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異世界でも強いだけでリア充出来る訳じゃない  作者: 脱力呼吸法
第2章 赤の迷宮と骸骨達の騒乱
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剣話、日常

修行描写を期待していた人、ごめんなさい。どうもそのあたりの話を書くと原稿が消えるので止めました。

河原での修行を終えて、霧崎が帰宅したのはもう辺りも暗くなった頃である。夏だから相当遅い時間帯に入るのだが、しかし、未だに街の灯りは消える気配を見せずに、昼間の熱が残る石畳を、淡く照らしている。

「・・・帰ったゾ」

とくに帰ってくる返事もない。この事務所に出入りするのは自由、そしてお互いに必要以上に干渉しない。これが馬車の中で聞かされたルールだった。

 木製の、築何年かもわからないような傾斜のきつい階段を上り、着いたのは最上階の三階。余分な木刀一本を部屋において、二課の食堂に向かうと、出しっぱなしのフライパンが、炉の上に置かれていた。

「都合がいイ」

呟いて、戸棚から霧崎の腿に等しい大きさの腸詰め肉を取り出す。

 「竜の爪」を一閃。

切り落とされた肉をフライパンに乗せ、炉に火を入れる。ここの炉は霧崎の元いた世界のものと、似ている。

 中心に置いたオリハルコンが、周囲の軟アダマンタイトに同心円状に魔力を伝導し、その抵抗の際に生じる・・・この先は長いので以下略。魔術師の話は理解しがたい部分まで、丁寧に話すので逆に分かりにくいという逆説的な現象が起こる。

 要するに電熱みたいなものが生まれて、それは台横のひねりで調節できると、それが分かれば十分だ。

 同時に玉葱とジャガイモのスープも火にかけ、二つを待つ間にチーズと、パンを切り分ける。どっちも固いので躊躇わずに「竜の爪」を使った。剣は戦士の魂だとか、そんなことを言う奴もいるが、しかし「竜の爪」は武器ではなく生活用具、これ一本で枝を払い、ウサギを解体し、キメラにも立ち向かう。師匠に貰った免許階伝の証といえどもその用途は変わらない。

 「竜の爪」を振りまわしていると、スープと肉が焼けたので黙々と皿に盛り、黙々と食事を終える。

 さて、食事を終えたら、また剣を振りに行こう。


坦々とした日常、いつものように冒険者ギルドの訓練場に行き、夜通し剣を振り回して、朝露に目を覚ます。本来、冒険者訓練場の使用は、夜中の八時までだが、霧崎には特別許可が下りている。何のことは無い、訓練所の前で夜通し剣を振り回していたら、勝手に許可が下りたのだ。

 まあ、そんな役員のご厚意に甘えているわけなので、刀の戻った日には、迷宮で一番美味いと噂されている、キングロブスターでも持って行ってやろうかと、そんなこと考えていると、

「おい、お前」

女の呼び声がする。よもや、自分に向けられた気を無視できる訳もなく、けれども因縁でもつけられたらめんどくさいなと、大儀そうに霧崎は声の方に体を向けた。

まったくもって陶然の事だが、女がいた。背丈は霧崎と同じくらい、腰にはロングソードを帯びており、右手に持った木剣は肩に置かれているためこちら側から長さは分からないが、柄の長さから腰のものと同じ程度と推測でき、また、服に隠された体がそれなりに鍛えている事が、剣人たる霧崎には良く分かる。ここで一つ、いい体してるな。という言葉を思いついたので言ってみようと思ったが、しかし、その手の賛辞は得てして女性に不快を与えるので、止めておいた。敵をむやみに造るのは賢なる男のすることではないと、考えたからである。

 長くなった。とりあえず霧崎九郎が訓練場の前で、女に声を掛けられたという事である。

「驚かないんだな」

男のような口調で、嬉しそうな声色で、女が言った。まあ、たしかに中々整った顔をしているが、セレナ=アルバを見慣れた霧崎には驚くに値しない。

「そういうことじゃあ、ない」

ならば、どういう事なのか?木刀を持って、既に動ける状態にある霧崎が恐れるものなど、少ししかないし、女の剣の腕はその「少し」に属さない。

「アー、随分面倒臭いナ。腕試シ?」

そうだ、と女は頷いた。

「先日、お前にエルトト流の男が挑んだだろう。ライバルが倒されたと聞いて興味が湧いた」

 何故不意打ちをしない。

 霧崎には女の心情が分からない。それはきっと剣に対する価値観の違いからくるのだろうが、しかし霧崎は不意打ちしてもよいと、以前挑んで来た男に公言した覚えがある。果たして侮られたのか、それともそういうのがこの辺り流儀なのか。

 なんにせよ、甘い。けれども、まあそういうルールが存在するのは、ありがたいと思う。

 「そレじゃ、ヤるか」

 返事は待たない。お茶にでも誘うような調子で、一切手加減の無い上段切りが斬り込む。木が木を叩く甲高い音、受けに回った女の木剣は剣身中程から、綺麗な切断面を見せていた。霧崎の木剣は女の頭を西瓜の如くかち割って一向に止まることなく、腰骨の辺りまで両断。とそんなことはせず頭の少し手前で止めたが、きっと今頃、女の尾骨を冷たい汗が流れているだろう。

 言葉も無くうなだれて帰路に着く女を見送って、夏の夜気を切り裂く月光の中で霧崎はいつものように、剣と戯れ始めた。

 

主人公ずるいとか思ったりして。

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