第104話:野盗の襲来と、筋肉の裁き
「肉の聖人」の噂は、飢えた民だけでなく、死地に群がるハイエナたちをも呼び寄せました。
開拓地の外縁、せっせと整備された街道に、薄汚れた鎧をガチャつかせた一団が姿を現します。
近隣の廃村を拠点にしていた野盗連合です。
彼らは「あの村は肉と帝国物資の宝庫だ」という情報を聞きつけ、意気揚々と乗り込んできたのです。
「ヒヒヒ! おい、この村の責任者を出しな! 命が惜しけりゃ肉と金……」
野盗の頭目が叫びかけ、言葉を失いました。
目の前で「農作業」をしていた村人たちの様子が、明らかにおかしかったからです。
「……おい。あいつ、鍬一本で岩盤を砕いてねぇか?」
「あっちの女、片手で丸太を三本担いで走ってるぞ……。な、なんだあの村は!」
恐怖に顔を引きつらせる野盗たちの前に、さらなる絶望が「地面を揺らしながら」やってきました。
「ガハハハハ! 調子がいいぞ! 今日の大胸筋は、いつもより叫んでやがるッ!!」
現れたのはディエスでした。
彼は左右の腕に、本来なら牛車を引くための巨大な「牽引馬」を一頭ずつ小脇に抱え、スクワットをしながら近づいてきました。
「な……!? う、馬を……馬をダンベルにしてる……!?」
「ひ、人間じゃねぇ……あれは人間じゃねぇぞッ!」
野盗たちがガチガチと歯を鳴らして後退りする中、ディエスは爽やかな笑顔(ただし顔面は筋張っている)で問いかけました。
「おう、お前ら! さっき『肉を出す』とか聞こえたが……もしかして、俺と一緒に『バルクアップ』したいのか!? 安心しろ、肉なら腐るほどあるぞ!」
「違う、そういう意味じゃねぇええ!!」 野盗が絶叫する中、横からリナが頭を抱えながら割り込みました。
「ちょっとディエス様! 馬を降ろしてください! 馬が困惑した目でこっちを見てるじゃないですか! あと野盗の皆さん、逃げるなら今のうちですよ! この人に捕まったら、人生の全てを『筋肉』に変換されますからね!」
「リナ、何を言ってる。せっかくの志願兵だ。……ハンスさん!」
ディエスの呼びかけに、眼鏡を光らせたハンスが、死神のような冷徹さで書類を手に現れました。
「はい。ディエス様、彼らには『社会奉仕』という名の再教育が必要です。ちょうど、北方の硬い岩山を素手で削る『人間掘削機』の枠が空いていました。死なない程度に、筋肉が悲鳴を上げるまで追い込んであげましょう」
「よぉし、メニュー決定だ! 野郎ども、まずは挨拶代わりの腹筋千回からスタートだッ!!」
「い、嫌だぁぁ! 殺してくれ! 普通に処刑してくれぇぇ!!」
野盗たちは、ディエスの丸太のような腕に捕まり、泣き叫びながら引きずられていきました。
リナは、遠ざかる彼らの哀れな背中を見送りながら、深いため息をつきました。
「……ねえ、ハンスさん。うちの村、最近『野盗の生存率』より『野盗の体脂肪率』の方が低くなってませんか?」
「効率的でよろしいじゃないですか、リナさん」
王国の秩序から外れたこの地で、今日もまた「健全な魂は健全な筋肉に宿る」という名の強制労働が幕を開けたのでした。




