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異世界でも強いだけでリア充出来る訳じゃない  作者: 脱力呼吸法
第2章 赤の迷宮と骸骨達の騒乱
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傷自慢

今回は誰得お風呂回。例によって書き足し投稿。

 何だか知らないが気付けば戦が終わっていた。

初めての迷宮戦を生き残った霧崎が抱いたのは、そんな身も蓋も無い面白みに欠ける感想だった。

ことの顛末をタレクに聞いたところによると、霧崎達と入れ替わりに突入した槍兵と魔術師が、迷宮三層階まで追いまわしてオークを壊滅させたとか。

 

 そんなわけで、今霧崎は風呂にいる。というか、銭湯はいましがた戦いを終えたばかりの冒険者で満ち溢れていた。

「はア~、極楽。極楽」

欲を言うなら、まわりが厳ついおっさんではなく美女だとさらに極楽。いや、霧崎の様な童貞力の高い、気の小さな存在からすれば、それは寧ろ地獄と言うべきなのかもしれない。

「シかし、風呂が在るノは助かルナあ」

 この街の風呂は、迷宮に冒険者が集うようになってから現在に至るまでのおよそ百年の間に磨かれてきた歴史と風格が在る。ゆえに、マナーも磨かれており血を落とさずに湯船に入る不届き者は存在しない。いれば、冒険者につまみ出され、裸で寒空の下を彷徨うことになるとは、隣のタレク談だ。

そのタレクは兜を脱ぐとイケメンな奴で驚いた。金髪にスッと通った鼻筋はお前どこの英雄だよ、という話である。

「霧崎、お前さあ。どんな生活していたんだよ」

「は?」

イケメンに対して抵抗感のある霧崎はあんまり口を利きたくないのだが、しかし、まあ暇なので答えることにする。などと長ったらしく考えたわけでもないが、

「いや、ほら此処の首筋の傷とか致命傷気味じゃん」

そう言うことらしい。

「あア、こレは・・・。オレがゴブリンの村で生活しテいた時の事ダな。身体ノ傷は全部ソの時のモノだ」

「はあ?はお前の経歴じゃねえか!・・・それでこの傷は?」

どうやら、イケメン様はよほど気になるらしい。しかし何だったけな、と霧崎も首を傾げる。この傷は確か・・・。

「おい、もったいぶらずに教えろよ。周りも気になるだろ」

そうか・・・。うむ、と霧崎が口を開く。

「確カ、ゴブリンで宴会ヲやってイタ時だ。昔ゴブリン達はよく部族同士デ闘争をしてイて、勝った方ガ負けタ方をむしゃむしゃ食っチまッた。そんな、闘争的ナ空気がマだ残る土地ノ話だト思ってくれ」

続けろ、とタレクが促す。

「そレでまあ、オレの所属する部族が他の奴ト宴会しタ、・・・確カ、キメラを狩っタ時の記念ダと思うンだが、その席デいきなりオレを睨みつケてくる奴がいたんだよ。何だコイツ、そう思って相手にしなイでオいた。

・・・ンで、まあ宴会自体ハ無事二終わっタ」

ほうほうそれで、と周囲の熱い視線の中で霧崎は話を続ける。

「イざ、帰るかッテ背を向けタところで、ナンかむずむず来テな。迷っタ瞬間、首筋二熱イ物が走って、振リ返ると例の睨んデきタ奴が、鉈ヲ・・・こう振りかブっていて、」

こう、と霧崎は右腕を振りかぶる。

「・・・・・・で、マア、こちらも咄嗟二鉈を抜いて、抜キ様に首ヲ落とシたってワケダ」

多分、酒で手元が狂ったんだろうな。後一センチ斬り込まれてたらお陀仏だったよと、霧崎は過去の失敗を苦笑う。あれ以来、皮膚感覚は大事にするようになった。

「・・・・・・・・・・」「・・・・・・・」「・・・・・・・・」

周囲の沈黙に気まずさを感じた。

「じゃあ、この左腕の傷は?」誰かの質問が場の沈黙を破る。

「えエと、キメラの子供。2メートルぐらイのに喰われそウになって、咄嗟に左ヲ餌に、右のナイフで止メを刺シたやつ」

おおーと言う歓声と、嘘こいてんじゃねーという罵声が降り注ぐ。

「この太もものは?」

「刀ヲ落とシた」

笑い声。多分武器を扱うものなら誰しも、似たような経験をするのだろう。

「おうおう若いの。俺の傷が何だかわかるか」

いきなり乱入してきた大男。顔が赤いところを見ると大分酔っているようだ。

「でた、レイクさんの傷自慢」「よ、竜と戦った男!」「竜の傷跡の持ち主!」

数々の声援の中男が、ばッと見栄を切りる。

「馬鹿野郎。そう言うことは先に言うんじゃねえ、この傷は竜の爪跡だ!」

よぉ、と巻き起こる歓声。しかしどうも無理矢理感があるので、恐らくこの男は必ず風呂でこのネタをやるのだろう。

ならば、俺もとタレクことイケメンが立ち上がり、背中を広げる。

「え・・・、この細い引っ掻き傷のある背中は何だ!」

「こんな傷跡、わしゃ見たこと無いぞ」

古兵然とした老人の叫びに一同騒然となりつつも期待で胸を熱くする。

「さては、この傷。アンデットナイト!」

んにゃ、とタレクは首を横に振る。

「・・・寝台で女達が立てた爪跡」

引っ込めイケメン、死ねクソ野郎、ちんこくされ、爆発しろ、掘られろ、そんな怒号の中には勿論、この男に対する敬意の念が込められいたことは、言うまでも無い。

その後はもう無茶苦茶だった。ストーンゴウレムの爪跡と、デュラハンの刀傷が出てきたあたりで話は一気に怪しくなり、霧崎は静かにその場を後にした。




思った。心と体を分けたのは言葉だと思うのですよ。

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