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第99話:筋肉要塞の基礎、地獄のブートキャンプ


帝国の商会から運び込まれたのは、大量の鉄材と、対魔獣戦を想定した巨大な可動式訓練人形、そして何百キロもの重量がある負荷石でした。


ディエスがそれらを見て「ガハハ! 最高の玩具おもちゃが届いたぜ!」とはしゃぐ傍ら、リナは不安げな表情でハンスに詰め寄っていました。


「……ねえ、ハンスさん。どうしてあんな『訓練施設』なんて許可したんですか?」


リナの脳裏には、かつて王国軍で行われた、ディエス流の「筋肉至上主義訓練」の記憶が焼き付いていました。


「忘れたんですか? 王都の部隊でディエス様が筋トレを強制した結果、繊細な魔力操作が必要な魔法兵たちが、筋肉がつきすぎて杖を握る指先が震え、呪文を暴発させたあの地獄を! 結局、魔法も体力も中途半端な軍になりかけたじゃないですか!」


ハンスは飛んできた鉄材の目録をチェックしながら、眼鏡を指で押し上げ、冷静に答えました。


「リナ、あれは対象が『魔法兵』だったから失敗したんですよ」


「え……?」


「エリートである魔法兵には、それぞれの術式に適した身体バランスがあります。しかし、今ここにいるのは魔法の才能を持たず、武器すら満足に扱えない一般の開拓民です。この北方の険しい地、そして補給もままならない極限状態で彼らが生き残るために必要なのは、小難しい戦術でも繊細な魔力操作でもありません」


ハンスは、ディエスの指導で巨大な石を担ぎ始めた住民たちに視線を向けました。


「圧倒的な『基礎体力』と、魔獣の牙を弾き返すほどの『筋肉の鎧』です。道具が壊れても、魔力が尽きても、己の肉体という最後の武器だけは裏切りません。魔法が使えない彼らにとって、ディエス様の筋肉理論は、生存率を劇的に引き上げる最も効率的な防衛術なのです」


リナは、必死に負荷に耐える男たちの姿を見つめ直しました。以前は絶望に沈んでいた彼らの瞳には、今は「自分の力で生き残る」という野生の光が宿っています。


「……なるほど。軍人としての『洗練』よりも、開拓民としての『強靭さ』を選んだってことね。さすが、ハンスさんは冷静ね」


「……ハンスさん。……効率的。……私も、住民たちの体幹、見てる」


影から現れたエルザも、短く肯定しました。


エルザもまた、ハンスの戦略的判断には信頼を置いています。


彼女は住民たちに混じり、魔獣の急所を的確に貫くための「重心の移動」を無言で教えていました。


「ディエス様が盾となり、エルザが剣を教え、住民がそれを支える肉体を持つ。……ここはもう、ただの村ではありません。自立した『筋肉要塞』です」


「ガハハ! ハンスさんもリナも、喋ってねぇで混ざれよ! 住民たちのパンプアップが止まらねぇぜ!」


ディエスの咆哮と共に、魔境の荒れ地に「地獄のブートキャンプ」の熱気が渦巻きます。


王国が見捨てた民たちは今、自らの肉体という唯一の資本を鍛え上げ、不屈の守護者へと変貌しようとしていました。

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