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文明の〇〇 パンツイッチョマン  作者: 最勝寺 蔵人
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第十話 本物は誰だ!パンツ〇〇マン?(1)

ナレーター(以下、「>」と表す。): 枚鴨まいがもてやんでえ花火大会は、開始直後にパンツイッチョマンに関わる混乱があったが、中止されず、予定通りの発数を打ち上げて終了した。パンツイッチョマンによる、主にイッチョマン・ストンプからなる暴行はその日のうちに事件として広まった。テレビニュースで伝えられなかったが、ウェブにはあの見得みえを切った姿が流され、SNS等ではうわさが爆発した。もちろん、この騒動そうどうを受けて、「パンツイッチョマンを捕まえろ!」という声は高まった。パンツイッチョマンに直接助けてもらった一部の人は、これに猛烈もうれつに反対した。「あの人がそんな事をするはずがない」と主張する人は、暴行の証拠しょうこ動画がないことからフェイクニュースだと反論した。事実、あれほど多くの人がスマホを向けていたのにも関わらず、イッチョマン・ストンプのまともな動画は一つもなかった。パンツイッチョマンの動きが速すぎて、誰もカメラにとらえられなかったからだ。他方で、証拠しょうこ動画はなくても目撃者は多くいた事から、フェイクと否定ひていするには無理があると考えた擁護派ようごはは「暴れ回ったのには、何か理由があった」と防衛線ぼうえいせんを張った。事件の目撃者でもあった友庫ともこさんもこの一人だ。

ちなみに、銀子先生は「パンツイッチョマンさん、そっちに出たんだ! ミスったぁ」と思うだけで、パンツイッチョマン悪人論争には興味を示さなかった。世間がパンツイッチョマンをどう断じようとも、銀子先生の評価はらがなかったからだ。

枚鴨まいがも市だけの統計を取ったら、話題のワードとして上位に上がっていたに違いない「パンツイッチョマン」だったが、数日後事態が急変する。苔石こけいし銀行の金庫破りのニュースがれ出たからだ。警察は、犯人を既に確保していたので、急いで目撃者情報などを集める必要は少なく、むしろ捜査の邪魔にならないよう、マスコミを遠ざけたかった。苔石こけいし銀行も、金庫に穴が空いた状態なので、喧伝けんでんしたくなかった。だからといって秘匿ひとくするわけにいかない大事件だったので、ひとまず落ち着いてから発表となったのだ。このニュースは直ぐに全国区に広まった。爆弾やサブマシンガンの出所、武装した犯人を逮捕たいほした英雄の存在など、世間の注目を集めるのに十分な要素があった。結果、半裸の男が暴れ回り、軽傷者が少し出ただけの事件は「ちょっと話題にするのも恥ずかしい」と扱われ、意外に早く鎮火ちんかした。これは肩身の狭くなりかけていたパンツイッチョマン擁護派ようごはの人々にとって、ありがたい変化だった。しかし、「パンツイッチョマンのてやんでえ踏みつけ事件」が与えた影響はそれだけではなかった。パンツイッチョマンの立てた波は、社会のやみに届き、そこにひそむ者に余計な期待を抱かせてしまったのだ。「あの格好、あり(・・)なのか!」と。

>この後、枚鴨まいがも市である種の犯罪の発生率が急増する。特定の嗜好しこうを持つ人たちが、自分たちの欲望よくぼうおさえなくても良いと勘違かんちがいしてしまった。はっきり言うと、裸あるいは半裸の人が、町に出没しゅつぼつするようになってしまったのだ。後に「半裸闘争はんらとうそう」と呼ばれる一連の社会的鳴動(めいどう)がこうして始まったのだ。



女性: 待てぇー!


>夕暮れの町を駆けていく若い女性。この道は、一方通行掲示のあるせまさなので、あまり車は入ってこない。この女性の姿はまだ視聴者の皆さんも覚えているでしょう。前回、意外に活躍かつやくした友庫ともこさんです。彼女が追い掛けているのは、半裸の男。ただし、あのパンツイッチョマンではなく、なまちろい肌をした細身の若い男です。顔に付けているのは、パーティー用の変装へんそう眼鏡めがね。パンツは、温泉マークが大きくプリントされたトランクスだ。タイトルに合わせて、ここはパンツ温泉マンと名付けよう。……やっぱり言いにくいな。温泉パンツマンに改称します。


温泉パンツマン: へへへっ!


>温泉パンツマンの足は意外に速く、左右にフラフラ動きながらも、友庫ともこさんに追い着かれなかった。というか、友庫ともこさんの足は遅かった。ただでさえ、身長が低くて歩幅ストライドが短いから、駆け足には自信がない方なのに、肩には大学帰りの荷物を背負っているのだ。すぐにバテて、足が止まる。その時、後ろから別の若い女性が声を掛ける。


若い女性: 大丈夫?


>振り返った友庫ともこさんは、何か言おうとして、息をんだ。横道から飛び出してきた、相手の女性も同じくおどろいていた。束の間のお見合いの後、先に言葉を出せたのは、友庫ともこさんだった。


友庫ともこ: 桜ちゃん! あ、今はチェリーか。


>そう、飛び出してきた女性は、目の部分をくり抜いた布切れを顔の上半分にいていた。正式名称はフリップフロップ・チェリーというらしい。


フリップフロップ・チェリー(以下、「FFC」と表記): しおりん! ――


※注釈 別にルールづけはしていないのですが、アルファベットの略号は、現状ヒーロー格の人物に与えられています。桜ちゃんは、まだ半人前な雰囲気があるので迷いましたが、半人前でもヒーローと認めて、FFCとします。……サッカーのクラブチームみたいですね。


FFC: ――どうしたの? また(・・)お尻とかさわられたの?


>フリップフロップ・チェリーが、先を行く半裸の男をにらむ。その温泉パンツマンの方は、ベランダに洗濯物せんたくものを取りに出て来たご婦人や、庭の植物に水をいているおじいさんに、手を振りながら軽く駆けている。気分が良さそうだ。もちろん、手を振られた方は気分の悪そうな表情を返す。しかし、ある程度離れているので叫んだり怒鳴りつけたりするほど不快ではないようだ。


友庫ともこ: ううん、別に痴漢ちかんったわけじゃなくて――


FFC: じゃあ、何かられたの? あれくらいの距離なら、出るか出ないかわからないビームで……


>質問しておきながら、答えを聞く前にやる気満々だ。出るか出ないかわからないビームはヤバい事を知っている友庫ともこさんは、桜ちゃんの腕にそっとれる。


友庫ともこ: いや、別に何かされたとかじゃないの。 それくらいの距離を横切られただけで。


>手振りで一二歩の距離を示す友庫ともこさん。温泉パンツマンの背中をにらみつけていたフリップフロップ・チェリーは、おどろきの表情で振り返り、首をかしげる。


FFC: ん? じゃあ、どうして追い掛けていたの?


友庫ともこ: どうして、って……。あんな連中、のさばらしておいたら、パンチョさんに迷惑めいわくかかるじゃない。ただでさえ、評判は下降気味なんだから。


>プリプリと怒る友庫ともこさんに、フリップフロップ・チェリーはニヤリと笑うとうなずく。


FFC: そうね。この間の花火の時もやらかしたみたいだし。


友庫ともこ: あ、あれは……。きっと、何か事情があったのよ。……そういえば、誰か追い掛けていたみたいだし。


FFC: え? しおりん、あの場にいたの!?


>改めて示さずとも、もう分かっていただけていると思うが、「しおりん」が指すのは友庫ともこさんです。友庫ともこ史織しおりがフルネーム。みんながトモちゃんと呼ぶのでややこしいのですが――って、視聴者の方は友庫ともこさんの大学生活を知らないから、関係ないか。


友庫ともこ:うん、あの日もパンチョさんに助けてもらって……


FFC: え! どういう事? ちょっと聞かせてよ。


友庫ともこさんの肩に手を伸ばして聞くフリップフロップ・チェリー。友庫ともこさんはチラリと去り行く温泉パンツマンの背を見て、一瞬考えてから追うのをあきらめた。フリップフロップ・チェリーとの再会の方が大切だと判断したのだ。フリップフロップ・チェリーも、友庫ともこさんの目の動きを見て、自分が来た方向を振り返る。そこも今の道と変わらない太さの町並みだったが、一点異常な部分があった。道の中央に、男が一人横たわっていたのだ。


>フリップフロップ・チェリーは、友庫ともこ さんと違い、どうすべきか判断に迷っていた。温泉パンツマンを見送った友庫ともこ さんは、自然と釘付けになっているので、フリップフロップ・チェリーの視線の先へと目を移し、道に横たわる中年の男に気付いた。


友庫ともこ: ん!? あれって……


FFC: うん、そうなの。……私もパンツ男を――じゃなくて、パンツをはいていない男を捕まえてて


>横たわっていた男は灰色のシャツを着ていたが……本当ですね。下ははいていません。――あ、カメラさんは確認不要です。すそが長めなので、立っていたらモロ見えはしないけれど、短パンだとしても、短パンのはしが見えないから不自然、という感じになりそうですね。ちなみに、こっちに足を向けて横になっているので、今は見えないどころか、しっかり見えています。女性二人は七八メートル離れているから、視力によってははっきり見えないでしょうね。


友庫ともこ: 痴漢ちかん


FFC: うん、チラチラさせて中学生を困らせていたから、覆面マスクしてからふんじばった。


>確かに、倒れている男は後ろ手にしばられています。しばっているのは、当番組で既に見慣れた結束バンド。持ち運びにも便利だから、もしかして売り上げ上がっちゃうんじゃないでしょうか? 結束バンドメーカー様からのスポンサー契約けいやくお待ちしています。


友庫ともこ: ……首輪?


>あ、営業文句を述べている間に、友庫ともこさんがさらに気付いてしまいましたね。指摘どおり、倒れている男――あ、タイトルに沿って呼ぶなら、パンツ――って、パンツはいてないじゃん! じゃあ、……ノーパンシャツ隠しマンにしましょうか? ……長い、ですか? でも、どうせあと数回呼ぶかどうかって存在なので、これでいきましょう。……ああ、それで、このノーパンシャツ隠しマンですが、首に太めの革製(リング)を装着しています。首輪にはぐるりと小さな突起と、短いですがちゃんと金属製のくさりが付いています。……これってやっぱりアッチ系のアイテムですよね?


FFC: あ、いや、違うのよ! そういう趣味しゅみとかじゃなくて、ほら、こないだの壁登り男いたじゃん? あいつを連れて歩くのが大変だったから、「首輪とかあった方がいいなぁ」と思って、で、先輩せんぱいにこっちは本当にそういう趣味しゅみな人がいて、その人から仕入れてもらって……


友庫ともこ: う、ううん。全然。……別にどういう趣味しゅみでも私は気にしないし……


FFC: いや、それって、信じてない反応じゃん。アイ……いや、先輩せんぱいにはそう思われても仕方ないけれど、しおりんはこっちを知っているんだから、そっちの振りしなくてもいいんだから。


>フリップフロップ・チェリーが、覆面ふくめんを示しながら言った。アッチ系の同僚どうりょうには仲間と思われているようだ。ヒーロー活動には色々と常人には想像できない苦労があるらしい。


友庫ともこ: ううん。違う違う。信じてなかったわけじゃなくて、おどろいていただけ。


>確かに、友庫ともこさんの心を最も占めていたのはおどろきだったが、フリップフロップ・チェリーの趣味しゅみについて疑っていた、いや、この場合、信じていたと言うべきなのか、……どちらにせよ、今更、どう感じていたか掘り返すのは止めておこう。本人が、そう言っているなら、そうだったという事でいいでしょう。


FFC: 本当に?


友庫ともこ: ホント、ホント。それより、あの人はあのままでいいの?


FFC: あ、そうだった。それなのよ! 最初は警察に突き出すつもりだったんだけど、良く考えたら、私、警察とは相性良くないし。しおりんに出会ったから、前にみたいに任せようかな~と思ったんだけど――


友庫ともこ: あ、うん。私ならいいよ。


FFC: いやいや、あんなの連れて歩けないって。私はこれがあるから良いけど。


>また覆面ふくめんを示すフリップフロップ・チェリー。その時、ノーパンシャツ隠しマンが倒れている通りに入ってこようとした中年女性がいたが、不審者ふしんしゃに気付くと向きを変えて過ぎていった。正しい判断だ。ちなみに、彼女の中では、ノーパンシャツ隠しマンだけでなく、通りの出口にいたフリップフロップ・チェリーも不審者ふしんしゃ扱いだったぞ。


友庫ともこ: そ、そう言えばそうよね~。


>ノーパンシャツ隠しマンを引き連れている姿を想像して、ゲンナリする友庫ともこさん。


友庫ともこ: でも、チェリーも付いてきてくれるんでしょ?


FFC: もちろん、交番の近くまでならね。でも、もう、それだけするのも……気持ち悪くて。


>最後の部分は、友庫ともこさんに近づいてささやいた。


FFC: あいつ、最初は抵抗してたんだけど、途中から、なんかシチュエーションが快感になっちゃったみたいで……


>小声で話し続けるフリップフロップ・チェリーから一旦目を離して、ノーパンシャツ隠しマンを確認しようとした友庫ともこさんは、フリップフロップ・チェリーに腕を触られて、止められる。


FFC: 目に毒だから見なくていいよ。……ほら、今も、放置されているのが逆にいいのがシコシコと――って、見ない方がいいって。


>今度は、向こうとしていた友庫ともこさんの頬をさわって止めたが、これは発言内容が悪いですね。つい目を向けてしまいたくなる言い方ですもんね。


FFC: うん、決めた。今回はアイツを見逃してやって、私たちはこの後お茶しよう!


>パンと両手を合わせるフリップフロップ・チェリー。


FFC: 時間とか大丈夫?


友庫ともこ: うん! 大歓迎! 親には連絡入れておくけれど。前にみたいに電話してきちゃうから。


FFC: そう。じゃあ、どこがいいかなぁ。……てか、アイツ片付けてこなきゃ。しおりんはその間にお母さんに連絡入れておいて。……付いてこなくていいよ。


>そう言って軽く駆けて行くフリップフロップ・チェリー。モゾモゾしているノーパンシャツ隠しマンのそばに立つと、き出しの尻を軽く蹴飛けとばす。


FFC: コラ! ナニしてんだよ。


倒れている男: だ、だっていつ帰って来るかわからないから……。あの子、友達?


>半身を起こそうとしたノーパンシャツ隠しマンの肩を、フリップフロップ・チェリーが肩を強めに突いてはばむ。


FFC: コラ! 勝手に、起きようとするな。


倒れている男: ふふふ、答えなくてもその態度が答えだね。大切なお友達なんだね。


>今度は首だけを動かそうとしたノーパンシャツ隠しマンは、すぐにお尻へ、フリップフロップ・チェリーのつま先キックを食らう。


FFC: 見るんじゃねえよ! けがれるだろ。


倒れている男: ……そうか。僕のイチモツを見て動揺どうようしなかったのは、君がアッチの人だからか。


FFC: うるさいよ。


>また、容赦ようしゃなく小突くフリップフロップ・チェリー。彼女はこんなに怖い感じの人ではなかったので、ここに来るまでにかなりイライラさせられたのかもしれません。ノーパンシャツ隠しマンはられてうなるが、フリップフロップ・チェリーが言っていたように、どこがうれしそうだ。


FFC: ちっ、運が良かったね。今回は見逃してあげるよ。


>フリップフロップ・チェリーが、バックパックの肩掛け帯に付いている、本来スマホ用のポケットからカッターナイフを取り出した。それで、結束バンドを切るようだ。と、その前に、首輪を回収する方針に変更した。カッターナイフを同じ場所に一旦しまうと、カチャカチャと首輪を外し出す。


倒れている男: え? えっ?


>動転しているノーパンシャツ隠しマンに、フリップフロップ・チェリーは声を低くして言う。


FFC: 騒いだら、金玉()(つぶ)す。


>こ、こわっ! ノーパンシャツ隠しマンも、身をすくめて、動きを止める。フリップフロップ・チェリーの話からすると、ノーパンシャツ隠しマンが自らの隠れた性癖せいへきに気付いたのは、今回の拘束こうそくからのようなので、はげしい仕打ちに対する心構こころがまえはできていないらしい。……それを待ち望むようになったら、もう異界に足をみ入れているから気を付けよう! ――って、こっちからノーパンシャツ隠しマンには伝わらないので、視聴者の皆さんが気を付けて下さい。


>それから色々あった。……いや、とりあえず言ってみたけれど、改めて考えると、そう言うほどはなかった。フリップフロップ・チェリーはノーパンシャツ隠しマンを解放し、友庫ともこさんは、友達とお茶して帰るので遅れる、と連絡した。それから、近くに病院があったので、周りに喫茶店もあるはずだと探し、二人とも初めてのそのお店に入った。……ほら、色々あった、と書く方が、想像が広がって良かったでしょ?

>喫茶店に入るまでに、友庫ともこさんは粗方あらかた、先日のパンツイッチョマンとの遭遇そうぐうについて話し終えていた。実は、あまり話す内容はなかった。出会ってから別れるまでの時間は長くなかったし、頼まれ事をした後のイッチョマン・ストンプ事件も数多くいた観察者の一人でしかなかった。


友庫ともこ: そういえば、「アナーキー、待てっ!」って言っていたと思うから、……もしかすると大きな敵を見つけていたのかなあ。


>ドリンクを頼み、「せっかくだから」とケーキを頼んだ二人。当然、ケーキが出されるまでも会話は続く。私の場合、「夕食前なのにケーキなんか頼んでも大丈夫か?」と思うが、若い女性の多くが有していると言われるスキル「別腹べつばら」が発動するから……あ、それは食事を食べた後? 前だと発動しない? では、夕食は少なめになるのかもしれない二人。食事を用意している親からするとかなしいイベントだ。


FFC: アナーキー? 外国人の人? あだ名?


友庫ともこさんは、一瞬呆気(あっけ)にとられた後、微笑んだ。


友庫ともこ: そうね。あだ名かもしれないけれど、たぶん……なんて言ったらいいのかなあ。テロリスト、っていう意味に近いかな? 本来は無政府主義者とかいう意味だったと思う。


FFC: ふーん。……でも、あのパンツイッチョマンが追いかけて、捕まえられていない相手なんでしょ? かなりの大物じゃない? どういう人だった?


友庫ともこ: それは、良く分からない。たくさん人がいたから誰を追いかけていたのか……。私も、パンチョさんが進んでいる方向を探したんだけど、走って逃げているような姿は見当たらなかったんだよなあ。


>そういえば、そうでしたね。穴穿あなあきが走っていないのは、余裕を見せているからだ、と思っていましたが、周囲の者に悟られない意図があったのかもしれません。

>それ以上、この話題は膨らまず、届いたドリンクとケーキで会話は一旦途切れる。ちなみに、友庫ともこさんが頼んだのは紅茶とモンブランで、フリップフロップ――あ、もう変装は解いているから桜ちゃんですね――桜ちゃんが選んだのはコーヒーとチーズケーキでした。


※確かに、FFCではなくなったので、以下、「桜」に変更します。


>ケーキの感想を言い合い、一口ずつお互いのケーキを分け合ってから、また会話が再開されます。最初は、友庫ともこさんの日常についてだったのですが、そこから、パンツイッチョマンに助けられて無事に済んだ罠についての話に変わっていきます。特に、「澤田」と名乗って近づいてきた女性について、桜ちゃんは興味を示し、掘り下げていきます。


桜: じゃあ、結局、その女は逃げたままなんだ。警察だったら、スマホの履歴とかで追えるんじゃないの?


友庫ともこ: それが、私と連絡に使ったスマホは、私を罠にめた男から渡されたやつで、追えないのよね。男によると、協力する条件として「足のつかないスマホで連絡し合う」ってことを、澤田さんが提示したみたい。


桜: それ、かなりヤバいやつだね。慣れてるじゃん。余計に捕まえないと。


友庫ともこ: うーん。でも、警察に相談したところだと、難しいかも、って話だったな。だって、澤田さんからすると、「言われた人を連れてきた」だけだから、犯罪に加担するつもりだったと言い切れないじゃない? 「サプライズでお祝いするために、第三者の協力を借りたかったと思った」とか言われたら――


桜: いやいや、スマホで繋がらないようにしてたのでしょ? 絶対、クロじゃん!


友庫ともこ: それも、私は直接調べたわけじゃないから断言できないけれど、「足がつかないために」とか発言が残っていたら別だけど、そうじゃなかったら報酬の一環とか解釈したと言い逃れできるんじゃないかな。


桜: なに、それ! むかつくなあ。


>腹立ちを紛らわせるように、チーズケーキにフォークを突き刺す桜ちゃん。その様子を見て、異変に気付いた友庫ともこさんは、周囲の目を気にして、誰も気づいていないようだと判断すると、小声で注意する。


友庫ともこ: ちょっと、チェリー! おでこ! 光ってきてるよ。


>驚いて、自分のおでこを触る桜ちゃん。前髪を下ろしているが、おでこの結晶状の物体が活性化してきているのが、光が透けてわかった。


桜: あ、ごめんなさい。怒ると活性化しちゃうみたいだね。


>桜ちゃんはバックパックにしまった覆面を折りたたんで、髪だけを巻いてごまかした。


友庫ともこ: それって、怒るといつもそうなるの?


桜: いや、高校生の頃はそんな事はなかったんだけど……もしかして、最近は出るか出ないか分らないビームをよく使うようになったから、活性化しやすくなったのかな!?


>桜ちゃんは自分がパワーアップしているかのように嬉しそうに話したが、聞いている友庫ともこさんは迷惑そうな顔をする。出るか出ないか分らないビームの不安定な恐ろしさは、死にかけた友庫ともこがよく知っていた。嫌な話題に流れないように、友庫ともこさんが話を元に戻す。


友庫ともこ: ともかく、天網恢恢てんもうかいかいにしてらさず、ってわけにはいかないのよ、現実には。


桜: ……なに、それ?


>また、一瞬、間を空けてから微笑む友庫ともこさん。


友庫ともこ: そうね。悪事を働いても必ず捕まる、って意味なんだけど、そうじゃないね、現実は、ってこと。


桜: ふーん。なんだっけ? てんナントカかいかい? かゆいみたいだね。


>そう言って、桜ちゃんは笑ったが、友庫ともこさんは愛想笑いをしただけで声はあげなかった。


桜: でも、やっぱり、大学生って違うんだね。しおりんは私より少し年下なはずなのに、色々知っているよね。勉強できるって違うんだなー。


>今度は、友庫ともこさんは笑わずに、じっと桜ちゃんを見つめた。むしろ、怒ったような表情だ。


友庫ともこ: それって、もしかして、卑下ひげしている?


桜: ヒゲ? ……ごめん、わからない。


友庫ともこさんは、まぶたを閉じると頭を下げた。


友庫ともこ: こちらこそ、ごめんなさい。ややこしい言い方しちゃったね。卑下ひげっていうのは、自分の事をさげすむ――下に見てしまうってこと。


桜: ふーん。……まあ、ちょっとそれはあるかな。私は勉強苦手だったし。


友庫ともこさんは、フォークを置き、両手をテーブルに伏せた。先ほどより露骨に怒った顔になっている。


友庫ともこ: チェリー……ううん、桜ちゃん。それは違うわ。確かに、勉強で言えば、私は桜ちゃんよりできるかもしれない。でも、それで人の価値が決まるわけじゃない。だって、桜ちゃんは私よりずっと立派じゃない!


桜: チェリーのこと? ……でも、それはこれを持って生まれただけだし――


>桜ちゃんが、バンダナ越しにおでこを示した。友庫ともこさんは、目を閉じて、首を左右に振る。


友庫ともこ: 違う。確かに、桜ちゃんは人より大変な役目を背負って生まれてきたんだと、私も思う。だけど、それを背負って前に進むことは胸を張って誇るべきことよ!


桜: そ、そうかな?


友庫ともこ: そうに決まってるじゃない。だって、桜ちゃんは、ヒーロー認定受けるためにスイスまで旅行したんでしょ? お金を貯めて。言葉を覚えるのも大変だったじゃない?


桜: あ、英語とかは、あんまり考えてなくて。行き当たりばったりだったかなー。あっちに日本語出来るスタッフ居なかったら、ヤバかったよ、実際。


友庫ともこさんは、ふぅと息を吐くと、ようやく表情を緩めた。


友庫ともこ: 本当。それは確かに無鉄砲ね。だけど、そんな行動力、私にはない。だから、桜ちゃんは私に萎縮……えーと、気を遣ったり、縮こまった考え方する必要は全然ないの。お互い、得意なことが違って当たり前。というか、得意なことが違うからこそ、協力する意味があるんじゃない。


桜: そ、そっかなあ。


>桜ちゃんがコーヒーカップに視線を落とした後、ちらりと目だけを上げて、友庫ともこさんを見た。友庫ともこさんは力強く頷く。


友庫ともこ: そう、絶対そう。だから、これからは私の前で卑下ひげしたりしないで。


桜: ……うん。ありがと。……ヒゲね。うん、それも覚えた。


>桜ちゃんが顔を上げて笑った。明るい笑顔に、友庫ともこさんもつられて笑う。

>もちろん、この後、二人は連絡先を交換し、以後、密接に連絡を取り合うことになる。こうして、ヒーロー見習い「フリップフロップ・チェリー」に信頼できる相棒ができた。だが、これは「半裸闘争」の人に知られていない場面にすぎない。「半裸闘争」と呼ばれる事件は――あ、もう時間ですか? それでは、また来週!

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