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異世界でも強いだけでリア充出来る訳じゃない  作者: 脱力呼吸法
第2章 赤の迷宮と骸骨達の騒乱
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霧崎の理論(かた)

はい、続きます

 予定の日に刀が届かない。予定のルートを調査したところ現場にはギルドの運搬役の死体が残されていたとその日の最終報告書には記録されいている。立ち合い用の刀は奪われたものと考えられ、受け取り主の遺恨から調査が進められている。

 刀が必要だった。長くなくていい。三尺も必要ない。手ごろな長さと重さで、折れず、曲がらずの刀が必要だった。次の戦いに味方はいない。そして敵はただ一人、執念で甦った剣の鬼が一匹だ。

  刀が欲しい。確実にだ。

 「オヤジさん、すまん、予定の刀が奪われたから代わり刀を頼みにきた。なければ刃渡り九〇センチ程度のロングソードをお願いしたい」

 「訊いている。災難だったな」

 ついて来いというオヤジの背中を追う。作刀というのは研磨に外装も併せて半端でない手間がかかることだが、しかしこのオヤジにはその常識が通用しないようで一週間の内に7本も仕上げて見せるのであった。

「剣王の持っていた剣を見ただろう?あの剣は俺が鍛えたものなんだぜ。刀身はもとより拵えから目釘の装飾まで全部俺一人でやったんだ。あの剣にはハバキがあっただろ?まあこっちの本来存在しない部分だから摩耗しても奴は気にしていなかったようで、一度鞘割れしたあとは革製の鞘に換えちまったみたいだが」

 扉を二つ抜けた店の奥、天井の丸窓からは光が降り注ぐ部屋の10ある戸棚の一番左、天井の丸窓からは光が降り注ぐ部屋だった。そこから一口の刀をオヤジが取りだす。 

「ときにお前、刀に何を求める?三つだけ上げて見ろ」

 しばらく逡巡して霧崎は口を開く。

「まず第一に刃毀れしないこと事」

「なるほど、なぜだ?」

「刃毀れってことは刀身が脆いってことだろ。斬撃を放つにも攻撃を受けるにも不安な武器ってのは御免だぜ」

「次は?」

「曲がりずらいこと。曲がったらすぐにもとの形に戻るのがいいな。単純な話だが曲がると力の伝達に歪みが出て打撃力が死ぬ。曲がったら武器としては使えないが短剣を使うときの左手に持てば盾ぐらいにはなるだろう」

「ふむ、それで?」

「最後に切れ味だ。まあ最初2つを満たしながら切れない刀なら研ぎが悪いのかもわからないが」 

「まあ分かった。時に霧崎よ、もしそんな都合のよい刀がなかったらどうする?」

「あるものを使うさ。刀がなければ剣を。剣がなければヒノキの棒でも。なければ竜の爪、ダメなら拳、それもダメなら歯か」

 いいな、と親父は納得の表情で頷いた。

「俺の親友にして刀の工法を伝授してくれた鬼重と似ている」

 顔をほころばせる。

「お前が持って来た刀だが、はじめに破断面を見た時確信した。こいつは俺の親友の刀だってな。鋼の組み合わせも焼き刃の特徴も刃味も切断面から見て取れる鋼の粒子の密度も殆ど一致している」

 だから、こいつを貸そう。そういって一振りの刀を取り出す。

「こいつは俺の盟友が鍛えた太刀で、お前が山から持ってきた太刀の兄弟刀だ。奇妙なことにな」

「試したのか?」

「巻藁斬りと鉄釘を一本やった。一太刀だったが野菜でも切ってるようだった。それにこいつを鍛えた鬼重の別の個体は鹿角に八太刀斬りつけて全て輪切りにした。あたらこいつを試すまでもない」

「そこまで来ると逆に鞘を割っちまいそうで心配だが……」

「それは違うぞ。刀の鞘は鈨と噛みあうことで中で刀身が浮くようになっている。納刀抜刀さえ確かなら鞘を削ることなんかあり得ない。おまけにこいつの刃はほとんど止めてあるからな。こいつの強さは使い手次第だ」

 持っていけ、必要なのだろう。再びあいつと会いまみえる為に。

「だが待ってほしい。これは何年前に作られた刀だ?その間に手入れはされたのか?柄糸は?柄木は?目釘は?」

「柄木は少し特殊な材料だから大丈夫だろうけどね、柄糸とおそうか」

「ありがとう。見せてもらってもいい?」

剣士として刀の手入れくらいは出来なきゃだめだと思う。

「いいよ」

 親父さんは快く頷く。


 号は雪払。銘は鬼重。由来は鉄釘を切断したさいの手応えから、試刀者曰く「雪を払うが如くなり」。反り四分。鋼は青く霜気が走る鋭さ。以前のものよりわずかに短いが重量はあまり変わらず、樋がないため強度は増したように思う。研ぎは肉置き厚めの斧にも似た刃付けで、刃部を陽光に透かすと寝た刃はすでに合わせてあり、うっすらと霞がかった眠たげな焼き刃から粘りのある実戦向きの刀だと予想できる。宙を舞う木の葉を斬るのではなく人間を破壊することを目的とした戦場刀の趣だった。刀線刃筋を通して振るわれたならば銘の通りに鋼を断つだろう。まさしく粉雪を払うがごとく。

「鈨は銅。目貫の位置は右掌が被る位置。鍔は宙転する燕の透かし」

 そして腕が伸長したような力学的形状と重心。

 霧崎は称賛を口にすることも出来ずただ固唾を呑んで魅入るだけだった。納刀してようやく霧崎は止めていた息を吐いて、半端ねえとこぼした。

「当たり前だ。アダマンタイト粒混じりのヒヒイロカネ鋼の練り材を鍛え上げた傑出刀だぜ。これから死んでしまうお前にはもったいないくらいだ」

「俺は死ぬつもりはねえぞ」

んにゃ、

「こんなことは言いたかねえが、通りを駆け抜けていくあれを見た。あれは怪物だ。だが、霧崎。お前は人だ。世間が剣獣などと名付けようが、お前は俺等こちら側ではない。その右目と左耳が証拠だよ。あれに勝てるのはセレンか。トーレルとセレナの連携くらいのものだ。そしてお前はトーレル単体にすら勝てないのだろう」

 一息ついて霧崎の先をとったのは親父だった。

「なぜそうまでしてあのヤシャとかいう怪物にこだわる?お前が行こうが行くまいが結局はセレンが殺して終わりだろう」

「宿命ダ」

 霧崎の答えは単純明快だった。

「剣士としての一生に何回、こいつだけは斬らなきゃいけないと思える相手に会えるだろうか?憎しみから、あるいはやむにやまれる窮地に立たされて人を斬る?そんな戦いじゃあなく……」

 もどかしい、言葉にすると陳腐で笑えてしまう。つまりあいつを斬りたいということは、あいつに斬られてもいいということだ。




 作戦はあるが頼りにはしない。赤黒い砂地を歩み霧崎はついに修練場の中心で、剣王に会いまみえる。

 向か風に砂埃が舞う。

 背に朝日を背負いぼろぼろの衣をはためかせ、積み上げた躯の上に座すその男の姿は神話の荒ぶる武神のようで、強敵なのだと霧崎には分かってしまう。間合いまではあと幾許か、などと数える心も霧崎の中から吹き飛んでしまった。ただただ、剣王が素晴らしすぎたのだ。その姿に圧倒される霧崎に一瞥をくれ、剣王が―――ヤシャが立った。

 視線がぶつかる。自分が不利であると掛値なしに思う。

 霧崎は必ず剣王を殺さなければいけない。しかし剣王は逃げてもいいのだ。相手を動かして斬りたい。相手を動かさずに斬りたい。けど、そんなことはヤシャにとってはどうでもいい?

 剣王は左右の手にそれぞれ剣を持っていた。二刀である。二刀とも迷宮で見たものではなくこの街の官給品で衛兵から冒険者までに広くいきわたっているものだ。 間合いの遠いうちに洞察する。二刀はエルトリア老が用いたのと極似た形状のもので重量、重心の位置も誤差の範囲に収まる程度だろう。

 なるほどと霧崎は胸の奥で深く頷いた。

 あそこにいるのは剣王ではない。あそこにいるのはヤシャだ。

 これは中断されたあの夜の続きだ。

 負けたとは思っていない。殺されなければまだ戦いようはある。そして俺は――――――、どうにかあの夜を生き延びた。

 霧崎に気づいたヤシャが歩む。竜牙兵の骨肉をベースに造られたその身体は、人身形態のセレナと同程度の筋力を持っていると察るに不足はない。まともに斬り結べば圧殺されるのは必定。そして一歩、踏み出してこちらに近づく動作は剣士独特の気配を纏っている。

 抜刀して霧崎は邪魔になる鞘を地面置いた。

「霧崎九郎破れたりってな」

 馬鹿馬鹿しい。機能の面を考えれば動きの邪魔にしかならない鞘は捨ておいた方がいい。斬り合いのあとに拾うほどの余裕がなければ、勝負に勝ったとしても死が待っているだろう。そういえばと以前のヤフタレクの指摘を思い出して首をふった。違うんだヤフタレク。鞘を捨てる者が侍のはずないのだ。

 「ち、」

 この敵には何故か向こうの世界を思い出す。

 そこは時代から二十年も取り残されたような小さな城下町だった。得体のしれない異界のような場所だったと記憶している。あの時感じたのは公園の散歩道のふと離れた場所に野晒にされた人骨を見つけてしまったような息苦しさだった。その場所の名前は憶えていない。記憶だけが朧げに残っている。

 

 二刀相手に待つことはないと師伝の戦闘思考が霧崎に告げている。受けに回れば小回りの利く向こうの二太刀目の方が早い。先に斬る。最速の一刀を以て敵を排する。そう決めて霧崎は怪物殺しの構えを取った。

 切っ先が天を衝く。重力に逆らわないのこの構えが最も疲れにくく、最も早い。


 

 曲刀に盾を持たぬ諸手の剣術使い。二日前の敗北ら抜け出てきたかのようにその剣士は現れた。掛け値なしに強い。それは立ち姿を見ただけでわかる。下手が剣王の間合いに入れば呼吸することさえ隙になるというのに。ふと、負ける可能性がかもしれない、と頭を不安がよぎる。けれども八割は勝てる。そういう自負がある。

 だというのに左肩が奇妙な反応を起こす。この感覚を俺は知らない。一歩間合いがつまるごとに、呼吸が浅くなるのが分かる。こわいとヤシャは感じた。けれども逃げてどうなる?俺に還るべき場所はない。

 ヤシャの二刀掲げられる。

 ―――あの、左手の隙は誘いだ。ならばこちらは相手が崩れるぎりぎりまで圧力をかける。

 しなやかに切っ先が翻り霧崎に向けて揃えられ、背骨が大地を貫く氷柱になってしまう。

 ヤシャはどのような構えをとっても真球。故に崩す隙はなく、隙をつこうとすればこちらが崩れてしまう。霧崎の繰り出す斬撃がいかな神速を誇ろうとそれ以前に間合いを詰められ、最大威力の手前で止められる。

 同時に首を横に払うか胴を薙ぐか。ヤシャの剣技が曲がりなりにも霧崎に理解できるのは、互いの剣技に技術的な接点があったからに他ならない。この僅か三日の猶予期間に霧崎は無敵のにも等しいヤシャの剣術をずっと学んでいた。あの日偶然生き残れたことが負けではないなんてそんなのは虚勢だと自覚している。あの日、あの夜、初めて会いまみえた時に霧崎はもう負けて死んでいたのだ。ゆえに頭のどこか片隅で砥石の平坦を得るために二つの砥石をすり合わせるように、霧崎の剣術といえぬ未開のそれと、すでに完成されたヤシャの剣技を点検していた。エルトリア流に受け継がれ脈々と培われてきた型は恐ろしく完成度の高いシステムだった。だから霧崎九郎ではヤシャに敵わないと分かっている。よくて相打ち、悪くすれば死ぬ。いつしか霧崎が勝負に勝つことが増えるにつれ忘れていった常識が適応されるだけなのだ。真剣で殺しあえばまずどちらかは死ぬ。運がよく負けて生き残っても再起不能だ。

 ふと霧崎の背筋をさめざめとした底知れぬ冷たさを秘めた風が撫でていた。 


 切り合いは正中線の奪い合いである。

 切り筋を制御する。そう決めて、ヤシャは左小手の仮想円形防御帯に綻びを生んだ。向かい合う敵の技量を見切っての虚だった。それは技至らねば見切ることすら不可能な、技至ったならば見過ごせずにはいられない敵に対する信頼とでもいうべき攻防の始点である。とたんに堰き切った水のように霧崎が飛び込んでくる。予備動作が消え、松の木をも両断するその斬撃は防ぐも躱すも叶わない不可視(ひっさつ)の一撃のはずだった。

 トゥルン一帯において「魔」とは異能の総称だ。人には見えないものが見え、出来ないことが出来てしまう。そのような異能の者の社会的な識別として用いられた字名である。

 剣王が先をとる。不可視のはずの斬撃を予測の射程に捉え切り、交錯する間合いの内で剣王は神速を得る。降り来る致死の斬撃のその先へ。弓の弦が弾き戻るその内側へと。

 前左剣を跳ね上げ霧崎の斬撃軌道を殺し、左剣が盾なら右剣は役割そのままに対手の喉を斜め下から迎え突きに突き上る形。受けた刀を左胸の操作で崩し、喉に右剣を向けるまでは一挙動。

エルトリア流二刀「一角」。

 松の巨木を切り倒す怪物殺しの斬撃も拍子を奪えばそよ風と大差ない。あと寸毫、相手の喉を右剣の切っ先が貫くのを待つばかり------。

 

 超重力のような死の戦慄に霧崎は危うく行きかけた気を静めた。剣王の左小手に空いた絹糸ほどの隙はうつろ、水面に映る月そのままに抄おうとすれば冷ややかな湖水が指の隙間を通り抜ける。霧崎の構えが切っ先を下げた中段の構えに変わる。姿勢は互いに正中線を捉えて盤石。呼吸は驚くほど微かに消され、視線は彼我の間合いを探り合う。それすらも瞬きの出来事にヤシャが、来る。能面のように色のない顔を乗せた巨躯が縮む。ス、と下げられた切っ先は上体に隙を生む誘いの一手、だがこの間合いで動かねば霧崎は二刀に封殺される。

 間合いを積もる。

 確実に相打ちを狙える機に霧崎は踏み込んだ。中段の構えから円相を作る二刀の領域を制圧しながらヤシャの正中線に身を入れる。二刀のどちらかがわずかにもでも霧崎の攻撃へと転ずるならばそのまま刺突で相打ちを狙う腹だった。

 ぞわ、と背中の毛が逆さまになる。

 ダメだ。この二刀には敵わない。崩してから一刀同士の状況ならば勝てる?馬鹿々々しい。そんな状況があの二刀の円環のどこにある。願わくばヤシャの理論(かた)を学びたかった。

 ヤシャの剣技はその一手から必殺だった。一手とは僅かな体の沈みに由来する喉元の極微な隙で、コンマ一秒後から判断するとその隙は霧崎を誘う虚の一動だった。だが全方位的な圧力に耐えかねた霧崎はまんまとその一点に乗せられた。性急に過ぎる霧崎の入り身突きを待ちかねていたように交差したヤシャの二剣が柔らかにを制圧し、自らの正中線から刺突を外しながら霧崎の正中線に乗る。右剣一つで霧崎の返す刀を打ち払い、残る左の剣で霧崎の右腕を左剣で斬り払う。

 霧崎は背後に退いた。迅雷の体捌きだった。今まで前進して体が噓のように後退し、鴫もかくやの刺突が煙のように消える。どこだ?ヤシャの視界から霧崎の姿は消え、一秒前の右腕を狙う左剣はまんまと空を切り、では、やつは、

 ――――――どこだ?

「つ、」 

 僅か斜め手前。

 鈍痛及び心地よい衝撃がヤシャを襲う。

 とともにあるかげのように、霧崎の剣は、ヤシャの左剣の斬撃を追従し左腕を斬り伏せていた。

 び、っと剣風が体転する霧崎の鼻をかすめた。ヤシャの左腕を斬り伏せると同時に切っ先を撥ね首筋を切り開く。

 間をおいてぶばっと物凄い血煙が霧崎の視界を染め、数秒して根元から朽ちた木のように剣王はゆっくりと崩れ落ちる。たちまちのうちに乾いた砂地にあふれ出る血液は、剣王の心臓の強靭さを証明するかのように断続的に一定の量を保っていたが暫くするとそれも弱まり、停止()まった。

 ようやく呼吸が元の速度に戻る。霧崎は流れ込んでくる大量の吸気にむせて、思わずその場に膝をついた。まるで戦いを知ってから三日と経っていない戦士のありさまだった。

 烏の鳴き声に耳を打たれる。夏の日にさらされた累々の死体が物凄い臭いを発している。霧崎は倒れ伏すヤシャと、それからヤシャに切り捨てられた者たちの死体に目を向け、彼らの魂が彼らの信じる場所に行くことを祈った。

「ふぅ、」

 ようやく落ち着いてきた呼気が最後の一滴を零す。日の光と、暖かい風が霧崎の頬を撫でた。長い夜が明けたというのになんだか泣きたいような気持だった。

あのですね、まず全方位土下座をしますので許してください。あ、あの流派の技丸パクリじゃんwwっていうのが多分分かっちゃいますが、うん、SK流関係者さま勝手に使ってしまい本当に申し訳ない。なお、本小説は特定の流派最強説を唱えたりするものではなく、ただの出鱈目な創作であることをここに明記します。

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