新たな依頼
書き足し投稿です。下の受験が終わるまできつい。
金属鎧の擦れる音、階段を軋ませ往復する足音。
事務所に戻るとどうも様子が慌ただしい。霧崎が足を踏み入れると、一階ではトーレルとセレナが旅支度を整えて応接用のソファに腰掛けている。
霧崎に目をやった、二人がどちらともなく目で、こっちに来るよう合図を送って来た。
「俺達はこれから少し、南のリザードマン掃討作戦に言ってくるから一週間ほど留守にする」
呆けている霧崎に簡潔にトーレルが説明した。
「あ・・・、オレは?」
どうすればいい?まだ来て日の浅い街だ。そんなに詳しい訳でもないし、一人残されるのは心許ない。まさか刀の無い状態で戦場に赴く訳にもいかないのは、解かっているのだが。
「というカ、リザードマンの掃討作戦って、一体何ガ?」
霧崎の疑問に、ダークエルフが口を開く。
「今から三日前にリザードマンの勇者エギンガが、その王ハップトック三世に、大規模な反乱を起こした。ニ千の反乱軍は海岸沿いにこの街にまでやってくることがイザミ砦の防衛ラインで確認された」
「するト運河沿いに、こノ街にモ上ってくると?」
「そう。オリハルコンの城壁に囲まれていながらこの街の下にある迷宮は何処にでも通じているからな。まあ、国の依頼と言う訳だから、ギルドも無視できなくて、急遽私達が行くことになった」
そういうことだと、セレナは滑らかな曲線の肩を竦める。
「で、話は続くんだが・・・、この街に明日からこの国の将軍のガキが迷宮に実戦を積みに来るんだよ。まあ、一週間しかいないんだけどな。それで各事務所から護衛を出すことになってて、悪いけどお前にはそれをやってもらう」
「それなラば、リザードマンの掃討作戦に将軍ノ御子息が行けバよいのデは?」
将軍という職務上、迷宮で戦う事は、まず無い。それなら大人数が戦う様を遠くからでも眺めて、その戦模様を後学の足しにした方が余程身になるんではないかと、霧崎は思うのだが。
「まあな」「そうだな」
ダークエルフと巨漢は苦笑して、霧崎の意見に同意した。
「といウか、護衛を雇って迷宮探索シて、実戦もクソもねえだろうに」
それとも護衛が手足を切り落とした獲物を殺して、御見事でございますという賛辞でも貰いたいのか。
「あ、それは違うぞ」
トーレルよりも先にセレナが答える。
「なんでも、最近は腕利きの暗殺者に狙われているという噂でな。権力争いの成り行き上そうなったらしい」
「いや、そレだと外部の者はナお更・・・」
「いや、そこで御子息を餌に使おうという話だろう。我々外部の者なんて、向こうも鼻っから当てにしてないのは護衛を見れば一目瞭然だよ」
そう言って、セレナは机の引き出しから一枚の紙を取り出した。双頭の竜の印が押された冒険者ギルドの依頼書で、剣士や魔術師など、護衛の役割と似顔絵、名前が乗っている。
「準魔剣級の剣士一人に、空力魔術の導師が一人。剣士の方はスルト、魔術師の方はイタカという。どちらも腕利きだし、将軍家に代々仕えてきた家系だ。それと、」
もう一枚、続きの紙をセレナが取り出す。
「地上最強ノメイド長?ナんか、一つダけ異質な役職が・・・」
「うん、この人がいる以上、準戦略規模の竜が来ても大丈夫だ」
どこか疲れたように、ダークエルフは息を吐き出した。その隣で巨漢が笑いを堪えている。
「トーレル、どうしタんだ?」
「ああ、この人はな・・・くくく、」
「トーレル」
静かな威圧を秘めたダークエルフの声を無視して巨漢は続ける。
「セレナの伯母さん、なんだよ」
「会うたびに、毎回毎回お説教・・・勘弁してほしいよ」
滅多にないダークエルフの苦笑い。霧崎の想像によると、そのメイド長はゴブリン師匠とセレナさんを足して二倍にしたような怪物で、きっとナイフ一本で生きたままの竜を解体したりするのだろう。
「なにか聞かれるかもしれないが、セレナは元気でやってます。とだけ伝えておけばいいからな・・・」
後半の力無い言葉に、ふにゃっとした人差し指を突きつけてセレナはその話題を締めくくった。
「それじゃ、これが生活費な。最低限しかないから後は自分で稼げよ」
そう言って、出発間際にトーレルが手渡してきた麻袋に違和感。麻袋の裏に何かある。感触からしてメモ帳ぐらいの紙だろう。
霧崎の疑問の眼差しに、後で読めと巨漢のアイコンタクトが帰ってくる。後ろめたい文章で無ければきっと、セレナがいるときに渡しただろうから、これは男の友情に関する話なのだろう霧崎は理解する。
「・・・ありガとウございます」
「おう、じゃあな」
「留守は頼んだぞ」
それだけ残して、二人はまるで当たり前のように、戦場へと出かけていった。
午後の事務所には静けさだけがあった。霧崎の体は来客用のソファーに預けられ、護衛依頼の説明書を持った右手は力無く、ソファーから垂れさがっている。
「ううううう、」
うめき声を上げ、少し遅れた衝撃に霧崎の意識が覚醒した。木張りの、土で汚れた床が目線に限りなく近づいている。寝返りを打った先は運悪く右手の側だったらしい。
「・・・わっとたいむ、いずいっとぅなう?」
呟いて、ギルドカードの時間表示を覗くと、トゥルン語で十三と二が見えた。午後一時二分。確か、護衛の打ち合わせは午後四時からで、まだ三時間近くあり、場所も冒険者ギルド本部なので確認に行く必要が無い。
いまだ眠気の醒めない霧崎に、音は唐突に鳴り始めた。いい音では無い。石と木をを連続で叩きつけるような不快な音だった。
「ナんだ?」
近くに置いたはずの木刀を探る手が止まり、聴覚が音源を探ることに集中する。
「三階カ?」
万が一のために「竜の爪」を抜刀。足音を殺してかつ、素早く階段を駆け上る。だが、生き物の気配は感じない。本当に無機質な打音が連続しているだけである。しかし、それは安心に繋がらない。生きてい無くとも動き、人を襲うモノなど、この異世界には幾らでも存在するからだ。
「ナんだ?」
霧崎は再度疑問を口に含む。音の方向からして、その源は霧崎の部屋だ。
「オニが出るカ、蛇がデるか」
いつものように木製のぼろ戸を押すと、やはり何もおらず、ただ妙に高級そうな机の上で金細工の蜻蛉が同じく金属製の翅を必死に机に打ちつけていた。
なんだい、こりゃ?
金細工の翅は触れれば金属さえ切断できそうな高速振動で、必然的に霧崎は蜻蛉の尾を掴むことになる。
ぶうん、と翅が大気を振るわせた。
「・・・タナ・・・キタ・・・・・・。カ・・・デ・・・カタ・・・デ、・・・、タ」
「ああん?」
首をを傾げる霧崎に反応したのか、しだいに音は明瞭にそして生々しいモノへと変わっていく。
「あア、刀出来タね」
納得した霧崎が手を放すと、蜻蛉は窓から空へと消えていった。
それは鍛冶屋からの無駄に高度な技術を使った、短いメッセージだった。
「窓ガラス割レてやがる」
そして、迷惑なこの上ない、無駄な置き土産も残していった。
本当にこちらの都合で申し訳ありません




