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第105話:筋肉の楽園、更生するハイエナたち


「死ぬ……今度こそ本当に死ぬ……ッ!」


かつて野盗の頭目だった男は、自らの体重の三倍はある巨岩を背負いながら、生まれたての小鹿のように膝を震わせていました。


彼の周囲では、元部下たちが白目を剥きながら「バルカス! バルカス!」と謎の掛け声を上げ、スクワットを繰り返しています。


ディエスが考案した「更生プログラム(地獄の合宿)」が始まって二週間。


彼らに与えられたのは、逃げ場のない断崖絶壁と、朝から晩までの過酷な労働、そして――。


「ほれ、おかわりだ! 筋肉が泣いてるぞ、米と肉を詰め込めッ!」


ディエスが豪快に放り投げたのは、特大の器に盛られた炊き立ての飯と、魔獣の赤身肉が山盛りになったステーキでした。


「は、はふっ……もぐ……う、うめぇ……!」


元頭目は、涙を流しながら肉を頬張りました。 野盗時代は、いつ捕まるか、いつ仲間に後ろから刺されるか、明日の飯にありつけるか……常に死の恐怖と隣り合わせの、神経をすり減らす毎日でした。


しかし、今は違います。


労働は確かに死ぬほどキツい。筋肉痛で寝返りすら打てない。だが、ここには「確実な飯」と、ディエスが保証する「理不尽なまでの安全」がありました。


「……なぁ、頭。俺、今まで奪うことばっかり考えてたけどよ。自分で岩を運んで作ったこの道が完成した時……なんか、ちょっと感動しちまったんだ」


元部下の一人が、隆起し始めた自分の上腕二頭筋を見つめながらポツリと漏らしました。


「……ああ。野盗をやってた頃より、今の方がぐっすり眠れる。筋肉は裏切らねぇってのは、あのアホみたいに強い旦那の言う通りだったな」


彼らの瞳には、かつての濁った野心ではなく、健康的な労働によって得られた「生の実感」が宿っていました。


その様子を遠くから見ていたリナは、頬杖をつきながら呆れ顔で呟きます。


「……信じられない。あの凶悪だった野盗たちが、今じゃ村一番の働き手になってる。あんなにキラキラした目で『明日はデッドリフトの記録を更新するんだ!』なんて言ってる悪党、見たことないわよ」


「リナさん、これがディエス様の『筋肉統治』の真髄です」


ハンスが冷徹に、しかしどこか満足げに眼鏡を押し上げました。


「恐怖で支配すれば反乱が起きますが、筋肉で支配し、正当な報酬(肉)を与えれば、彼らは自ら進んでこの地の礎となる。彼らはもう、奪う側ではなく、この筋肉の楽園を守る側の住人ですよ」


「ガハハハ! いい顔になってきたな、野郎ども! 明日はさらに負荷を三割増しだッ!!」


「「「サー、イエス・サー!!!」」」


元野盗たちの雄叫びが、北方の空に響き渡ります。


しかし、そんな「筋肉のユートピア」の平穏を切り裂くように、断崖の向こうから王国の軍旗を掲げた一団が近づいてくるのが見えました。


アレクシスが送り込んだ、**「開拓実態査察団」**の到着でした。

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