てなさいよ。あんな重い岩、普通なら牛車を三頭立てなきゃ動かないのに……」


リナが呆れたように指差す先では、住民たちが二人一組になり、巨大な石柱を肩に担いで「一、二! バルカス!」とリズムを合わせてスクワットをしながら歩いていました。


これはハンスが考案した**「建築トレーニング・メソッド」**です。


ただ建物を建てるのではない。重い建材を運び、積み上げる動作そのものを「筋肉の肥大」と「体幹の強化」に直結させる。


重い石を運べば運ぶほど、家が建ち、同時に彼らの筋肉も育つという、狂気的なほど効率的なシステムでした。


「ハンスさん、あそこの三号棟、昨日より三段も石が積み上がってるわ。どういう計算なの?」


「簡単な理屈ですよ、リナさん。昨日より筋肉がついた分だけ、一度に運べる石の重量が増えた……。つまり、建築速度は二次関数的に加速していくのです。今では一軒の宿舎を建てるのに、一週間もかかりません」


ハンスは事も無げに言いますが、その背後では、ディエスが屋根の上で片手で重いはりを支えながら、もう片方の手で杭を打ち込んでいました。


「ガハハハ! 今日中にこの棟を完成させるぞ! 終わったら、エルザの特製・高タンパク肉スープが待ってるからな!」


その言葉に、作業員たちの目の色が変わります。


かつては雨風を凌ぐテントさえ持たなかった流民たちが、自らの汗と筋肉で「自分たちの家」を積み上げていく。


崩落しそうだった断崖の陰には、いつの間にか、王都の裏路地よりも整然とした、屈強な石造りの街並みが姿を現し始めていました。


「……ねぇ、ハンスさん。このペースでいくと、半年後にはここ、要塞都市になってない?」


「おや、リナさん。これはあくまで『個人の住宅』ですよ。ただ、少々……外壁が分厚く、魔法の直撃にも耐えられる設計になっているだけです。万が一、不逞な輩が攻めてきても、住民が家を持ち上げて盾にできますからね」


「……その発想、普通は出ないわよ」


リナは遠くを見つめて溜息をつきました。


しかし、住民たちの顔には、王都で虐げられていた頃にはなかった「誇り」が宿っています。


自分たちの家を自分たちの筋肉で建てたという自信が、彼らをただの流民から「開拓民」へと変えていました。


そんな中、ハンスは完成しつつある街並みを眺めながら、手元の羊皮紙に次なる計画を書き込みました。


「さて、居住区の目途が立ちました。次は……この強靭な住民たちを、より組織的な『工作兵団』として訓練する段階に入りましょうか」


筋肉で建った街は、静かに、しかし着実に「難攻不落の要塞」へとその姿を変えようとしていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ