↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/49

第十話 本物は誰だ!パンツ〇〇マン?(6)

パンツイッショマン: 【パンツイッチョマン】、勝負だ!


ナレーター(以下、「>」と表す。): ええっ! 出だしはいつも私からなのに、フライングですよ。あ、前回と被りの部分だから、先に出ちゃったのかな。ともかく、パンツ頂上決戦の始まりだ!


P1: 私は君と闘う理由はないが、相手をしたいというならば、応えるのもやぶさかではない。


パンツイッシ(・)ョマン: やぶさか?


>意味がわからなかったようで、首を傾げるパンツイッシ(・)ョマン。それに小声でアシストするパンツマ(・)ッチョマン。


パンツマ(・)ッチョマン: 受けてくれるって。


お銀: 気を付けてください。あの人、ああ見えて結構手強いですよ。


>ボクシングのセコンドよろしく傍らに立ってアドバイスする銀子先生。


パンツイッシ(・)ョマン: よし。だったら、俺が勝ったら、そのパンツをいただく!


>え! と驚いて、一番の反応を示したのは銀子先生。一歩【パンツイッチョマン】から離れると、下を向いて黒パンツを確かめる。……何を考えているのか知りたくはないので、同調(シンクロ)は止めておきます。


P1: よかろう。


>また目を輝かせる銀子先生。想像がよりリアルになったようだ。もちろん同調(シンクロ)は断固拒否する。


パンツイッシ(・)ョマン: 代わりに、俺が負けたら、俺のパンツを――


P1: 断る!


>うん、そうだよね。普通は他人のはいたパンツは欲しくないうえに、パンツイッシ(・)ョマンのパンツはバッチイからね。もし、名前のとおり、ずっとはき続けているなら、尚更(なおさら)いりません。


パンツイッシ(・)ョマン: へえ。そうか。いらないなら、いいや。


>ラッキーと思っているらしいパンツイッシ(・)ョマン。そんなパンツが彼にとっての日常だから、愛用パンツが嫌がられている発想はないようです。


パンツイッシ(・)ョマン: あと、五千円もいただくぞ。


パンツマ(・)ッチョマン: あ、はい。


>突然、振られるとは思っていなかったパンツマ(・)ッチョマンは、驚きながら頷(うなず)く。ここでごねるほど、不粋(ぶすい)な人ではないようだ。


友庫(ともこ) : パンチョさん、頑張ってください!


>ガッツポーズで応援する友庫(ともこ) さん。そちらにチラリと視線を向けるが、負けずに応援を押し込まない銀子先生。これは、どうやら離反だ。大人な事情から、というか大人な欲望から、銀子先生はひっそりパンツイッシ(・)ョマンへ乗り換えたようだぞ。

>なかなか批評するには判断の難しい問題です。いわば社会的には、銀子先生の行動は裏切りなんでしょうが、本能に近い声を聞いている意味では間違いないのでしょう。少子化に悩まされている現代日本にとっては、むしろ銀子先生の態度は正しいと言えるのかもしれません。……あ、皆さんはそんな事、どうでもいいですか? それよりも、パンツイッシ(・)ョマンと【パンツイッチョマン】のパンツ変態頂上対決を早くしろ、ですか? そんな事言っても、もう結果は見えているでしょ。【パンツイッチョマン】が負けて、全裸になる未来は見えません。だから、【パンツイッチョマン】が勝って当たり前です。それでもグダグダ無駄口を叩かれるよりマシ? では、早速、対決を始めてもらいます。二人の睨(にら)み合いとかありますが、そんなのすっ飛ばして、いきなり闘いです。


パンツイッシ(・)ョマン: シャー!!


>いつもより大きな声と素早い跳躍。しかし、攻撃パターンそのものは何ら変わりがない。


P1: イッチョマン・スラップ!


♯ パチン


>おっと、これは回転式のイッチョマン・スラップ。いつもはカウンター引っかきをしているパンツイッシ(・)ョマンは、そんな余裕すらなく吹き飛びます。が、たたらを踏み、持ちこたえる。いや、片膝をついた。このまま倒れるか……いや、耐えた。耐えました! 女性陣から轟(とどろ)く「おぉ!」という声。私もびっくりです。本気のイッチョマン・スラップを受けて、倒れない常人などいないと思っていました。これはもう、パンツイッシ(・)ョマンの根性はヒーローレベルに達しているのかもしれません。


パンツイッシ(・)ョマン: び、貧乏が教えてくれたのは……ひもじさだけじゃ、ないんだっ!


>ふらつきながら立ち上げると、また両手を肩の高さまで上げるシャーの構え。右頬を真っ赤に腫らし、視線も未だ定まっていませんが、闘志はちっとも失われていません。これは、不覚にも、私は少し感動してしまいました。なんたる根性、ド根性! 見ている人たちもパンツイッシ(・)ョマンの不屈の精神に呑まれているようです。……いや、銀子先生は小さくガッツポーズを送って、パンツイッシ(・)ョマンを応援しています。あ、なんか、これを見て引いてしまいました。パンツイッシ(・)ョマンの根性に動かされた心が一気に白けてしまった。銀子先生、パンツイッシ(・)ョマンの株を上げるにはむしろ逆効果です。……あ、銀子先生はパンツイッショを応援しているというより、【パンツイッチョマン】が敗北してパンツを奪われるのを期待しているようだから、パンツイッシ(・)ョマンの好感度なんか関係ないんですね。……余計に引いちゃいますね。


P1: パンツイッシ(・)ョマン、質問があるかいいか?


パンツイッシ(・)ョマン: な、なんだ?


>水を差した【パンツイッチョマン】。しかし、これはまだふらついているパンツイッシ(・)ョマンにとっては望ましい展開だろう。素直に質問を受け入れる。


P1: その名前から察するに、君のパンツはずっとはき続けているようだが、その認識であっているのかな?


パンツイッシ(・)ョマン: そうだ。新年になって、新しいパンツをもらったら、それを一年はき続ける。それが悪いか!?


>最後はちょっとキレ気味だ。まあ、日本の一般基準からいうと、ありえない運用方法なのだろうが、それが貧しさゆえの運用ならば、単純に馬鹿にはできない。


P1: ふむ。だが、本当に、ずっとはき続けているわけではあるまい。風呂に入る時はどうしているのだね。


パンツイッシ(・)ョマン: ふ、風呂は、お風呂はちゃんと入っているぞ。月に一回、銭湯に行っているからな。


>自慢しているのか、恥ずかしがっているのか、微妙な反応だった。少なくとも、月に一回のお風呂が、一般家庭ではありえないほど低頻度、という事実には気づいていないようだ。


P1: 月に一回か……。


>何やら疑わしく思っているような調子に、パンツイッシ(・)ョマンが慌てて追加する。


パンツイッシ(・)ョマン: 風呂には入っていなくても、週に一回は、たらいに溜めたお湯で体を拭いているんだからな。


P1: その時もパンツは脱いでいるのではないのかね?


パンツイッシ(・)ョマン: そ、そうだ。それがどうした!


>「それがどうした」というタイミングが遅い気がするが、まあいい。しかし、「それがどうした」という発言は、当番組全体に降りかかってくるとどうにも答えられない、難しい問いかけである。「へええ」と笑って、ごまかすより外(ほか)にはない。


P1: 体を拭くのは、夜かね?


パンツイッシ(・)ョマン: そ、そうだ。……もしかして、みんなは朝なのか?


>今更、自分が常識外れな可能性に気付いたようだが、論点がずれている。そして、【パンツイッチョマン】はよくあるように、相手の質問には答えず、一方的に話し続ける。


P1: ならば、私が言い当てて見せよう。君は、その晩、パンツをはかずに寝ているな。


>左の人差し指を突きつけられ、パンツイッシ(・)ョマンが衝撃を受けて後ろによろめく。


パンツイッシ(・)ョマン: な、なぜ、それを! お前、見た事あるのか? ……いや、もしかして、みんなはパンツをはいたまま寝ているのか?


>今度も、何やらズレた所で一般常識を探ろうとしているパンツイッシ(・)ョマン。それはそれとして、【パンツイッチョマン】は何が言いたのだろうか? これを言うと身も蓋もなくなるのだが、こちらも「それがどうした?」と言いたくなる。


P1: ならば、お前の負けだ。パンツイッシ(・)ョマン!


パンツイッシ(・)ョマン: な、なにぃ!!


>突然、宣言されて憤(いきどお)るパンツイッシ(・)ョマン。しかし、驚きのあまり、シャーの構えは完全に解けている。


パンツイッシ(・)ョマン: お、俺は未だ戦えるぞ! シャーー!!


>あ、こっちの声を聞いていたかのように、またシャーの構えになるパンツイッシ(・)ョマン。


P1: この勝負、君の母上の勝ちだ。


>ポカーンとなる一同。しかし、【パンツイッチョマン】は変わらず話し続ける。


P1: 君のパンツは、半年以上はき続けたのにしては、汚れが少ない。定期的に洗濯(せんたく)されている証拠(しょうこ)だ。君が体を拭いて、全裸で寝ている間に、君の母上が君のパンツを洗って乾かしてくれているのではないかね?


>たぶんに決めつけが激しい推理だ。まず、お母さんが洗濯(せんたく)をしている、という前提はジェンダー平等の観点から危うい。それに、パンツをはかずに寝ていると言っても、全裸で寝ているとは一言も言っていない。


パンツイッシ(・)ョマン: お、お母さん。


>おっと、効いた! 効いているぞ! 不屈の闘志を燃え上がらせいたパンツイッシ(・)ョマンが、自分のパンツを見下ろすと、シャーの構えも下ろしてしまった。……ちょっと悔しいが、【パンツイッチョマン】の母親攻めは正解だったようだ。だけど、正解だからと言って、お母さんが洗濯(せんたく)、という決めつけはやっぱり良くないぞ。


P1: 君の母上は、こうして他人から無理やり金品を奪うことを奨励(しょうれい)しているのかね?


パンツイッシ(・)ョマン: しょうれい?


>またわからない単語があったようで、首を傾(かし)げるパンツイッシ(・)ョマン。今度もパンツマ(・)ッチョマンが小声で教えてくれるぞ。


パンツマ(・)ッチョマン: 褒(ほ)めること。お母さんが「他人から物を盗(と)っていい」って言っているか?


パンツイッシ(・)ョマン: ううん。他人に迷惑をかけてはいけない、って言ってる。


>パンツイッシ(・)ョマンは、【パンツイッチョマン】にではなく、教えてくれたパンツマ(・)ッチョマンに答えた。そこに質問を重ねるのは【パンツイッチョマン】だ。


P1: パンツマ(・)ッチョマン、迷惑かね?


>パンツマ(・)ッチョマンは突然の板挟みに困ったように、パンツイッシ(・)ョマンと【パンツイッチョマン】を見比べる。翻訳者(ほんやくしゃ)としてパンツイッシ(・)ョマンに寄り添った手前、いきなり「お前が迷惑だ」とは言いづらい。さりとて、窮地(きゅうち)を救ってくれた恩人である【パンツイッチョマン】にノーとも突きつけられない。


パンツマ(・)ッチョマン: ま、まあ。あんまりお金をねだられるのは、ちょっと迷惑かなー。あ、ちょっとだよ。助けてくれたことには感謝しているから。


>パンツイッシ(・)ョマンはパンツマ(・)ッチョマンを見つめた後、【パンツイッチョマン】を見上げ、両手をだらりと下ろした。


パンツイッシ(・)ョマン: 俺の、負けだ。【パンツイッチョマン】。


友庫(ともこ): やったー!


>最初に歓声を上げたのは友庫(ともこ)さんだった。そのまま【パンツイッチョマン】に駆け寄るほどの勇気はないようで、隣にいるフリップフロップ・チェリーとハイタッチをする。それを見て、銀子先生は小さくため息をついてから呟(つぶや)く。


お銀: 手強(てごわ)い。


>銀子先生の賭けは失敗した。素直に【パンツイッチョマン】に賭け(ベットし)て、【パンツイッチョマン】の勝利に喜ぶことで、好感を寄せる女の子としてのポイントは上がる。単純な手だが、そこを揺るがず押し通せる若さは、確かに力強かった。


パンツイッシ(・)ョマン: でも、五千円はやっぱり欲しい。


>パンツイッシ(・)ョマンがパンツマ(・)ッチョマンに言った。しかし、もう無理矢理にでも奪(うば)い取ろうという気持ちはないようだ。


パンツマ(・)ッチョマン: じゃ、じゃあ、後で財布を手にしてから、渡してもいいけど……。


パンツイッシ(・)ョマン: 本当か? 逃げるつもりじゃないだろうな?


>疑い深い。どうやら、やっぱりお金で苦労をしている人のようだ。


パンツマ(・)ッチョマン: いや、本当だって。俺だって、銭湯に月一回とか話を聞いたら、そりゃあ――


パンツイッシ(・)ョマン: び、貧乏だからと言って、バカにしているのか!


>パンツイッシ(・)ョマンの態度が急変した。口から泡を飛ばすと、パンツマ(・)ッチョマンに詰め寄る。


パンツマ(・)ッチョマン: い、いや、そんなんじゃなくて――


お銀: ちょっと待って。もう暴力は終わったんでしょ?


>さっと間に入る銀子先生。それだけでなく、背負っていたバッグから財布を取り出すと、千円札を五枚、パンツイッシ(・)ョマンに渡す。


お銀: はい、とりあえず、私が立て替えておくから。


>パンツイッシ(・)ョマンは、チラリと銀子先生を見た後、五千円をかっさらい、自分のパンツの中へと押し込む。その後で、少しだけ頭を下げた。お礼を言うのは慣れていない感じだ。銀子先生は、教育者として少しパンツイッシ(・)ョマンの態度に不満があったようだが、今回は流した。代わりになのか、パンツマ(・)ッチョマンに厳しい目を向ける。


お銀: あなたは、後で保育園に届けに来なさいよ。三日以内に持って来ない場合は、この間の襲撃(しゅうげき)について、警察に通報するから。


パンツマ(・)ッチョマン: あ、あれ、未だ通報してなかったんだ。いや、通報してくれていなかったんですね。ありがとうございます。ちゃんと五千円払います。……でも、この格好じゃないとダメですか? ……でも、普通の格好だと、逆に変装じゃないみたいだし……どうしようっかなあ。


お銀: どっちでもいいわよ!


パンツマ(・)ッチョマン: あ、はい。……にしても、こないだ三千円あげたところだろ。あれで風呂に行けるじゃねえか。


>警察についてビクビクしなくてはいけない、と心配していた事柄が一つ減ったせいか、パンツマ(・)ッチョマンは突然、パンツイッシ(・)ョマンにアニキ風を吹かせる。


パンツイッシ(・)ョマン: 借金を払うのに、消えた。


>ボソリという一言が、周りの空気を一瞬で重くする。


お銀: 借金って、いくらあるの?


>うつむいていたパンツイッシ(・)ョマンが顔を上げるが、雰囲気は暗い。気軽に言えないほど多いのか、把握できないほど多いのか、どちらにせよ背負っている額は重そうだ。


友庫(ともこ): いや、その前に、生活保護、ちゃんと受けていますか?


>この指摘は的確だった。パンツイッシ(・)ョマンが首を傾(かし)げた。


パンツイッシ(・)ョマン: 生活、ほご?


>今度はパンツマ(・)ッチョマンの解説もなかった。驚きから言葉が出なかったのだ。


FFC: ちょっと待って。もしかして、お母さんだけ?


>フリップフロップ・チェリーの問いかけは、唐突だった。誰も意図がわからない顔をした。ただし、パンツイッシ(・)ョマンだけ、表情が少し違った。それを見て、フリップフロップ・チェリーは確信したかのように頷(うなず)く。


FFC: お父さん、いないんでしょ?


>コクリと頷く、パンツイッシ(・)ョマン。先ほど、質問の意図がわからなかった顔をしたのは、彼にとって当たり前の内容を聞かれたからであった。友庫(ともこ)さんがフリップフロップ・チェリーの顔を見ると、フリップフロップ・チェリーが頷(うなず)く。


FFC: 私も母子家庭なの。


友庫(ともこ): 生活保護、受けていないなら、申請した方がいいよ。


>まだ生活保護の意味がわかっていないパンツイッシ(・)ョマンは、解説係のパンツマ(・)ッチョマンを見る。


パンツマ(・)ッチョマン: 国とか市とかが困っている人にお金をくれる仕組みだよ。


パンツイッシ(・)ョマン: 施(ほどこ)し!?


>パンツイッシ(・)ョマンが拒否反応を示した。貧しいからと言って、施しを受けようとは思わないプライドの持ち主のようだ。


友庫(ともこ): 違う。自立の支援をしてくれる制度。今のままじゃ、ずっと借金を返すばかりの生活なんでしょう? それを、もっと豊かに、みんなと同じくらいの生活ができるようになれるまでの一時的なお金。


パンツマ(・)ッチョマン: そうだ。元は税金といって俺たちが払っているお金なんだけれど、俺たちはみんな、お前がちゃんとやっていけるように応援したいと思っている。そういうお金だ。


パンツイッシ(・)ョマン: 俺も、もらっていいのか? どうやって? ……お母さん、日本語うまく話せないから――


>パンツイッシ(・)ョマンの言葉が止まった。フリップフロップ・チェリーの目から涙が零(こぼ)れ落ちたのを見たからだ。その視線に、他の人の目もフリップフロップ・チェリーへ集まる。


FFC: ごめんなさい。私も、私のお母さんも似た感じだったから……。あ、私は、ちゃんと生活できるだけの援助はあったから大丈夫。生活保護じゃなくて、熊茸(くまたけ)のお爺ちゃんからの支援があったから。


>この発言に、不機嫌そうな顔をして黙り込んでいた銀子先生が驚いた。


お銀: ちょ、ちょっと待って。熊茸(くまたけ)ってあの財閥の?


FFC: いや、それはちょっとわからないけれど、お金持ちのお爺さんが私たち母娘(おやこ)に援助してくれて、本当に助かったんですよ。だけど、私が高校生の頃に、お爺ちゃんが死んじゃって、支援も高校卒業までってなって。


友庫(ともこ): そっか。だから、大学には行けなかったんだね。


FFC: うん。でも、お勉強も得意じゃないから、いいんだけどね。シオリンと早くに出会っていたら、また別だけど――


お銀: ちょ、ちょっと待って。ごめんなさいね。そのお爺さんが亡くなったのは、何年前?


FFC: えーと、三年前、かな?


お銀: ……そのお爺さんの名前は? まさか、熊茸(くまたけ)源治(げんじ)?


FFC: いや、そこまでは知らない。優しいお爺さんでしたよ。目が悪くて――


お銀: うわっ。それ、やっぱり、熊茸(くまたけ)源治(げんじ)じゃない! あなた、一族の関係者?


>銀子先生は驚いているだけじゃなく、警戒を高めているようだった。


FFC: いや、そんなんじゃない、……と思います。


>フリップフロップ・チェリーにも自信はないようだった。母親と熊茸(くまたけ)のお爺さんとの間に何かあったのか、ということは聞いていないのだろう。


友庫(ともこ): その熊茸(くまたけ)さんがどうかしましたか?


お銀: どうかした!? 熊茸(くまたけ)源治(げんじ)よ!


>銀子先生の驚きは、しかし他の者には伝わらない。銀子先生は、フウと息を吐くと、小さく首を左右に振った。


お銀: ごめんなさい。一般にはあまり知られていないわね。むしろ、慈善事業家として知られているから、恵まれない家庭の支援とか普通にありえるもんね。……にしても、本人が直接会いに来るなんて……。


>ブツブツ言いながら、銀子先生はフリップフロップ・チェリーを見る。フリップフロップ・チェリーは居心地が悪いように目を反らした。


友庫(ともこ): あ、そういえば、熊茸(くまたけ)財団って聞いたことがあった。最近はちょっと潮が引いているみたいだけれど、福祉系の寄付とか多かったんだって。


お銀: 源治(げんじ)が亡くなってから方針が変わったからね。それで、幾らかやりやすくなったみたいだけれど……あ、ごめんなさい。もう気にしないで。こっちの事だから。


パンツイッシ(・)ョマン: それで、生活保護はどうしたらいいんだ?


お銀: それについては、あなたたち、任せてもいいかな?


>銀子先生が、フリップフロップ・チェリーと友庫(ともこ)さんを指差す。二人が頷(うなず)くと、今度はパンツマ(・)ッチョマンに指示を出す。


お銀: あなたは、この子の親御さんを探してくれる?


パンツマ(・)ッチョマン: ま、まあ、いいけど。この格好じゃ、まずくないか?


お銀: まあ、そうね。だけど、私は……


>そう言って周囲を見回す銀子先生。しかし、見渡す限り、彼女が探している【パンツイッチョマン】の姿は、いつの間にかいなくなっていた。まあ、私は知っていますが。生活保護と言い出したあたりに、スタスタと普通に歩き去って行っていましたよ。


お銀: あーあ、行っちゃったか。


>その発言に、友庫(ともこ)さんも気が付いた。


友庫(ともこ): あ、本当だ。パンチョさんがいない!


FFC: まあ、あの人、神出鬼没のところがあるからね。


>フリップフロップ・チェリーはあまり気にしていないようだ。


お銀: じゃあ、私も面倒を見るか。


>そう言うと、銀子先生の表情が変わった。真面目モード、「蛇面(へびづら)」だ。


お銀: あなたの家の借金、どうも闇金(やみきん)臭いわね。利子とかわかる?


パンツイッシ(・)ョマン: ……わからない。


お銀: じゃあ、そこは後から調べるとして、お母さんは日本語がうまくないって言っていたから外国の方よね? どこの国の人?


パンツイッシ(・)ョマン: 中国。


お銀: 中国。あなたも中国語は話せるの?


パンツイッシ(・)ョマン: うん。ちょっとは。


お銀: 中国語って言ってもどこ? 北京? 上海? 広東? それともまた別?


>パンツイッシ(・)ョマンが目を白黒させた。理解が追い付いていないらしい。


パンツイッシ(・)ョマン: わからない。


お銀: あなた、年はいくつ?


パンツイッシ(・)ョマン: 十九。


>これにフリップフロップ・チェリーと友庫(ともこ)さんが驚く。ほぼ年齢が一緒と思っていなかったようだ。パンツイッチョマンは肌質が荒れているため、老けて見えやすいせいだろう。


FFC: じゃあ、私と同じ高卒なんだ。


パンツイッシ(・)ョマン: ううん。中卒。


>一同、黙り込む。貧乏は金が少ないだけでなく、教育やその他の機会も奪われていく事実に、閉口させられたからだ。ちなみに、少年はずっと難しい話をされているので、別の意味で黙り込んでいた。


お銀: はぁ。仕方ないか。ここまで見てしまったら、知らないふりはできないよね。


>銀子先生は自分に言い聞かせるように言うと、ぴしりと胸を張った。


お銀: この件、養老家当主、養老(ようろう)統(すぐる)の長女、養老(ようろう)銀子(ぎんこ)が預(あず)かり受ける。


>突然の宣言。これは、時代劇か昭和の不良漫画の名乗り上げのようだった。当然、聞いている他の人たちはポカーンとする。その反応に、銀子先生も引き締まっていた表情からマズイ表情へと変わる。


お銀: そっか、ここ東京だったもんね。


>地元では、養老家の宣言は重い決定として受け止められていた。それゆえに、安請け合いはされない。これは、銀子先生の覚悟の表れだったのだが、大都会東京では「なんじゃそりゃ」という扱いだった。

>最後は、引き締まったような、締まりが悪かったような、微妙な感じで、銀子先生たちは解散となった。彼女たちの足を動かしたのは、近づいて来るパトカーのサイレンの音だった。特にフリップフロップ・チェリーは「ちょっと見つかるとヤバい」と早々に立ち去りたがったのだ。銀子先生は、パンツイッシ(・)ョマンの引継ぎのため、友庫(ともこ)さんと連絡先を交換した後、ひとまずパンツマ(・)ッチョマンと子供を親に届けるために動きだした。フリップフロップ・チェリーたちはパンツイッシ(・)ョマンに、安全な場所で生活保護について説明することになった。

>この様子を離れた場所から見ている者がいた。【パンツイッチョマン】だ。彼は、立ち去った後、木に登り、太い枝に腰掛け、パンツイッシ(・)ョマンや迷子の少年がどう処理されるかを確認していたようだ。無事に話が進みそうだとわかると、【パンツイッチョマン】は微笑み、ぐらりと背中から落ちた。そして、空中で半回転すると、両手両足を着いて地面に降り、その後、木々の奥へと消えていった。もちろん、【パンツイッチョマン】も警察から逃げたのであろう。


>こうして、パンツの乱は幕を閉じる。半裸の男たちが襲撃されたニュースは広まったのだが、パンツの乱と呼ばれたばっかりに、しばらくしてから「騒ぎ立てたのは半裸の男たち」という真逆の説が信じられがちになってしまった。ネーミングというのは重要なのである。パンツの乱の元となった、「露出迷惑条例」はいったん凍結されることになった。半裸の男たちは殴られるだけで損にはならなかったのである。ただし、半裸が許されたわけでなく、露出側も歩み寄りを見せるという形になり、「薄着」という決着を見た。具体的に言うと、上半身裸はアレだけどタンクトップまでは許す、という線引きだ。実はネット上には、「鍛えられてもいない男のタンクトップなんて許せない」という声が大きかったが、現実世界では「差別だ」と批判される自覚があるらしく、反発は小さかった。

>パンツの乱で見られた、半裸の男たちのパレードは、別の影響を生んだ。「毛皮反対」を訴えて、服をまとわない男女の抗議活動家が国境を越えて乗り込んできたのだ。これは、特に女性の裸を見たい男性にとって有力なコンテンツになるだろうが、あいにく当番組では扱わない。この毛皮反対運動は一時的な波及だったが、長期的に残り続ける結果も生んだ。「自由な服装を求める運動」として、色々な服装の者たちがねり歩くようになり、そのうちコスプレパレードと変化していった。ただ歩くだけじゃなく、いっそ踊ろうぜ、という要素も加わり、なんだかリオのカーニバルの亜流の小規模バージョンに発展していったのだ。新たな枚鴨(まいがも)市の名物になるかどうか、それは今のところ、私にはわからない。本音を言うと、それほど興味もないのであった。


==次回予告==

そこは子供にとっての夢の国

しかし、夢の枯渇(こかつ)か、時代の流れか

夢の国にも終わりがやってくる。

夢の終わりに抗(あらが)う者、生み出したるは夢の続き。

だが、其(そ)は、夢は夢でも、悪夢なり。


次回、『第十一話 パンツイッチョマン in ワンダーランド』

パンツ洗って、待っときな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。