第九話 ブレイクスルー(3)
ナレーター(以下、「>」と表す。): 前回、終盤でヌルッと回避不能な密輸法が紹介されていて、社会への影響を幾らか考えている最勝寺先生的に大丈夫かなと思っていて、最勝寺先生に聞いてみたら「アップロード直前まで書いていたから、吟味する余裕がなかったんだよ!」と怒られました。厳密には二分遅れていました。えー、『文明の〇〇 パンツイッチョマン』はライブ感を大事にしています。あ、最勝寺先生から伝言です。「善い子は密輸入を真似しないでね」とのこと。……悪い子だったらいいんですかね?
>ともあれ、今回の舞台はグイッと時間が進んで、花火大会当日。えーと、名称は「枚鴨市てやんでえ花火大会」ですね。……ちなみに、今までの画面は、動物の子どもたち特集でした。おっかないライオンも子供の頃はカワイイと思えるから不思議ですね。……え? ライオンの成獣もカワイイ? 感想としては自由ですが、その感覚で近づくのは控えた方がいいでしょう。噛まれなくても、一薙ぎで首の骨を折られるくらいのパワー差がありますからね。
後輩刑事: アニキ、パトロールってあっちじゃなくていいんですかね?
>町中を歩く二人の男。後輩刑事しか話していませんが、もう一人の男がノーパン刑事というのはわかりますよね。後輩刑事はワイシャツ姿ですが、デカサングラスのノーパン刑事の方は脱いだジャケットを片手で背負っています。夕暮れ時が近づいているとはいえ、暑そうです。
ノーパン刑事(以降、NPDと表す): あっちは花火客が多い方向だ。今度の事件は、日常部分で起きるはずだ。あっちじゃねえ。
後輩刑事: その情報ってどこからなんスか?
NPD: ……タレコミというか、ある筋からだな。
後輩刑事: 花火大会の日に日常部分で事件が起きる、って話でしたね? なんか占い臭い情報ですね。
NPD: まあ、それに似たようなもんだ。
>さらりと言ったノーパン刑事に後輩刑事は嫌そうな顔をする。
後輩刑事: え? そんな曖昧な情報を元に、暑い中パトロールっスか?
NPD: いや、きっと何か起こる。
後輩刑事: ……例の刑事の勘ですか?
>こちらには信頼感があるようで、後輩刑事の顔が少し納得したものに変わった。
NPD: ああ。そして、ヤツの情報も、ヤツなりの勘だろう。気に食わねえヤツだが、そこんとこは信用してやる。
>ノーパン刑事に苛立ちを見た後輩刑事は、それ以上は踏み込まないでおこうと、話の方向を変える。
後輩刑事: で、事件ってのはどう見つけたらいいんですか?
NPD: 簡単だ。刑事だったら鼻を利かせるんだよ。
後輩刑事: ……つまり、いつもの勘ですね。
NPD: そうだ。そのあたり、お前も嗅ぎ分けられるようになってきたのか?
後輩刑事: いやあ、俺なんかサッパリッスよ。でも、アニキの考えていることはだいたい分かるようになってきました。
>受け取りようによっては、「単純だ」と言っているようなものだが、事実単純なノーパン刑事は気にしない、というか、気付かなかったようだ。ニヤリと笑い、満足そうに頷く。
NPD: 俺を通じて勘を身に着けるならそれでいい。こういうのは教わるんじゃねえ。盗むんだ。
後輩刑事: 警察が盗むってのはナンですが……努力します。
>そう言いながらも、心の中で「アニキみたいな勘は無理ッス」と思っているのは、私には筒抜けだぞ。
>そうして、町並みを歩く二人の刑事。表通りを歩いているので、行き交う人は多くいる。その大半が反対方向へ進む。花火は近隣のどこからも見えるのだが、駅前広場とそこから近い展望公園が人気のスポットなのだ。
NPD: タカ、犯罪は二種類に分けられるのを知っているか? 一つは欲望に突き動かされての犯罪。性犯罪や怨恨による傷害がそうだな。ならば、もう一つは?
後輩刑事: ……金絡みですね。っていうか、改めて考えてみると、金絡みの方が多いッスね。
NPD: 花火大会で市民の気が逸れている間に狙うとすれば、どういう犯罪だ?
後輩刑事: 空き巣狙い的な犯行ですか……。いや、人が集まっている所を狙うなら、爆発テロ的な犯罪も考えられますね。
>最後の指摘は、ノーパン刑事の想定外だったようだ。二種類と言ったのに、それで分類できないと気付いたらしい。ギクリと一旦立ち止まると、後輩刑事が気づく前にぎこちなく歩行を再開する。
NPD: て、テロっていうのはアレだな。うん。欲望の方だ。自爆テロも宗教的アレだろ? だから、欲望で間違いないぞ。
>主張する割には、自分で信じられていないような口ぶりだ。まあ、欲望と言い出すと、お金も物欲としてそちらに含まれるので、結局一種類に集約されてしまう。
後輩刑事: はぁ。
>ノーパン刑事が何を慌てているか分からない後輩刑事だったが、とりあえずテキトーな相づちを打つ。
NPD: と、ともかくだなぁ。ホシは金目のある施設を狙う。それが俺の勘だ。
>結局、ノーパン刑事には勘しかない。そこについてはツッコミを入れても仕方がないと後輩刑事は考えているので、理屈に筋が通っていなくても気にしない。
後輩刑事: じゃあ、あそこの宝飾店とかですか?
>後輩刑事が指差す先にあったのは、眼鏡と宝飾品を扱う店だった。そう言えば、どうしてこの二つがセットになっているお店があるんですかね? 流通経路が似ているのでしょうか。
NPD: そうだな。匂うと言えば匂うな。近寄ってみるか。
>二人の刑事は、通りを隔てて店を窺う。しばらくして、鼻眼鏡を掛けた白髪の店主が二人に気付き、眉間に皺を寄せた。そりゃそうですよね。後輩刑事の方はまだしも、角刈りでデカサングラス――って、刑事と掛けているわけじゃないですからね――のノーパン刑事の方はいかがわしい臭いを発散させている。警戒して当然だ。
NPD: ……違うな。そっちの信用金庫はどうだ?
>そう言って、歩みを再開する二人。それを不審そうに見つめる宝飾店店主。二人が信用金庫に狙いを変えたことを、首を伸ばして確かめると、疑わしそうに首を捻る。もし、この場にお巡りさんが通り掛かったら呼び止めて報告するほど警戒していた。その怪しく思う相手こそが警察官だとは思ってもいなかった。
>次も違うと判定したノーパン刑事は、他の候補が近くにないかと後輩刑事に地図アプリで確認させる。後輩刑事は調べながらも、思いついた案を口にする。
後輩刑事: アニキ、それなら一旦署に戻って、ルート決めてから車で回った方が良くないですか?
NPD: ……いや、車じゃ速すぎる。歩いて近づくからわかるんだよ。
後輩刑事: そういうもんスか。
>勘についての感性は受けるしかない。ただ、変わらず暑い中歩くことに対して、後輩刑事は小さく溜息を吐いた。
>それから、しばらく経ち、ノーパン刑事は地方銀行の東京支店に対して「匂う」と主張した。後輩刑事に、「お前は駐車場を見て来い」と派遣した後、ノーパン刑事は建物の裏へと回った。裏通りは、左から右に流れる水路に面していた。ノーパン刑事は、対岸に立つ人へと目を向ける。紺色のサマードレスを着た麦わら帽子の女性だ。ノーパン刑事はその女性を見ながら、ぶら下げたジャケットのポケットから、おそらく煙草の代わりに出した板ガムをゆっくりと咥える。舌を使って、ガムを畳みながら口に入れた後、こちらを見ている女性にノーパン刑事が声を掛ける。
NPD: ご婦人、何かご用ですか?
>言いながら、ノーパン刑事は、ジャケットからワイシャツの胸ポケットへ移していた警察手帳を見せる。水路は深いが底に流れている水量は少なかった。実質、二人を隔てているのは川というより谷である。そして、その谷の両岸には、転落防止の網柵が設けられていた。その網のせいで手帳は見にくかったのかもしれないが、女性はクスクスと笑う。
女性: あら、警察の方でしたか。それにしては、随分と常識外れでいらっしゃるのね。
>ノーパン刑事は、黙ってガムを噛み続けた後、ポツリと言う。
NPD: そうか、お前がヤツの言っていた女か。確か……
>ノーパン刑事は、持っていた手帳をめくる。
NPD: ああ、これだ。穴あき。
>ノーパン刑事は手帳をしまうと、改めて女性を見た。
穴穿き: あら、その呼び名を知っているという事は、パンツイッチョマンのお仲間でもあるんですね。
NPD: けっ。仲間なんかじゃねえよ。ヤツは傷害事件の容疑者だ。……だが、それよりも先に解決しなきゃならねえ案件があるだけだ。お前が出て来たって事は、ヤツの読みどおり、ここらで何か起こすつもりだな。
穴穿き: さあ、私は何の計画にも参画していませんので。
NPD: しらばっくれるな。ヤツからお前が黒幕だと聞いている。火災警報器の件も主犯は貴様か?
穴穿き: それは、大きな誤解ですよ、刑事さん。私は、誰かの背中を押した事はあっても、事件に直接関わってはいません。
NPD: 背中を押したってだけでも、場所によっては重大な犯罪だ。電車のホームだと殺人罪ないし同未遂罪に問われる。さしずめ、貴様は、犯罪者の大穴へ誰かの心を突き落としているんだろう?
> 麦わら帽子の女性が、片足に重心を移すと、逆の腰に片手を添える。
穴穿き: 心外ね。私がしたのは、心の……束縛を解いただけ。それ以降は、その人の思考そのものよ。例えば、恥ずかしいから他人へ親切に振る舞えない若者がいたなら、その親切が表に出てくるはず。だけど、不思議なことに、そういう気持ちを抱えている人より、犯罪行為を抑えている人の心の声の方が大きいのよね。だから、私にはそういう声しか届いてこない。それって、人間の性なのかもしれないわね。
NPD: ちっ、H案件か。……佐賀だか愛媛だか知らねえが、今回の狙いは何だ?
>苛立ちを見せるノーパン刑事。しかし、それは穴穿きも同じのようだ。
穴穿き: あなた、人の話を聞いていたの? 私は計画には参画していない。
>そう言われなくても、こちらもノーパン刑事が「性」という言葉の意味を理解していないような点からわかっていないのは伝わっていました。さらに言うなら、佐賀と愛媛を並列しているあたりは、日本の地理についても良く分かっていない臭いが漂ってきます。
NPD: だったら、どうしてここにいる?
穴穿き: ……私は、社会の変革には多少の犠牲は致し方ないと考えている。だけど、不要な血は流すべきではないとも考えている。
NPD: つまり、俺たちの血が流れるって心配か?
穴穿き: 心配……そうね。厳密には違う気もするけれど、系統はそちらね。震源地はこの近くで、貴方はそれに干渉しそう。そう感じている。
NPD: 脅されて、俺たちがビビるとでも?
穴穿き: いいえ。貴方の問題ではなく、私の問題なの。警告を発した以上、私にもう後悔はない。それをどう受け止めるかはあなたが決める事よ。……では、さようなら。
>最後は、ノーパン刑事の後ろから駆けてきた後輩刑事の姿を認めての発言だった。
後輩刑事: アニキ……あれ? 知り合いでしたか?
>声を掛けられて、ノーパン刑事がそちらへ顔を向ける。その間に麦わら帽子の女性は背を向けて遠ざかっていく。
NPD: いや、初めて会った。
後輩刑事: なんか、美人な感じがしましたが……。
NPD: 綺麗なバラにはトゲがあるってやつか。しかも目に見えねえトゲだ。厄介な女だぜ。
>私は拾えた呟きを、後輩刑事は聞き取れなかった。
後輩刑事: え? 何ですか?
NPD: いや、独り言だ。それより、そっちは何か怪しいものを見つけたか?
後輩刑事: いえ、自家用車が一台止まっていただけです。従業員の物でしょうか?
NPD: 従業員用駐車スペースだったのか? そうだったら、たいてい地面にそうペイントされているはずだ。
後輩刑事: え? いや、どうでしょう。……そこまでは見ていませんでした。すいません。
NPD: ちっ。まだまだ甘いな。
後輩刑事: ……あ、でも、そういったペイントはされていなかったから、注意に残らなかった気がします。
NPD: そうか。だったら、地元民の誰かが勝手に借用しているのだろう。従業員用スペースがないなら、マイカー通勤を進めていない職場なのだろう。それでも、車通勤しているなら、ハイヤー利用か、近くに月極めの駐車場を借りていることになるな。
後輩刑事: へえ。さすがアニキッス。そこまでわかっちゃうんですね。
>尊敬の眼差しを向ける後輩刑事に、ノーパン刑事はどうってことないと言うように片手を振った。
NPD: だったら、直接聞いてみるか。さっきの女といい、俺の勘も、ここが怪しいとビンビン感じている。にしても、変な名前の銀行だな。タカ、お前、知っているか?
後輩刑事: さあ。地名が付いていたらわかるんですけれど、そうじゃなさそうですしねえ。
>二人が見上げた銀行の壁面には、「苔石銀行」と書かれていた。
>その苔石銀行の屋上では、若い男女が三人ずつ談笑していた。シートを敷いて、四隅を重しで押さえ、車座になった中央には、めいめいに持ち寄った食事が置かれていた。紙皿と缶飲料。これは、花見の時によく見られる集団だ。ただし、今回は花見ではなく、花火見だろう。……花火見なんて言わないので、正確には花火鑑賞ですね。
>この若い男女の中に、視聴者の方にとって知っている顔がありますね。この面子の中で唯一浴衣姿の女性は、あの銀子先生です。その隣にいる爽やか系の青年は、いつぞや……えーと、ウェディングチャペルが舞台になった時に、スマホに撮り貯めていた写真でちらりと映った、銀子先生のカレシ、リッキーです。なお、銀子先生とリッキーの間に線を引くと、ちょうど女性三人、男性三人が向かい合わせになる、いわゆる合コン並びになっています。三対三のトリプルデートというより、出会いの場の提供という雰囲気ですね。実際、女性陣は銀子先生が、男性陣はリッキーが集めたようです。こういう集まりは既に何度か開かれているようで、初対面ではなく、それに伴うぎこちなさもありません。
>しかし、なぜ、この人たちが銀行の屋上に? ……まあ、理由はわからなくはないのですが、ちょっとそれっていいのかな? って考えちゃいますね。と、そこに新たな人が登壇します。出入り口の扉を開けて現れたのは、ノーパン刑事と後輩刑事。
>番組ではぬるっと次のシーンに入っていますが、二人の刑事が銀行に入ってから、実は半時間以上過ぎています。ノーパン刑事はセキュリティが管理している通用口からアクセスし、「警察だ」と申し出ましたが当然警戒されます。そこで、警備員が警察へ確認の電話をし、本当に警察だと判明したことでようやく中へと入れてもらいます。この際、ノーパン刑事とその上司である課長とのやり取りがあったのですが、この後、閊えているので先に進みましょう。だけど、心配される方がいるかもしれませんので言及しておくと、ノーパン刑事と課長はいがみ合っているわけではないようです。むしろ課長はノーパン刑事の協力者と言って良さそうです。他の部署からの圧力をかなり止めてくれている感じがありました。一方でノーパン刑事も頼りになる上司と思っているようで、借りが幾つあるという計算しており、受けた恩を返そうと努力しているようです。えーと、そこの部分だけ、再生してみますか。課長との電話を切った後のシーンです。
NPD: タカ、これで課長に借り幾つになったんだ?
後輩刑事: えーと、確か三つですね。
NPD: そうか。そろそろ関西へ行って土産を買ってこないといけないな。
後輩刑事: ですねえ。でも、この調子で他も回ると、今日中借り五つくらい、行っちゃいますよ。
NPD: 大丈夫だ。ここを掘り下げれば何か見つかるはずだ。他の場所でまた課長に迷惑をかける必要はない……はずだ。
>どうやら、関西限定の何かが課長へのお土産で喜ばれるようですね。お取り寄せできたら問題ないのですが、そのあたりどうなのでしょう。でも、たぶん、そこまでスポットライトを当てる余裕は最勝寺先生にはないでしょうね。
>えーと、それからノーパン刑事たちは、支店長と会い、「銀行を襲撃するという警告を受けたから念のため調べに来た」と嘘の理由を告げます。そこから、警備員と共に一度銀行内を巡回し、警備室で防犯カメラの確認をします。しかし、それらの調査中に、ノーパン刑事の勘は迫る危機を感じ取れませんでした。代わりに、別のものを感じ取ります。
>それは、支店長の態度からわかったようです。どうもノーパン刑事は最初に話した時から、「不審だ」と感じていたようですが、そこは突然の訪問に気が動転しているのだろうと判断したようです。しかし、一旦この場を辞そうと挨拶した時の反応から、「何か隠している」と感じ取ります。このおかしいという感覚は後輩刑事も感じていました。そこで、二人は支店長を問い詰め、彼が隠していた事実を吐露させます。それは、屋上に数名の若者を、好意から通してあげている、という告白でした。
>……というわけで、シーン戻します。突然屋上に現れたデカサングラスに角刈りの男に、若い男女は会話をピタリと止めて、警戒の眼差しを向けます。
NPD: おうおう。準備できているな。ここから花火を見上げるのか。なかなか贅沢な楽しみ方だな。……明かりもしっかり用意しているところを見ると、慣れている感じがするな。
>馴れ馴れしい、そしてどことなく上からの物言いに、皆は困惑し、顔を見合わせる。その視線は、ただ一人、仲間と顔を見合わせず、ノーパン刑事を睨み返している女性へと集まる。銀子先生だ。
銀子先生(以降、「お銀」と表す): 失礼ですが、どなたですか? どういった用件でしょう?
>答える前に、ノーパン刑事は胸ポケットから警察手帳を出す。警備員には正式に、広げて写真の載っている面を見せていたが、若者たちには外側だけだ。
NPD: 警察だ。ちょっと聞きたいことがある。
>途端にざわつく若者たち。リッキーは不安な顔で、銀子先生に「大丈夫なのか?」と聞いた。銀子先生は軽く手を上げて制すると、立ち上がる。
お銀: 何でしょう?
NPD: この場所は花火鑑賞の為に開放されているはずはないのだが、どうして君たちはここにいるのだね?
お銀: それはコネです。
>悪びれずあっさりと答える銀子先生。他の若者たちは、バツの悪い顔をして、刑事たちと目を合わせないように目を伏せる。
NPD: まあ、そうだろうな。しかし、警備面で言えば、従業員でもない者が建物内にいるだけでもおかしくはないか? ここは銀行だぞ。
お銀: ええ、おかしい事です。ですが、それは警察に関係あることなのでしょうか? このことが犯罪なのですか?
>さすがに、あの養老家の娘だけあって、警察という権力の前でも全く動じていません。それが良い事なのか悪い事なのか、私にはわかりませんが。
NPD: タカ、どうだ?
後輩刑事: いや、ここは私有地ですから、我々が直接には……。でも、銀行としてコンプライアンス的にNGなんじゃないですか?
お銀: それについては、先程お答したとおり、当行の従業員ではないのでわかりません。しかし、法律においても、特例という考えはあるのではないでしょうか? 例えば、自動車運転免許証がなければ自動車を運転してはいけないと、法は定めていますが、技術はあるが免許は失効している者が、緊急に人を救うために車を運転することは罪に問われるのでしょうか?
NPD: タカ、どうだ?
>今回も、後輩刑事に投げっぱなしだ。
後輩刑事: 法律違反かどうかという点においては、緊急時とはいえ違反は違反です。しかし、それを罪として問うかどうかは、また別の話です。救急車の到着が待てない正当な理由があるかどうかが問題となります。
NPD: ほほう。で、お嬢さんたちの開いている、お花火会はそんな緊急性はあるのか?
お銀: いいえ。
>あっさり相手の踏み込みを許す銀子先生。堂々としているが、議論は下手かもしれない。
お銀: ですが、年に一度の特別な日です。特例と言えるのではないでしょうか?
>挑戦的ともいえる発言に、後輩刑事の眉が寄せられる。彼の頭の中では法律議論を展開すべく、幾つもの攻め手が浮かんでいたが、今度はノーパン刑事からのパスはなかった。
NPD: ほほう。……まあ、こちらはお花火会については興味がないから、正直なところ、そこのあたりはどうでもいい。そいつが言っていたとおり、これは民事ふかい……。
後輩刑事: 不介入。
NPD: そう、それだ。まあ、好きにやってくれ。
>その言葉を受けて、緊張をしていた若者たちの雰囲気が一気に和らぐ。同時に、堂々と対応した銀子先生への敬意も向けられていた。ただ一人、リッキーは難しい顔をしていた。これはカノジョに守られたカレシという立場が気まずいのかな。リッキーは結構男性上位な思考なのかもしれませんね。また、銀子先生自身も未だ緊張の糸を切らしていなかった。
NPD: ただ、花火を見るだけならいいが、この機会に銀行強盗を企てたりはしてないよな?
>冗談を言われたと思ったのか、若者たちは笑う。銀子先生だけ、真面目に答える。
お銀: そういう企みはしていません。そういう武器も持ち込んでいません。必要ならば調べていただいても結構ですよ。そこのクーラーボックスに入っているのはお酒類だけですから。
>ノーパン刑事が首を振ると、後輩刑事が前に出て、示されたクーラーボックスを開く。確かに中身は保冷剤と缶飲料だけだった。その様子に、冗談だと思っていた若者たちの顔が凍り付き始める。
お銀: 食べ物の中にも、もちろん隠してありませんよ。良かったら、お一つどうですか?
>銀子先生が鶏の唐揚げが入っていた容器を持ち上げて、近くにいる後輩刑事へと勧めた。
後輩刑事: いえ、結構です。勤務中ですから。
>後輩刑事が言い切る前に、銀子先生は次にそれをノーパン刑事へ示す。すると、ノーパン刑事はためらわずに一つ摘まんで、口に放り込んだ。
NPD: お、うまいな、これ。
お銀: 近くにある居酒屋で買ったものです。良ければ、場所を教えましょうか?
>そこでようやく銀子先生はニコリと笑った。それを見たノーパン刑事は、人差し指でサングラスの位置を直してから、答える。
NPD: そうだな。何事もなければ、帰りはそこで一杯ひっかけてもいいな。……が、未だ何が起きるかわからねえ。今は、お邪魔虫は退散するとしよう。
>昭和臭のする言い方をして、ノーパン刑事が背を向ける。再度緊張していた若者たちの雰囲気が弛緩する。ノーパン刑事の後を追う後輩刑事。しかし、ノーパン刑事は出入り口の扉を開けたところで、立ち止まり、背中を向けたまま、若者たちへ、というかむしろ銀子先生へと話しかける。
NPD: 念のため言っておくが、今すぐお開きにして帰った方がいいぞ。あるいは、そのお勧めの居酒屋へ行ってもいいがな。
お銀: ……何か問題でも?
>ノーパン刑事が顔だけ振り向いた。銀子先生たちからは横顔だけが見える。そこに、沈もうとしている夕日がデカサングラスに当たり、キラリと光った。
NPD: いや。ただの刑事の勘さ。
>今日はここまで。この花火のお話はまだ続くようです。それではまた来週!




