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異世界でも強いだけでリア充出来る訳じゃない  作者: 脱力呼吸法
第2章 赤の迷宮と骸骨達の騒乱
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大蛇の牙

受験終わった、がんばります。

 殺気、そう評するには生ぬるい、霧崎九郎を襲ったそれは強いて言うならば嫌な予感だった。とはいえ、その位のものは森での生活で慣れたものである。しかし、平和な町中でそれを感じるというのは一体どういうことだろうか。午後の海辺の町特有の、ねっとりとした空気。肌に絡みつくような夏の熱気。

 「トーレル、」

「ああ、分かっている」

巨漢の剣士は野人の言葉に頷いた。気配は間違いなく、自分と嫁の経営する事務所から漂ってくるものだ。さては、昼飯を外食したのが悪かったのか。

 無いな、それは無い。

トーレルは自分の言葉を、首を振って追い払った。セレナ=アルバは、自分が言うのも何だが、わりとずぼらな女だ。魔術にしか興味の無いダークエルフと剣術ぐらいしか取り柄の無い巨漢。なぜくっついたのか未だに良くわからないでいる。お互いあまり一緒に居ることは無い。ただ、その一見淡白とも言えるような関係が、関係しているのかもしれない。五年間暮らしていて、その程度の仮説が立つぐらいだ。

「お前の、嫁ダからな。ナんとかシろよ」

 ああ、と巨漢は胡乱な声で返事をした。こいつ大丈夫か、と霧崎は巨漢の(いわお)の様な顔を覗きこむ。そこに表情はない。

 不安である。嫌な予感が野人の本能を刺激する。だが、巨漢の足取りはいつもと同じ様、巨体の体重を感じさせないほど滑らかで、軽やかに動く。

多少の不安は残るものの、霧崎はこの剣士の「武」を信じることにした。

 一階の扉がトーレルの手によって開かれる。まだ昼だというのに暗闇を宿したその先は、おそらく虎穴。

 だが、入らずんば、虎児を得ず‼

いつもと変わらぬように巨漢は事務所に入り、そして、キイイイィと不快な軋みを上げながら木製の扉が閉められた。

 後には静寂だけが残る。


「・・・・・・」

家内安全を祈る霧崎はその場でモゴモゴと般若心経を読み上げることにした。


 般若心経を読み上げたのが一度、これがおよそ三分。さらに呼吸を数えること五回、霧崎はゴブリン流の呼吸法が身に付いてるので、吸って吐いてで、約二分かかる。経過した時間は十三分と数秒と言ったところか。事務所の中は最後の最後まで静かで、ゆっくりと巨漢が開ける扉の軋みによって、ようやく沈黙から解放された。

「入れ」

端的なトーレルの言葉には深い安堵が在った。

よかったと、霧崎も胸を撫でる。

 やはり「武」は平和をもたらすために在りたいものだ。


 そう、この時、霧崎は既にことが終わったものだと、錯覚していた。

「霧崎、大蛇の牙をくれ、いやくださいよこせ」

「・・・ま、待テ、ドウいう事だ」

ダークエルフの女の熱烈な要求を押し止め、、壁に寄り掛かる巨漢へと顔を向ける。

 あ、逸らしやがった。

だが良く見れば、トーレルの手は胸の前でぴたりと合わせられている。異世界でも、人にものを頼む時は合掌するようだとどうでもいい知識を取得。

「いや、火竜倒したけど牙が全部盗まれていたんだよね、でも、ドラゴンウォリアー造るのに必要なの。だから大蛇の牙で代用できるかもしれないから下さい」

早口のトェルン語で話しかけられて詳細は理解できなかったが、大体の見当はついた。

 別に大蛇の牙はあげてもいいと思う。ただ、貰いものだし、やはりこれをくれた奴らの期待に応える必要もある、と思う。けど、家に住まわせてもらっているという恩義、引け目も感じている。

「ジャア、五本で」

そうすれば、霧崎の手にもまだ五本残る。

「おお、ありがとう。これで代替式と付与物質を使えばドラゴンウォリアーが出来るはず・・・、トーレル、霧崎、お前達も来い!」

目を子供のように輝かせ、珍しく階段を鳴らしながらダークエルフは二階の自室へと向かった。向かっていった。

「霧崎、・・・すまん」

「いヤ、大丈夫だ、ガ、上に行った方がいいノかな」

「・・・ああ、珍しいものが見れるかもしれない、大抵大騒ぎになるが」

はあ?と霧崎が顔をしかめたので、一応トーレルは訳を話すことにした。

「七年前までは、俺は首都の学園に居たのだが・・・」

学園なる不思議単語が霧崎の耳に入ってくるが、まあいいものとする。ちなみに、この場合の「いい」はどうでもいいの「いい」に相当することは言うまでも無いだろう。別に、異世界に学園があってもいいと思う。セレナはともかく、トーレルは見た目からして剣の先生でもやっていたに違いない。

「・・・俺は当時十八歳だった。セレナは「ちょっトまて」・・・なんだ?」

「いヤ、あの二十五にシテは随分・・・大人びテいるな、と」

「老け顔だという自覚はある。それと、ほっとけ・・・。で、セレナは当時、薬学と魔術理論の先生をやっていた・・・」

トーレルの茶色い目が天井を見上げる。きっと、そのころの青空を見上げているのだろう。

「ある時、実験で成体の屍竜(ドラゴンゾンビ)を作ってしまってな」

なぜだろう、楽しい学園生活の話のはずなのに、霧崎の頷ける余地が無い。

「当時の四騎士長と騎士団、学園の学長、すでに準魔剣になっていた俺も加わって三日三晩戦い続けた。夜中が真昼に見えるほどの激戦だったな。死者が出なかったのは、本気で奇跡つってもいいな」

ふう、とトーレルがそこで一息つく。霧崎の方はと言えば、意味が分からないが、とにかく凄いという事は分かった。そんな状態だった。

「・・・んで学園は全壊。事の発端であるセレナは大戦の英雄とかいう理由で縛り首を免れるも学園を追放された。当時の俺は縛り首にしちまえとか、思っていたがな。そして二年後、冒険者に成った俺はセレナと再会したと、」

「デ、毎日イちゃチャして、人生が楽しいですと」

霧崎の意見に少し異を憶えたが、巨漢はながした。

「まあ、そういうことだ。悔しければお前も相手を見つけろ」

「無理ゲーっス」

霧崎は即座に自らの基本性能を反芻し否定する。

「そんな霧崎に情報。異種族は案外狙い目かもしれない。やつらの美的感覚はやっぱり人間とは違うからな。・・・ってお前に言うまでもないか」

「エルフトか、ウォンディーヌとカ、シルフとか・・・・・・」

霧崎はすでに妄想を開始していたが、巨漢それはどうかと思う。

「いや、ゴブリンとかオークとか、コボルトとかオーガとか」

「ぐハッ‼」

ダメージを受け野人が膝から崩れ落ちる。

「早く来いーーー」

何時まで経っても上がってこない男達に痺れを切らしたのか上空からセレナの声が降り注いだ。立ち上がれない霧崎をおいてトーレルは上へと上がっていった。

 一階に残された霧崎は二階からの楽しそうな二人の声を聞く。幸せそうな奴らだなと。

同時に、魔剣とか人を何人斬り殺したとか、そんなことは人生においてあまり重要なことじゃないのだろうと想った。

 だから、

「・・・異世界でも強いだけでリア充出来る訳じゃない、か」

呟いて、一人床に転がる霧崎は口元を歪めた。

短いけど手抜きは無い。最終回じゃないですよ?最後のこじつけ感が酷いけど。

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