第三十一話 「どうしようもないおバカさん」
「何がですか?」
「君ともなれば静かに机の上で
居眠りすることぐらい造作もないことでしょ」
「はは、それは買被りすぎですよ。
俺、こう見えても寝癖悪い方なんですよ。
いびきはかかないですけど。」
「勘違いしないでね。
君の居眠りを認めているわけではないから。
ただ、大人をあまり甘くみるんじゃないってこと。」
真千先生の
『大人を甘く見るな』という言葉は
俺自身の素行を全て
見抜いていると忠告しているのだろう。
千里眼の持ち主か!
できる先生はつくづくやっかいだ。
「すみません。真千先生のことは尊敬しています。」
「尊敬?」
「はい、だって何度廊下で立たされても
居眠りをする俺にこうして先生の時間を使って
説教してくださっているんですから。」
「あら、わきまえてるじゃない。
でもね、それは仕事だからよ。」
生徒の身としては知りたくなかった一言だった。
かなりのダメージである。
真千先生は続けて
「何度注意しても授業中に居眠りをする
どうしようもないおバカさんでも、
いつかはそのおバカが治ると信じて指導するの。
それが私の仕事よ。」
真千先生が俺なんかを信じて・・・
涙が出そうになったが、
どうしようもないおバカさんって・・・
「どうしようもない俺なんかを
信じていただきありがとうございます。」
「お礼なんてやめて、嘘っぽく聞こえるわ。
でもあなたには聞きたいことがあるの。
そこまで自分の居眠りが
私に迷惑をかけていることを知っていて
居眠りするのはどういう要件かしら?
嫌がらせか何かなの?」
「いえいえ、
残念ながらその読みは外れです。」
「あら、違うのね。
ではなぜいつも決まった時間に寝るの?」
「それは眠気がいつも
決まった時間に襲ってくるからですかね。」
「決まった時間に眠気が襲ってくるのは
生活リズムがよほどいいのか、
眠気を受け入れやすい体質なのか・・・」
「両方ですかね。」
「なら、生活リズムはともかく、
その体質を変えていく必要があるんじゃないかしら。」
「これまで十六年間ともにしてきた体質を
急に変えることは非常に難しそうですが、
尊敬している真千先生からのご指摘であれば
変えられるように努めていきたいと思います。」
よし、これで真千先生相手に
ハッタリを貫くことができた。
しかし、そのハッタリは真千先生の前では・・・




