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文明の〇〇 パンツイッチョマン  作者: 最勝寺 蔵人
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第十話 本物は誰だ!パンツ〇〇マン?(2)

ナレーター(以下、「>」と表す。): タイトルからして色んなパンツマンが登場すると思いきや、前回はパンツマンとノーパンマンの亜種がそれぞれ一人出ただけだった。最勝寺先生は「もっと登場すると思ったんだけどなぁ」と仰ってましたが……。誰ですか? 「女のお喋りが長かったからだ」とか言った人は? もし貴方が政治家なら失言で失脚しかねないですよ。『文明の〇〇 パンツイッチョマン』は、ジェンダー平等の精神を大切にしております。「ジェンダーは良いとしても、『肌色』はNGだろ!」とおっしゃる視聴者の方は、過日の『イッチョマンRADIO』をご視聴ください。

>さて、枚鴨まいがも市で急増しつつある半裸の出没者エンカウンター。そういう連中を動機別に分類してみましょう。

>まず、露出することに意味がある、いわば原理主義的な人たちがいます。ノーパンになる爽快感を求めているノーパン刑事デカもその一人です。前回登場した温泉パンツマンも、同調シンクロして確かめていませんが、同じ嗜好しこうの方だったように見受けられました。我らのヒーローパンツイッチョマンは、不明確なところはありますが、あの人も肌面積を増やすことで力を発揮している節があります。同類と見ていいでしょう。

>しかし、半裸闘争において社会問題化を深刻にしたのは、露出行為そのものが目的ではなく、その行為への他者からの反応を求めていた一派がいたことでした。回りくどい言い方をしましたが、いわゆる露出狂(ろしゅつきょう)ですね。これは、前回フリップフロップ・チェリーが逮捕しながらも解放した男が相当します。ちなみに、このパターンは一見服を着ているが、機会がくると見せびらかすという形態を採る者も多いのが、分類上の違いと言えるでしょう。

>しかし、半裸闘争なんかが起きちゃったばっかりに、第三のパターンも生まれてしまいました。これは、露出し、それを見た人が反応――までは露出狂型と一緒ですが、反応そのものが目的ではなく、それがもたらす効果を狙っているのです! ……え、また分かりにくい? やはり、こういう時は具体例がわかりやすいですね。ずばり言うと、『半裸ひったくり』です。

>ひったくり被害はそのまま追い掛けて捕まえるのが難しい、と言われています。狙う側が、追い着かれない相手を選んでいるからです。となると、後から警察に被害を届け出て、犯人を捕まえてもらうよう期待するしかありません。ですが、事情を聞かれた時、大きな壁にぶち当たるのです。


警察官: 犯人の特徴は?

被害者: えーと、……裸でした。


>そうです。その格好に気が取られ、顔つきを覚えていない被害者が多くなるのです。犯人からすれば、他の利点もあります。いつもなら、追っ手の声が聞こえなくなるまで逃げ切らないといけないのですが、着替え――というか、服を着る僅かな時間さえあれば、もうバレません。犯人として追っているのは半裸の男ですからね。サングラスどころか普通の眼鏡を外しただけでも、ゴツゴウ・ユニバースの人々はもう区別が付かなくなりますから。

>この手口にある者が気付くと、裏社会でたちまち有効手段として広まります。それまでは、「そもそも半裸になっただけで目立つから危険」と考えられていたのですが、半裸の出現率が高くなって、一般の人も自分が直接関わらないなら、「あ、また出たの」という反応だったので、犯行前の物色中にうろついても直ちに通報という危険が低下していたのだ。そして、その手を度々実行してきた、自称「韋駄天(いだてん)のイッパチ」というひったくり犯がいた。


自転車に乗った女性: ど、ドロボウ! ひったくりよ!!


イッパチ: へへっ!


>もはや当番組では当たり前になってしまったパンツだけをはいた男が駆けていく。この男は白いブリーフだ。去っていくお尻には、「天」の大きな字が。顔は、四角いフレームのメガネを掛けている。伊達メガネどころか、レンズなしだ。体つきは、パンツイッチョマンほど引き締まってはいないが、太っているわけではない。(きた)えられていないだけだ。イッパチは韋駄天(いだてん)と自称するだけあって、足の速さには自信があり、敢えて自転車を狙っていた。しかも自動アシスト付きの自転車の利用者だ。イッパチからすると、自動アシスト付きの自転車を使っているだけで、脚力に自信がないと丸分かりだ。もし、そんな相手でも最高速だったら自転車に負けるかもしれない。しかし、急な動きでは生身がずっと上。だから、イッパチの動きも、自転車に対して直角の動き、右から左に抜けていた。狙ったのは、自転車の前かごに、買い物袋に重ねて置かれていたハンドバッグ。

>……えーと、ここで警察からのお知らせです。「自転車に乗っていても、ひったくりには注意してください。貴重品を入れたかばんは、ハンドルにひっかけるか、かごに入れた場合は、その上にふたやネットのようなものでおおううと、ひったくり被害に遭いにくくなります。」……えー、以上です。

>前を急に横切られた自転車の女性は、驚いてブレーキを掛ける。余計に相手を追いかけられなくなった女性は、叫び声を上げた。もちろん、イッパチはその叫びに足を止めるわけもなく、着替えを隠している場所を目指す。

>そこに立ち塞がる一人の男。ほうきを持って道を掃いていたおじさんだ。髪の毛は白いものが混じっており、子供ならおじいさんと呼ぶだろう。背は高いが、体は細い。そのおじさんおじいさんは、ほうきを投げ捨てると両手を広げる。――え? おじさんおじいさんは変ですか? でも、大佐おじさんもいるくらいだし、おじさんおじいさんも慣れたら問題ないですよ。……たぶん。


白髪の男: 止まりなさい!


イッパチ: どけ! パンツイッチョマンのお通りだ!


>あ、これはもう完全にパクりですね。ゴツゴウ・ユニバースの人たちならいざ知らず、我々はこの男がパンツイッチョマンではないのは一目瞭然いちもくりょうぜんです。


白髪の男: ならば、ここを抜けてみせろ!


>正々堂々と勝負を挑むように言い放つと、おじさんおじいさんは腰を低く構える。普通のひったくり犯であれば、こんな相手に構わず迂回うかいするのが良策だ。しかし、イッパチには着替えの隠し場所まで行かなくてはいけなかった。遠回りしている間に、着替えの隠し場所まで捜索網が広がってしまってはいけない。


イッパチ: 押し通る!


>風景や役者が良ければ絵になるかもしれない構図だが、おじさんおじいさんと半裸の男だ。町中なのでシュールさがただよう。だけど、本人たちは至って本気だ。イッパチは相手の手の届きそうな範囲の少し手前で右に行くと見せかけて踏み込み、左へと向きを変える。イッパチは高校時代、バスケットボール部に所属し、この切込み方法が得意だった。ひったくりに手を染めるようになってから、度々使っている技なので、び付いていない。


白髪の男: どっせーい!!


>が、おじさんおじいさんのタックルは切れ味がすごかった。イッパチのフェイントに乗せられて、普通の人なら膝腰ひざこしこらえきれずに転んでしまうだろう。事実、おじさんお爺さんもそういう姿勢になったが、あろうことかそこで踏ん張った足で地面をる。切り返ししている途中のイッパチの腰を両手で捕らえると、そのまま地面に押し倒す。


イッパチ: ぐはっ!


>勢い余って二人が少し地面をすべる。下になっているのはイッパチで、コンクリートの地面を素肌で……うぅっ、想像するだけで痛いですね。が、タックルの衝撃も強かった。イッパチは一時的に息が詰まる。その間に、おじさんおじいさんは、片腕でイッパチの胸を押さえながら、半身を起こす。


白髪の男: やはり偽者にせものか。あの人なら、こんなタックルけようともせず受け止めてくれただろうに。


>え? ……ちょっと待ってくださいね。……あ、ああ。そうでしたか。いや、実は、どこかで見たことのある人だなあと少し思っていたのですが、見かけが変わったせいで同じ人だとは思いませんでした。このおじさんおじいさんは、あの花見の時に酔っ払いたちを操っていたホームレ――あ、その表現は敢えてしなくていいですか。では、名前を……黒牛くろうし猛雄たけおさんです。……ほら、名前を言っても視聴者の方々はピンとこられていないようですよ。花見を操った怪人というだけでほぼ思い出せていたのに、名前を言われて余計遠ざかっちゃったんですね。あの事件の後、警察へと出頭した黒牛くろうしさんですが、「私がやりました」という自白も受け入れてもらえず、というか、警察側でもなんとかできないかとH案件の処理班にまで回されたのですが、他人を操るという異能は再現できず、本人に再犯の可能性もなさそうだということで無罪放免となっていました。その後、福祉団体に協力を申し出て、地域貢献の一環として、清掃のボランティア活動をしていたのでした。同世代の関東のラガーマンにとっては伝説の男のタックルは、未だに鋭い輝きを放つのであった。


黒牛くろうし: あ、荷物はそこです。


>タックルを受けて吹き飛んだハンドバッグは、地面に転がっていた。中身を幾らかぶちまけられている。だが、黒牛くろうしさんは、ひったくり犯を押さえたまま動こうとせず、自転車を押して近づいて来る被害者に指示した。自転車のスタンドを立てて、ぶつぶつ文句を言いながら、荷物を集める女性から視線を切ると、黒牛くろうしさんは怖い顔でイッパチを見下ろした。


黒牛くろうし: 警察に突き出してやる。あの人の悪い噂を広げおって、迷惑しているんだぞ!


>えーと……事件の反応があるからカメラを向けてみましたが、これはもうパンツイッチョマン出てこないパターンですよね。黒牛くろうしさんがお手柄なのは良かったですが、映えるシーンでもないですし、他の現場を探してみましょう。……とはいえ、同調シンクロできないパンツイッチョマンをピンポイントで探し出すのは、我々の技術では難しいことでして……どうしましょう? ……え? 銀子先生も被害にっている? では、そのシーンいきましょう。


>ここは銀子先生の勤める保育園。部屋が少数しかないテナント型の小規模施設ではなく、大きくないながらも運動場があり、二階建ての独立した建物がある、それなりに歴史のある保育園だ。そこに、半裸の男が侵入してきたのだ。もう立派な事件ですね。「いこいくん、久々の出番か?」と期待されている視聴者の方には申し訳ありませんが、もう子供たちは帰った後の夜の出来事です。最後の児童を保護者へ受け渡した後、後片付けと明日の準備を済ましてから、着替えて帰ろうというタイミングを狙っていたかのように、その変態――あ、変態って言っちゃった。でも、そう言いだすとパンツイッチョマンも同類だから、やはり半裸の男と言い換えておこう。えーと、半裸の男は、銀子先生と、銀子先生より二歳上の女性保育士しかいないタイミングに侵入してきた。

>「セキュリティはどうなっているのだ!?」とお思いの視聴者の方もおられるでしょう。確かに、ここの保育園は門が常時施錠されており、部外者が侵入するには難しい――いや、低い門なので、越えれば可能ですが、それは通行人に目立ってしまうから、そういう意味では難しいのです。ですが、ここには大きな穴がありました。穴穿あなあきの指摘するセキュリティホールですね。その穴とは、児童の保護者達には解錠の番号を知らされていたという事実です。さらに、その番号は、年ごとに変わるわけでなく、ずっと同じです。つまり、何年にもわたって多くの人が知っている状態だったのです。普通の人なら、しばらくしたら番号を忘れてしまいますが、この犯人はそれを覚えていたのです。って、ここまでは言ってはいけなかったかな? えーと、もしくは、知っている誰かから教わったのかもしれません。いずれにせよ、大半の職員が帰った後、ひっそり侵入し、そこで着替えを済ませ、最後の児童が帰るのをじっと待っていたのです。……恰好だけでなく、行動がもう変態ですね。――あ、変態って言ったらダメでしたね。じゃあ、ストーカー行為と言い換えておきます。

>というわけで、チューリップの間でパンツをはいた男に遭遇した、銀子先生とその先輩。なお、今度のパンツ男のパンツの色は……


♪ ドロドロドロドロ……


>お、ドラムロールありがとうございます。では、改めて、パンツの色は……黒! 正解です。


♪ テッテレー!


>ファンファーレもありがとうございます。ただし、本物のパンツイッチョマンがボクサーパンツなのに対して、こちらの男はブーメランパンツというか、これ、たぶん競泳水着ですね。こうなると、ふとももの毛とあそこの毛が繋がってどこが境界かわからない、という問題は発生しうるのですが、そこは大丈夫です。この男は脱毛済みだからです。


♪ テッテレー!


>まあ、そうですね。そこは本物のパンツイッチョマンより清潔感あるかもしれませんね。あの人はすね毛オンですから。まあ、それも慣れましたけれど。肌の色は――あ、ここはNGですか? パンツイッチョマンの肌色は視聴者の自由にできるからですね。じゃあ、この男の人の肌の色は伝えていいのかな? ……良さそう? では伝えておきますか。日焼けした小麦色の肌です。いわゆる、Tシャツ焼けなどがないので、日焼けサロンで調整したのですかね。ムダ毛処理といい、けっこう手を掛けているようです。あ、次の相違点チェックはメガネですね。この男のメガネはぁ……


♪ ドロドロドロドロ……


>黒いスイミングゴーグルです!


♪ カン、カーン


>あ、「惜しい」の鐘の音でした。ですが、これまでの偽者の中でなかなか再現率が高いと思います。体つきも筋肉質ですし……。ただ、ここも本物と違って、偽者の方が脂肪分高めですね。プロレスラーでいうと、いかにもマッチョな体型というのがパンツイッチョマンで、少し丸いなという方がこの偽者です。……え? プロレスなんて観ないからわからないですか? だったら、これを機に鑑賞してみましょう。ある意味、パンツイッチョマンだらけなので楽しめるかもしれませんよ?


銀子先生(以下、「お銀」と表す): パンツイッチョマンさん、私に会いに来てくれたんですか?


>チューリップの間とは、子供たちが遊べる広間だ。その端で作業をしていた銀子先生たちは、半裸の男に呼びかけられ振り返ったのだが、怯える先輩に対して、銀子先生は両手を胸の前で握りしめて、感動している模様。その反応は予測していなかったのか、半裸の男は少し止まってから否定する。


半裸の男: いや、俺は、パンツ()ッチョマンだ!


>そう言ってから、半裸の男は両手を組むと斜に構えてポーズをとる。ボディビルで言うところのサイドチェストというポーズだ。


お銀: あれ? 何か違う?


>ゴツゴウ・ユニバースの人とは言え、さすがに何度も会っている……もしかすると、最も再会数が多いかもしれない銀子先生は、偽者に違和感があったようだ。


パンツ()ッチョマン: 違うも何も、私はパンツ()ッチョマン。世間を騒がしているパンツイッチョマンよりずっとたくましい存在だ。


お銀: なんだ、偽者か。


>途端に興味を失くして、胸の前で合わせていた両手を降ろす銀子先生。


先輩: いや、銀子先生。そうじゃなくて、あ、あなた何者ですか! どうしてここへ! 警察、呼びますよ!


>立て続けに言い放たれたので、パンツ()ッチョマンは答えようとして言葉を挟めずに、ずっこけるタイミングを計って失敗している駆け出しの喜劇役者のようにガクガクと頭を揺らした。が、最後に先輩先生を指差すと言う。


パンツ()ッチョマン: 警察への通報は止めなさい。さもないと、力づくで押さえないといけないことになるぞ。


お銀: じゃあ、レイプが目的なんですか?


>銀子先生の目つきは冷たい。そちらはやりにくいと感じているのか、パンツ()ッチョマンは少したじろぐ。


パンツ()ッチョマン: いや、俺は……保母さんと仲よくなりたいなと思っているだけで。……とりあえず、そこの縄跳びで、お互いを縛りなさい。


>要求が極端に進むパンツ()ッチョマン。それに怯える先輩と、ため息をつく銀子先生。

>ちなみに、ジェンダー平等の立場から公的には保母さんという言葉は消えたが、個人で使う分には問題ないはずです。他には看護婦さんとありますね。年代によっては子供の頃から「保母さんに成りたい」と夢見ていて、実際その夢を実現してみたら、「保育士」と呼ばれて、中身は変わってないはずなのに何だかガッカリした女子も世の中には居たに違いない。でも、時代が流れているのにいつまでも「保母さん」「看護婦さん」と呼んでいると、「古い人だな」と思われちゃうぞ。


お銀: もういいから帰ってください。今なら面倒くさいから、警察沙汰(ざた)にしませんよ。


パンツ()ッチョマン: な、なんだ、その態度は! 俺だって、それなりの覚悟を決めてきているんだ。手ぶらで帰るわけにはいかない。せめて、二人の生パンツをもらわないと――


お銀: はあ、期待した自分が情けなくなりますね。


>銀子先生が先輩に同意を求めるが、もちろんそちらにはそんな余裕はない。


パンツ()ッチョマン: どうやら力ずくで話をしたいようだな。


>五歩ほど空いていた間を、パンツ()ッチョマンがのしのしと歩いて近づいて来る。


お銀: 力だけでしょ? あ、その前に、念のため確認しますけれど、刃物とか持っていませんよね?


>パンツ()ッチョマンは、困惑して足を止めたが、素直に質問へ答える。


パンツ()ッチョマン: 見ればわかるだろ。丸腰だ。


お銀: だったらいいです。家から、刃物を持った相手には逆らうな、と言われているので。ではどうぞ。


>銀子先生が、一歩踏み出すと、両手を広げて無防備な姿を見せる。パンツ()ッチョマンは数秒、躊躇ためらったが、とりあえず相手の腕をつかもう――と腕を伸ばしたところを、銀子先生が素早く動いて、パンツ()ッチョマンの手を取ってじり上げる。


パンツ()ッチョマン: い、いてて!


>さらに銀子先生が踏み出すと、相手の足の裏に自分の足を掛け、簡単にパンツ()ッチョマンを倒してしまう。しかし、手はまだ離さない。


パンツ()ッチョマン: ま、参った。ギブギブ!


>マット床を叩くが、銀子先生に緩める気配はない。いや、むしろ「骨を折るのは、猶予してやっている」という態度だ。


先輩: ぎ、銀子先生って、強かったの?


>驚く先輩に、銀子先生は背中を向けたままで答える。


お銀: 強いってほどではないですけど、護身術は一通り習っています。


>恐るべき、養老家の教育。男尊女卑の伝統が残っているので、女子への教育はおざなりという傾向のはずだったが、それでも教わっている内容は一般とは全然違うようだ。


お銀: じゃあ、そのまま、お帰りください。玄関までお送りします。


パンツ()ッチョマン: だ、だから痛いって!


>倒れたパンツ()ッチョマンを引き起こすと、銀子先生はパンツ()ッチョマンを連行していく。簡単にやっているようだが、銀子先生はあまり力を入れていない。パンツ()ッチョマンが痛みを和らげる方向へ移動するのをコントロールしているだけだ。どこをどう曲げれば痛いのかをよく理解しているんですね。怖いですね。


パンツ()ッチョマン: わかった。わかったから、放してくれ、自分で出て行きますから。


>素直に従っていたら痛みはましになるのを理解してから、パンツ()ッチョマンは従順に外へと歩いていた。だが、玄関まで来た時に、要望を出す。


パンツ()ッチョマン: あの、外へ出ていきますから、その前に荷物を取ってきていいですか?


お銀: それって、身元を特定する物が入ってますか?


パンツ()ッチョマン: はい。免許証が入っています。


お銀: じゃあ、警察に届けておきますから、警察署に取りに行って下さい。


パンツ()ッチョマン: ……それって、拾得物扱いですか?


>銀子先生はニッコリ笑った。


お銀: いいえ。不審な侵入者の残した物だと伝えます。


パンツ()ッチョマン: ちょっ、それって約束が――いてっ、いててて……


>抗議しようと急に動いた為、また腕をひねられて、うずくまるパンツ()ッチョマン。


お銀: 貴方、そんな事を言える立場じゃないでしょ? そもそも、パンツイッチョマンさんに迷惑でしょ!


パンツ()ッチョマン: は、はい、そうなんですけど、被害も出る前ですし、反省もしていますから……。


>泣きの訴えをするも、また立たされ、外へと送り出されるパンツ()ッチョマン。裸足でたたきへ下りることに躊躇ためらいを示していたが、そのまま外へ出される事に比べると、大した抵抗もないだろうに。あ、やっぱり、門を出される前にムズムズ動いて抵抗しています。


お銀: ……まあ、警察に関わると色々手が掛かるのは知っているから、考えておくわ。今日はひとまず、その格好で帰りなさい。


>連れ出している間に、銀子先生は考えていたようですね。そう言えば、警察の事情聴取の常連です。って言うか、パンツイッチョマンの活動のほとんどが警察沙汰ですから、仕方ないですね。


パンツ()ッチョマン: あの、家の鍵もまだ中にあるのですが……。


>銀子先生の譲歩じょうほを受けて、再度交渉をするパンツ()ッチョマン。なかなかの営業巧者(こうしゃ)だ。普段はそういうお仕事なのかもしれない。


お銀: 独り暮らしですか?


パンツ()ッチョマン: いえ、家族と。


お銀: だったら、家の人に開けてもらいなさい。


>ついに、門の外にまで出されるパンツ()ッチョマン。銀子先生はサンダルにさらっと履き替えている。歩道にちらほらいる通行人が何事かと見て、小麦色肌全開にぎょっとするが、拘束状態にあるとわかると、そのまま立ち去る。中には似たよう場面に遭遇そうぐうした経験のある人がいたし、直接見ていなくとも、不審者を取り押さえられている場面について、誰かから聞いていた人がほとんどだった。そして、何より通行人が「またか」と思って騒ぎ立てなかった理由は――


しわがれた男の声: 困っているのか?


>銀子先生たちに声を掛けてきたのは、壁沿いに立っていた半裸(・・)の男。この男は、背が平均よりやや低く、骨が浮いているほどせていた。メガネは掛けておらず、黒いすすのような物で、目の周りを塗っていた。パンツは白いブリーフなのだが、薄汚れている。


お銀: いえ、大丈夫です。間に合っています。


>パンツ()ッチョマンは、新たに現れた半裸の男にギョッと身をすくめていたが、その風貌ふうぼうには耐性のある銀子先生は普通に受け答えた。


汚れパンツの男: そっちは?


>呼び掛けられたパンツ()ッチョマンは、最初自分に言われたと気づかず、自由な方の手で自らを指し、もう一人の半裸の男がうなずいてから、あえぐように言う。


パンツ()ッチョマン: 困っています。


汚れパンツの男: どう困っている?


パンツ()ッチョマン: 腕をねじ上げられていて――


お銀: ほら、放したわよ。とっとと帰りなさい。


>放されると同時に軽く突かれたパンツ()ッチョマンは、よろめいた後、ひねられていた腕をさする。そこで、汚れパンツの男がまだ見ているのを確認してから、付け加える。


パンツ()ッチョマン: あと、中に荷物を置いていて、それを取りに行きたい。


汚れパンツの男: それを取ってくればいいのか?


パンツ()ッチョマン: いや、それは自分でしたいが……あの人が邪魔じゃまをするから。


>パンツ()ッチョマンが銀子先生を指差すが、銀子先生ににらまれると、すぐ腕を下ろす。


お銀: どういう事? 仲間?


>最初のうちは、初対面同士な感じだったが、共闘しそうな雰囲気ができてきていた。当然、銀子先生は警戒する。


汚れパンツの男: いや、まだ違う。


>銀子先生に短く答えた後、汚れパンツの男はパンツ()ッチョマンに向き直る。


汚れパンツの男: なら、俺がその女の邪魔じゃま邪魔じゃますれば、幾ら出す?


呆気あっけに取られる他の二人。口には出さないが、「え? お金取るの?」という気持ちだろう。しかし、このショックから立ち直るのは、切実なパンツ()ッチョマンの方が早かった。


パンツ()ッチョマン: ……三千円。


汚れパンツの男: よし、乗った!


>早っ! というか、安っ! ……いや、こういう場合の相場とかわかりませんが、社会的に抹殺まっさつされかねない状況でやりとりされる金額としては、少なくないですか? そこで低めの金額してくるパンツ()ッチョマンも、やはり営業職の方なのかな?

>と、こちらが動揺している間に、銀子先生を半包囲する半裸の男二人。パンツ()ッチョマンは、手の平を下に向けた両手を腰のあたりで構え、汚れパンツの男は――何だそれは……両手の指をづめのように曲げて、両肩の上で構える。いわば、ニャーの構え! これは期待できないですね。見かけがみすぼらしいのは、ある意味伊達ではなかったのか!? 対する銀子先生は、緩く両手を垂らし、左足を前に、二人の半裸の男の中心に位置させ、斜に構える。やはり、構え方だけで迫力が違います。格闘技に通じている人なら、銀子先生にすきを見いだせないのではないでしょうか?


先輩保育士: 銀子先生? 警察呼ぼうか?


>恐る恐る銀子先生の後に付いてきていた先輩保育士は、門の中から頭をだして聞く。その手にはもうスマホの準備中だ。


お銀: ちょっと待って下さい。


>銀子先生があっさり保留する。……が、どうやら答える余裕がないようだ。すきを作らないためなのか、おそらく話し掛けられた内容すらわかっていない。


汚れパンツの男: おい、女!


>呼び掛けた先は銀子先生。しかし、この声にも銀子先生は反応しない。恐るべき集中力!


汚れパンツの男: 邪魔じゃまするのを邪魔じゃましないようにするのに、幾ら出す?


パンツ()ッチョマン: えっ!?


>慌てるパンツ()ッチョマン。さらに競り上げが可能なシステムなのか!? もしかして、小さく刻んでしまった為の、反動なのか!? お金にこだわりすぎると心を失う、という教訓なのか!?


お銀: あなた……


>二人の男の動きに集中していた銀子先生は、ようやくまともに汚れパンツの男へ目を向けた。


お銀: 正義の味方ではないようね。


汚れパンツの男: 正義? 金のある者が正義。そうじゃないのか?


>おっと、いきなり、社会の痛い所を突いていた。「そうだ」と言うのは簡単だが、社会に対して、というか、政治家だったら民衆に対して決して言えない発言だ。汚れパンツの男は、見かけによらず厳しい目の持ち主のようだ。


お銀: そう。だったら、あなたにお渡しするお金は一文もないわ。


>スッと目が細くなる銀子先生。


汚れパンツの男: ふん。付け足しはなしか。行けっ! 男!


>ニャーの構えを高く上げて、銀子先生を威嚇いかくする汚れパンツの男。それに対してパンツ()ッチョマンは、先ほども取ったサイドチェストを汚れパンツの男へ向ける。


パンツ()ッチョマン: 私の名はパンツ()ッチョマン!


>チラリとそちらを見てから、また銀子先生を向いた汚れパンツの男は、ニャーの構えをぐるぐる回して答える。


汚れパンツの男: だったら、俺は……パンツイッ()ョマン!


♪ チャラッチャラッチャチャラー


>ああ!! ダメダメ! 違いますよ! 音楽止めて下さい! 「パンツイッチョマン」と「パンツイッ()ョマン」、留学して来られてカタカナを学び始めたばかりの外国人さんには見わけが付かないほど似ていますが、全くの別人ですから!


パンツイッ()ョマン(以下、「パンツ同」と表す): シャー!


>奇声を上げて飛びかかるパンツイッ()ョマン。で、あっさり銀子先生に組みかれる。あ、やっぱりね。


パンツ同: い、行けっ!


>声を掛けられて、走り出すパンツ()ッチョマン。門の向こうにいた先輩保育士は、あっさり道をゆずる。うん、無理しないで良いと思いますよ。


お銀: 痛いっ!


>おや!? 銀子先生が悲鳴を上げて、パンツイッ()ョマンを解放したぞ。パンツイッ()ョマンは、よろめいた後で、口元をぬぐう。銀子先生は、捕まえていた手をもう片方の手で押さえている。


お銀: か、んだ。


>おっと、みつき攻撃か!? 多くの格闘技で禁止されている危険な攻撃方法だ。指を切断しかねない行為だから禁止されているのもあるが、ありにしてしまうと闘いがあまりに見苦しくなる理由もあるに違いない。そして、汚れたパンツをはいているあたり、パンツイッ()ョマンに見苦しさをいとう観点はないようだ。


先輩保育士: ぎ、銀子先生? やっぱり、警察に――


パンツ同: シャー!


>先輩保育士が言い終える前に、パンツイッ()ョマンが二度目の攻撃を開始する。


お銀: えいっ!


つかむと危ないと気付いた銀子先生が、投げ技へと闘い方を変える。


♯ ドサッ!


>またも、あっさり投げ飛ばされるパンツイッ()ョマン。しかし、すぐに立ち上がると、またニャーの構えを見せる。


パンツ同: シャー!!


先輩保育士: ね、ねえ、銀子先生? け、警察に――


>ああ、もう面倒臭い人だなぁ。そう思うんだったら自分でとっとと通報すればいいのにね。判断を下せないタイプの人なんですね。幸い、闘いに集中している銀子先生は気にしていないようです。

>そうして、挑んでは投げ飛ばされるパンツイッ()ョマン。その度に立ち上がってくるのですが、徐々に立ち上がるまで間隔が空いてくるので、効いてはいるようです。銀子先生もそのすきを逃さず、蹴ったり踏んだりという追撃を加えているのですが、その足を捕まえにくるので、執拗しつようにダウン攻撃にこだわるわけにもいかないようです。


お銀: この人……できる。


>肩で息をしながら、つぶやく銀子先生。よろよろとまた立ち上がるパンツイッ()ョマン。傍目はためにはパンツイッ()ョマンの方がボロボロだが、銀子先生が少し気圧されている。対するパンツイッ()ョマンの目は未だ爛々(らんらん)と光っている。しばしにらみ合う二人。そこに、パンツ()ッチョマンが門から駆け出して来た。バックパックを背負っているので、そこに着替えなどが入っているに違いない。


パンツ同: 来たか。三千円。


>すぐに、パンツ()ッチョマンに近づくと、片手を出して報酬ほうしゅうを請求するパンツイッ()ョマン。


パンツ()ッチョマン: えっ、今? 後で、良くないか?


パンツ同: ……今払わないなら、あの女と一緒にお前を捕まえるぞ。


>戦っている間に、パンツイッ()ョマンへの敬意が生まれたのか、支払いを延期しようとするパンツ()ッチョマンをにらむ銀子先生。


パンツ()ッチョマン: わ、わかったよ。……ほら、三千円。


>パンツ()ッチョマンはバックパックから財布を出すと、そこから千円札三枚をパンツイッ()ョマンへと渡す。


パンツ同: ひい、ふう、みい。


>肌質は若いが、それから想像される年齢とは考えられないほど年寄りくさい数え方をするパンツイッ()ョマン。三千円を確かめると……やっぱりパンツの中へとお札を突っ込む。うん、他に収納する場所はないですもんね。


パンツ同: では。


>言うやいなや、その場を立ち去るパンツイッ()ョマン。取り残された形になったパンツ()ッチョマンは、パンツイッ()ョマンを追おうとするが、そちらは本人の撤退てったいコースとは違ったようで、すぐに立ち止まる。その後、門へと数歩近づくと、恥ずかしそうに言う。


パンツ()ッチョマン: あ、あの、好きです。


>言った相手は、銀子先生ではなく、その先輩保育士だ。どうやら、彼女目当てだったらしい。それならそれで、正々堂々と近づけばいいのに、何かこじらせて変な表現型として発現してしまったようだ。


先輩保育士: あ、はい。


戸惑とまどう先輩保育士。そりゃあまあそうだよね。変態に言われたら、嬉しいというより気持ち悪いのが本当でしょうから。しかし、この動揺が、パンツ()ッチョマンの撤退もみすみす見逃すことになる。パンツ()ッチョマンの姿が夜の闇に消えると、先輩保育士が銀子先生に言う。


先輩保育士: 銀子先生、やっぱり警察に連絡した方がいいかなぁ?


お銀: いや、もう、そんなに気になるなら通報したらいいじゃないですか!


>さすがの銀子先生もいささか切れ気味だ。優柔不断な人は時折周囲の人を苛立たせることもあるので、注意しようね。先輩保育士はスマホに目を落とすが、まだ連絡すべきかどうかを悩んでいる。銀子先生は、そんな先輩保育士から視線を離すと、ある方向に目を向ける。


お銀: パンツイッ()ョマン……あなどれない相手ね。


>ここで画面は暗転。画面の上半分に一つずつ浮かんでいく「PANTS」の文字。それに応じて、流れる音声。


電子音声: パ・ン・ツ~~


パンツ()ッチョマン: マッチョマン!


# ブッブー!


>はい、そりゃそうですよね。間違えです。やり直します。


電子音声: パ・ン・ツ~~


黒牛くろうし: イッチョマン! さん。


>いや、「さん」づけは不要だったのですが、まあいいですか。では、また来週~。

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