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文明の〇〇 パンツイッチョマン  作者: 最勝寺 蔵人
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第十一話 パンツイッチョマン in ワンダーランド(前編)

ナレーター(以下、「>」と表す。):今日の舞台は、半世紀以上の歴史を誇る遊園地『枚鴨まいがもワンダーランド』です。この遊園地、元は自然公園でした。その頃は可児かに池公園と呼ばれ、その名のとおり、池のある公園でした。遊園地化に進み始めたのは、一角に児童用遊具ができたのがきっかけです。最初は滑り台やブランコという、ありきたりな遊具だったのですが、それらが特殊改造化されます。オクトパス滑り台(スライダー)に二段式ブランコなどなど。現代の基準では、安全性に問題ありと非難されるモンスター遊具が導入され、当時のたくましい少年少女に絶賛されます。近隣どころか周辺地域の児童まで足を伸ばしてやって来る混雑ぶりに、「これ商売としてやっていけね!?」と思った人たちの影響で、敷地を囲われ有料公園化します。元々、枚鴨まいがも市の公地だった土地が、企業にレンタルされ、その企業が有料公園の経営を行うようになりました。この動きの裏に、公園開発に関わった市職員の天下りがありましたが、当時は問題視されませんでした。むしろ、専門知識を持っているので当然、と主張し、さらには市の活性化に貢献し、地域に還元したという実績を示して、反対意見を封殺しました。この開発・運営団体は、有料なら動力を使った遊具も導入できるぜ! とついに遊園地化します。『枚鴨まいがも大遊園地』の誕生です。「大」と言っていますが、後の『枚鴨まいがもワンダーランド』より敷地面積は狭いです。そして、枚鴨まいがもワンダーランドも決して大きな遊園地ではありません。しかし、『枚鴨まいがも大遊園地』の名前が、「『大』と名乗るからにはもっと広い方がいいよな」という口実に繋がり、可児かに池公園はどんどんと枚鴨まいがも大遊園地に侵蝕されていきます。現在なら「自然が失われる」と大反対の市民運動が起きますが、日本列島全体が自然破壊・人工化の流行に乗っていた時代だったので、むしろ「時代の最先端だぜ」と喜ばれる風潮でした。それでも、元の可児かに池公園のシンボルたる可児かに池は岸を整備されただけで残ります。こうして、一時のピークを迎えた枚鴨まいがも大遊園地でしたが、他の遊園地と同じく厳しい時代の風に翻弄ほんろうされます。ベビーブーム経過から一気に少子化への急降下です。多くの同業者の経営が傾き始める中、枚鴨まいがも大遊園地は資金力があるうちに大変身に乗り出します。一言で表すと、遊園地からテーマパークへの転身です。ちなみに、その頃はテーマパークという概念が浸透していなかったので、時代に先駆けての挑戦でした。園内に統一性のある装飾を施し、昭和臭さも刷新していきます。その過程で、ついに消失する可児かに池。池って自然に任せておくと周囲に草が生えてくるでしょ。それが、「見苦しい」とされたのです。時代です。時が変われば、「自然っていいな」と再評価されるんですがね。一応、可児かに池のあったところは、未だ池として残ったのですが、人工池っぽくなり、名前も「魔法の泉」となったので、地元の人からは「カニは死んだ」と嘆かれました。代わりに誕生したのが、マスコットキャラクターの『ワンダー・ダック』です。これも一部の地元民から「なんでアヒルなんだよ。カニの方が良かったじゃん」と批判を受けましたが、そもそも可児かに池の可児かにって人名であって、チョキチョキはさみカニさんではありません。漢字を認識する前の子供の頃から「かにいけ」と聞いている地元民だから陥ってしまう罠ですね。また、沢蟹サワガニが住んでいたと言われていたので、余計に「蟹池カニいけ」と思ってしまいます。小学生高学年前後になると「あ、可児かに池なんだ」と気付くのですが、「生き物のカニって、可児と書くんだ」と間違えて覚えてしまったり、カニという漢字を知っていても、先入観があるせいで「へえ、生き物のカニは可児とも書くんだ」と解釈したりしちゃう人もいるのです。この間違いは、正しい認識の人と話すことで、是正されるのですが、「子供の頃、カニ池と思っていた」のは、枚鴨まいがも市民あるあるなので、大人になっても「カニと勘違いしている」のはネタなのかと、敢えてツッコむのは不粋だな、と流される事があった。ゆえに、一定数の市民がカニ池と勘違いする事例は残り続けていたのだが、そもそも可児かに池が消滅することで、この悲劇の連鎖は止められたのであった。ただし、なんだかんだで、後にサブマスコットキャラクターとして、カニが追加されるので、可児かに池の名残はなんだかじ曲がった形で存続するのであった。


>さて、マスコットキャラクターとして誕生した「ワンダー・ダック」――え、もうそんな脇の話はいいからパンツを出せ、ですか? しかし、このワンダー・ダックは後に関係するので、もうしばらくお待ちください。もしくは、最勝寺先生お得意の「読み飛ばして下さい!」でも良いですよ。で、ワンダー・ダックくんはしばらくしてから、存続の危機に立たされます。夢の国と言えば、誰もが想像するあの団体からのクレームです。「ダックと言えば、我々のキャラクターでしょう。類似するキャラクターは控えていただきたい」という警告です。一応同じ業界として圧力の大きさを知る枚鴨まいがもワンダーランド上層部は、当然大慌て。すぐにワンダー・ダックを取り下げてびを入れよう、という意見も出てきますが、経営規模的に新キャラクター戦略に小さくない資金を投入していました。それがご破算になるだけじゃなく、利用客に浸透してきたワンダー・ダックを「やっぱ無かった事で」という広報費が惜しく、もちろんキャンセル理由を問われて知られるので、小規模遊園地とはいえ、それなりにあるプライドが傷つきます。だから、「ダメ元で抵抗してみよう!」という、巨人に立ち向かう勇気ある決定がされます。ちなみに、勇気と無謀は紙一重です。結果的に勇気と表現できますが、当時はむしろ無謀な闘いだったでしょう。


枚鴨まいがもワンダーランドが展開した主張は、まず当然として「真似てはいません」です。その時に指摘したのは、相手側の日本進出が本格化する前にワンダー・ダックが誕生していたという点です。これは相手も認めざるを得ませんでした。そもそも、世界規模に幅を利かせている団体なので、細かい所まで目が行き届きません。枚鴨まいがもワンダーランドに目が向けられたのも、日本拠点が稼働する前に周囲を見回したら目に留まった、という経緯でした。わかりやすく言うと、「パクったんじゃないです。こっちが先ですから」という主張ですよね。でも相手からすると、「こちらのダックは世界的に有名ですから、先なのはこちらです」となります。この主張だけでは戦えません。次弾が「パクっていません」を裏付ける「だって似てませんですから」でした。どこまでが似ているか、またはどこからが似ていないか、その判断は難しく、多くの知的財産関連の議論の争点でもある。今回の場合、「鳥のキャラクター」は紛れもなく一緒である。しかし、この枠組みは広すぎるので、「我々が鳥のキャラクターを占有する」ということを許すと、影響大きすぎます。だから、「鳥は鳥でもダックかぶりが問題」となるのですが、ここは日本的な反論を展開します。「いや、同じダックでも、そちらはアヒル。こちらはかもです」という説です。さらに、「日本語では同じネズミとして混同するけれど、英語ではマウスとラットを分けて認識していますよね? 日本のアヒルとかももそれと同じで、一般的に同一視されません」と追加説明しました。「ワンダー・ダックのかもの元ネタは枚鴨まいがも市である」、とも重ねて、無関係であると示しました。最終的に、相手は訴訟をしませんでした。枚鴨まいがもワンダーランドの勝利です! 反論がどの程度効いたのかは不明で、単純にデザインが、並べたところでかなり違う、という要素が一番大きかったのかもしれません。いずれにせよ、地方遊園地にとって大勝利。担当の方はかなりストレスだったようですが、うつや、それが深刻化して自殺に至る前に決着しました。そんな事になったら、夢だの何だの言っている場合じゃないので良かったですね。しかし、相手にとっては慣れたトラブルだったので、負けたという印象すら持ちませんでした。日常的な処理事案だったのです。規模か違うとこんなにも感じ方が変わるんですね。


>そうして生き延びたワンダー・ダック。しかし、数年後にひっそりとマイナーチェンジします。確かに、超有名ダックには似ていませんでしたが、マッカーサー元帥愛用で有名なコーンパイプをくわえていました。これは、アメコミ――というかアニメかな?――のヒーローからパクっていたのです。服装まで一緒なのはさすがにやり過ぎだよな、と敬遠した結果、超有名ダックからも離れられたので、そのアニメヒーローはある意味隠れた恩人とも言える存在です。ですが、本家に見つかる前にもっと離れよう、とコーンパイプは取り上げられます。これは表向き「子供たちの教育上良くない」という理由でごまかしました。運営としてはドキドキな綱渡りでしたが、世間の注目は高くなかったので、あっさり流された、というか見過ごされました。しかし、その後、遊園地業界はさらに冷え込んでいきます。少子化は回復するどころか深刻化し、老朽化した遊具は大規模更新の機会を迎えてしまいましたが、そのコストを回収する目処は立ちませんでした。さらに、娯楽の多様化、特にデジタルコンテンツの普及により、物理的な体験はちょっと時代遅れな風潮が漂います。そんな中、チョロチョロ、テレビCMなどで走り回るワンダー・ダック。その姿に対して「その存在が(=消えていないことが)、驚異的ワンダー!」と評されていたのですが、やっぱり枚鴨まいがもワンダーランドもついに経営難で倒れます。ワンダー・ダックは辛い顔を隠して頑張っていたんですねえ。



>はい、これで今回の背景を大体説明できました。……長かったですか? ……確かに、今回放映分の半分近く過ぎちゃいましたね。でも、面白かったでしょ? え、「読み飛ばしてください」を適用しちゃったからわからない? あ、こりゃ、一本取られました。

>そして、興行の最終日……は特に事件も無く終わってしまいました。長年映画も頑張って作っている有名アニメなんかじゃ、「入場者何万人が人質!」とか、あるいは「容疑者は、何万人の入場者の一人!?」とかのフレーズで視聴者の興味をくものですが、当番組ではそんなキャッチな事件が起きません。何てことでしょう!


>……え、さっきのフレーズのうち、後者はあり得ない、ですか? ……そうですね。例えば、爆弾テロの犯人が、本当に遊園地入場客の一人で、それに対してそれまで全くスポットライトが当たっていなかったら、観客が引いちゃいますもんね。結局のところ、主人公やその周辺が会って話をした人が犯人じゃないといけません。しかし、現実にこういう事件が発生したら、そりゃあもう大変ですよ。警察の方は、片っ端から連絡先を聞いて記録していくしかありません。その順番待ちをする入場客も、聞き取りをしていく警察関係者にとっても、地獄のような展開です。なので、テロリストの方はそういう状況は避けていただくようお願いします。ねえ、爆発物とかそういう脅しなしで、大規模聞き取りだけでテロですから。……テロを企む人にとっては願ったりな状況だから、聞いてくれるわけがないか。


>ともかく、『蛍の光』が流れる中、スタッフとワンダー・ダックたちキャラクターが入場門までお客さんを見送り、別れの挨拶が何度も繰り返され、子供たちはもちろん、子供の頃から何度もお世話になった大人もしんみり哀しくなりました。でも、最寄りの鉄道駅まで行く間で、「しかし、こういう時はやっぱり、『蛍の光』が流れるんだなあ」という話題があちこちでされました。案外引きずらずに割り切ってしまう方も多かったようです。


>問題は、その翌々日です。枚鴨まいがもワンダーランドは、いつもの営業開始時間の午前十時に開門したのです。そして、入っていく少数の人々。「あれ? 営業終了したんじゃなかったの?」と思いますよね。これが、どうしてなかなか、微妙は状況なのです。「営業終了したのか?」の問いには「はい」と答えられます。実は、入場者は一応チケット的な物を見せていますが、お金は払っていません。見せていたのは年間パスか、枚鴨まいがも市民であることを示す証明書類でした。明確に遷移せんいしてはいませんが、「枚鴨まいがもワンダーランド」という遊園地に入ったわけではなく、その跡地の公園に入った、というていになっていました。


>もちろん、これにはそれなりの経緯があります。まず、枚鴨まいがもワンダーランドは敷地を枚鴨まいがも市に返すつもりでした。これが、最初なされたレンタル契約満了であったなら、問題はなかったのですが、枚鴨まいがも大遊園地が盛況だったため、レンタル期限が何度も延長され、最終的に枚鴨まいがもワンダーランド側が枚鴨まいがも市から土地を買い上げた形に推移します。枚鴨まいがも大遊園地プロジェクトを押し進めた、天下りの会長さんは枚鴨まいがもワンダーランドの閉園時には他界されていましたが、後の世代にも市役所との絆が残っていました。「これは、枚鴨まいがも市に返すのが筋だ」と考え、枚鴨まいがも市側も「かつての自然公園へと戻そう」という方針でいました。しかし、そこに横槍が入ります。「これだけの土地、我が社が開発に使うので、こちらに譲ってください」という申し出です。そう申し出た会社というかグループは、あまり評判は良くありませんでした。確かに、経営としては都市開発をしていると見えるのですが、市民の為というより、土地の資産価値を上げて、それを転売するなどの経営で、度々地域住民とトラブルを起こしていたグループだったのです。枚鴨まいがもワンダーランド側が、この申し出を断ると、「いや、お金に困っているなら、高く値段を付けた方に払うべきでしょ? それをしないのは、市となんらかの密約でもあったんですか? そういえば、前身の枚鴨まいがも大遊園地の発足時に不健全な関係が取り沙汰されていましたね」と突きだしたのです。結局、枚鴨まいがもワンダーランドのその後は、はっきり決まらないまま、閉園日を迎えてしまったのです。本来、すぐに取り壊しの工事が始まるはずだったのに、その権利を持つ者が争っている状況で、解体業者はどちらからの依頼も受けていないので、園内にやって来てすらいませんでした。だったら、次の行く先が決まるまで、敷地を地域住民に開放しよう、と枚鴨まいがもワンダーランド側がいきな計らいをしたのです。園内のスタッフはほとんどいないので、今まで通りの入場者は処理しきれません。だから、年間パスを持った人と枚鴨まいがも市民という制限を設け、さらに入場者数の上限も設けて、制限付き開放をしていたのでした。中の遊具は一切動きません。電気代もバカにならないし、なにより、それらを運転する人件費が高くつくからです。入場者の目当ては、枚鴨まいがもワンダーランドの一角、ファンタジー・ガーデンです。そこはヨーロッパ式の庭園をイメージされた場所だったのです。


>そして、そのファンタジー・ガーデンには近くの保育園から可愛い入場者がやって来ていた。枚鴨まいがも大遊園地の時代から、この保育園は優先招待券を多数もらっており、実質入場フリー状態だったのだ。だから、いつ本当のお別れになるかわからない枚鴨まいがもワンダーランドに、率先しておでかけに行く方針になっていた。……もちろん、保育士として、銀子先生もやって来ていた。


銀子先生(以下、「お銀」と表す。): はーい、みんなぁ、こっちにつづいて来てねぇ。


>銀子先生が男の子の手を引きながら、子供たちの隊列の先頭を歩く。子供たちは二人で手を繋ぎ、全員で十人ほどいる。最後尾は二人の保育士だ。年配の方と若い方。ただし、三人いる保育士の中で一番若いのは銀子先生だろう。子供たちの顔は、うん、見たことがある人ばかりですね。……あれ? いこい君の姿はありません。――って、銀子先生と手を繋いでいるのがいこい君でした。最初からおいしい位置ですね。


>子供たちの通る道は、両側に花が咲いているのですが、なかなかしっかり作られています。鉢植えが単純に並んでいるわけではなく、しっかりと深さのある敷地が植物用に確保されており、手前の方は背の低い草花、その奥に細い枝の低木、というふうに、立体的に配置されています。それぞれ植物名を示すプレートもあり、つたのアーチありと、なかなかっています。というのも、枚鴨まいがもワンダーランドの一角にファンタジー・ガーデンを造ろうとプロジェクトが進んだ際、その設計と運営を指揮した庭師の方が、なかなかの実力者だったのです。それは、枚鴨まいがもワンダーランド側でも誇りにしており、全国規模の大会で優勝した経験のある方だとしばらく掲示されていたくらいです。しかし、その大会は全国から出場者を募集したのは事実ですが、権威がいかほどあるか不明です。そもそもガーデニングで実力を比べるってどうするのでしょう? 決まった素材を並べるだけなら、あまり幅はありませんし、素材を自前でとなると資金力がある方が有利になります。そのあたり、どうなっているんでしょうね? と思いますが、敢えて深堀することでもないので、放っておきますね。……え! そもそも、庭園の設計者について語ったところで既に脱線でしたか?


>銀子先生たちの進んだ先には、小さな広場があった。木の板で作られた小舞台で、藤棚ふじだなとゆったりベンチが並んでいる。カートを引いてきた最後尾の保育士たちは、この小舞台の端に荷物を置く。ここからはしばらく自由時間だ。しかし、本当に子供たちがバラバラの行動をすると保護者の目と手が足り無くなる。最大三つのグループに分かれさせて、庭園内の散歩、円陣を組ませてのお遊戯などで常に子供たちを監視下に置く。このあたり、慣れたものだ。そして、ある程度経ったら、ピクニック・ランチタイムだ。その後はここでお昼寝までしてしまう予定だった。「屋外で寝かせるって、大丈夫!?」と思うかもしれないが、枚鴨まいがも大遊園地の時代から続く伝統芸なので、保育士たちのあまり危険だという意識はない。もちろん、日光に当たらない日陰を選んでいるし、気候も暑過ぎず寒過ぎない時期を選んでいる。かなりのノウハウが蓄積された行為だった。結果的に「たくましい子になる」というちょっと精神論めいた効果があると信じられていた。


>だが、食事を摂った後で、保育士たちが予想をしていなかった有名人が登場する。「あ、パンツイッチョマンだ!」と思った人、慌てすぎです。パンツイッチョマンより、ずっと格の高い存在です。少なくとも、ここ枚鴨まいがもワンダーランドでは。そう、小舞台に至る、放射状の三本の道の中央からスキップを踏んで現れたのは、枚鴨まいがもワンダーランドのスター、ワンダー・ダックだったのです!


ワンダー・ダック: ヤッホー! 子供たち、みんな元気かなぁ?


>甲高い声で語り掛けて来るワンダー・ダックに、子供たちは興奮する。銀子先生たち保育士たちも驚いた。枚鴨まいがもワンダーランドは実質終わっており、抜け殻に名残惜しくやってきたにすぎない、という気持ちだったから、まさか枚鴨まいがもワンダーランドの象徴たるワンダー・ダックが登場するとは思っていなかったからだ。大人が驚いたのはそれだけではない。ワンダー・ダックが話したことにも驚いていた。いつもは身振り手振りで意思疎通を図るからだ。話をする相手は、イベントの司会をするお兄さんやお姉さんだけで、その人たちが通訳する形でしか客には話しかけないはずだったのだ。


>ファンタジー・ガーデンに来ていた入場者は銀子先生たち、保育園の保育士と子供たちだけではなかった。学生なのか、はたまた平日はお休みの仕事なのか、若い男女がおり、赤ん坊を抱いた白髪交じりの男性もいた。その人たちもワンダー・ダックの登場に興奮し、近寄って握手を求めたり、写真を撮ったりした。なお、赤ちゃんは大きな顔が近づいて来ると泣いてしまった。赤ちゃんあるあるですね。


ワンダー・ダック: いつまでもこんなとこで止まっていないで、あっちでも遊ぼうぜ!


>ワンダー・ダックが指差したのは、ファンタジー・ガーデンの隣にある、キッズ専用の遊具が集まったゾーンだ。銀子先生たちは顔を見合わせる。そちらの遊具も、入園時に説明を受けたとおり、動かないはずだ。だから、遊具で遊ぶのではないだろう、と確認し合う。


若い保育士: ダンスか何か、イベントがあるのかな?


>直接ワンダー・ダックに聞くと、人差し指で自分のくちばしの下を弾く、お決まりのポーズをとる。


ワンダー・ダック: もちろんさ。とっておきの出し物を用意してるぜ。


>保育士たちはしばし相談する。予定にはなかったが、せっかくだから付き合おうとすぐに話がまとまる。お昼寝まで少しなら時間がある。若いカップルも付いていくようだったが、赤ちゃんが泣いてしまった男の人は諦めた。保育園の幼児たちは興奮して暴走の危険があったので、また手を繋がせて移動させる。


>キッズゾーンには、コーヒーカップやメリーゴーラウンドなどの、あまり怖くない遊具が並んでいる。ちなみに、このメリーゴーラウンドの木馬は「海を渡ってやってきた」という触れ込みの品だ。具体的にはアメリカ産なのだ。そんな遠くから運ぶくらいなら、作らせた方が早いと思う人もいるかもしれないが、実はそうでもない。精巧な木馬ほど作るのには時間がかかるからだ。しかも一つあったら済む話ではない。だから船で運んでしまう時間の方が結果的に早い。だったら、値段はどうだ、という意見もあるだろう。確かに、作らせるのも高いだろうが、完成品の木馬を買って輸送させる方が高くなりそうだ。だけど、枚鴨まいがもワンダーランドがダメになったのと同じように、アメリカでも廃業する遊園地はある。そこから中古を買えば、かなり安くつくのだ。さらに、アメリカでは日本ではなじみの薄い移動式遊園地が多くあった。その木馬であれば、そもそも運びやすいように設計されており、手間も思ったほどかからないのであった。しかし、その木馬の立場で考えると、元々いたアメリカで居場所を失くし、はるばる海を渡って来た先でも結局居場所を失くしたのだから、悲しい話である。


>あ、また脱線しましたね。えーと……ワンダー・ダックは、メリーゴーラウンドの前で止まると、掛けられているチェーンを外し、みんなに入るように促す。少し疑問に思いながらも、それに従う面々。ただし、いこい君は立ち止った。つられて、銀子先生も立ち止まざるを得ない。


ワンダー・ダック: ほらほら、乗らないと、乗り遅れちゃうぞ!


>ワンダー・ダックが呼びかけるが、いこい君はイヤイヤと首を左右に振る。どうも、赤ちゃんとはいえない年齢なのだが、いこい君も大きな頭の存在は怖いようだ。


ワンダー・ダック: 仕方ないなあ。それじゃあ、そこで見ておきな。


>そう言って、ワンダー・ダックがメリーゴーラウンドに向き直り、両手をかざすと、消えていた照明が一気に点いた。わっと、歓声も上がる。


♪ テケテッテテケテッテテ……


>楽しげな音楽も流れ出す。そして、ゆっくりと動き始めるメリーゴーラウンド。まるで、魔法のようだ。……と子供たちは思ったが、大人たちは、その前にワンダー・ダックが左腕に付けている大きなバンドをパカッと開いて、触っていたのを見ていた。時間差を設けた遠隔操作だ。しかし、運営側からすると魔法に近い感覚があっただろう。なぜなら、この手の遊具は全てスイッチをひねる手動だからだ。


>思い思いの木馬に乗り、きゃっきゃっと笑う子供たち。ワンダー・ダックはその間を歩いては、手を振り、笑いかける。外で見ている銀子先生も笑い、中の子供たちに手を振った。……しかし、その顔がこわばっていく。いつもなら、一定の時間が過ぎたら止まるはずのメリーゴーラウンドの動きに停まる気配がないからだ。


年配の保育士: ちょ、ちょっと、これ、いつになったら止まるんですか?


>当然の抗議に、両手を肩の高さに上げて身振りで「何故ホワイ」と示すワンダー・ダック。


ワンダー・ダック: 止まらないよ。楽しい時間はずっと続くのさ。


>子供たちは喜んでいた。いつもは楽しくても終わってしまっていた回転が続いているからだ。まだずっと続くという真意を理解していなかった。


お銀: ちょっと、これって……。あなた、本当のワンダー・ダックじゃないわね!


>ビシリと指差す銀子先生。しかし、その対象のワンダー・ダックが右から現れては左に回転して消えていく……


>と、今日はここまで! いったい、あのワンダー・ダックに何が起こったのか!? あ、「あのワンダー・ダック」と言われてもピンと来ませんか? まあ、それならそれでもいいです。時間なので、これ以上話せません。また、来週!


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