第102話:血塗られた国葬、英雄の戴冠
王都を襲った魔獣の大群は、ルイス軍団長の「戦死」と、その直後に駆けつけたアレクシスの「奇跡の光」によって掃討されました。
王都の北門付近には魔獣の死骸と、そして志半ばで倒れた魔法軍の兵士たちの遺体が重なっています。
アレクシスは、静寂に包まれた戦場の中心で、折れかかったルイスの古木の魔導杖を拾い上げました。
その表情には、誰が見ても恩師を失った深い悲しみが刻まれています。
「……お疲れ様でした、ルイス殿。貴方の遺志は、この私が必ず」
アレクシスが杖を掲げると、背後からジョエルとノーマンが音もなく現れました。
「アレクシス様、死後硬直が始まる前に『工作』は完了しました。ルイス軍団長は、最後まで市民を守り抜き、魔力が尽き果てて立ったまま絶命した……王国の誰もが疑わぬ真実です」
ジョエルの報告に、アレクシスは悲しげな仮面を脱ぐことなく、小さく頷きました。
数日後。王都は白一色の弔旗に包まれました。
ルイス軍団長の国葬。王城前の広場を埋め尽くしたのは、あの日、命を救われた数万の市民たちです。
壇上には、ルイスの遺した杖と共に、白銀の鎧を纏ったアレクシスが立っています。
そしてその傍らには、避難誘導で圧倒的な支持を得たミスティが、細身の指先を青ヒゲに添え、
淑やかな(しかし底知れない)表情で控えていました。
「市民諸君! 我々は偉大な盾を失った!」
アレクシスの声が魔法で増幅され、王都全域に響き渡ります。
「ルイス殿は、魔法軍の誇りにかけてこの街を守り抜いた。だが、なぜこのような悲劇が起きたのか? それは、今の王国の防衛体制が、あまりに旧態依然としていたからだ! 私は、二度とこのような犠牲を繰り返さないと誓う!」
アレクシスが杖を高く掲げると、広場を埋める市民たちから地鳴りのような歓声が上がりました。
「アレクシス様! 新たな軍団長にアレクシス様を!」
「英雄アレクシス! 我らを導いてくれ!」
民衆の熱狂は最高潮に達しました。
ルイスの死という悲劇を肥料にして、アレクシスの権力は「王国の救世主」という盤石な根を張ったのです。
アレクシスは隣に立つミスティに、わずかに視線を送りました。
「ミスティ、君の活躍が民の心を繋ぎ止めた。これからは私の副官として、この国の『浄化』を共に進めてもらいたい」
「あらぁ、アレクシス様。アタシのような変わり者をそこまで買ってくださるなんて……。
この命、アナタのために使い切ってあげるわ」
ミスティは細い指先を優雅に絡め、唇の端に薄く笑みを浮かべながら一礼しました。
その瞳が、アレクシスの掲げる杖の先にある「影」を見抜いているのか、それともただ忠誠を誓っているのか……アレクシスにすら、それは測りかねるものでした。
「今日、この日をもって王国の復興を宣言する! 全ての力を一つに合わせ、北方の脅威を、そして国内の不安分子を根絶やしにするのだ!」
アレクシスの宣言に呼応するように、王都の鐘が鳴り響きます。
英雄としての戴冠。 しかしその玉座の下には、暗殺された老兵の血と、アレクシスがこれから飲み込もうとする「王国全土」の野望が渦巻いていました。
アレクシスの視線は、王都の遥か北――
「垂直の断崖」の向こう側、ディエスが筋肉の楽園を築きつつある開拓地へと向けられていました。




