新たなる刀
先日書いた、最後の文章すいませんでした。もう二度と投げやりに書いたりしません。
刀が折れたことを十分悲しんだと思う。という訳で、ここから先の霧崎九郎は、例えるならば喜びの舞。
刀は折れるべくして、折れたのだ。そのことで悲しむ必要はないし、むしろ天寿を全うしたのだから、二胡を弾いて称えるべきだろう。
見事!ビバ!ハレルヤ!般若心経で言う処の、不増不減と言うやつだ。
しかし現状を肯定するのにここまで考えなきゃならないという事は、自分もまだまだ悟りに程遠い存在だ。
もっと早く。もっと獣のように端的に。
この世界で生きて死ぬことを受け入れる。
即ち、自然に帰ること。それこそが霧崎の目的みたいなものだ。
まあ、折れた刀身は回収しておくのだけども。
南の三の口、冒険者からそう呼ばれる迷宮の出口から出ると、既に空は赤く染まっていた。古の城壁は、何時か霧崎が見た光景のようにオリハルコンの壁面を赤く、炎のように、一色に染め上げている。
「・・・今日も、無事に生きて帰れたな」
ヤフタレクの呟きにユルトも、アステリアも笑って頷いていた。霧崎には見当がつかないのだが、よく傭兵は夕陽を嫌うという。それは生きて帰れるかも判らない道の標そのものであり、また自らがその過程に存在し続ける死への恐怖と、生への渇望を分かちがたく認識させるものだからなのかもしれない。
彼ら冒険者はこの夕陽をどんな風に眺めているのだろうか。
「・・・まあ、とりあえず今日は生きてるし酒場で酒飲もうぜ。大物も仕留めたしな!(霧崎が)」
「その前に、ギルドに報告ね」
「へい、姉さん」
斧槍を担いだ虎人に剣士がふざけて頭を下げる。
「・・・・・・お風呂」
「そうだな、血ぃ落とさねえとギルド入れねえし」
何と言うか、すでに霧崎が会話に入り込む余地がない。
「霧崎も来るよな?」
だから、ヤフタレクからの誘いがあった時は正直に言って救われる様な思いをしたものである。
さて、風呂も終えて、ギルドへの報告も終えて。
現在、四人の冒険者がギルド一階の机を囲んでいた。四人が座るにしては狭いテーブルの上には、金貨十枚の詰まった袋が堂々と鎮座している。
ちなみにこの世界では金貨一枚が銀貨八枚。銀貨一枚が銅貨八十枚といった勘定である。そしてさらに、調整用通貨として、金月、銀月、銅月という二分の一貨幣、金片、銀片、銅片という四分の一貨幣も存在する。
そこから分かる通り、この地方では月と言ったら半月を指すのが一般的である。
それはともかく。ここからは、あまり霧崎の好きな話になりそうになかった。
いや、そうでは無い。霧崎の存在が問題なのだ。この集団の新参者的で、かつ今回の報酬に深く関わっている。迷宮の中で・・・、報酬はいらないとか言ったが、しかし刀の修理に金が必要になったなどと、今になって言うのは男が廃るというものだろう。
トイレに行くふりををして、事前に財布を眺めたところ、金月五枚に銅貨三枚、銅片十枚。
「・・・コんなコとなら、武器の相場聞いておケばよかっタな」
突発的な過去の独り言思い出し、頭を回すこと数分、霧崎の方針は決められた。
「さて、報酬の分け前についてだが。・・・霧崎お前がトイレに行っている間に決定した」
ヤフタレクはそう宣言して、机の上の黄金の山を崩す。机の上を滑って霧崎の前に置かれたのは、二枚の金貨だった。初っ端から霧崎の方針が崩れる。
「・・・いイのか?」
馬車の中でセレナに聞いた話では、金貨一枚で一カ月は暮らせるという話である。
「これだけじゃない」
足下のアイテムポーチから、ヤフタレクの手に束ねられた乳白色が取り出され、霧崎の前に差し出される。
「・・・大蛇の牙だ。五本を売れば武器の調達代としては充分だろう」
いかん。善い人すぎる。そのまっすぐな目で俺を見るな!
右を見る。虎人に睨まれ目を逸らす。
左を見る。無口美少女のジト目に顔を背ける。
なんと言う視線圧力!
そこから察するに、これは遠慮しろという霧崎宛てのメッセージだろう。
「金貨一枚は返ス。迷宮を案内シてもらっタからナ」
それに、そうすれば三人で三枚ずつ分けてきりも良いし。
「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」
あれ無言、不味い怒らせてしまったか。
「・・・怒らセテしまっタら、ソの、すマない。オレはココに来タばカりで風習に疎いンだ」
周囲の喧騒から切り離された静けさのなか、再びヤフタレクが口開き、
「・・・いや、いいんだ」
「タレクッ!」
虎人の諌めるような声を再び戦士は制して、
「まあ、また気が向いたときに声を掛けてくれ」
その後、霧崎は酒場「ヴルトゥームの夢」で酒を飲んだが、あのやり取りが気懸りで、あまり美味い酒を飲めずに一日を終えた。
あとで、セレナに聞いたところ貨幣を二枚、初対面の冒険者に渡すのは「これからもよろしく」とかそんな感じの意味があったらしい。
「・・・ここはさ、俺の行きつけの武具屋なんだよね」
迷宮探索から翌日の事である。霧崎から事情を聞いたトーレルは、自ら案内役を買って出た。セレナはセレナで冒険者ギルドに火竜討伐の報酬を受け取りに行くので、暇潰しだろうとダークエルフはこれを評する。そのセレナもなにやら邪悪な笑みを浮かべていたが、朝食の時に耳にしたドラゴンウォリアーなる呟きの事だろうか。
恐いな。ああ、恐ろしい。二人して呟きつつ、歩く。剣術においても人生においても相当な大先輩であるトーレルがいるので幸いなことに話の種は尽きない。
「・・・そう言エば、火竜なンていツ討伐しタんだ?」
ああん、と巨漢は不思議そうに首を傾げた。
「言ってなかったけか?」
「うム」
「たしか、初日だ。ゴブリン戦の前に俺とセレナが馬を降りただろ」
言われてみれば、初日の喧騒の中で、火竜なる単語が錯綜していた記憶も霧崎の海馬に存在する。
北の職人街の奥深く、市内を二分する大河からはどんどんと遠ざかって行き、表通りを離れた裏通りの、堅気の近付かないような深奥のさらに奥。迷いの無い足取りで進む巨漢の後を必死で追いかけていた霧崎には、いかなる経路を通って来たのか定かではないが、煉瓦造りの無個性な家の中の一つをトーレルは得意げに示していた。
「・・・ここはさ、俺の行きつけの武具屋なんだよね」
「・・・別に、二度言ウ必要はないト思うノだが」
「重要な事だからな」
そうなのかー。感心して見せる霧崎の態度が巨漢の癇に障ったらしい。
おっと、剣に手が。奇遇だナ、オレもナイフに手ガ。
両方から殺気が噴出。塀の上で日向ぼっこをしていた猫が悲鳴を上げて逃げ去っていく。
「ワシの家の前で騒ぐな、殺すぞ?」
両者の間合いに割って入った声に、魔剣級の剣士二人が虚を突かれて立ちつくす。
「遊びだよ、ご主人。気にするな」
「そうソう、殺すナら背後かラ黙って刺ス」
硬直は一瞬の事で、常人どころか練達の剣士にも認識できない速度で、二人の顔には笑顔、右手は互いに永遠の友情を誓った親友の如く固く結ばれている。
「・・・まあいい静かにしてくれりゃあそれでいい」
それほど、武具屋のオヤジには迫力が備わっていた。年季の入った禿げ頭には、洗っても落ちない煤が積層に重なり文様を描いている。長年にわたって炉を睨み続けていたせいか、目は火炎が焼きついたような緋色をしていた。
昼だというのに店内は薄暗い。カウンターの向こうの壁に武器が置いてあるのは、恐らく盗難防止のために違いない。
「・・・それで、今日は何の用だ?」
くぐもった、不機嫌そうなオヤジの声。動かない部位を無理矢理使ったような発声だった。
「トーレル、・・・お前さんの剣は、大丈夫だよな。・・・ったく一年前に打ち上げて以来刃こぼれ知らずたぁ、鍛冶屋泣かせだぜ」
「オヤジさんの剣が良い剣なんだよ、だけど火竜を斬ったからな、少しガタが来てるかもしれねえ」
診せて見ろ、大丈夫じゃねーか、バカめ。声とは裏腹に、愉快そうな様子でクレイモアがトーレルに叩き返された。
「ふん、・・・つーことは、」
ギロリと、竜を想わせる緋色の視線が霧崎を捉える。それは山、猛獣と相対した気配と酷似したもので、ゆえに霧崎は一歩もひるまずに視線を返した。
かか、とオヤジの唇が歪んだ。
「・・・良い殺気、いい度胸だ。名前は何と言う?」
「・・・霧崎、九郎ダ」
「その腰の剣だろう、見せてみな?」
黙って、相手の様子を窺うように霧崎は、
「そう、警戒するな」
いつのまにやら、霧崎の手に在った刀はオヤジさんの武骨な手に奪われている。脱力する霧崎の意識を戻すように、とん、とトーレルの手が霧崎の肩を叩いた。
「・・・すごいだろ、此処のオヤジ」
「・・・あア。・・・化物ダ」
驚き呆れる二人を他所に、鍛冶師は優美さえ感じさせる動きで折れた刀身を様々な角度から検分していた。
「・・・これは、修復不能だな。折れる以前の扱いが酷過ぎる、が、面白い事に半年前ぐらいからか、切れ味が壊滅したあたりから殆んど疵がねえ。皆無と言っていい」
「・・・マジカ」
「ああ、マジだ。だがお前さんは運がいい。幸いなことに俺はこの「刀」というモノの、打ち方を知っているからな。・・・一カ月待てばいいのを打ってやるよ」
「ありガとウだぜ、オヤジさん」感謝の言葉以外の言葉が無い。
「・・・ふん、お前さん、ちったぁマシな剣士の様だからな、近頃は簡易魔剣なんていう物が増えて困る」
簡易魔剣?なンだ、それハ?
「あんたにゃ、関係無い事だ」
そう言われてしまえば霧崎には返す言葉なんて無い。んじゃ、帰るか。そうするべえな。ということになる。
「おい、フィエナ魔道具持ってこい」
オヤジさんの声に足を止めて振り返ると奥から可愛い女の子の姿が、
「馬鹿ナ、これガあのオヤジさんと半分ぐライ遺伝子を共有しているダと!」
「・・・ああ、一種の怪奇現象だよな」
霧崎の驚愕にはトーレルも完全同意らしい。
お前らうるさいぞ、とのオヤジの声に恐れをなして、しかし丁寧に幼女から「導きの魔具」(後でトーレルに聞いた)を受け取り、半ば逃げるようにしてその店を後にする。
霧崎が新しい刀と対面するのは、もう少し後の事になりそうだった。
「後は、なにかあるか」
職人街の表通りに出た辺りで、太陽は未だに中天にある。丁度お昼時なのか小休止を設けた職人達が通りをふらふらしていた。中には行きつけの場所が決まっているのか、迷い無い足取りで店の扉をくぐっていく者もいる。
「後ハ、・・・アー木刀だな」
陽気に当てられて思い出したのだが、たしかどこぞの河原で剣術の指南をする約束を憶えがある。そして、それ以前に霧崎も木刀が欲しいと思っていたころだ。山にいた時も試みたが、結局大したものは作れなかった。
そういえば、師匠は元気にしておられるだろうか。霧崎の視線が腰に下げた「竜の爪」に落ちる。全長四十センチメートル、横幅は最大で六センチメートル。先に行くほど細くなっていく刀身はそれなりの厚さが在り、ナイフというより山刀と表すのがふさわしい。
「まあ、とりあえず飯にしようぜ」
巨漢の声が霧崎を街の喧騒に引き戻す。
「あア、悪イ。考え事をシていた」
「つっても、俺もこの辺りは詳しくないからな・・・」
まあお互いの共通意見として人の多いところは喧しくて嫌だ、というものが出たので魔剣の勘を頼りに店を選んだ。トーレルに言わせればこういう時は最初に選んだ店が良いと言う。霧崎は、何気に二つ目が良いと思う。
「お、あの『金竜天翔』なんてどうだ、東洋風の料理を出すと看板に書いてあるぞ」
巨漢が指を指すのは、巨大な竜の彫刻が門前で睨みをきかす高級そうな料亭。しかし、見る目が無いなと霧崎は首を横に振る。
「トーレルは鼻ガ効かナいようだナ、あノ店は、古イ油を使ってイる」
なんだと、と巨漢の顔に愕然とした表情が浮かんだ。
「そコでオレがお勧めすルのが、アレだ。『天使の休息所』」
「いや、あれは娼館なのだが」
「ナン、だト」
お互いの選択をひとしきり笑いあった後、適当に人の多い店を選び直した。木造のスイングドアをくぐると、木張りの床に幾つか存在するテーブルは、既に休憩中の職人達に占められており
カウンターに座ることになる。
「・・・アれは、酷かっタ」
「うむ、セレナに黙って外食しようとした罰かもしれない」
結果、魚の揚げ物の味を思い出し、二人して盛大に顔を青くするはめになったのは、巨漢の言う通り神様の与えた罰かもしれなかった。
雪掻き大変だった。背中筋肉痛です。
ポイント、ありがとうございます。出来れば感想なんかも欲しいな~とか欲の出る今日この頃。書き足し投稿を止めろ!話はそれからだ!ってところでしょうか?
貨幣を調整しました。
あと、活動報告と見せかけた妄想日記も書いているのでよかったら見てやって下さい。




