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第101話:断たれた退路、孤独な軍団長

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アレクシス率いる 王国魔法軍

挿絵(By みてみん)


王都北門の防壁の上で、ルイス軍団長は己の肺が焼けるような熱さを感じていた。


七十を超えた老躯には、数千の魔獣を相手に大規模儀式魔術を連発するのは本来無謀です。


しかし、彼の背後には逃げ遅れた数万の市民がいます。


「……ハッ! 昔取った杵柄にしては、少々荷が重いか」


ルイスは自嘲気味に笑い、手にした古木の魔導杖を力強く地面に打ち付けました。


瞬間に放たれた極大の雷撃が、押し寄せるケルベロスの群れを一撃で消し飛ばします。


今の彼を突き動かしているのは、長年王国の盾であり続けた自負と、目の前の民を救うという純粋な魔導師としての使命感でした。


「軍団長! 西側の魔導障壁が消失しました! 補給部隊の魔力触媒も……影も形もありません!」


「案ずるな! 魔法軍の誇りは障壁ではなく、その魂にある! 私がここにいる限り、一歩も通さん!」


血に染まった白髪を振り乱し、ルイスは次々と広域攻撃魔法を展開します。


しかし、戦場には奇妙な違和感が漂っていました。


(……おかしい。アレクシスの別働隊が到着するはずの時刻をとうに過ぎている。それに、この背後の孤立感は何だ……?)


その時、ルイスの足元の石材が、まるで意思を持っているかのように蠢き、崩壊しました。


大地魔法の使い手、ジョエルが遥か後方から大地を操り、ルイスの足場を狙い撃ちしたのです。


「なっ……!?」


体勢を崩したルイス。その窮地を知らせようと叫び声を上げかけた側近たちの背後に、一人の不気味な男が影から現れました。


ジョエルの部下であり、アレクシス直属の暗殺部隊を率いる無音の魔導師、ノーマンです。


ノーマンが細い指を空に滑らせると、広範囲の音と振動を吸い込む「沈黙の檻」が展開されました。


ルイスの窮地を知らせる声も、魔法の発動音さえも、誰の耳にも届くことなく虚空へ消えていきます。


「……軍団長殿。貴方はここで、美しく散るべきだ」


音を奪われた空間で、魔獣の群れの真っ只中へと叩き落とされたルイス。


「ぐ、おぉぉぉ……ッ!」


地に伏したルイスの肩に、ケルベロスの鋭い牙が食い込みました。


魔導師にとって命とも言える、杖を握る右腕の骨が砕ける嫌な音が響きます。周囲は魔獣の壁。退路は断たれ、援軍は来ない。


(……ああ、そうか。アレクシス……貴公、これを狙っていたのか)


ルイスは、事切れる直前の意識の中で全てを理解しました。


自分がここで「名誉ある戦死」を遂げることこそが、アレクシスが望む「新秩序」の完成に必要な最後のピースだったのだと。


薄れゆく意識の中、遠く中央広場の方から、民衆を救い出すミスティの凛とした声と、それに応えるアレクシスの「聖なる光」が空を焦がすのが見えました。


「皮肉なものだ……。王国を守るために掲げた杖が……王国の闇を完成させるとは……」


ルイスは最期の力を振り絞り、折れかけた杖を地面に突き立て、それを支えに立ち上がりました。


王国魔法軍を率いた男として、無様に横たわって死ぬことだけは拒むという、老魔導師の意地でした。


そこへ、ゆっくりと白銀の鎧が近づいてきます。


戦場の喧騒を完全に遮断するように、アレクシスがルイスの目の前に立ち、慈悲深い微笑みを浮かべました。

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