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異世界でも強いだけでリア充出来る訳じゃない  作者: 脱力呼吸法
第2章 赤の迷宮と骸骨達の騒乱
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無職剣聖、一ヶ月後には本気出す

なんか、すいません。

 朝露と訓練場の砂の上で霧崎は目を覚ます。こう書くと、力尽きて倒れていたような印象があるが、そうではなく霧崎は立ったまま、木刀を構えたまま、水鳥の様に就寝していたというのが本当のところである。

「また、お前さんか」

呆れたような老管理人の声が寝起きの頭には響いた。

「イやぁ、楽しクて、つい」

「まあ、解からんでもない」

霧崎の発言に頷く老人も元は剣人、実戦を求めて迷宮に来た冒険者の一人だった。その後紆余曲折あって、この訓練場の管理を任されるにいたったが、長くなるのでその話は割愛する。

「それじャ、オレはこれデ」

「ああ、また何時でも来い」


 さて、訓練所を出たところで、これといった定職が在る身という訳でもない霧崎が、暇潰しにでも冒険者ギルドに顔を出すことにしたのは、登録が消されるのを避けるためでもある。

 しかし、おもしろい。

中央の通りを抜けてすぐ、ど真ん中にほかの役所を押しのけるように立つのが冒険者ギルドだ。木製のスイングドアを抜けた先には、簡易な酒場とも見えるロビーがあり、そこで冒険者達はたむろしている。

 いましがた戻って来た血と下水の匂いを放つ者、はさすがに存在しないが今にも殺し合いを始めそうな、ヤバそうな雰囲気を放っているものもいる。

 おもしろいことに、実力者達、A~B級の奴は大体ロビーの奥におり、中間層C~D級がやはり真ん中、出入口に近付くほどに雑魚が増えていく。

 もちろん、霧崎はE~Fの雑魚なので出入り口付近に陣取った。食事を出してくれるマスターが出てくるのには、まだ一時間ほど空き時間がありそれこそ暇潰しに掲示板でも眺めることになる。依頼等が書かれた紙が貼りつけられたその木の板は、霧崎のいる出入り口付近からかなり離れた場所にあるのだが、霧崎の目には問題ないようだ。だが、人集りが邪魔なので、やっぱり見に行くことになった。

「エーと、赤の迷宮で新エリア発見。第八層を東に二日、竜紋のアる入り口が目印ト」

中々面白そうな場所だが、今は主装武器が無いため行く気にはならない。戦場というのは、もし充分に時間があるのであれば、万全の態勢を整えて赴くものである。というか歩いて二日も掛かる場所なぞアイテム運搬用のゴーレム無しに行けるはずが無いのだ。

「おお、霧崎。久しぶりだな」

声の方を振り向く、なんだ、ただのヤフタレク(イケメン)か。

「そういうな、ところで剣は直ったか?」

「一ヶ月後だナ、それまで無職剣聖ッテところだ」

「・・・そうか、新エリアを目指そうと思って、誘ったんだが」

ヤフタレクの憂いを帯びた瞳が向けられるが、残念。それが通じるのは女だけである。むしろ同性には不快なので即刻止めるべし。

「まあ、飯でも食おうぜ」

「嫌ダ」と言うのは簡単だが、まあ付いていかんでも無い。そんな趣旨の事を遠回しに伝えて、一旦ギルドを後にすることになった。


「しかシ、コンな朝早くからやっている店ガあるノか?」

霧崎の問いを、いやとヤフタレクは頭を振って否定する。

「ユルトの家だが」

「・・・ツかぬ事をオ聞キするが、全員集合カ?」

「全員?」

やはり、この男は分かって無いのかもしれない。あるいは、俺が勘違いしているのかもしれないが、

「ヤフタレク、ユルト、アステリアの全員ダ」

「いや、俺だけ呼ばれた。なあに、ユルトはそんなことで怒ったりしねえよ。多分量も十分以上に用意されてると思うし」

「オ前、いつか後ろカら刺サれルな、間違イ無い」

というか、刺されろ。

「既に経験済みだ。冒険者になったのは、鎖帷子を常時装備出来るから、というのもあるしな」

霧崎の予想以上に、冒険者になった理由が軽薄だった。しかし、そのとばっちりを食うのは御免である。

「いや、大丈夫だってホント」

何を根拠にそんな自信が湧いてくるのか知らなかったが、でもまあ、女の手を握ったことのない俺よりも、ヤフタレクの方がよく知っているだろう。そう霧崎は判断しする。餅は餅屋に、剣は霧崎に、女のことはヤフタレクに、そう言う事なのだ。ただ、ヤバい雰囲気がしたら、さっさと逃げ出す心の準備をしておいた方が良さそうだった。


 「なア、やっぱりオレは帰るヨ」

 冒険者ギルドから歩いて三十分、石造りの無個性な家の前で、霧崎は戦友に背を向けた。

「ま、まて。ここまで来て帰るのか?」

「ゴブリンの言葉ニ、君子危うキに近寄らずとあル」

すまん、と心の中で謝罪して重心の落ちた無駄のない歩法で、

「待ってくれ、大丈夫だから」

「本当カ?」

「本当だ、あいつは料理が趣味だと言っていた」

前にアステリアと食べたこともある、との言に霧崎は一旦安心する。しかし、そうすると今回アステリアが呼ばれてないのは何故だ?

「いヤ、それって威嚇ジャないのか」

なに、とヤフタレクの顔が硬直した。そして、少ししてぽん、と手を打つ。おそらく頭上には豆電球が灯っているのだろう。

「じゃ、ソう言う事デ」

 納得した様子の偽英雄を背に、霧崎は元来た道をギルドへと引き返して行く。



 


次回は、この世界の魔術についてやります(断言)。

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