第十ニ話 アナーキー(1)
ナレーター(以下、「>」と表す。):いつの間にか世間はクリスマス一色……となる前。びっくりしましたか? ちょっと「あれから色々あったし過ぎ!」と思いました? あ、そうでもない。では続けます。
>近年、クリスマスになる前に、年間行事に新しい色合いが加わりつつありますね。ハロウィーンです。クリスマスほど、街並みの彩りを替えてしまうまでに至りませんが、商店街においてはもはやクリスマスと変わらないほど、ハロウィーンの言葉があちこちで示されます。「ハロウィーンセール!」的な広告ですね。商人は基本的に儲かればいいのです。中世の城付き司祭のように「異教徒の習慣など……」と文句は言いません。
>商売人が仕掛けた風習として有名なのがヴァレンタインデーです。元々はプレゼントを贈り合う風習を、日本ではチョコレートに特化した風習として上手く流行させました。それに続けと、一ヶ月後にホワイトデーを仕掛けましたが、こちらはイマイチ根付いていないように思います。興味深いのは、「ホワイトデーはキャンディだぜ!」と流布し始めたのに、「いや、キャンディ以外で良くね」「むしろキャンディ以外の方が良いよね」と変節しているところです。……あ、キャンディ業界に喧嘩を売っているわけではないですよ。一般的な評判の話です。ですので、個人的には「キャンディ、頑張れ! キャンディ、ゴー!!」と言っておきます。……ディレクターから、「キャンディは連発するとややこしい」と注意されたので、ここらで止めておきましょう。なんでも、「出版社、作、画」の三連砲撃を受ける可能性があるそうです。受ける側からすれば、一本化してくれよと思いますが、共同戦線張れない事情があるのでしょう。ま、それはそれとして、キャンディ業界だけが悲しまなくてよい、という話もあります。一説にはヴァレンタインデーの影響力も近年低下しているからです。学生にとっては未だ一大イベントでしょうが、職場での熱気は失せつつあるそうです。虚礼廃止という風潮で年賀状も廃れつつあるので、時代の流れなんですね。枚鴨ワンダーランドだけが負け組なわけではないのです。……あ、もう枚鴨ワンダーランドは関係ない。前回で終了でしたね。
>というわけで、現在熱気が高まっているハロウィーンもどこまでいくのか、わかりません。正月お盆クリスマスの三大シーズン行事に食い込めるのか!? 日本は未だにお年寄りなんかは「盆と正月がいっぺんに来た」という表現をするくらい、この二つの行事は別格です。それに、肩を並べるくらいの存在になったクリスマスさんは、外様の先駆者ですね。だって、先ほど「正月、お盆、クリスマス」と並べた時に、視聴者の方々も違和感なかったでしょ? それは、それほどクリスマスが日本に根付いているという証拠でもあります。一方で、正月やお盆という風習が薄らいできたと言う側面もあります。もちろん、お正月は暦の区切りなので絶対になくなりませんが、日本らしいお正月は変わりつつあります。歌のように、凧揚げ、羽根つき、独楽回しを楽しんでいる児童はいかほど居ようか。あのお正月でさえ、そうなので、日本では若輩の年間行事であるハロウィーンくんはまだまだ気が抜けないのだ。
>ハロウィーンくんが、クリスマス先輩に「君は未だ受け入れられていないんじゃないかな」と言われる点に、プレコスプレがあります。「コスプレはむしろハロウィーンの方が爆発しているだろ」と思われるかもしれませんが、それは当日。そこに到るいわゆるシーズン開始から目に付くコスプレ、つまりプレコスプレです。ちなみに、プレコスプレなんて言葉は私は今まで聞いた事がありません。今回説明する際に、コスプレの事だから頭に「プレ」つけると面白いな、と思って言ってみました。みなさんも気に入ったら、プレコスプレ、使って下さって結構ですよ。
>で、クリスマスシーズンのプレコスプレと言えばサンタクロースです。確かに当日の方が見かける機会が飛躍的に多くなりますが、それまでにも駅前の広場や商店街、あるいは大型店舗内やモールなどで紙広告を配るのを見た方は多いでしょう。対して、ハロウィーンはそういうプレコスプレをほとんど見かけません。その理由の一つとして考えられるのが、これぞ象徴というコスプレが、ハロウィーンの方で定まっていないからでしょう。
>クリスマスだと万人が認めるサンタクロース翁がいます。……え、サンタギャルもいる? そ、それは歓楽街で多いかなぁ。「サンタギャルはサンタクロースの仲間なの?」って? 子供にはどう説明したらいいかなぁ。……説明は、保護者の方にお任せします!
>で、ハロウィーンの代表選手はきっと、ジャックオーランタンでしょう。しかし、オーって何でしょう!? てめえは敬語を含んでいるのか! って感じですね。もっと丁寧に言ったら、御ジャックオーランタンじゃねえか、ややこしい。……あ、話が逸れましたね。ええと、ジャックオーランタンとは、カボチャで作った洋灯ですね。日本では本物のカボチャ製ランタンをあまり見かけませんが、文句を言ってはいけません。あれを作るのはメチャクチャ大変なのですから。まず、生のカボチャの硬いこと! 皮は刃物が折れかねない強度です。苦労して目と鼻の部分をくりぬいた後に、立ちはだかる口部分。「なんでギザギザなんだよ! 半月状でいいじゃねえか」と思っちゃいますよね。……まあ、確かにそれじゃあ怖ろしげな笑いにならないんですが……でも、みんな怖がっているわけじゃないでしょう? だからもう半月状は理想でなくとも、「可」判定で認めるようにしましょう。せめて日本では。……え、やけに絡む? コホン、いや、これはあくまで、一般的な感想を予想しただけであって……。いや、すみません、個人的な意見も含んでいましたが、詳細な釈明は控えます。ただ、「今年はカボチャのアレ、作ってあげようか?」と気軽に言うのは止めておいた方が良いという忠告は残します。
>えーと、何の話でしたっけ。……ああ、コスプレね。ハロウィーンでは、サンタクロースのように圧倒的なコスプレ対象がないので、プレシーズン時にハロウィーンコスプレの人はほとんど見かけない、って話でした。……え? 歓楽街ではカボチャギャルを見かける? ……それのお子様への説明は……やはり保護者の方々にお願いします!
>しかし、逆に考えると、ハロウィーンくんがクリスマスさんに立ち向かうなら、コスプレキャラの多様性が武器になりますね。クリスマスなんて、サンタクロースかトナカイの二択ですから。……って、ハロウィーンとクリスマスの対立を煽るのが目的ではなかった! ハロウィーンとクリスマスの対立とは少し違いますが、両者がこんがらがってトラブルが発生するという作品は過去にありましたね。気になる方は……あ、あの作品の今の権利はあの怖い団体ですか! では紹介は差し控えましょう。えー、ともかく、ハロウィーンとクリスマスは、アメリカでもシーズンイベントとして並んで評価しうる両者だったという事です。そのあたりの展開は、私も間違ってなかったわけです。
>と、今回はいつも以上に大幅に遠回りをしましたが、これらの情報を踏まえて、説明しておかないといけない情景とは、枚鴨市にはなんとハロウィーンのプレコスプレイヤーが存在したのです! これって、スゴくないですか? 東京都だけど二十三区じゃない市だから、「東京っていうけど、あ、枚鴨ね」と区民に蔑まれがちな、あの枚鴨市が全国でも数少ない先駆都市として――え? 「近くでカボチャギャルを見る」? ……えーと、ご近所でも子供はあんまり行かない方がいい通りじゃないかな、そこは。もちろん、地域を否定するつもりはありませんから、「我々の地域はこういう教育からやっていく」というのであれば、むしろお願いします、と思います。だから、この件は保護者の方預かりでおねがいします。
>で、枚鴨市の駅からほど近い商店街、レインボー通りで――え、誰ですか? 「レインボー通りって名称が地方感丸出しじゃん!」って! 確かに、きっと全国の至る所でレインボー通りはあるでしょうが、七色の賑わいという祈りを込めて付けられた名前ですよ、きっと。で、プレコスプレとしては珍しいカボチャ男は、枚鴨市駅前レインボー通り商店街で――もう、うるさいなぁ! 「長い名前がさらに地方臭い」って? 仕方ないでしょう、それが正式名称なんですから。……えーと、ともかくカボチャ男は、シャッターの閉じられたタコ焼き屋の前でひっそり、というかむしろ目立っていた。大きな頭の被り物を合わせて二メートル近いと、本人がひっそりしているつもりでもひっそりできません! ちなみに、レインボー通り商店街は二割ほどがシャッターの降りた状態になっている。シャッター通りと言われるほどではないですが、今後そのように展開しそうな臭いがしますね。商店街という形態が、郊外型大型店舗という形態に押された結果です。皆さんの町ではもしかすると二割では済まない率のお店が閉められているかもしれません。でも、郊外型大型店舗もネットショッピングに押されて苦しくなってきています。世の中はこうして移ろっていくのです。だから、枚鴨ワンダーランドも……あ、もういい。ワンダー・ダックもいらない? あ、そうですか。
>レインボー通り商店街を歩く者の中に、視聴者のお馴染みの二人組がいました。ノーパン刑事と後輩刑事です。二人は讃岐うどん屋でお昼ご飯を終えたばかりでした。そのうどん屋はなかなかの人気店で、下手をすれば待ち時間で昼休憩を丸々消費しかねないほど混むのですが、二人が訪れたのは午後二時前。お昼ご飯としてはやや遅い時刻なので、ほとんど並ばずに入れました。ちなみに、頼んだ料理は後輩刑事が、ざるうどんと鶏天丼セット。ほう、若いからか良く食べますねえ。ノーパン刑事の方は……あ、こっちは同調できない人だった。仕方ないので、後輩刑事から探りましょう。……えーと、親子丼、と。……うどん屋なんだから、うどん食べなさいよ! いや、もしかすると、「讃岐うどんに押されているが、俺は関東風のうどんしか食べないぜ!」というポリシーの持ち主かもしれない。年間行事に食事。意外に、日常のあらゆる場面に文化のせめぎ合いが繰り広げられているのですね。
後輩刑事: あれ? アニキ、あんな所に、ジャックオーランタンが立っていますよ! 来る時は居ませんでしたよね?
>後輩刑事が、怪しいカボチャ男を指差す。その男は、大きなカボチャ頭の被り物に、首から下は紫色の大きなマントにすっぽり包まれている。幅広のサングラスを光らせて、そちらを見るノーパン刑事。
ノーパン刑事(以下、「NPD」と表す。): ん? ジャックオー?……弱オランウータンなど、いないぞ。
後輩刑事: いや、オランウータンじゃなくて、ジャックオーランタンです。そもそも、弱って何ですか?
NPD: そりゃあ、オランウータンにも強い奴もいれば弱い奴もいるだろう。
後輩刑事: そうだとしても、見た目で弱いかどうかはすぐわかりませんよ。
NPD: 痩せてガリガリなんじゃねえのか?
>言いながら、ノーパン刑事は商店街を見渡し、頭上のアーケードも見上げる。もちろん、オランウータンなどいない。
後輩刑事: だから、ジャックオーランタンです。あのカボチャ頭ですよ。
NPD: 何だよ。だったら、最初からカボチャ頭って言えよ。
>二人が漫才をしながら近づいていく間に、母親に連れられていた幼児がカボチャ男に近寄った。ぼーっと立っていたようだったカボチャ男は、子供が近づくと動き出した。マントの下から腕を出すと、紙切れを渡す。B5サイズの白い紙だ。子供はそれをすぐに母親に渡した。三十代半ばと思われる母親はその紙を見て、不審そうにカボチャ男を見ると、すぐに手を引いて子供をカボチャ男から離す。そのまま、スタスタと振り返らず歩き出した。
後輩刑事: ん? なんか妙ですね。
>子連れの女性の態度がおかしいと気付いた後輩刑事。しかし、ノーパン刑事はうどん屋からもらってきた爪楊枝を咥えて、器用に唇の右から左へと転がして移動させていく。カボチャ男には興味がないようだ。だが、後輩刑事が近づくと、後に続く。すると、カボチャ男がまた動いた。他の通行人だと子供のように近づかないと反応をしなかったはずだが、いや子供にさえ、マントを引っ張られてようやく目を向けていた。けれども、刑事たちには自分から向き直り、またチラシを差し出す。
カボチャ男: ディテクティブ・バンドー。
>二歩の距離を空けて、ノーパン刑事が止まった。後輩刑事は驚いたように、二人を交互に見ている。
後輩刑事: え? 知り合いだったのですか?
NPD: 知り合いと言えば知り合いだが、俺はそいつの名前も住所も知らねえ。
>ノーパン刑事は後輩刑事に返事をしたが、視線は――ってサングラスで確実にはわかりませんが顔の向きは、カボチャ男から離さない。ノーパン刑事は、羽織っていた背広へ器用に両腕を通すと、腰近くのポケットへと右手を入れる。
NPD: しかし、デテく……出て来い、とは、いきなりなご挨拶だな。
後輩刑事: いや、それはディテクティブで――
>後輩刑事が説明をしようとしていたが、ノーパン刑事は聞いていない。ポケットから出した拳の親指の爪には銀色に光る小さな玉。それを親指で跳ね上げると、空中で掴み取る。
後輩刑事: え! ちょっとアニキ、それは――
>今度も後輩刑事の制止の声をノーパン刑事は聞いていなかった。カボチャ男の呼びかけと共に、掴んだパチンコ玉を次はカボチャ男へと向けて放った。指弾。ノーパン刑事の異能だ。至近距離と言ってよい間合いなので、常人にはもう避けられない。
NPD: パンツイッチョマン!
>カボチャ男の持っていた紙がひらひらと宙を舞った。紙が落ちていくと、その向こうで、カボチャ男が胸の前で拳を握っていた。いや、ノーパン刑事の指弾を掴み取ったこの男を、もうカボチャ男と呼ぶべきではない。まだ本人が名乗っていないが、ノーパン刑事が呼びかけてしまってはこちらではもう無視できない。そう、カボチャ男は、なんとパンツイッチョマンだったのだ!
>ここで、カボチャ男の被り物について、詳しく説明しよう。カボチャ頭と言えば、すっぽり全てが覆われている被り物を想像していたかもしれないが、実はこのカボチャ頭は、顔の部分だけがくりぬいて開いていた。こう言ってもイメージが湧かない方は、観光地に置かれている看板を想像してください。記念撮影用に、顔だけ覗かせる看板があるでしょう。あれの被り物バージョンですね。昔はよくお笑い芸人が着ぐるみを装着した際、このタイプの被り物をしていました。顔が隠れてしまっては、芸能人としては些か問題があるからだ。
>この顔が隠れてしまっては困る、という問題は、アニメヒーローが実写化した際にも発生している。だから終盤ではヘルメットやマスクが破損したり、自分で脱いだりして顔を晒しているでしょう? 表情が出せないと演技の幅がずっと狭くなっちゃいますからね。「スタントマンじゃなく、本人がやっているんだよ。だからそれなりのギャラをもらっているんだよ」という主張でもあるわけです。
>パンツイッチョマンが顔を出している理由は、出演料の問題ではない事は確かだ。では何か、と思うけれど、この人の考えていることはわからないので推測するだけ無駄だろう。オレンジ色のカボチャ頭に合わせるため、顔には同じペイントが塗ってある。ちゃんと皴に当たる部分も描かれているぞ。昔は一色塗りだったのに、ペイント技術は向上しているようだ。「え、だったら、色が塗られているだけで、素敵な素顔が見えているんじゃない?」と銀子先生になら喜ぶかもしれないが、そうでもない。ちゃんと今日もパンツイッチョマンはサングラスを掛けていたのだ。ただし、いつものバイザータイプではない。ジャックオーランタンに合わせて、吊り上がった三角おめめタイプのサングラスであった。珍しい形だが、おそらくパーティ用なのだろう。ジャックオーランタンなら、鼻の部分も三角に色を塗っていてほしいが、そこはオレンジ色だ。もしかすると、ジャックオーランタンについて良く知らないのかもしれない。もちろん、単に、忘れているか、あるいは気にしていないだけの可能性もある。
後輩刑事: え、ええ??
>後輩刑事は軽いパニック状態にあった。ノーパン刑事が民間人に至近距離から指弾を放った驚きを処理できる前に、パンツイッチョマンが目の前にいると言われたからだ。
パンツイッチョマン(以下、「P1」と表す。): そういう君も、なかなか手荒い挨拶だな。ディテクティブ・バンドー。
NPD: だから、目の前にいるのに、何度も「出て来い」とか言うな。
>ノーパン刑事がまた右手をポケットに入れる。後輩刑事は慌てて、両者の間に入る。
後輩刑事: いや、アニキ、違います。ディテクティブってのは、刑事って意味です。
NPD: じゃあ……刑事バンドー。伴藤刑事ってことか。……それなら、そうと呼べ。
後輩刑事: あ、いや、その、お名前知っているって事は、やはり知り合いですか?
>どうやらパンツイッチョマンが、ぬるっと機密情報を明かしてしまったようだ。ノーパン刑事の名前は「伴藤」というらしいぞ。しかし、私はこれまでどおり「ノーパン刑事」と呼び続けます。
NPD: ……教えたか?
P1: いや。だが、刑事手帳には書いているだろう。
NPD: ……見せたか?
P1: いや。だが、誰かに見せたのを遠くから見た。
NPD: そうか。
>納得し合う二人だったが、後輩刑事はそんな二人に付いていけない。警察手帳に書かれている名前を遠くから見て読める視力が理解を超えているからだ。だが、三人中二人が納得している状況なので、自分の目が悪いのかなと考えてしまい、そこにツッコミは入れない。
NPD: そういえば、探偵って何て言うんだ?
P1: ディテクティブだ。
NPD: ……刑事と一緒じゃねえか!
P1: 一緒だ。文化の差だ。
>へえ、そうだったんですね。鴨もアヒルも、英語でダックと呼ぶのと同じように、刑事と探偵も英語の認識では近いんですね。
後輩刑事: へえ。……じゃなくて、アニキ! 任意同行ですよ!!
>色めき立つ後輩刑事に、ノーパン刑事の反応は薄い。
NPD: 任意同行。この仮装についてで、か?
後輩刑事: いや、そうじゃないでしょう。戸羽公園の件や、駅前広場での騒動など、暴行の容疑は濃厚です。
NPD: ……そういえば、そうだったな。しかし、それって、俺たちの担当か?
後輩刑事: アニキ! そんな事を言っていたら、いつもの「税金で生活しているくせに」って市民から怒られますよ。担当かどうかよりも先に、事件の被疑者がいたら確保するのが、我々警察の――
>ノーパン刑事が片手挙げて、後輩刑事の発言を止めた。レインボー通り商店街は活気あふれる通りではないが、通行人はひっきりなしに通る。騒ぎ立てると注目を浴びるのだ。今のところは、ノーパン刑事の怖さとカボチャ男の別の怖さから、通行人は足を止めないようにしている。
NPD: わかった、わかった。確かに、被疑者うんぬんの前に、てめえは気に入らねえから、一度はぶち込んでおいた方がいいかなとは思っている。
>いや、そういう理由で逮捕されては困ります。
NPD: でも、わざわざ俺の前に姿を現したのには理由があるのだろう? まずはそれを聞いておこう。
>パンツイッチョマンは頷くと、地面に落ちた紙を指差した。ノーパン刑事と後輩刑事もそちらを見るが、誰も拾おうとしない。ここは、パンツイッチョマンが拾うのが筋だろう、という顔をしながら、結局、後輩刑事が拾うと、それをノーパン刑事へと渡す。そこには、「ハロウィーンの夜は、外を出歩かず、家の中で大人しくしておきましょう。できれば念入りに施錠をしておきましょう」と書かれていた。ただ、書かれ方が異常で、新聞見出しの文字を切り抜いて張り合わせていた。正確には、そうして作った紙を何枚かコピーしており、手元にある物もオリジナルではない。
後輩刑事: こわっ!
>後輩刑事が思わず言葉にしたように、異様な文書であった。まず、新聞見出し文字に切り抜きなど、今時目にしない。昭和の誘拐犯などからの手紙で使われる手法だ。さらに、カボチャ男だからハロウィーンを盛大に盛り上げる方かと思ったら、真逆の事が書かれていたのも奇妙だった。
NPD: どういう事だ?
P1: おそらく、穴穿きが動く。大きく動くだろう。
NPD: ああ。あの女か。
>ノーパン刑事が、気が重いように息を吐いた。
後輩刑事: え? 知り合いですか?
NPD: いや、知り合いってほどでもない。あいつの名前も住所も知らないからな。
>お、良く出るループ表現。コピペ表現と言った方が適切か?
※注釈: どうでも良い事ですが、実際にはコピー&ペーストは使っていません。わざわざ戻って、該当箇所を探してコピーして……などとするより、直接タイプした方が早いからです。なので、技法としては全く同じ文言の方が面白いのですが、細部で異なる可能性があります。……「それくらい確かめろよ」と思いますか? えへへ。面倒臭いから読み返していないのです。ごめんなさい。
NPD: だが、お前も見たことがあるだろう? この間の、ほら、花火の時にいた麦わら帽子の女だ。
後輩刑事: ああ、あの女性! 美人でしたよねぇ。特に、ここの、えーと、泪黒子って言うんですか……。
>自分の目尻を指差していた後輩刑事が言葉を止める。今まで、どちらかというと相手にされていなかった印象だったのに、ノーパン刑事とパンツイッチョマンの顔が自分に向いたからだ。
NPD: お前、女だと、というか、美人だとよく見ているな。
後輩刑事: い、いや、そういうわけでは……け、刑事としての観察眼です。……でも、リョウちゃんには内緒にしてくださいね。
>最後の小声での付け足しに、ノーパン刑事は答えなかった。パンツイッチョマンへと向き直る。
NPD: で、次は何が起きる。
P1: わからん。
>しばし向かい合う二人。
NPD: そうか。
>黙って二人の様子を窺っていた後輩刑事は、前に数歩よろめく。ズッコケといわれるお笑い技術だ。
後輩刑事: いや、「そうか」じゃないですよ、アニキ。そんな予言じゃ、俺にだってできます。「いつか何かが起きる」って。
>最後のセリフは、予言者のように厳かに言ったが、ノーパン刑事にあっさり流される。
NPD: いや、「いつか」じゃなくて、ハロウィーンの夜だろう。
P1: うむ。
>そういえば、そのような内容が紙に貼り合わせていましたね。
後輩刑事: ま、まあ、それはそうですけど、その日はたいてい何か事件が起きますって。仮装をした若者が喧嘩や破壊行動をしますから。
P1: そういうものなのか。ならば、その線だろう。
NPD: うむ。
後輩刑事: いや、「うむ」じゃなくて、俺たちにとっちゃ普通の事を言われているだけですよ、アニキ。
P1: おそらく規模は大きい。暴動になるやもしれん。
>あっさり言うパンツイッチョマンに、軽く頷くノーパン刑事。だが、後輩刑事は硬直した。暴動。日本ではほとんど見られない事態だ。確かに、その騒動の内容については、後輩刑事が口にしたものと本質的には変わらない。しかし、後輩刑事はその騒動が社会をマヒさせるほど大きなものだとは認識していなかった。だが、ノーパン刑事には、後輩刑事の感じた動揺が見られなかった。
後輩刑事: “さすがアニキ! あの一言で既にそこまで覚悟できていたんスね”
>後輩刑事は、ノーパン刑事への敬意を深めるが、当のノーパン刑事が本当にそう思っていたのかは不明だ。まだよく理解しきれていない可能性もある。
NPD: また、火災報知機の事件の時のように、後はこちらで押さえておけ、か。
P1: そうしてもらえると有難い。
NPD: いや、礼を言われる筋合いはねえよ。礼などなくても、そうするのが俺たちの役目だからな。
後輩刑事: ちょ、ちょっと待ってください。火災報知機の事件って、もしかして、あの時もお二人協力していたんですか?
NPD: ん? 言ってなかったか?
後輩刑事: え、言われていました?
>問い返されて後輩刑事は不安になる。もし、伝えられていたとしても、軽く言われただけだったら冗談かなと思って、聞き流してしまっていたかもしれない、と思ったからだ。
NPD: まあ、いいや。
>しかし、流すことについては、ノーパン刑事に躊躇いも罪悪感はなかった。ノーパン刑事はパンツイッチョマンに向き直る。
NPD: ところで、お前に一つ、聞きたいことがある。
P1: 何だ?
NPD: お前、その恰好でいいのか? パンツイッチョじゃねえだろう。
>確かに、カボチャ男は首から下をすっぽり隠す紫色のマントを羽織っていた。
P1: ケープは服ではない。オプションだ。
NPD: ケープ? ……マントのことか?
P1: うむ。ケープだ。
>しばし、見つめ合う二人。
NPD: マント。
P1: ケープ。
>譲り合わない二人。こういう点もぶつかり合う原因なのかもしれない。
NPD: マント。
P1: ケープ。
>お互い短く言ったところで、主張が通るわけでもない。見つめ合った二人は、急に、後輩刑事に視線を移す。
後輩刑事: ……え、はい。マントです。
>格闘競技の審判のように、ノーパン刑事へ向けて片手を上げると、そちらへ一票投じる後輩刑事。満足そうに頷くノーパン刑事。しかし、パンツイッチョマンの表情には悔しさはない。……たぶん。オレンジ色なので見分けにくいが。おそらく、審判が中立な立場ではないので判定は無効だと思っているのだろう。でも、日本では一般的にマントと表現する、と私も一票を投じよう。
>パンツイッチョマンがマントの下から片腕を出して、怪文書の数枚の束を後輩刑事へと差し出す。躊躇いながらも、それを受け取る後輩刑事。
P1: いざ、さらばっ!
>突如、マントを跳ね上げると、商店街を駆けて去っていくパンツイッチョマン。確かにマントの下は黒パンツ一丁だったぞ。
NPD: ……穴穿き、か。
>パンツイッチョマンを見送った後、そう呟いたノーパン刑事は、プッと爪楊枝を吹き出した。
後輩刑事: あ、アニキ、ダメですって!
>警察が道路にゴミを捨てるのなどもってのほかだ、と慌てて後輩刑事が、吐き捨てられた爪楊枝を拾おうと地面を探す。だが、爪楊枝はすぐに見当たらない。おかしいな、と思って、後輩刑事は視界に一瞬映ったはずの爪楊枝の軌跡を思い出す。それに従って、目を向けた先にあったのは、居酒屋『当たりや』の張り紙。その的の絵の中心に、爪楊枝が刺さっていた。
後輩刑事: あ、そういや任意同行……。
>そうして振り返った先にはもう、カボチャ男の姿はなかった。
>ここで画面は暗転。流れる電子音声。
電子音声: パ・ン・ツゥ~~~
穴穿き: イッチョマン。
>おっと、噂の女性が、これまでになく落ち着いた一言を残してくれたぞ。しかし、この演出が来たということは、次回で終わるのか? 本当に終われるのだろうか? 期待しないで見守りましょう。




