それよりも大切な事。
タイトルを「ゴブリン最強伝説 霧崎」に変えようかなと本気で思案中。
事務所に美人の女の人が来た。
名前はフィーナとかいうらしい。
まあそんなことは別にどうでもいいことだ。最初の動揺も何処へやら、霧崎の頭は冷め切っている。彼女が来る前から美人の女の人(=セレナ)はいたわけだし、事務所で一週間も過ごすうちにいわゆる非人間的な美しさというやつには慣れてしまった。いくら霧崎が女慣れしていない童貞小僧であっても、朝の挨拶で一々脈拍を上げていては堪ったもんじゃない。山では気が付けば知らない連中が自分の洞窟にいるなんてことはざらだった。悪い人物でもなさそうだし、取りあえず事務所で暮らすならば暮らせばいいんじゃないと思う。
霧崎の体も、そう判断したのだろう。
だから、今更エルフの美人さん程度に良い意味でも悪い意味でもドキドキワクワクすることもなく、霧崎は事務所の床で目を覚ます。
床ではない。
床だ。
なぜだろうか。山で過ごした二年の内に、柔らかい寝台では落ち着かない体質になってしまったようだ。起きた瞬間から霧崎の体長は万全で今戦えと言われても平然とこなせるであろう程度には、出来上がっている。
「さテ、どうしたもんカねぇ」
部屋のすみに置かれた五つの生首は既に血も乾ききっており、床を汚すことは無かったがその代わりにもうかなり臭い始めている。暑い夏の、それも切り口から見て二日ほど経っている生首だ。こんなものを部屋の中に放置しておくのは健康に悪いことこの上ない。虚ろな十の眼窩に睨まれて三日と過ごせるほど霧崎は無神経な人間ではないのだ。
然るべき場所に持っていき、その道の専門家に処置してもらう。霧崎の流儀でいけば、この五つの生首達に胴体の代わりとなる人形を与え、山ブドウの酒で霊を鎮めたのちイチイの木の下に埋めることになっている。ゴブリンのシャーマン達に曰く、そうしないと悪霊ウン=ギブァとなって周囲に災いをなすのだとか。
この話を未開人の下らない会話だなどと一笑に伏す。そんなつもりは霧崎にはまったくない。ここは異世界、元いた世界とは法則が違う。魔術が存在するというのに幽霊は否定するというのも、なんだか話が合わない気がするのだ。霧崎自身も今まで殺してきた者達の怨念を鎮めるために左足首と右の肩甲骨の上に呪術的なタトゥーを入れているわけで。
とりあえず、冒険者ギルドに連絡を取ることにした。なんと言ったって一国の将軍の息子が殺されている。これは護衛を依頼された冒険ギルドの沽券にも関わる話だ。
切り口から見るに数日は経っている。ということは結構前に殺されているし、極秘裏に下手人と頭部の調査も進められていたのだろう。表立った騒ぎにならなかったのは、ギルドの情報統制の成果ではなく、たんにヤシャが表沙汰にしなかったというだけのことである。その気になればあの男は大通りの真ん中に堂々と戦果を並べることだって出来たのだから。
「……イや、」
待て待てそうではない。ギルドの武闘場で見たあの御一行。以下にも貴族的な雰囲気を漂わせていた。そんな奴らが殺されたのならば第一発見者の口がよほど堅い者でもない限り噂が広がるものではないか?
例え首から上が存在せずとも、身に付けていたものから何だか高貴なお方が殺されていた。オラそばに落ちていた簪拾っただ。これで上手いもん食うべ。そんな類の会話が、耳に入ってきてもいいんじゃないだろうか?
「と。俺はそういえバ、街に出ていないナ」
いけないいけない。これはあくまでもただの憶測に過ぎないのだから。
そう自制しつつも、しかし、霧崎の脳味噌はもう一歩だけその憶測を勝手に進めていた。
だとしたら、彼らは何処で殺されたのか?
考えてみればあのメイド長が一行の護衛には付いている。少なくとも霧崎の見積もりでは、ヤシャがメイド長に勝てるほどの腕の持ち主であるとは思えない。とまあ、そのことは置いておいて実際問題、殺されて話題にならない場所なんて霧崎の貧困な想像力では迷宮の中ぐらいしか思いつかないのだが、だとしたらギルドは殺されたことに気付いているのか?長期探索と計画を立てていたのならば、下手をしたら死体は残らず食い尽くされて、気付いた時にはもう遅いなんてことも考えられる。
これは不味い。
ギルドカードを取り出し非常用回線を連打。
「クっそ、繋がらネ」
回線が混雑しているのか?ならば仕方がない。
「ちょっト、コいつを頼ム」
扉を開けたら、たまたまそこにいたエルフにギルうドカードをパスする。
「え?あ、うん」
何が起きているのかさっぱりわかららないという風な彼女も、霧崎のアイコンタクトでなんとなく事態を把握したようだった。
「回線ガ繋がっタら、霧崎がギルド長に会いタいってことヲ上手く伝えておいテ」
それだけ伝えれば十分。頭のいい彼女なら何とかしてくれるだろう。
廊下に面した北側の窓を開ける。
此処は三階で、眼下には灰色と白の屋根の海。
窓枠に足を掛けて跳躍する。
アダムが明け方の街を歩いていたのは、朝食の魚を取りに行くためだ。この時期の魚は足が速く、貯蔵には適さない。冷却魔術の恒常発動した保存箱なるものが世には存在するらしいがこちらも庶民には手の届かない逸品である。かといて保存用とは言え肉は高価だ。毎日食べるわけにはいかない。
そこで魚釣り。海岸のほうは漁師たちの縄張りなので、街の中央を流れる河川に友人のケルビンと向かう。そんな日常のことだった。
「でさー、外部の奴らが扉の開け閉めに一々うるせーんだよ。もうジョンが切れちまって、昼休みに悪態ついてたら出禁食らっちまったんだよ」
「そいつは笑えねえ」
ぶらぶらと揺れる二本の竿先が明け方の青を掻く。本日は晴天、今日も一日暑い日になりそうだ。登っていく太陽と薄らいでいく月を見上げていると、不意に心に穏やかな静寂が訪れる。
「おい、アダムあれ見ろあれ!」
静寂が到来してから約十歩といったところか、アダムの静寂はケルビンの驚声に素早く反応して、指の指し示す方向へと視線を向けた。
「おお?なんだありゃ?」
見慣れない服を着た人間が、猿のように屋根から屋根へと跳んで渡る。その動作は迅速かつ的確。足場となる場所を探し出し、先へ先へと進んでいく。
「すげー。あれが噂に聞くヤーパンのNINJAってやつじゃん?」
「弟子入りしてあの技をならうか?」
「なんの、足滑らして首を折るのが関の山よ」
は、は、は、は、は、は、は。
二人の盛大な笑い声に、街の夜は明けていった。
最近ほかの人の小説に口出しをするなんて真似をしてしまいまして、やはり自分程度が他人の人様の作品にたいして、あれこれ言ってもいいものなのだろうかと思います。
でも書いちゃうというw




