第十二話 アナーキー(3)
ナレーター(以下、「>」と表す。):雨が降りそうな空だった。月が似合う夜のはずなのに、今夜は月が雲の向こうから姿を出さないかもしれない。そう思いながらも、多くの人が出掛ける準備をしていた。その日はハロウィーンだったのだ。
>欧米では、ハロウィーンの主役は子供たちだ。仮装をした子供たちが、ご近所さんを訪問し「お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ!」ってやつですね。昨今では、むしろ児童がイタズラされる危険が重視されており、必ず複数で行動するように勧められていますが、それでも放っておけないからと大人が付いて歩くと、野暮と言われるので難しい問題です。……あれ、ちょっと話がズレましたね。まあ、いつもの事か。
>日本では、子供たちの化け化け訪問より、大人な人たちが仮装をして町を練り歩く方が有名です。というか、問題になっています。年配の方からすると「いつまでも子供のようなことを!」と苛立つかもしれませんが、「心は子供だもん!」というわけですね。……実は、純真さを訴えているようで、社会ではあまり受け入れられない主張ですね。しかし、当番組では、活き活きした子供っぽさの重要性を理解し、支持しています。……あ、はい。単なる自己弁護です。
>しかし、日本でも、いわば本場の習慣である、子供たちの化け化け訪問が浸透しつつあります。え? みなさんの地元ではそうでもない? だけど、枚鴨市ではそういう風も吹いていますよ。しかし、やはりこの習慣は芽生えの段階。根付いていないので、「いきなり訪問されても、お菓子なんかないし」という困惑の声が上がっているのも事実です。むしろ「迷惑だから止めてくれない」とか「勝手に押しつけてくるな」という怒りの声すら上がっています。どう落ち着くべきかは地元それぞれで決めていっていただくしかないのですが、「決まったルールを外から押しつけられる」という現象は社会で生きていく上で避けがたいものです。でも、安心してください。少なくとも、ロンドン近郊では「化け化け訪問が来たら、居留守を決め込む」という人がそれなりにいるそうです。えー、引用していて申し訳ありませんが、情報源はどこか覚えてしませんし、どれくらいの割合だったのかも覚えていません。だから、いつもの不確定な戯言として処理しておきましょう。信憑は保証しません。そう言えば、先ほどから連呼している「化け化け訪問」も、ちっとも一般的な名称ではないので、お子様が学校で話す時に「そんな言い方しねぇよ。バーカ」と云われないよう注意しましょう。私としてはむしろ「え、こういう呼び方だよ」という顔で押し通して、「化け化け訪問」という呼称を広めて欲しいくらいです。ついでに、パンツイッチョマンも広めちゃいましょう! ……あ、それは子供がイジめられるからダメ? うん、ご家庭でひっそり楽しむ方が無難ですね。
>その化け化け訪問ですが、昔のご近所付き合いがしっかりしていた社会なら、成立したかもしれませんが、集合住宅化が進み、人の出入りが激しく、どこに誰が住んでいるのか良くわからない現代の都会では、あまりマッチしない習慣ですね。だって、親御さん。化け化け訪問した子供に怒鳴りつけるヤバい奴がどこに潜んでいるのかわからないのですよ。ね、怖いでしょ?
>と、化け化け訪問についてしつこく話してきましたが、今回それは関係ありません。今回スポットライトが当たるのは、日本で活性化している仮装騒ぎの方でした。というわけで、仮装者の一人、ヤマダハジメ(仮名)にカメラを向けてみましょう。……ハジメという名前だったら、女性でもあり得ますね。という事で、ヤマダハジメさんは女性です。当番組には「若い女性の登場が少ない」という批判がありますので、テコ入れですね。……でも、銀子先生に桜ちゃん、友庫さんに、穴穿きさんも入れると、結構な割合で居るんですけどね。……他ではもっと多い? あ、そうなんですか。……特に悪役は男ばっかじゃねえか、ですか? そう言われればそうですね。……あ、これについては最勝寺先生からコメントを預かっていたそうです。「犯罪者の大半が男性です」だそうです。犯罪種別にも依るのでしょうが、暴力的な犯罪は男性が多そうですね。……え、女より若い男が少ない? ……確かに、園児を除くと、後輩刑事くらいですね。その代わり、悪い奴で若い男の割合が多いですよ! バランスですね。……というわけで、やっぱりヤマダハジメさんは男性にしましょう。しかも若い美形です! これで、女性ファンも納得ですね。……あ、そもそも女性の視聴者は少ない? ああ、それで、若い女性をもっと出せ、という声が上がっていたんですね。んー、でも、さすがにもう一度覆すのはアレなので、イケメン路線で続けます。
>ヤマダハジメの仮装は吸血鬼だった。手提げの紙袋には、牙入れ歯と黒いマントがしまわれていた。前々回放映時、パンツイッチョマンとノーパン刑事との間で、ケープ-マント論争が繰り広げられたが、日本では全くケープと呼ばれる機会が無いので、ここでもマントと表現します。だけど、パンツイッチョマン派の視聴者の方々は、学校や職場でケープという表現を広げてもいいんですよ! その際は是非ともパンツイッチョマンを……。あ、この宣伝はもういい?
>はい、では……。ヤマダハジメさんは、夕暮れが迫る中、枚鴨市駅前広場へ向かっていた。枚鴨てやんでえ花火大会の日にパンツイッチョマンが大暴れした場所だ。ハロウィーンの仮装行列と言えば、やはり渋谷なのだが、近年、枚鴨市駅近くでも仮装化が進んでいた。集積化した一番手は中高生だった。枚鴨市は東京都内でも、渋谷まで行って帰ってくると門限を超えちゃうという、子供扱いされたくないけれど大人でもない人たちが、地元ならではもうちょっと遊べるよね、と集まったのだ。ただし、その核となったイベントが存在する。「枚鴨市ハロウィーンキッズダンスフェスティバル」だ。アルファベットで略するなら、MHKDFだ。だが、「枚鴨市」の部分は他の同様のイベントと区別する時のみ使用され、市役所に提出されている申請書類上でも、「枚鴨市」は省かれている。それを省いてもいちいち口にするには長すぎるので「ハロウィーンキッズ」の部分も実際では省かれる。残る部分は「ダンスフェスティバル」だけだ。だから略称もDFになる。サッカーなど多くのスポーツでも使われる略称だから、混同しないよう注意しよう! 最初は演者である子供たちとその保護者が専らの参加者であったDFに、既出の理由から中高生までハロウィーンコスプレをして集まるようになった。「中高生まで来てくれるなら」と、ダンス演者は小学生までの決まりだったのが、中学生の部、高校生の部まで増枠された。それでも企画名からは「キッズ」部分は取れなかったが、多くの市民が「ダンスフェスティバル」と呼んでいたので気にしなかった。ちなみに、申請側はもちろん「キッズ」部の現状との不一致に気付いていたが、第何回という記述が名称変更に伴ってリセットする事を気にして変更しなかったようだ。それに対して、「拡張なんだし、回をリセットしなくていいじゃん」派と「いや書類上は別にしておくべきだ」派とで分かれて、論争が起きていた。それでも一応、来年からは「キッズ」が外すことでは同意されている。回数表示がどう落ち着いたのかは来年明かされるぞ! ……あ、来年の話は視聴者の方にはもう関係ないですか。あ、それ以前に興味ない? そうですか。だけど、説明はもう少し続きます。
>人が集まってくると、さらに人が集まります。まず、許可無くグッズ販売がされ始めました。キッズダンサーにとって便利なグッズの交換から発生したのですが、「意外にこれ、売れるんじゃね」と保護者の方が考えてやっちゃったんですね。すぐに行政側がそういうのはシステムを通してやってよね、と指導し、来年からはそのシステムが作られました。枠組みが作られると「俺も俺も」という流入が起きました。屋台業者の進出ですね。こうなると、もう祭りです。実際、会場は、中高生のダンス参加以降、大棚市長が点火式を行った駅前広場から、長いエスカレーターを上った城跡公園へ移っていました。てやんでえ花火大会のメイン会場と同じですね。というわけで、渋谷の混雑には遠く及びませんが、枚鴨市でもハロウィーンはイベントとして成長していたのです。
>その城跡公園へとヤマダハジメさんが向かっていました。最寄り駅から枚鴨市駅に到着した後、歩道橋網へと抜けていきます。そこで、彼は脇に寄ると、衣装の入っている紙袋を置き、両肩背負いのバッグパックから喉を潤そうと飲み物を取り出します。その際、ヤマダハジメさんは、取り出した微炭酸のペットボトル飲料の他に、入れた覚えのない瓶が二つ入っているのに気づきました。「おや?」と整った顔をしかめた瞬間、彼に鼻に、というか頭の中に、フワッと甘い花の香りが広がります。直後、彼は納得します。
ヤマダハジメ: “そうか、酒か。パーティーを始めるからには、酒がないといけないからな。盛り上がってきたら出そう。”
>微笑みを浮かべて、バッグパックの口を閉じるヤマダハジメさん。彼がバッグパックに忍ばせていた酒は、確かに一部ではモロトフ混合酒と呼ばれる代物だった。それは、日本語としては一般に、火炎瓶として知られていた。
>枚鴨市駅前の歩道橋網には、視聴者の皆様が良く知っている二人も来ていました。この二人は、近くでヤマダハジメが危険物を持っているのを知らずに、歩道橋の外を眺めていました。彼女たちがそこにやって来たのは、ヤマダハジメよりずっと前。なんとお昼時からです。その時間帯なら、キッズが外されたダンスフェスティバルへ行く人たちばかりだったのですが、二人は城跡公園へと上らず、ずっと歩道橋網でもあまり人が来ない端に陣取り、外を眺めていました。その二人は、フリップフロップ・チェリーと友庫さんです。
>フリップフロップ・チェリーは、既に目出し覆面をした後です。だから、桜ちゃんと呼ばずにフリップフロップ・チェリーと呼んだわけです。この格好は、言われてみれば、ハロウィーンっぽい恰好でした。欧米の幽霊の代表例として、白いシーツを被った目の部分だけが光る存在、というのがありまして、それのコスプレっぽいからです。フリップフロップ・チェリーだと気になっているのは左腕だと思います。前回のアクションで「骨が折れた」と自分で言っていた腕ですね。そこはやはり、ギプスが巻かれていました。肘から手首のあたりまでです。だから左手はぎりぎり使えましたが、三角巾で吊っているので、実際にはまともに使えない状態です。
>友庫さんのコスプレは、どうやら魔女のようです。紫色のつばの広いとんがり帽子を被り、同じ色のマントを羽織っていました。帽子は今も被っていたのですが、マントの方は暑かったようで、一旦丸めて手提げ袋に入れています。フリップフロップ・チェリーのギプスのように、友庫さんの装備でハロウィーンらしくなかったのは、首から下げている双眼鏡でした。バードウォッチングで見られるがっつりした大物ではなく、携帯性に優れたオペラグラスという方に近い物です。これを持ち歩いている事はあまり違和感がありませんでした。ダンスフェスティバルへ子供たちを応援に行く大人たちの中に似た物を持っている人が何人かいたからです。しかし、友庫さんが覗く対象はダンサーではないのは先程話したとおりです。彼女は今、歩道橋の上から四車線の通りの両サイドに双眼鏡を向けていた。
友庫: 後は、パンチョさんを見つけるだけなのに……いないよねぇ。
>その横で、フリップフロップ・チェリーが友庫さんを見るが、双眼鏡を覗いている友庫さんは視線に気付かない。そのまましばらく見つめたフリップフロップ・チェリーは、息を吐くと切り出す。
フリップフロップ・チェリー(以下、「FFC」と表す。): シオリンさあ、好みは人それぞれだから、放っておいたけれど、目が覚める気配がないっていうか、むしろのめりこんでいるから言うけど、パンツイッチョマンに恋するのはどうかと思うよ。
友庫: こ、こ、恋って!
>歩道橋の手すりに両肘をのせていた友庫さんは、ガバッと身を起こすと双眼鏡を顔から離して、フリップフロップ・チェリーに向き直る。
友庫: べ、別に、私はそういうんじゃなくて……
FFC: いやいや、その態度でもうダメじゃん。バレてるよ、ずっと前から。
>確かに、友庫さんの顔は真っ赤だ。双眼鏡を持つ両手に力が入ると、うつむく。
友庫: そ、そうかな、やっぱり。……私はあんまり考えないようにしてたんだけど。……だって、これまで年上の人に、そういう気持ちを抱いたことはないし……。
FFC: そうよね、はっきりと聞いたことはないけれど、たぶん、十は離れているよね。
友庫: うん。そうなると、あの人には恋人とか、奥さんとか、……子供とかいるかもしれない。それに――
FFC: 変態だよね。
>ズバリ言ってしまったフリップフロップ・チェリーに、友庫さんが急に顔を上げると強い眼差しを突き刺してくる。その鋭さにたじろいたのか、フリップフロップ・チェリーが片手を上げて、言い訳をする。
FFC: いや、別にディスってるわけじゃないよ。冷静な事実を……
>しかし、友庫さんの態度が変わらなさそうだと判断すると、さらに懐柔に踏み込んで、フォローを入れ始める。
FFC: いや、私も尊敬はしている。あんな恰好なのに、ヒーローとして凄いし、実際何度も助けられたし。うん、感謝している。だけど、それはそれとして、友達があんな人に恋をしているっていうのは……やっぱり少し違うっていうか、問題ありっていうか……。
>友庫さんの態度が和らいだ。フゥと深く息をつく。
友庫: ううん。私も桜ちゃんの言うことはわかる。自分でもそう思うところはあるから。だけど……やっぱり何度か命を助けられている人だからなあ。そういう経験はなかったし、たぶん、これからもないと思う。
>まあ、言われてみれば、平和な世の中だからこそ、命の恩人と言う存在はそう簡単に遭遇しない。
FFC: でも、それは私もそうだよ。命っていうか、危ないところは何度か助けてもらっている。
友庫: 私は二回よ。一回目は桜ちゃんと初めて出会った時で、二回目は駐車場でレイプされそうになった時。
FFC: それなら、私は三回かな。トカゲ男の時に二回は助けてもらったし、こないだの工事現場の時に……
>言いながら、左上を見上げていたフリップフロップ・チェリーは、友庫さんの雰囲気が変わったのに気付いて、視線を戻すと、慌てて自分の顔の前で自由になる右手を左右に振る。
FFC: いや、回数じゃないよね。そ、そうじゃなくて、私が言いたいのは、私も似た立場だけれど、違うよってこと。尊敬はしているし、感謝もしているけれど、恋をするってほどじゃあ――
友庫: そ、れ、は、……チェリーが花鳥風月に恋しているからでしょ。
>ちょっと冷静になったのか、友庫さんはフリップフロップ・チェリーを桜ちゃんと呼ばなくなった。友庫さんの言う、花鳥風月は、わかりやすい美青年ヒーローだ。日本ではヒーロー認定を受けたヒーローは少ないため、現在日本で一番のヒーローだと目されている。確かに、子供からお年寄りまで多くの異性に好かれているが、同時にひどく毛嫌いしている連中もいる。
友庫: 花鳥風月って、すっごい女たらしなんでしょ? そっちの方が私は心配よ。
FFC: いや、花鳥風月さんは、そんな単純な女たらしという言葉では片づけられなくて、人気があるのを自覚しているからこそ、多くの人にこうチャンスを与えようと振る舞っているだけで――
友庫: それってただの言いわけじゃないの? 恋は盲目っていうから、真実が見えていないんじゃないかな、って私は心配。
>「恋は盲目」という点に関しては、第三者の目からすると、どっちもどっちだと思います。
FFC: でも、花鳥風月さんは、別に名前も顔もわからない人じゃないし……いや、名前はヒーロー名だけど、もうそっちの方が本物だし。あと、年も近いし、お金持ちだし。こっちの方がよっぽど恋愛としてはまともよ。
>自分の恋愛にケチをつけられ始めたからだろう。フリップフロップ・チェリーの言い方にも棘が混ざり始めた。「人の恋愛にケチをつけるな」と思うところは誰にでもある心理だ。しかし、そこに踏み込んだのはフリップフロップ・チェリーの方が先だ。その自覚があるからか、苛立ちを前面には出してこない。少なくとも、今のところは。
友庫: ……そうね、まともかどうかで言えば、そうかもしれない。だけど、……勝ち目はあるの? だって、花鳥風月って、下手したら日本で一番モテる人でしょ? ライバルもいっぱいよ!
FFC: そ、それは……夢って大きいほど、やりがいがでるじゃない? それに、私には――
>そこで、フリップフロップ・チェリーはおでこを触る。そこには、普通の人には存在しない、長辺三センチほどの結晶状の物が埋まっていた。
FFC: 他の人にはない、ヒーローって強みがあるから。
友庫: それって本当に強みになるの? ……だって、良く聞くでしょ? 仕事のできる女性がモテるわけじゃないって。そういう人を嫌がる男の人もいるんだから。
FFC: 花鳥風月さんは、そういうケツの穴の小さい男じゃない! ……と思う。
>言い切ったが願望だという点は自覚しているようだ。私はそれより、言い方が下品な点が引っかかったが、それは友庫さんも同じようで顔をしかめていた。しかし、今回はそれを指摘せずに流す。
友庫: 確かに、花鳥風月がチェリーの言うとおりの人だったら、相性を確かめるという意味で、ヒーローのチェリーが……なんて言うんだっけ? 曜日ごとに変わる恋人……
FFC: 曜日彼女ね。
友庫: うん、その曜日彼女に入れるかもしれない。だけど、そこからはわからないじゃない。だって、チェリーのゴールってそこじゃないんでしょ?
FFC: ……うん。深く考えたことはないけれど、最後の一人になれたらいいな、と思う。
友庫: だったら、やっぱり、最後までうまく行く可能性は低いと思う。だって、きっとライバルはすごい人ばっかりだよ!
FFC: うん、その覚悟はあるよ。
友庫: でも、私としては、最後は泣くのがわかっている恋愛に、親友を送り出したくないなと思う。……そりゃあ、私も、同じような立場だから、言われて止まれるものじゃないとわかっているけれど……ん! どうしたの?
>急に不自然に視線をさまよわせたフリップフロップ・チェリーに、友庫さんが話しかけていた事を中断して、聞く。
FFC: ううん。なんでもない、ありがとう。
>フリップフロップ・チェリーはそう答えながらも、視線を落としたまま、おでこをさする。言われた言葉が正しくないと感じた友庫さんは、フリップフロップ・チェリーの肩に手を置くと、暗にこちらを向くように示す。
友庫: 本当に? もしかして、まだ腕が痛むの? それとも、さっきの――
FFC: うん、大丈夫。本当に大丈夫だから。
>そう言って、顔を上げたフリップフロップ・チェリーだったが、その目には涙が溜まっていた。驚いて動きが止まる友庫さんに、フリップフロップ・チェリーは微笑みを浮かべて語り掛ける。
FFC: 私ね、ハーフだし、おでこにこんなのが付いているから、昔から、イジメられるほどはいかなかったけれど、仲の良い友達がなかなかできなくて……。今思えば、私の方から、壁を作っていたのかな、と思うけど……。だから、シオリンに、親友って言われたのが……。
>そこで、フリップフロップ・チェリーの言葉が途切れた。頬に、溢れた涙が零れ落ちる。
友庫: うんうん。
>友庫さんは、両手でフリップフロップ・チェリーの手を握る。何度も頷く彼女の目にも涙が溜まっていた。
FFC: 私、いいのかな? まだ、出会って半年も経っていないのに、シオリンの事を親友って思っても……。
友庫: いいよ。当たり前じゃん!
>友庫さんが、フリップフロップ・チェリーに抱きついた。そのまま二人はしばらく、声を押さえて泣いた。抱擁を解いてから、友庫さんが半ば自分に言い聞かせるように言う。
友庫: ……こういうのって、たぶん、恋愛と同じなんじゃないかな。出会って、ビビビッて感じたら、出会ってからの時間とか関係ないと思う。
FFC: ……そうかな?
友庫: そうよ、絶対そう!
>二人は顔を見合わせると、フフフと笑った。
友庫: やっぱり、パンチョさんには感謝しないとね。だって、桜ちゃんと……あれ? こういう時はチェリーと呼んだ方がいいのかな?
FFC: フフッ。どっちでもいいよ。
友庫: ……うーん。でも、ヒーローじゃなくても、もう桜ちゃんは親友だから、桜ちゃんの方が正しいかな。うん。そう、だからパンチョさんは、桜ちゃんとの出逢いを作ってくれた恩人でもあるんだよ。
FFC: そうだね。……わかった。私は、シオリンの事を応援する。
友庫: じゃあ、私も桜ちゃんを応援する。……とりあえず、はね。
FFC: え、何それ! こっちは全面的に応援するって言ったのに!
友庫: だって、花鳥風月が思っていた人と違うってわかったなら、止めなきゃダメじゃん。
FFC: それを言うなら、こっちだって、不倫に突入しそうだったら止めるよ。
友庫: うーん。それは、確かに、ちょっと止めてほしいかも。のぼせていたら自分で止まれないかもしれないから。むしろ、親友と見込んでお願いします。
FFC: フフッ。わかりました。このフリップフロップ・チェリーにお任せください。
>右手で自分の胸を軽くフリップフロップ・チェリー。
友庫: ええっ! ちょっと、それだけ? この場合は交換条件でしょ? 花鳥風月の事でもお願いしますって言うべきでしょう。
FFC: 私は、曜日彼女がひとまずの目標だから、そこで花鳥風月さんの人間性を観察してからじゃないと、シオリンも止める材料ないでしょ?
友庫: それはそうだけど。……そうは言っても、曜日彼女に入ってから振られたら、泣いちゃうんでしょ?
FFC: うん、たぶん。でも、失恋したら、ちゃんと慰めてくれるんでしょ?
友庫: あ、そういう事か、なるほど。では、その役目、この友庫栞が受けましょう。
>友庫さんも、先程のフリップフロップ・チェリーを真似て、胸を張るとそこを右手で叩いた。そして、二人は声を合わせて笑った。
FFC: ああ、楽しい。……泣いちゃったよ。
友庫: そうね。後は、パンチョさんに頼まれた、もう一つの役目を果たさないとね。
>頷いたフリップフロップ・チェリーの目は、鋭く真剣みを増していた。
FFC: ええ。この集まってくる人の中から、穴穿きって女性を見つけ出さないと。
==次回予告==
>え、ちょっと待ってください! まだ第十二話は終わっていませんよ。だから、次回予告はおかしいでしょう。そもそも、第十二話で『文明の○○ パンツイッチョマン』は一旦終了ですよね? ……え、だから、最後にもう一回だけ次回予告を言っておきたい? ……まあ、いつも次回予告をしている方はここしか出番がないですからね。はい、一足先に終了していたという寂しさはわかります。では、構いませんよ。どうぞ、始めてください。
ついに対峙する 黒パンツと黒帽子
世に咲き乱れる混乱の花、咲く前に摘み取れるのか、パンツイッチョマン!
次回、『最終話、アナーキー ~~さらば、パンツイッチョマン!』
パンツ洗って、待っときな!




