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第107話:青髭の隠密、筋肉の裏側

王都の執務室で報告書を破り捨てたアレクシスは、満足げに背もたれに身を預けました。


「ふん、所詮は脳筋か。寝床も満足にないテント生活で、マッチョを眺めて自己満足に浸っているとはな。ハンスがついていながらその程度とは、よほど北方の環境が過酷なのだろう」


しかし、その傍らで書類を整理していた副官ミスティは、細い指先を顎に当て、冷ややかな瞳を光らせていました。


(……おかしいわね。あのハンスが、そんな無様な計画を立てるかしら? あの男は、泥水からでも金貨を絞り出すような執念深いタイプのはず。アレクシス様はぼうやを侮りすぎているわ……)


「アレクシス様。アタシ、少し王都の空気に飽きちゃった。地方の浄化活動と称して、少し外を回ってきてもよろしいかしら?」


「ああ、構わん。君には避難誘導で苦労をかけたからな。好きにしたまえ」


数日後。開拓地の境界付近。


そこには、派手な軍服を脱ぎ捨て、地味な旅人の服に身を包んだミスティの姿がありました。


丁寧に剃られたはずの青髭が、旅の無精を装ってわずかに浮き出ています。


ミスティは、査察団が通った正規の街道を外れ、断崖の死角となる裏道から潜入を試みました。すると、彼の目に信じられない光景が飛び込んできます。


「あら……? あんな崖の陰に、見事な石造りの宿舎が建っているじゃない」


そこでは、ハンスが組織した**「工作兵」**たちが、ディエスの指導で鍛え上げた筋肉を駆使し、驚異的な速度で建設作業を進めていました。


「よし、第一班! 支柱の固定だ。第二班は外壁に泥を塗れ! 遠くから見たらただの岩肌に見えるようにな!」 ハンスの冷徹な号令が響きます。


彼らはただ建てるだけではありません。


敵を迎え撃つための落とし穴や、物資を隠すための地下通路を同時に掘り進めていました。

それは「開拓」という名の、巨大な**「要塞化」**でした。


「……なるほどね。地上にはゴミを見せつけ、裏で着々と爪を研いでいるわけだわ。ハンス、相変わらずいい性格してるじゃないの」


ミスティは感心したように呟きました。その時、背後から「みっしり」とした威圧感が迫ります。


「おーい、そこのアンタ! 迷い人か? 悪いがここは立ち入り禁止だ。……ん? その髭の剃り跡……どこかで見たような……」


ディエスでした。彼は巨大な「帝国製プロテイン」の樽を軽々と担ぎ、不審な旅人ミスティを覗き込みました。


ミスティは一瞬で「副官ミスティ」の仮面を完璧に固定し、艶めかしく笑いました。 「あらぁ、素敵な筋肉だこと。アタシはただのしがない旅の占い師よぉ。ちょっとこの地の『良い気』に当てられて迷い込んじゃったみたい」


ディエスは首を傾げました。

「占い師? よく分からんが、腹が減ってるなら肉でも食っていくか? 今ちょうど、エルザが魔獣のモツ煮を作ってるんだ」


ミスティは、ディエスが自分に気づいていないこと、そしてこの地が「ただの脳筋の集まり」ではなく、ハンスの知略とディエスの人徳が噛み合った、アレクシスにとっての最悪の脅威に育ちつつあることを確信しました。


(……ふふふ。アレクシス様には『ディエス様はただの野蛮人でした』って報告しておきましょう。

この面白いカード、アタシだけの切り札にしておかないと損だわ)


ミスティは、差し出された高タンパクなモツ煮を優雅に受け取りながら、心の中で次なる「賭け」の準備を始めるのでした。

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