第六話 セキュリティホール(前編)
>五階建てのマンションの廊下に、二人の男がいた。若いスーツ姿の男と、もう一人もスーツ姿だったが、この男はレンズの大きなサングラスを掛けていた。そう、視聴者の方もお気づきのとおり、かつてノーパン刑事と名乗り、パンツイッチョマンと戦った変人だ。
後輩刑事: アニキ、何で俺たちがこんな事しなきゃならねえんです? 鑑識呼びましょうよ。
>愚痴りながらも手は止めない。後輩刑事は、非常ベルの前で、粉ふりをしていた。視聴者の方もドラマなどで見たことはあるでしょう。指紋を取る、あの作業です。
ノーパン刑事(以下、「NPD」と表す): バカヤロウ。こんな事で鑑識呼んでいたら、また叱られるだろ。
後輩刑事: こんな事って、それじゃあ、元から鑑識不要な案件ってことでしょ?
NPD: それは、上がそう思ってるだけで、これからどうなるか、分からねえだろう? その時に、「指紋を取れ」ってなっても、もう修理された後だ。
>後輩刑事が指紋を採ろうとしていたのは、非常ベルのボタン部分。割れた薄い合成樹脂板は指紋を採るのが難しい。だからこそ本職を呼びたくなったのだろう。しかし、ゴム手袋を着けて、指紋採取セットも持っているあたり、後輩刑事もただの素人ではなかった。シールを剥がし、台紙に貼る手つきは慣れている。
後輩刑事: やっぱ、こっちも指紋はなさそうです。……粉ムラができるのは一緒だなぁ。
NPD: 何が原因だと思う?
後輩刑事: うーん、……汚れ、ですかねぇ。
NPD: 汚れ、か。……こまめに掃除されているわけじゃねえだろうが、汚れる場所でもねえはずだ。
後輩刑事: ですね。じゃあ、この汚れも事件に関係あるのですかねえ。
>台紙を見ていた後輩刑事は、不思議そうな顔をノーパン刑事へ向ける。
後輩刑事: ……でも、奇妙な事件ですね、アニキ。向かい合う二つの別々のマンションから、同時に火災報知機の誤報が発生。しかし、その前後に怪しい人や、走り去る音を聞いた者はいない。……まあ、巡査から聞いた情報で、聞き込み漏れはあるのかもしれませんが。
>そう言った後、後輩刑事は、首を左右に振った。考えを払い落とそうとしているようだった。
後輩刑事: とはいえ、謎はありますが、所詮イタズラですから、犯人を見つけても、お灸を据えて終いですね。
NPD: 罪には問えないか?
後輩刑事: いえ、一応、威力業務妨害を問えますが、実際は常習ではない限り、引っ張らないでしょう。ホシが未成年なら尚更です。
NPD: 未成年ねえ。……タカ、今のところ、アテはどう見る?
後輩刑事: 防犯カメラはこっちのマンションしかなく、それも出入り口だけですが、そこに怪しい奴が映ってなかったとすると、犯人は住人の可能性が高いです。犯行の内容から考えると、あっちとこっちのマンションで育った幼なじみの悪ガキが、連携して仕掛けたイタズラ、って感じですかね。
NPD: だったら、遡って、単発のイタズラがあっただろうな。最初は連んで仕掛けるだけで十分なスリルだ。逆に、最初から複雑にいくとは考えにくい。
後輩刑事: なるほど。
>後で管理人に聞くために、後輩刑事は胸ポケットから出した手帳にメモする。
NPD: だが、ガキの仕業とは考えにくい点があるな。
後輩刑事: ええ。報知機の故障、というか細工ですかね。送信側がリセットできないせいで、受信機でアラームを解除しても、しばらくしたら再発する。どちらのマンションも同じ状態でした。
NPD: 故障としか聞いてないが、メーカーか修理業者に、詳しく聞いた方がいいな。
後輩刑事: はい。
>後輩刑事が続けてメモした。
NPD: お巡りさんが、俺たちに声を掛けてきたのも、そのあたりが「変だ」と思ったからだろうな。
後輩刑事: ですかねぇ。確かに、巡査たちの報告のお陰で、俺たち、たくさん現行犯逮捕してきましたからね。
NPD: おかげで、嫌われ者にもなっちまったが、大事なのは、市民をいかにして守るか、だ。署内の人気取りごっこしてんじゃねぇ。
後輩刑事: はい! もちろんッス!
>後輩刑事の熱い視線を受け流し、ノーパン刑事は、廊下の片側の手すりに腕を掛け、向かい側にあるマンションを見る。間にあるのは二車線の道路で、建物は道路のギリギリに建っているわけではないので、それなりに距離があった。ノーパン刑事の特技である指弾でも、こちらで非常ボタンを押した後、向かい側のマンションの非常ベルを狙い撃ちするのは難しい遠さだ。そもそも、押された二つの場所は高さが違うので、射線が通っておらず、それを考慮すると、一方からもう一方に何かをぶつけたという犯行は無理筋だ。
NPD: 〝だとしても、何かをぶち当てたなら、弾が残っているはすだが……〟
>ノーパン刑事は振り返り、近くを改めて調べる。後輩刑事は、採取した指紋にメモをして封筒に保管していた。先に調べた向かい側のマンション同様、周囲には弾らしき物は転がっていなかった。が、ノーパン刑事は数歩進むと、廊下の隅に転がっていた物を摘み上げる。
NPD: おい、これも保管しておいてくれ。
>顔を向けた後輩刑事が、それが何かわかると、眉を顰める。
後輩刑事: カナブン、ですか? そんなの持って行ったら、涼ちゃんに怒られますよ!
NPD: 俺も、さっきはただの虫の死骸だと思っていた。しかし、前の現場にもこっちにもある、ってのは変だろ?
後輩刑事: ……わかりませんけど、そういう季節なんではないですか? 寿命的な。
NPD: いや、よく見てみろ。背中に小さな針が刺さっている。
後輩刑事: 確かに! ……虫ピンですか?
NPD: それに、頭の方が潰れているだろう。まるで、何かに激しくぶつかったように……。
>後輩刑事がハッと顔を見上げるが、すぐに訝しげな表情に変わる。
後輩刑事: 虫が非常ボタンにぶつかるなんか、あるんでしょうか? そもそも、そいつは虫ピンで刺されているなら、死んでたわけでしょう?
NPD: よーく、見てみろ。確かに針は刺さっているが、貫通はしていない。……まるでアンテナみたいだと思わないか?
>後輩刑事の表情が深刻なものになっていく。
後輩刑事: H案件ですか?
>H案件。時にヒーローと呼ばれる異能者が存在し、その認定組織も存在するゴツゴウ・ユニバースでは、日本の警察も異能者の存在を無視できず、異能者の関わる事件をH案件と呼んでいた。
NPD: かもな。だとすると、犯人は虫使い。
>後輩刑事がゴクリと唾を呑む。
後輩刑事: そ、それじゃ、俺たちだけではマズいんじゃないですか?
>先ほどまでは、刑事が関わるほどの事件ではない役不足だと言いたげだったのに、今では急に、こちらの力不足だと、立場を逆転させる。事象は変わっていない。認識した情報が変わっただけだ。それだけ、観察と推理は重要なのだ。
後輩刑事: 本庁の対策班に連絡しますか?
NPD: まずは、さっきの現場に戻って、虫を確かめるぞ。落ちていたのは気付いたが、針が刺さっていたかまでは見ていない。
後輩刑事: いや、俺なんか、虫が落ちていたのも気付きませんでした。さすがアニキッス!
>後輩刑事が新しい封筒をバックパックから出すと、ノーパン刑事はそこに摘まんでいた甲虫を落とした。
NPD: タカ、さっき話した事だが、この前に単発のイタズラがなかったら、今のこの件が試しになる。
後輩刑事: ……じゃあ、これがもっと大規模に?
NPD: さあな。だが、規模の大きくなったイタズラは何て言うか、知っているか?
後輩刑事: ……いえ。
NPD: テロだ。
『第六話 セキュリティホール』
>ある公園の一角に、二宮金次郎――二宮尊徳とも呼ばれる――の像が置かれていた。かつては全国的に、主に小学校で設置されていたその偉人像は、今では、もしかすると背景思想がブラックだから、という理由で姿を消していた。そういった時代の流れに逆らう形で残っていたこの公園の尊徳像だったが、時の流れには勝てなかった。老朽化から倒壊の恐れがあると撤去されたのだ。しかし、高さ百三十センチほどの台座は残された。そもそも、公園に尊徳像が置かれた理由が、行政の仕業ではなく、町の有志が地域の教育への貢献のため設置であり、そのグループが再設置するという話だったので、土台が残されたのだ。しかし、そのグループで指導的立場だった方が老齢で亡くなり、計画は頓挫した。尊徳像に拘っていたのは、亡くなった方であり、「尊徳像に固執せずに、別のオブジェを建てる」という意見や、「やはり計画通り、遺志を継いで、尊徳像を建てるべき」から「いや、もう土台ごと撤去すべき」と意見がまとまらず、二ヶ月が過ぎていた。
>その、子供がよじ登るには少し高い台座は、鳩の遊び場と化していたが、ある日突然、ロダンの考える人風の銅像が建った。その日、公園を訪れた子供たちや子育て親は、もちろん銅像の存在に気づいたが、少し驚いただけで、以後気にせずいつもどおり過ごしていた。しかし、その銅像はどこか変であり、違和感を覚えた人もいた。まず、座っている椅子は、公園内にあった円柱状の石でできた物に酷似していた。さらに、近くにあった同型の椅子が無くなって、跡が残っている変化があった。また、ロダン作の考える人は、実にヘンテコな姿勢で物を考えているのだが、この銅像には肘と膝の捻れはなく、日常的な姿勢で考えていた。そして、何より奇妙な点は、ゴツゴウ・ユニバースの人たちは見過ごしたが、この銅像が黒いバイザー型サングラスを掛けている事だった。
>そう。視聴者の方々がお気づきのとおり、それはパンツイッチョマンの変身姿だった。体を緑色に塗って、銅像に化けていたのだ。そう言えば、髪はそのまま染色されていないので、そこも変だった。もちろん、ここにも観察力がザルのゴツゴウ・ユニバースの住人は気付いていなかった。実は、時間を遡ると、パンツイッチョマンは最初、台座の上に立ち、フロントラットスプレッド風の姿勢を取っていたのだが、三十分ほどで疲れたのか止めて、近くの石の椅子を台座に持ち上げると、そこに座り込んだのだ。幸い、その時には公園に誰もおらず、シュールな動作を見ている人はいなかった。近くを通って、「あれ? 姿勢が変わったような……」と思った近所のお年寄りが一人いたのだが、「気のせいか」で済ませてしまった。
>はたして、こんな銅像の真似をして、パンツイッチョマンは一体、何を考えているのだろうか? あいにく、パンツイッチョマンの内面への同調がほとんどできない私にはわからない。もしかすると、日常的にこうやって事件が起きるのを待っている可能性はあるが……少なくとも花見の時には花見客のひとりだったようだし、なりすまし詐欺の時には銀行客の一人だったらしい。そう考えると、やはり特別な状態なのだろうか?
>謎が謎を呼ぶ――言ってみたかっただけで中身はない――状況の中で、パンツイッチョマンの存在に気付く者が現れる。その男は、公園横の道を通る際、チラリと公園の中に顔を向け、そのまま過ぎ去った後、五秒後にバックステップで戻ると立ち止まる。そこで、さらに数秒止まってから、公園へ入ってくると、真っ直ぐ、考える人風の像の前へとやって来る。像を見上げるその顔には、大きなレンズのサングラスが掛けられていた。
NPD: パンツをはいた『考える人』か。
>わかりやすい独り言。しかし、実は、パンツをはいているかどうかは見えにくい。バイザーはわかりやすいはずだが、前回の放映を振り返る限り、ゴツゴウ・ユニバースでは見落とされやすい要素らしい。そこから考えると、間違った姿勢こそが、「これはロダンの考える人ではない」という一番わかりやすい証拠のはずだが、それを指摘しなかったあたり、もしかするとノーパン刑事は、本物との差には気付いていないかもしれない。本物のロダンの考える人のポーズは、ネット検索で確かめていただくとして……え? やっぱり外部情報に頼るのはダメ? 仕方ないですねえ。じゃあ、説明しますよ? 既に知っている人は、次の段落を読み飛ばして下さい。
>パソコンでこの放映を受信している人は、実際にポーズを取りながらだと理解しやすいですよ。本物のロダンの考える人は、右肘を左膝近くの太ももに乗せています。そして、右手首を右肩に触れそうなくらい曲げ、そうやってできた指の背の受け皿にあごを乗せます。最後に左手で左の膝頭を覆いましょう。これで完成です。体が捻れて、考えに集中しにくいでしょう。だから、ずーっと答えが出ずに考え続けているのかもしれませんね。「え? 体が柔らかいから平気だよ」という方は、さらに足を組むというバージョンアップを加えてみましょう。その窮屈さが普通の人の辛さだと感じられるでしょう。それでも辛くないという方は、デッサンのモデルにすごく向いていると思います。
>一方、パンツイッチョマンはデッサンモデルに向いていなかったようだ。左肘は左の太ももと捻れはなく、手首もロダン流とは逆に曲げて、手の平で頬を支える通常仕様だった。
NPD: そう言えば、高度に進んだ文明にはパンツが不要という良い例があったぞ。『ウルトラなんとか』だ。あの巨人は全裸だ。
>先ほどのノーパン刑事の独り言に反応がなかった『普通に考える人』の像は、今回も動かなかった。しかし、今回は、声が返ってくる。
P1: いや、あれは被り物だ。
NPD: ほう。お前は、あれは宇宙服のようなものだ、と解釈する一派のようだな。しかし、それについても反例があるぞ。奴らは故郷のシーンでも、同じ格好だった。つまり、日常的にあの姿。すなわち、全裸だ。
P1: いや、違う。私は、昔の作品で、背中にジッパーがあるのを見たことがある。
>あ! それは言ってはいけないやつだ。作品名の方もこっちで検閲かけていたのに、パンツイッチョマンの指摘は、特定の作品だけでなく、全ての特撮作品にとって触れてはいけない点だ。もう、仕方ないですね。今回も、曲を流します。えーと、何にしようかなぁ……。では、映画『第三の男』のテーマ曲。ロイ・ステッドウェルのギター演奏でお送りします。
(前奏 省略。 ※注釈: 文章表現は難しすぎました。)
♪ チャチャラチャランララン(ズンチャズンチャ……) チャチャラチャランラランチャチャラチャラン(ズンチャズンチャ……)、チャチャラッチャラン、チャランチャランチャラン、ラランラランララン(ズンチャズンチャ……)
>いやー、今回のパンツイッチョマンとノーパン刑事の会話は意外に早く終わっていました。でも、曲はある程度流さないと皆さんが「ああ、あの曲だ!」と分からないので、むしろ本編が待つ状態になってしまいましたが、曲が流れている間に頭出しはできているので、すぐ入れますよ。メロディーコーナーもそれほど邪魔にならないということですね!
P1: パンツについては、今回も平行線だな。この論議は一時中断しよう。手を貸してほしい。
>唐突な申し出は、何の溜めもなく出された。私も、最初は曲を聴きながらだったので、聞き違いかと驚きました。
NPD: 素直に手を出せば、手錠を掛けてやるぞ。
>ノーパン刑事には、俄に歩み寄る気持ちはないようだ。
>そう言えば、現在の公園には先客がいた。砂遊びをしている二組の母子だ。公園の広さはそれなりにあり、砂場の他に、滑り台、ブランコ、ジャングルジムという遊具があった。それらの置かれているスペースと同じくらいのグラウンドと、それを取り巻く複数のベンチもある。像の台座があるのは、グラウンドの一角で、砂場から離れていたが、サングラスを掛けた男が入ってきて、像の前で止まっているのは、お母さんたちから見えた。その男が、内容までは聞き取れないが、何かを話しているのはわかる。二人のママ友は、立ち去らない怪しげな男の存在を警戒し、きっとハンドフリーで電話をしているのだろうと自分たちを納得させていた。「それなら、なぜ、ずっと像を見上げているのだろう」、「まるで、像に話しかけている危ない人ではないか」という疑問はお互いの心に浮かんでいたが、口にしなかった。世の中には知らないで良い事もあるのだ。もし、誰かが、好奇心、あるいは、勇気を持って近づいていたなら、恐ろしい事実に直面していただろう。像に話しかけている危ない男より、ずっと危ない銅像のふりをしていた男がいた事実に気付くからだ。
P1: かつてない規模の乱れがやって来る。
>明らかに、ノーパン刑事に協力意図は見られなかったが、相変わらずパンツイッチョマンはマイペースだ。相手の意思を確認しようという意識が薄いらしい。
NPD: ほほう。何が起きる。
>意外にも、ノーパン刑事が、聞く耳を持つ、折れた形となった。
P1: わからん。
>せっかく生まれそうだった共闘の雰囲気が、否定的な言葉に叩き潰される。さっきのは、言葉のイッチョマン・スラップだ。しかし、さすがにライバル的立場と目されるノーパン刑事、この程度では、心は折れない。
NPD: では、いつ頃かわかるか?
P1: ……おそらく、一両日中。
NPD: 一両日、か。
>深刻そうに言うと、黙り込むノーパン刑事。
P1: 乱れが大きく、場所が絞れ切れないと思っていたが、おそらく違う。こうして、ずっと感じ取っていたが、被害の範囲が大きすぎるのだ。
NPD: だろうな。
>ノーパン刑事の態度に驚きはない。その不自然さに、パンツイッチョマンも気付く。
P1: ……心当たりがあるのか?
NPD: ああ。無くはない。
>そこでまた会話は途切れたが、端から見ていても、パンツイッチョマンが「教えろ」という圧力を出しているのはわかった。
NPD: まあ、情報交換、だな。こちらからも教えよう。おそらく、大規模に火災報知機の誤報が発生する。
P1: ……なるほど。同時多発テロか。
>同時多発は良いとしても、テロというよりイタズラでしょ? と思う視聴者の方もいるかもしれない。しかし、ようやく寝静まった幼子を持つ保護者にとっては、突然鳴り響いて止まない警報はテロだ。被害マンションの管理人や消防関係者にとっても、苦情や通報が止まないテロになる。……だが、確かに、それらの被害対象に含まれないパンツイッチョマンやノーパン刑事にとっては、それほど警戒するものではない気がする。
NPD: 混乱に乗じて、犯罪が活性化する恐れがある。空き巣狙いなど静かさが求められる犯罪は減るが、食い逃げや引ったくりといった、強行型犯罪は増えるだろうな。
P1: 特に恐れるべきは、放火。
>頷くノーパン刑事。さすがに町の平和を守る二人、私が思いつかなかった事象への警戒をしていました。そこまで発展したら、確かにテロですね。
NPD: 範囲を押さえるなら数が必要だが、何の保証もないお前の勘だけでは、警察は動かせないぞ。
P1: いや、火災の危険だと絞れれば、こちらで対処できると思う。余りに数が多ければ無理だが。
NPD: 連絡先を教えろ。俺たちも動く。
P1: いや、あいにく私は、連絡手段は持ち合わせていない。
>微妙な沈黙が二人の間に流れる。
>そうだよねぇ。スマホを格納する場所はパンツしかないもんね。見たところ、前も後ろも角張ってないから、そこに入れてないなぁ、とは――あ、カメラさん、わざわざ確認のズームはしなくていいですよ。
P1: 放火魔は私が押さえる。君にはテロリストを頼む。
ノーパン刑事: この俺に、変態と手を組めと? 前にも言ったが、俺はお前が気に入らない。
>ノーパン刑事は、ポケットに手を入れると、ジャラリと音を立てる。そこには、おそらくパチンコの玉が複数入っている。ノーパン刑事の異能とも言える指弾。この距離で、しかも長時間同じ姿勢をとって、体が痺れているかもしれないパンツイッチョマンは、回避ができるのか!? ノーパン刑事は親指の上にパチンコ玉を乗せた拳をポケットから出すと、親指を弾いた。 真上に跳ねたパチンコ玉を同じ手で掴み取ると、ノーパン刑事は怒りを滲ませて言う。
NPD: だが、市民の平和を乱す奴はもっと気に入らない。……良いだろう。一時休戦だ。
>その時、ノーパン刑事のスマホが鳴る。「じゃけぇ」な感じの極道映画で流れた、♪チャララ~な音楽だ。刑事物なら解るが、極道物で良いのだろうか。……確かに改めて見れば、この人、身なりは刑事というよりアッチが近いですね。
NPD: おう、タカか。
>通話先は後輩刑事だった。火災警報器の同時誤動作について現場を捜査した後、後輩刑事は早速証拠品を鑑識へと届けに行っていたのだ。一方、ノーパン刑事は一人残り、何かあるかも知れないと周辺を見回りし、怪しい銅像を見つけた繋がりになっていた。
後輩刑事: アニキぃ、やっぱめちゃくちゃ涼ちゃんに怒られました。
NPD: そうか。仲良くやってるわけか。
>ノーパン刑事が笑う。後輩刑事が「涼ちゃん」と呼ぶ女性鑑識係を、後輩刑事が慕っているのは、丸わかりだった。ノーパン刑事は、割り込んで確認するのは野暮だと考えていたので、現状を見たわけではなかったのだが、二人の関係は悪くない気がしていた。
後輩刑事: いや、そんなんじゃないですから! アニキ、聞いてました?
>笑って答えないノーパン刑事。抗議しながらも嬉しそうな声に、見立ては間違っていないと確信を深める。
後輩刑事: 本当にわかっています? ……で、どうしましょう? どこに合流すればいいですか?
NPD: ああ。では、こっちに来てくれ。面白い物を見せて――
>そう言って、見上げた台座の上に、もう「普通に考える人」の像はなかった。ただ、石の椅子だけが残っている。――って、これ、片付けなくていいんですか? 転がり落ちたら危ないですよ! しかも、重いから、普通の人では動かすの大変ですし……。
NPD: ――いや、何でもない。とりあえず、こっちに向かってくれ。適当な場所を見つけたら、指示する。
後輩刑事: 了解ッス!
NPD: ああ、そういえば、タカ、一両日ってどういう意味だ?
>ここで画面は暗転。画面の上半分に一つずつ浮かんでいく「PANTS」の文字。それに応じて、流れる音声。
電子音声: パ・ン・ツ
後輩刑事: イッチョマン!?
#シャキーーン
>後輩刑事の「え、俺でいいんッスか?」と驚きながら発せられた声、続く鋭い効果音と共に、画面下半分に横からカットインしてくる「ICCHOMAN」の文字。
>今週はここまで。ノーパン刑事、深刻そうな顔をしていたのは、まさか「一両日」の言葉の意味を良く解っていなかったとは……。こんな刑事で大丈夫なのか? そして、意外に真面目な展開で戸惑って、というか「今回は外れ回か」とか感想を抱いた視聴者の方。銅像の格好をしている半裸の男と、それと真面目に話している刑事って時点でかなりオカシイですから。もし、そう感じていたら、かなり毒されているのを自覚して下さいね。
>この調子だったら、第六話は前編後編で終われるかもしれないですね。では、また来週!




