最強のソロプレイヤー決戦ッ!
日曜日なので2回更新です。
まだ読んでない方は前話から!
酷暑日。ジリジリと照りつける強烈な日射の元、俺は憂鬱な気持ちで教会外の席についていた。
憂鬱の由来は簡単、先方の事情で俺の予定が送らされている事。ただそれだけ。
元は事前に決めた予定時刻に教会に着き、話を終えたらさっさと帰る筈だったというのに……予定の主──カリス・アレクソンの横暴で待機を余儀なくされているという現状。
前の予定が遅れているとか何だとか、部下の神官伝いの雑な指示で、納得など行く筈もない。
あれで王国の教会全ての責任者だと言うのだから、教会の仕事はよほど簡単な事なのだろう。羨ましい限りだな。
こっちは八月の下旬になってようやく仕事仕事と家族の枷から外れ、遅れに遅れた盆休みを満喫しようとしていたのに……はぁ、まったく。
とはいえ相手側が無理だと言っている以上待つ他こちらに取れる手段はなく、仕方なくこの席で待機している訳だ。
「───ッ!!────ッッ!!」
中で待機しない理由はアレだ、アレ。そう、人の迷惑になってしまうからだな。
こんな仕打ちを受けているがコレでも一応トッププレイヤーだからな……下手に人に近付くと萎縮させてしまう……うん、そういう事にしておこう。
「ッ!!──ッ!!────ッ!!」
……まぁ実際の所は単純に人混みが嫌いなだけだが。
普段は聖堂で待機してるのだが、今日はこの暑さで冷房目当てに普段教会に寄りもしないプレイヤーでパンパン。
しかも多くは友人や恋人といった集まりでの利用だというのだからやってられない。
なんでゲームにまで来て俺がまともな友人もいなくボッチという現実を突きつけられねばならないのか。
少しぐらい配慮というものをして欲しい。
「──ッ!!────ッ!!────ッッ!!」
……あーもうなんなんだ本当に今日は。
「うるさいなぁ、何をやって──」
遂に我慢の限界を超えて、閉じきった教会の扉を開く。
しばらく前から続く異常な騒音。
すぐに止むのならば気にもしないが、こう何分も続けば文句の一つでも言いたくなる。
それも予定外の待ち時間の最中ならば尚更だ。
静かにしてさっさと終わらせろ、そう一言言おうと聖堂を覗いた──その時、俺の目に予想外の光景が飛び込んで来た。
ワナワナと騒ぐプレイヤー。
割れたステンドグラス。
激情を隠さない騎士隊長。
祭壇の前、赤いポリゴンの海に倒れるカリス・アレクソン。
この中で何が起きていたのか、理解は出来るが想像がつかない。
普段ならば即座に近付いてくる神官達も祭壇の元に集まっていて不在。騎士隊は全員が騎士隊長からの指示と叱責を受けている。
そんな騒動の中で俺の声に応える者は当然おらず、人波の中に掻き消えた。
ここには一体──何がいたんだ……?
心に強い感情が湧き上がる。
「──おい騎士隊長、ここで何があった」
「今は取込み──ッ、貴方は……!そうか、確か次の予定は貴方との面会だったかッ!」
事態を知る為に一番声を大きくして騒いでいる騎士隊長に話しかける。
俺が待たされている事は知らなかったか、あるいは忘れていたか。どちらでもいいが反応は良さそうだ。
「御託はいい、何があったかを端的に教えろ」
「……カリス・アレクソン最高神官を殺害され、犯人に逃走された……ッ!」
曰く、神官達に遺体の様子を見させているが、非戦闘NPCの蘇生術は王都教会だと彼にしか使えないのだそう。
さらに神官からの情報によると、天属性の攻撃によって蘇生待機時間も削りきられていて、蘇生不可能の完全死亡らしい。
「全て、私の失態だ……ッ!!あの様な異常者の接近を許し、あまつさえ協力者の男ごと取り逃すとは……ッッ!!!」
「そうか、残念だったな」
殺害の件は俺にも予想外だった。まさかこうも簡単に重要NPCが殺されるとは……保護システムはどうなってるのだろうか。
国王や女王のような世界観に関わるようなキャラクターには、下手に手出しをできないようになっている。
記憶通りならカリス・アレクソンもその内の一人だった筈だが……まぁいい。今はそれよりも気になる事がある。
「可能なら犯人グループの確保を手伝いたい。情報をくれないか?」
「おおッ!協力していただけるのですかッ!!」
俺の関心はアレクソンの襲撃者達に向かっている。
主犯の女と、共犯の男……教会の信頼を得ていたらしい女が警戒状態の神殿から逃げ出せるステータス構成とは考えられない。
俺の目当てとなるのは男──その情報は得ておきたい。
「それはありがたい、よろしくお願いいたします──ログレス殿ッッ!!!」
こうして俺は当初の予定通り、教会のクエストを受ける事となった。
目指す目標は襲撃者──エスレイ・B・ドレイクと、その共犯らしい血に汚れた鎧の大剣使い。
血に汚れた鎧の大剣使い。
騎士隊長から得たその情報に、俺は口端を吊り上げた。
▽▽▽▽
「俺はログレス、ソロプレイヤーだ。できればだが……戦う前にアンタと話がしたい」
その発言に対し、俺の内心に激しい不信感が走り抜ける。
怪しい……どー考えても怪しいッ!!
何をしたいのか、その意図がさっぱり見えない。コイツは何を企んでる?
アレか?会話したら意識乗っ取る能力でもあるのか??超人社会の成立来たかッ!??
正直このまんま殴りに行くのもアリだ。
どうあれ【狂化】は近接特化、罠が仕掛けられていても突っ込むしか出来ん低能だからねェ〜〜
何かこっちへの対抗策があるとしても、その上でオラは叩き潰す他にルートは無い。
俺と【狂化】ならそれが出来るからなッッ!!!
「──いいぞ、今期に見てるアニメの話でもするか?俺は何も見てないです」
だが、そうはしない。
避けれる戦闘なら可能なら回避したいからねェ……。
【狂化】は一度起動したら十時間は止まらない。
その間俺はネットサーフィンやら何やらし放題だが逆に言えばそれ以外なんにも出来ませんッッ!!!
あの……俺、フツーにゲームしたいんですッ!!
最近なんかギルドとか作ってさっ!フレンドとの関係も良くってさぁっ!!
最終的に【狂化】で皆殺しにすんのは楽しいけど──やっぱり、みんなと……一緒に遊びたいッ!!(ここで感動的なBGMが流れ出す)
それをする為には【狂化】は温存するしか無いのだよ……ッ!!
なにしろ使ったら次に自由を得るのは半日ぐらい後だからねっ!
俺とおんなじで休み時間がインフィニティなら大丈夫だが、そんな人間が社会に溢れてたら国が終わるのですよ。
故にまずここはお話TIME。相手の目的を知って、こちらの目標とのすり合わせを図りま〜っすっ!!
「俺も見てないからそれはいい。改めて名乗らせてもらうが、俺の名はログレス──この名前に聞き覚えはあるか?」
俺の返答を軽く返しつつそう続けるログレス。その瞳は何処か楽しげに見える。
それにしても、彼の名前──か。
……うーん、え〜……あー……あー、うん。
うんうん。そうだね、うん!アレだよなアレッ!
「……あー、軽く聞き流す程度には」
「……ふ。ふふふ、ふふは、ふははははははッ!!」
ヤバいなんかやったかッッ!!?!?
いやあの違うんだってッ!!
単純に他のプレイヤーの話とかあんま聞かない唯我独尊スタイルが俺の生き様という体を取っているからあんまり周りの情報覚えないようにしてるだけなんだってッッ!!!!
むしろそれでもちゃんと聞き覚えがある分すんげー話は入って来てるんだって────ッッ!!!!
「待てッ!誤解してるなアンタ、一応話は──」
「──いやッ!いいッ!こっちの思い上がりに気付けた、むしろありがたいッ!!
もう対人系やってるプレイヤーには名前ぐらいなら知られていると思っていたが……くくッ!まだまだ足りないな、精進がッ!!」
マズイな話が通じん……!!
ちいかわみてぇな言い回しになってさっきよりも更に一段と楽しそうになってやがるぞ……ッ!?
どう言い直して伝えたものか……あれ?
俺ってどっちかと言えば振り回す側の人間だよな?
エスレイといいコイツといい、なんか今日こんな風に振り回されてばっかりじゃね〜?厄日ィ〜??
ええい──ッ!!ンな事考えても話は進まねェンだよ頭を回せ〜〜〜〜ッ!!
思考の中で伝えるべき文章を反芻ッ!!
最も単純な形に整え、生成ッ!!
そして最後は──発声だッ!!行くぞォッ!!
「──アンタがトッププレイヤーなのは知ってるッ!!」
「そうか、ならもうちょっと深掘りしておこう。
俺はβ版から参加してる古参プレイヤーでレベルは56。職業は騎士系統の特殊上位職第二段階で、初期職は騎士、上位職は特殊上位職だった。
さっきも言ったがソロプレイヤーで、大会実績としてはβ版イベント全体三位、第一回イベントでは七位を取っている。
他にも非公式イベントの実績もあるが……アンタには伝わらなそうだ、やめておく。
メイン武器は『授かりし黄金の聖剣』という直剣で、固有スキルは【輝く剣】【砲刃】【円環巡理】
それぞれ説明すると【輝く剣】は武器自身への光属性付与。アンタに分かりやすく言うなら【魔剣彩撃】の光属性特化版で、あれより色々小技も使える。
【砲刃】は【飛刃】の上位互換スキルだ、斬撃をより遠く広範囲に飛ばせる。
【円環巡理】はハイレアリティのパッシブ回復スキルだ。
普段は『授かりし黄金の聖剣』を片手に持って、もう片手は今も装備してるこの小盾にしている。
だが俺の剣はコイツだけじゃない、他にも【超強靭】の固有スキルを持った『陽に陰りし無欠の聖剣』や【陽焔光炉】の『陽を受けし赫熱の聖剣』など複数の剣を戦闘中、場面に合わせて切り替えている。
あらゆる戦闘においてな。
通常なら装備の切り替えは戦闘中にできるものではない。それは戦闘が苛烈な物で、相手との実力が肉薄している時ほど隙を晒す事になるからだ。
この本来解決できない問題を解決したのが俺の持つスキル【十三円卓】で──」
「待て待て待て待て。なんだ?何を言ってるんだお前は、イカれてるのかこの状況で……?」
WoW〜!!SPACE CAT〜〜!!
突然の自己情報の開示に流石の俺も思考が止まったよね。何をしてるんだい?君の情報は漏れてるよ。
いや普通にミスリードなのか?こっちにカスの嘘を垂れ流す事で行動を制限しようとしている?
違うな、そうだとしたら一部スキルや装備についてぼかすような発言をした意図が分からない。
なんか戦うのは確定路線みたいな空気でこっちはオワニョだと言うのに何故俺に情報を渡す?
完全秘匿で行けばいかに俺が介入しようとも詰め切れない場面と、それ故の優位を相手は得られる。
それを捨ててまで、何故情報の開示を行った?
行動を制限するにしても真実を伝えてはデメリットが遥かにメリットを上回っている。理解ができない。思考が疑問符でいっぱいだ。
回答も生まれないまま思考が捻じれ始めようとする中──俺に言葉を遮られたログレスがその口を開く。
「俺は──アンタのファンなんだ、バサラ。是非一度対戦してみたいと思って動画を見ていた」
「な……なにィ〜……?」
ファン……俺のファンだとぉ〜〜?
確かに最近は視聴者も増えて登録者数はなんと三万人にまで増えているけど、本当にそんな生物が実在するのか?
ずっと適当に戯言垂れ流してるだけのチャンネルだぞ……?
「だから俺はアンタの使うスキルを知ってるし、武器の固有スキルも知っている。
だというのにアンタが俺の情報を知らないんじゃあ……フェアじゃない。
戦うんなら条件は対等な方が好みなんだ。
だからせめて既にネットに流れてるレベルの俺の情報は流しておこうと思った──これでいいか?」
うーん……まぁそう言われると筋は通るような気もしないでもない。
オキ辺りから聞き流した話でも、ログレスは最強格のソロプレイヤーにしてトッププレイヤー。
単独行動が主なものの、PVPのデュエルなんかは喜んで受けまくっているとかなんとか言ってた覚えがうっすらとある。
そんでもって公にされてる試合結果は全勝無敗。
このマジック&ブレイド・オンラインにおいて、単独戦闘において彼に並ぶ者はいないというウワサまであるらしい。
そんな話が出回るほどPVPをしまくっている男なら、ルール周りに一家言あっても特段おかしいとは思わない。
これ以上考えるのも無駄だし、一旦ここは納得しておくとしよう。
「……なるほど了解、アンタの主義は理解できた。
だがもうそれ以上は充分だ、下手に情報を詰め込まれても逆にパフォーマンスに支障が出る」
「わかった、じゃあ使うタイミングで効果の説明をしよう」
あんま分かってねぇじゃねぇかッ!!
いやまぁ普通情報を得られるに越したことはないんだけどもね?
こっちとしてもこう……あるじゃん、プライドとかッ!
一応こんなんでも真面目にこのゲームやって来て、色んな相手を初見突破してきてるんすわッ!!
ネタバレやめてねッッ!!?!?
挑むんなら初見無情報の時が一番楽しいんだ、醍醐味を奪われちゃあ困っちゃうわッ!
今回別に挑戦しに来た訳じゃ無いけどもッ!!
「……では、そろそろ始めるとしようか」
「あ〜、そうだな。やるんならさっさとやろう」
まったく、やっぱり今日は厄日だな。
目当てにしていたアイテムが手に入るハッピーな日のはずが気付けば街中PVP。
はぁ──仕方が無い。
こういう落ち込む日こそ、暴れてスッキリしちゃおっかなァ〜〜〜〜ッッ!!!!
「技能【神祷霊奇】──」
捧げるステータスの指定は当然知能値最大下降ッ!!
強化対象に指定するスキルは色々選べるが状況が状況、最もフィジカルで最もプリミティブで最もオーソドックスな対象に使わせて貰おうかッッ!!!
「【狂化】ァア────ッッ!!!!」
瞬間、宣言の雄叫びと共に視界全体が真紅に染まる。
同時に【自動操縦状態】の表示が現れ、五感の感覚が肉体から切り離された。
う〜ん実家のような安心感ッ!!やっぱり俺の戦闘ってのはこれですなァ〜〜ッ!!
よぅし!なんかいつもPVPの時は大体動画撮ってるから今回も撮っちゃお〜っとッ!!
「いっええええいッ!!彼氏くん見ってるぅ〜〜ッ!!?筋骨隆々ッ!!狂化特化狂人おじさんだよ────ッッ!!!
今回の動画は不倫くん以来のコラボ動画ッ!!【どうして】ゲーム内トップPVPプレイヤーと戦ってみたっ!【不本意】をやって行くねッッ!!!
衝撃の結末までチャンネルはそのままだぞぉ〜〜〜〜ッッ!!!!」
「手合わせ願おう、バサラ殿──ッ!!」
「本当はやりたくないンだよおバカ野郎〜〜〜〜ッ!!」
されども始まってしまったからにはどうしょうもない……ワシらにできるのは戦闘を眺める事だけなのさ──。
こうして俺VSログレス、最強のソロプレイヤー決戦の火蓋は切られたのだったッ!!
うおおおお帰りてぇええええ〜〜〜〜ッッ!!!!
この話を書き終えたのは15日の0:30です。心が折れるッ!!何故ストックも無いのに2回更新を?楽しいからだよ(ドン・キホーテ)




