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第95話:絶望の淵と、筋肉の産声


ドラゴンの肉を頬張る男たちの姿は、お世辞にも「開拓団」と呼べるものではありませんでした。


彼らの多くは、かつて王国の政策でこの地へ送り込まれ、魔獣の襲撃と補給の断絶によって見捨てられた「棄民」の成れの果てです。


ボロボロの麻布を纏い、頬はこけ、目は濁り、重度の栄養失調で手足は枝のように細くなっていました。


「……見てください、ディエス様。彼らの道具を」


ハンスが指し示したのは、彼らが持ってきた錆びついたクワや、刃の欠けた斧でした。


「この地の土壌は、魔力を含んだ岩盤のように硬い。この程度の道具では、一日に数センチ掘り進めるのがやっとでしょう。加えて、夜になれば肉食の小型魔獣が容赦なく村を襲う。彼らはこれまで、ただ『死ぬ順番を待つ』だけの生活を送っていたのです」


リナは、傷ついた子供たちに回復魔法をかけながら、悲痛な表情で辺りを見渡しました。


「あっちの小屋……いえ、ただの雨除けですね。あの中に二十人近くが押し込まれて寝ていた形跡があります。衛生状態も最悪……。これ、普通の領主なら、まず食料と薬を配ってから数ヶ月は休ませないと、開拓どころか全滅しますよ」


そんな重苦しい空気を切り裂いたのは、ディエスの豪快な笑い声でした。


「ガハハ! なるほどな。道具がねぇ、力もねぇ、寝る場所もねぇ。……だったら、全部今から作ればいいじゃねぇか!」


「ですからディエス様、彼らにはもう、石を運ぶ体力すら――」


ハンスの言葉を遮り、ディエスは食べ終えたドラゴンの大腿骨を空へと放り投げました。


「おい、お前ら! 腹は膨れたか!? その肉はな、地龍の生命力そのものだ。今、お前らの血の中でドラゴンのエネルギーが暴れ回ってるはずだぜ!」


男たちが顔を上げます。


確かに、高純度の魔力を秘めたドラゴン肉を摂取したことで、彼らの体温は異常なほど上昇し、青白かった顔には赤みが差していました。


「その熱を冷ます前に動け! 道具が錆びてるなら、自分の拳を道具にしろ! 運べないなら、二人で持て! 三人で担げ! 筋肉は裏切らねぇが、動かさなきゃただの肉塊だッ!!」


ディエスは自ら巨大な岩柱を軽々と担ぎ上げ、更地の中央にズドンと突き立てました。


「今日からここを、絶望する場所じゃなく、**『強くなる場所』**に変える! 俺が手本を見せてやる。この岩を百回往復して運べた奴には、明日はもっと上質な『大胸筋の部位』を食わせてやるぞ!!」


「……あ、明日も、肉が食えるのか?」

「ああ。俺がこの山の魔獣を全部肉にしてやる!」


男たちの濁っていた目に、小さな、しかし熱い火が灯りました。


それは「生きるための欲求」が「筋肉への意志」へと変換された瞬間でした。


「ハンス、図面を広げろ! リナは土壌の硬化魔法を解け、耕すのはこいつらの仕事だ! エルザ、周囲の警戒を頼む。……さあ、筋肉開拓の始まりだッ!!」

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