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文明の〇〇 パンツイッチョマン  作者: 最勝寺 蔵人
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第五話 ウェディングベルと黒パンツ(2)

>イーゼルに背を向け、画面外の何かに筆を動かしている老人のシルエット。頭に被っているのは、オサムシ先生を意識したベレー帽だぞ。右下に現れる「パンツイッチョマン」のロゴ。


カエル仮面: この結婚式、異議あり!


>CM(また)ぎにありがちな、反復リフレイン演出。オタマジャクシ仮面の発言の方は、「必要ないでしょ」という最勝寺先生の冷たい一言でカットだ!

>ざわつく人々に、カエル仮面は話し続ける。


カエル仮面: 静かにしろ! あと通報も止めろ。痛い目見るぜ。


>カエル仮面が手を振ると、トカゲっぽい仮面を被った二人が二手に分かれて動き出す。


トカゲ1: おら、手を挙げろ!

トカゲ2: スマホから手を離せ! 妙な真似、するんじゃねえぞ。


>そう言って、二人はそれぞれ一発ずつ放つ。発砲音と、壊される装飾品。当然、「静かにしろ」と注意されても、あがってしまう悲鳴。しかし、直後に、オタマジャクシ仮面が火を点けた連発式爆竹が鳴り、悲鳴をき消す。

>「これって、外にも聞こえてるよね?」とお思いの視聴者の方々、ええ、そのとおりです。外に聞こえています。外には、次の順番を待っている利用予定の人たちと、結婚式には出ないけれど、披露宴に招待されている新婦側の友人たちも待っていた。だけど、不思議なことに、彼ら彼女らは中で異変が起きていると思っていなかった。カエル仮面を被る前の男が、中へ入る前に、「今回、中華式のセレモニーを挟みますので、うるさくなると思いますが、心配しないでください」と宣言していたからだ。であるから、むしろ、連発式爆竹の音を聞いて「それ(中華式)っぽいな」とか「お、始まった」などと感じただけだった。観察力が鋭い者なら、爆竹が連発される前に悲鳴があがっていた事に違和感を覚えたかもしれないが、そう思ったとしても、その前に鳴った発砲音を単発式の爆竹と勘違いし、それへの悲鳴かと判断して、急な行動を起こさなかっただろう。仮面を被ったふざけた四人組だったが、なかなか巧妙な手口だった。真っ先に変化に気付くはずの牧師役に事前に話して安心させていたのも、巧妙な準備の一つだった。

>では、チャペル内に戻ろう。


カエル仮面: 新婦側の人たちはサンショに、新郎側の人たちはイモリの指示に従え! スタッフはオタマ、そしてメインの二人は俺が相手をする。


>へえ。あれって、イモリだったんだ。そうすると、サンショと言われたのはサンショウウオですね。どうりでヌメッとした感じだったわけです。仮面の材質の問題なのかな、と思っていましたが、むしろ仮面職人の腕は良かったようです。おっと、参加者の様子でしたね。

>結婚式の招待客の大半は、ショック状態にあった。冷静に考えると、人数では仮面四人組に勝っているのだから、一斉に反抗すれば勝ち目は大きそうだ。まして、四人組が手にしている拳銃は、オモチャのような物に見えた。が、そのオモチャが、燭台しょくだいと花の鉢を一発で破壊し、木製のベンチに穴を空けたのを目の当たりにしていた。そのギャップが余計に混乱を駆り立てて、連携した反抗を試みる気持ちを湧き上がらせないでいた。しかし、驚きこそすれ、パニックまで陥っていない例外もいた。その一人が、銀子先生だ。

>ここ数ヶ月の間に、危機的状況に何度も遭遇そうぐうしていた銀子先生は、日常をぶち壊すアクシデントにある程度免疫(めんえき)が付いていた。それどころか、むしろウキウキ系のドキドキを感じてすらいた。また、パンツイッチョマンが助けてくれる、と思っていたからだ。アンチ銀子先生の視聴者の方は「思い上がりもほどほどにしろ!」と思うかもしれませんが、残念ながら、カメラが撮影し私がナレーションをしている時点で、パンツイッチョマンの登場は既定路線です。それでも銀子先生に良い思いをさせない展開があるとすれば、凶弾が銀子先生を撃ち抜くという場面などが考えられますが、……そこまで銀子先生のことを嫌っていませんよね? ……あ、返事はいいです。「はい」と答えられても困るので。

>でも、銀子先生の表情は、何かを期待しているものではなかった。……別に死期を予感していた、でもないですよ。期待より、心配が大きかったのです。


お銀: 「叔父さんや、とおるさん、無茶しなければいいけど……」


>そう心配する根拠は、養老家男子の教育方針にあった。鎌倉の時代から続く名門とされる養老家。どの時代でももっぱら繁栄していたので、暴力的な干渉を受ける機会が度々あった。毎世代、強盗被害にうわけではなかったが、その教訓は代々受けがれていた。ゆえに、「男子たる者、独りで、その身を守るべし」という教えから、護身術に通じていたのだ。銀子先生の父親も兄も、同じく護身術に通じていた。だから、叔父さんと従兄が抵抗して怪我などしないか、銀子先生は心配していたのだ。無理をしなくてもパンツイッチョマンが助けてくれると信じているから、尚更なおさら抵抗は無駄だと思っていた。

>しかし、これは杞憂きゆうであった。女子たる銀子先生は教えられていなかったが、養老家男子への教えとして「自分の身は自分で守れ」より上位の教えとして、「何としても生き延びて、次代に血をつなげ」という教えがあったのだ。ゆえに、強盗被害にった時の具体的な方針は「身に危険が及ばない限り、無抵抗」が優先された。実は、銀子先生の叔父さんと従兄は、チャンスをつかめて、連携れんけいさえ取れれば、四人組を制圧できるくらい強かった。だが、そのチャンスが来なければ動くつもりはなく、チャンスが来ても、事前に話し合っていないため連携れんけいできる保証がないので、基本は待ちの姿勢スタンスだった。とはいえ、この二人も、銀子先生に続いて、冷静さを保てていた。怖くなって手や腕を握ってくる妻や新婦に、優しくタップで応じていた。


サンショウウオ仮面: よーし、急な動きはするなよ。


イモリ仮面: この袋に、金とスマホを入れていけ。


>両トカゲっぽい仮面は、大きめの買い物袋――とあるスーパーマーケットの名前が入っていたが、印象が悪くなるので公表は控える――を最前列の人に渡し、それを後ろに回していくように指示する。そして、隙を見て、銃をガサゴソと、あるいはコキコキといじる。これはリロード動作だった。それに気付いた者も何人かいたが、反撃を試みなかった。リロード中に、次弾発射ができない保証などなかったし、二人のリロードタイミングは一致していなかったので、目の前の相手には撃たれなくとも、他から撃たれる恐怖があった。特にカエル仮面の持つ銃は最も拳銃らしく、連発式だというのも、見てわかった。

>ブライダルスタッフは、祭壇脇に四人まとめられた。当初は、「お客様を守らなくては」という立場から非協力的だったが、他のスタッフの視線が自然と集まることから、上司となる女性スタッフが突き止められ、それにオタマジャクシ仮面がナイフを突き付ける事で素直になった。オタマジャクシ仮面は銃を持っていなかったが、銃に不慣れな日本人にとっては、刃物は安定の怖さがあった。彼ら彼女らからも、お金とスマホが回収されようとしたが、所持していなかった。そういえば、ブライダル業者であれば使っていることもある無線連絡装置だが、この業者は利用していなかったので、助けを呼ぶことができなかった。なお、この事件が解決した後、ここでも無線が導入される運びになる。

>さて、本来、結婚式の主役たる新郎新婦は、リーダー格とおぼしきカエル仮面に銃口を向けられていた。


牧師役: き、キミたちは――


>何か説教をしようとしたところで、牧師風の男性は銃を向けられ口を閉じさせられる。


カエル仮面: お前は下がってろ!


>「聖職者にそのような罰当たりな発言を!」と怒れないところが、本物ではない人の悲しいところ。だけど、そんな偽牧師でも、きっと神様は……どうか知らないけれど、私は見守っているぞ。


カエル仮面: で、どうだ? アユミ。晴れの舞台をけがされた気分は?


アユミ: な、なんで、私の名前を!?


動揺どうようする花嫁に対して、カエル仮面の動きが固まる。が、数秒後には激しい言葉と共に急に動き出す。


カエル仮面: き、貴様! 俺の声を聞いても――


>カエル仮面が、銃を持った手を振り上げた後、考え直して、逆の左手を振り上げる。しかし、その時には新郎が、カエル仮面の行動を予測し、間に体を差し入れた。


新郎(あ、そういや銀子先生が名前を出してましたね……そうそうとおるだ。アユミさんに合わせるため以後「トオル」と表記します。): 何が目的だ?


>カエル仮面は、振り上げた手を下ろす前に邪魔じゃまをされ、行動を中断した。かに見えたが、平手がにぎられ、拳が新郎の顔を殴る。


アユミ: キャッ! トオル!?


>新婦が心配して声を上げたが、新郎はよろめいただけで、背後にいる新婦に出て来ないよう、腕で止める。

>この一撃、見る人が見れば、ダメージは少なかったとわかった。殴られる際、新郎が顔をパンチへ寄せに行った事で、カエル仮面は力を出し切る前にパンチを止められた形になっていた。もちろん殴った方も手応えが違ってくるのだが、そこはえてよろめいた事で、満足感を与えていた。ただし、これは新郎に武術の心得があったからこそできた芸当だ。視聴者の皆様は真似をしないようにしていただきたい。特に、殴る方がデキる相手なら、パンチへ寄せに行った方が大ダメージを受けますからね。要注意ですよ!


トオル: ……金か? それとも復讐ふくしゅうが目的か?


カエル仮面: そうだな……どっちも、だな。 それと、この式の一番の獲物をいただく。……花嫁だ!


おどろいて新郎にすがる新婦。対して、新郎の態度たいどは落ち着いていた。


トオル: 素直に要求に従えば、誰も傷つかずに済むんだな?


カエル仮面: はっ! そんな保証などないが、従わなかったらどうなるかはすぐ教えてやるぜ。


>カエル仮面が銃口を新郎に向けた。新郎は、表情を変えないまま、新婦をかばうように少し広げていた腕を下ろした。その変化に、新婦が硬直する。ヴェールの下は、信じられないと言いたげな目を新郎に向けているに違いない。


カエル仮面: ハハハ、残念だったな、アユミ。この優男やさおとこはお前より自分の命の方が大事だってよ。


>動き出せない新婦へ、新郎は横顔を見せるように振り向き、従うように促す。守ってくれないと理解した新婦は、新郎を軽く突き飛ばすと、ヤケになったようにカエル仮面へと近づく。それを見て、戦慄せんりつしている者がいた。銀子先生とその叔母だ。新郎の父親の奥方ではなく、新郎の父の妹に当たる方の叔母だ。この二人は、幼少の頃からの養老家の女だった。ゆえに、一見無表情に見えるトオルの顔に、秘めたる怒りを読み取れた。これは「養老家の敵」を認識した時の顔だった。銀子先生は、過去に父親にこの表情を見たことがあった。そして今、チラリと確認した叔父の顔にも同じしるしを見た。どこがどう違うのか他人に説明できないほど微妙な変化だったが、彼女たちにはわかった。養老家の怒りを買った対象がどうなるか、彼女たちは知っており、それゆえ自然と怖ろしくなったのだ。

>しかし、他の大半の者は、この変化に気付かなかった。カエル仮面も新婦もそうだ。新婦は手振りで示されるまま、カエル仮面の横に並ぶ。新婦が新郎の方へ向くと、新郎は小さく頷いた。その意味を理解しない新婦は、見捨てられた苛立いらだちからそっぽを向く。その時、カエル仮面が花嫁のヴェールをぎ取った。ようやく見えた花嫁の顔――だったが、あいにく銀子先生には背を向けていたので見えなかった。ちょっとでも見えないかとゴソゴソと動いたことで、イモリ仮面の気を引いてしまい、「そこ、動くんじゃねえ」と注意された。ちなみに、銀子先生はスマホと財布とご祝儀しゅうぎをまとめて袋に入れており、順番を次に回して終えていた。

>銀子先生には見えていなかったが、視聴者の皆様にも教えないわけではない。花嫁は、睫毛の長い華やかな美人だ。……どの程度 化粧(けしょう)で化けているかは、私にはわからない。

>花嫁の顔があらわになると、カエル仮面も自分の仮面をスルリとぐ。これが、両手を使って「んしょんしょ」と苦労するタイプだったら反撃の機会になったのかもしれないが、あっさりヌルッとげてしまった。


アユミ: コウキ!?


>発言内容から推測できていたが、やはりカエル仮面は花嫁の知り合いだったようだ。花嫁の方も、「声でわからないか」というような事を言われてから、多少心当たりが付いていたようで大きなおどろきはなかった。


コウキ(あ、やっぱり、「カエル仮面」と書いていた方が楽しかったので、以後「元カエル仮面」と表します): は、おどろいたか? お前が捨てた元カレだよ。


>説明的な台詞セリフは、視聴者の方々の為ではもちろんなく、新郎や参加者に向けてのものだ。どうでもいいが、元カレと元カエル仮面ってちょっと似ていますね。やっぱり元カエル仮面と呼ぶので正解でした。


元カエル仮面: おい、お前、ちかいのキスだ!


>元カエル仮面が銃口を脇でちぢこまっている牧師役の男性に向けた。

>しかし、いきなり話を向けられた動揺からか、それとも本来新郎新婦の間でされるはずのキスを、花嫁強奪者と花嫁とでキスさせて良いのか、止められないとしてもそれを祝福するのは如何いかがなものか、と言うかその前に自分にその資格はあるのか、などと考えたからか、アワアワ口ごもるだけで要領ようりょうを得ない。もしかすると、パニくった余り、省略された言葉を補完できず、言われたそのまま受け止めて、「私が貴方とキスするなんて、心の準備が……」と慌てていたのかもしれない。ま、最後のはないか。と、こちらが冗談めかしてまでをつないでいるあいだに、元カエル仮面の方が待ちきれなくなった。


元カエル仮面: ええーい、もういい!


>そう言うと、元カエル仮面は花嫁を引き寄せ、口吻くちづけを迫る。素直に応じず、身を反らせる花嫁。その腰を抱き、さらに追う元カエル仮面。結果、やけに舞台チックな大げさなキスシーンが演出された。花嫁さん、バレリーナ並みに柔軟ならもっと身を反らせて、追いくちびるから逃げ切ることができたんだろうが、残念な事にそこまで体が柔らかくなかったんだよなぁ。……あれ、顔をそむければ済む話か……じゃあ、身を反らせた時に内部的にグキッと来て、一時的に動けなかったか、あるいは「結婚式に乗りこんでくるまで私のことを想ってくれたのね」と情を動かされたのかもしれない。または「なんだか映画のワンシーンみたい。もちろん主役はこの私!」とっていたのかもしれない。

>あってはいけないキスシーンに、参列者から悲鳴がれる。ただし、「動くな」とおどていたので、「あーあ」という控えめなものだ。新郎は意外にも表情が変わっていなかった。そして新婦は、自然と今カレと元カレのキスの上手うまさを比較して……あ、ここはこれ以上立ち入ってはいけない気がするので、シンクロ断絶します。

>ダンスよろしく引き起こされた花嫁は、気まずそうに新郎へ視線を送り、変わらずの視線とぶつかり、すぐに目をらす。その様子を楽しげに見ていた元カエル仮面は、急に花嫁をぶった。ここで初めて新郎の眉間にしわが寄ったが、もちろん花嫁にそれを確認している余裕はなかった。


元カエル仮面: おい、エレンから聞いたぞ。俺を捨てたのは、金持ちで言うことを聞いてくれそうな男を見つけたから、乗り換えたそうじゃないか。


>突然の告白に、ハッと目を見開く花嫁。これに呼応して「ふん。底が知れたな」と、バカにしたような声を出したのは、新郎の父。「それ見たことか」と得意そうな顔をしていた。やはり、この人も強盗被害にっておびえている感じはない。花嫁にそちらを見る余裕はなかった。確認しなければならないのは新郎の方だ。しかし、視線を向けようとして、えきれずに下を向く。これを見る限り、エレンとやらが、言った内容はうそではなかったようだ。しかし、発言内容がそうだとしても、どういうつもりで言ったのか、それによって中身が大きく違ってくる。

>一つは、新郎の父が受け取ったように、ビッチな内面をさらけ出した瞬間だった、という素直な解釈かいしゃく。しかし、女友達に現時点の交際に聞かれて、面白おかしく伝えるために、脚色きゃくしょくしていたという見方もできる。さらに受け手が、それに嫉妬しっとし、元カレに誇張こちょうして暴露ばくろしたら、元の話より爆発力が強くなる。しかし、そうだとしても、真剣にお付き合いしていた事を自分でおとしめてしまったのは軽率だし、口の硬くない相手にそれを話している点も反省すべきだろう。身から出たさびというそしりを受けたとしても仕方ない。

>と、祭壇で人目を引く一連の動きがあった時、重大な変化がチャペル内で起きていた。それに最初に気付いたのは、牧師風の立場だったジェームスさんだ。ジェームスさんは、日本の大学に留学し、そこで大いに日本が気に入って、大学を卒業し帰国後、再来日した外国人だ。学生時代から続けている英会話の講師と、チャペルでのアルバイトの二本立てで生活している。この結婚式ブライダルジャックという事件の中で、一番状況を打破できる可能性が大きかったのは彼だった。祭壇さいだんに居たのでカエル仮面の管理下にあったのだが、「下がってろ」と言われてから、元カエル仮面になった男からの注意もれ、走って逃げ出したら、すぐに対応されない有利な立場に居た。遅ればせながらその立場に気付いたジェームスさんは、裏口から逃走できるのではないかと、そちらへ至る扉を見ていた。だが、ジェームスさんは見ているだけで行動になかなか移れない小市民というか、安定志向の保守派だった。そこで、逆に、裏口へ至るとびらが開いて、人が入ってくるのを見た。この瞬間、さらに怖くなったジェームスさんは行動を起こすのを完全に放棄ほうきした。

>次に、この異変に気付いたのは、ブライダルスタッフたちだった。なぜなら、事件現場に侵入してきた男が、壁際に並ばされているブライダルスタッフの横に同じように並んだからだ。この時、ここを担当していたオタマジャクシ仮面は、祭壇さいだんのパフォーマンスに気を向けており、ひっそりと加わった者の気配に気付かなかった。


アユミ: アンタのせいで、何もかも終わりよ!


>吹っ切れたのか、新婦が元カエル仮面を怒鳴どなりつけた。静粛せいしゅくな花嫁という仮面を取りつくろうことはあきらめたようだ。この変化に、元カエル仮面と新郎の父が笑う。


元カエル仮面: アユミらしくなってきたじゃねえか。だが、安心しろ。コイツらがお前のことを見捨てても、俺がお前をもらってやる。


アユミ: 誰がアンタなんかと!


>花嫁……もうちょっとこの表現が合わなくなっているかな? ……では、新婦は長手袋をつけた手で、元カエル仮面を引っぱたこうとしたが、その手首をにぎられ止められる。


アユミ: だいたい、こんな事やらかして、無事に逃げられると思っているの?


元カエル仮面: ああ、思ってるさ。お前、昔言ってたよなあ。俺は口ばっかりで、大したことなんかできない、って。ところが見てみろよ。結婚式を丸々乗っ取ってやった。これもあの銃も俺が作った。……俺はやればできるんだよ。


>「やればできる」この言葉を自分に言い聞かせて、実際には「えてやらない」状態の人は、きっと世の中のどこかにいるだろう。しかし、ずっと「やらない」と思っていたら、「やればできる」姿を見せる日はなかなかやって来ないぞ。そもそも、いつもやっていないのに、突然やるモードになっても経験や技術が伴っていないのが普通だ。だから、これから立派な大人になろうとこころざしている子供たちは、自分に「やればできる」属性を付けない方が良いぞ。……あれ? 話がれていましたね。元カエル仮面は、確かにやればできる子だったのかもしれないが、その方向性に問題があったようだ。やはり「やればできる」を盲信するのは良くないですね。


元カエル仮面: これからの事もちゃんと考えているぜ。ここを出た後は――


>調子に乗って計画をベラベラ喋りそうになっていた元カエル仮面にとっては幸運なことに、そして目を光らせて発言に集中していた新郎とその父にとっては不幸なことに、オタマジャクシ仮面が突然あげた奇妙な悲鳴に、皆の注意がそちらへ向く。


オタマジャクシ仮面: うひゃあ!


>驚いて、ブライダルスタッフたちから一歩下がったオタマジャクシ仮面は、ナイフを両手に持って、右に左に人質たちを威嚇いかくする。みんなの注目がこちらに集中していることすら気付いていない。


元カエル仮面: なんだ!? みっともねえな。


怒鳴どなられてようやく、注目を浴びているのに気付いたオタマジャクシ仮面は、ナイフを右手に持ち直した後、左腕でひたいぬぐおうとして、仮面にぶち当たり、自分でおどろいた。


オタマジャクシ仮面: い、いや、違うんだ! ひ、人質がいつの間にか一人増えていやがんだよ!


>悲壮感がにじむほどの訴えだったが、他の人にとっては意味がわからない。なお、ジェームスさんとブライダルスタッフは言われている意味はわかっていた。しかし、サンショウウオ仮面とイモリ仮面は、バカにしたように笑う。


サンショウウオ仮面: ンなわけねえだろ。


イモリ仮面: ちゃんと数えてなかっただけだろ? ……知っているか? 三の次は四だぜ。


>これに、サンショウウオ仮面が笑う。イモリ仮面も笑いながら、作業の継続けいぞくに戻る。スマホや金などを入れさせた袋は回収段階に入っていた。


オタマジャクシ仮面: そ、そんなはずはねえ。最初は四人だったんだ。


>他の仮面強盗たちも注意深ければその違いに気付いたかもしれないが、役割を分けていた副作用として、担当対象以外への注意はほとんどしていなかった。一人が二人に増えたのならまだしも、四人か五人かは覚えていない。オタマジャクシ仮面は記憶をさかのぼり、誰が増えたのか突き止めようとしたが、同じ制服を着た者は個性が埋没してしまいがちだ。今になって名札をしっかり見て覚えておくべきだと思っても遅い。そもそも彼は人の名前を覚えるのが苦手だった。しかし、生物としての本性から、女性の存在への認識は強かった。最初は二人いて、今も増えていないのだから、増えたのは男の方だ。


オタマジャクシ仮面: おい、お前ら三人、そこへ並べ。


>数歩離れた場所に、改めて男のスタッフだけを並ばせる。このオタマジャクシ仮面にもっと冷静さがあれば、チラチラとスタッフたちが見ている方向に正解がある、と気付いただろう。また、追加された者が押しのけて加わっていると考えにくい(それほどの動きがあれば、目をらしていたオタマジャクシ仮面でも気付いていた)から、端にいる者が正解だと類推することもできただろう。しかしが、仲間にバカにされ頭に血が上っていたので、頭ではなく体を動かして判断しようとした。


オタマジャクシ仮面: おい、お前ら! 手を挙げろ!


>そうして反抗的な行動を取りにくくしてから、オタマジャクシ仮面ははしにいる男性スタッフの襟首えりくびつかみ、ナイフを相手の顔に近づける。


オタマジャクシ仮面: 貴様、最初から居たか?


男性スタッフ1: 居た。最初から居た。ほら、あそこに!


>男性スタッフはチャペルの一角を指差そうとしたが、それが余計な動きと判断され、ナイフを押し当てられる。立っていた場所は示せなかったが、その態度たいどに説得力があったようだ。オタマジャクシ仮面は相手の襟首えりくびを離した。するとおどされていた男は、探している本物というか、偽物スタッフはあちらにいると言いたげに、チラチラと小さく首を振る。が、これはあまり意味のない指示だった。列はそちらにしか伸びていないからだ。オタマジャクシ仮面は一歩横にスライドすると、次の男性スタッフの襟首えりくびを掴む。


オタマジャクシ仮面: 貴様はどうだ? どこかに隠れていたのか?


男性スタッフ2:ち、違う。私じゃない。


>この人もチラチラと横を見る。これもそちらしか残っていないので、教えている意味はない。


オタマジャクシ仮面: だったら、貴様か――


>オタマジャクシ仮面が、三番目の男の襟首えりくびつかもうとして、指がすべった。代わりに、相手の首筋に残る三本の筋と、オタマジャクシ仮面の指先に付いた――


オタマジャクシ仮面: ん? 絵の具か!?


>相手に手を挙げさせる行為は、武器を持ったり、電話で連絡しないようにさせたりする為だ。決して無力化させた状態ではない。それをオタマジャクシ仮面は身をもって知る。


男性スタッフ3(?): イッチョマン・スラップ!


♯ パチン!


>振り上げる必要のなかった分、平手打ちは、ガンマンの早撃ち並みの素早さで……いや、それはちょっと言い過ぎかな。では、居合いの達人の抜刀ばっとう並みの素早さで、振り下ろされた。もう賢明な視聴者の皆様にはお気づきでしょう。ですが、説明がちょっとややこしいので、ここで時間をしばらく止めます。

>まず、男性スタッフ3として現れたのは、パンツイッチョマンの変装した姿でした。冒頭で話していた老画家にペイントしてもらったのです。教会(厳密には教会ではないですが、老画家はそう思っています)をよく見に来ている彼は、そこに出入りするスタッフの服装もよく覚えていました。細部では異なる箇所もあったのですが……ええ、そんな細部以前に「ハダカに色塗ってりゃ見てわかるだろ?」ですよね! ですが、その無理が通るのがゴツゴウ・ユニバースなのです。サングラス掛けるだけで誰かわからなくなるのと同じです。……いや、規模でいえば全然違うのですが、方向性は一緒で、ゴツゴウ・ユニバースの人たちはそこの認識力が極めて弱いのです。そりゃあ、私たちが見れば、いくら見事に服が描かれていたとしても、ツヤは全然違いますし、袖口などが体より大きく表現できませんし、なにより黒バイザー掛けている時点で、もうブライダルスタッフじゃないのは丸わかりですが、少なくともオタマジャクシ仮面は見分けられなかったのです。……あ、もしかすると仮面を被っていて視野が狭かったから――いや、フォローになるかなと一瞬思ったけど、やっぱ無理だな。

>ともかく、ようやく登場したパンツイッチョマン! しかし、ハダカなのは私たちには丸わかりでも、肌色全開でないと、なんか物凄ものすごく違和感ありますね。ちょっとまともに見えてしまうくらい異常です。……では、説明が終わりましたから、再び時間を動かしてみましょう。

>不意の一撃を受け、床に倒れるオタマジャクシ仮面。その手から刃物がカラカラと転がり落ちる。


サンショウウオ仮面: な、なんだ、てめえ!


>他の仮面衆の中では最も近くにいたサンショウウオ仮面が、おどろきながら銃を向ける。それに対して、パンツイッチョマンは人差し指を立てた右手を突き出して答える。……お、今日もアレが来そうだぞ! 子供たちは合わせる準備をしましょう。


パンツイッチョマン(以後、「P1」と表す): 私は、文明の守護天使しゅごてんし。パァァアーーンツ……


>言いながらパンツイッチョマンの右手は頭の上の高さまで上がっていく。


P1: イッチョマン!


>右手は左肩、右腰へと払われ、代わりに人差し指を立てた左手が正面に伸ばされる。


♯ バン! バン! バン!


>左、右、正面と三連続のズームイン。強調されたのは、今回も顔だが、やはり肩の辺りのペイント部分は映っているので、雰囲気は違ってくるぞ。


♪ チャラッチャチャッチャチャチャラー(デケデケドンデケデケドン)チャラッチャチャッチャチャチャラー(デケデケドンデケデケドン)


《中略》


♪「パァアンツー」チャッチャー「イッチョマーン」



>おっと、今日はここで時間切れ! 本当はもっと前に一万字の目安を突破していたのですが、子供たちが楽しみにしているパンツイッチョマンの名乗りくらいはと、ここまで引っ張ってきました。このあと数千字で終わるなら、長めの後編と言い切れましたが……二万字に到達してもエンディングに着かなかったので、「やっぱ今回は無理っス」と最勝寺先生が言っていました。

>CM(また)ぎのアイキャッチは前編終了時に使ってしまったし、次回予告はエンディング後なので、実は、中編が差し込まれる時は、特に締めの部分の演出は決まっていないのでした。というわけで、普通に、また来週~~!

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