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異世界でも強いだけでリア充出来る訳じゃない  作者: 脱力呼吸法
第2章 赤の迷宮と骸骨達の騒乱
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市街戦その弐

うーん、前回出来なかった血みどろの戦闘を行いたい。

 「いそげ、遅れるとオークが出てくるぞ!!」

隊長の声に急かされた冒険者の混成部隊と、撤退してくる魔術師たちが迷宮の通路ですれ違う。横目に見る魔術師たちの顔には焦燥と恐怖が貼り付いていた。彼らは魔力の維持できる間は戦場に死を撒き散らすが、魔力を維持する集中力が切れれば、なすすべは無い。

ゆえに、彼らの回復する時間を稼ぐための壁として剣士が出張るのだ。

戦争の決め手は魔術師をいかに効率よく運用するかだ、と言うゴブリン師匠の言葉を思い出した。

「っきしょー!!なんで最前列!!」

 霧崎の隣ではタレクが悲鳴を上げる。続く冒険者たちの雑音も反響する足音と怒声にかき消される。

「来るぞ!!」

 普段なら薄暗いはずの迷宮が、魔術師たちの放った火炎と爆裂の置き火で紅く染め上げられている。深紅の臓物と化した迷宮内に武器を構える人影が浮かび上がった。直線の通路の先に僅かに確認できる広大な空間をそれらが埋め尽くしていた。

豚のような独特の肌と顔は見かけ通り打撃に対する耐久力も折り紙つきで、使い手にもよるが、木製の棍棒程度の武器ではどこを殴られても平然としている。


「大広間には行くな、通路で敵を迎え撃つ。五匹斬るごとに交代だ!!いくぞ!!」


後ろから隊長の指示が聞こえる、了解の返事と共にあらかじめ決められていた五人一組の列が形成された。霧崎の持ち場は最前列の右端。見れば、最前列、真正面に来ているヤフタレクに霧崎は心の中で手を合わせておく。


「・・・ト、人の事よリ」

距離は既に三メートル有るか無いか。間合いも図らずに三人一組で通路を埋めて前進するオークは、盾で敵の攻撃を止め力ずくでこちらの前線を押し潰す予定だったのだろう。持って生まれた体格差を使うその戦術事態に間違いは無い。ただし霧崎九郎の存在が彼らの誤算だっただけだ。

 スルスルと蝿でも打つぐらいの気安さで霧崎は間合いを詰め、太刀を振るった。その動きには特に日常の稽古と変わったところはない。

戦いことに高揚を感じることも無ければ、

落胆を感じることも無く、口元に微笑を浮かべながら斬るだけだ。

いたって普通の斬撃は正面からオークの盾を切り裂いて、なお一ミリも剣線をぶらさずに、オークの左肩から右腰までを一息に両断した。

吹き出す鮮血、バシャと音を立て両断されたオークの上半身が石畳に落下する。あまりの切れ味にオークの下半身のほうは未だ直立を続けていた。凄絶な光景に凍りついた敵も味方も眼中になく、ただ一人動きを止めない霧崎が横のオークの頭を串刺しにする。

ようやく両軍が動き出した頃には霧崎の瞬転の右袈裟切が正面のオークを既に斬り伏せている有様だった。

 「そイ」

 横から回し打ちに来るオークの右腕を切り飛ばす。出はオークの方が先だったが、霧崎の斬撃の方が早く目標に達していた。

何のことは無い。地点ABがあって、それを直線で結ぶのと円弧で結ぶのはどちらが速いのか、その程度の、子供でも分かる理屈である。右腕を失いバランスを失くしたオークの首を踏みつける。簡単な体重移動だけで軟骨を噛み砕く様な感触が霧崎に伝わって来た。

後ろを視野に入れると、こちらも無傷という訳では無く、負傷した者とそうでないものが即座に入れ替わる。

「オっと」

正面に来た今度のオークは槍持ちだが問題無い。手突きの槍を空中で掴み、奪う。前に体勢を崩したオークの頭を右手一本で操る太刀で吹き飛ばし、左手の槍を手中で一回転。

「ソーれ」

掛け声と共に投摘。絶大な発勁で飛翔した槍は三匹の頭を団子にぶち抜く。そこらへんで少々殺りすぎた感じもあり、霧崎は後ろの剣士と交代した。




「よう、化物かよアンタ」

後列で開口一番、称賛とも威怖とれる言葉が霧崎に浴びせられる。声の主は案の定、タレクだった。互いに血塗れだがこうして会話できるということはまだまだ余裕が在る証に違いない。それにしても、正面で余裕というのは中々大したものである。

「こちとら、十五の時から五年続けているんだぜ。・・・しかし、あんたは一体どこで何をしていたんだ?あれだけ殺って息切れ一つない」

ゴブリンやってました、などと答えるわけにもいかず、

「・・・ああ、ちょっとな」

霧崎はゴブリンスマイルで奥深そうな雰囲気を醸し出して誤魔化した。

「それよりも、正面代わるか?」

「ああ、頼むわ。正直かなりきつい」

それだけ喋って二人とも休憩に入った。前線に見る限り、戦いは長引きそうだった。


 

 西区迷宮入り口。

 突入した巨漢の剣士とダークエルフが凄惨な光景に顔を曇らせた。胴体を両断された軽戦士。頭を砕かれた女盗賊。盾も鎧も意味をなさない質量で轢殺された重騎士。炎の吐息に焼かれ窒息死した有象無象の死体がそこかしこに転がっている。迷宮のさらに奥、第一の広間では、いまだに戦いが続いているのか竜の大質量が迷宮全体をを轟かす。

「この様子だと、咆哮で動きを止められたところで吐息を喰らって、生き残った者は肉弾戦ですり潰されたのだろうな」

迷宮の通路は人が五人並んでもなお余裕があるが、二十メートル近い成竜なら一匹で肉の壁になる。個人の火力で竜とまともにやり合うのは魔剣でさえ不可能に近い。まして、ただの冒険者が抗える理由はどこにも無かった。

セレナの解説の間に、広間からの震動が永遠に停止した。

「なにを、暢気なことを。セレナさっさと行くぞ」

巨漢の言葉を追ってセレナも広場に急ぐ。


 百メートルも無い道程の先、薄暗い大広間の中央で竜は傲然と鎮座していた。鰐に似た口は、少し前まで激闘を繰り広げた勇者の死体が咥えられている。十五分を戦い抜いた八角の部屋全体を、くまなく蜘蛛の巣の如き破壊が浸食していた。ぎろり、と縦に裂けた瞳孔が新たな侵入者を一瞥し、再び口中の死体を咀嚼し始める。

「セレナ、魔術の準備を」

巨漢の背中に、静かにセレナは頷いた。

「まずは目を潰す。私が三度足を踏み鳴らしたら目を閉じろ」

巨漢の肩が肯定の意で僅かに振るえる。


かつ、一度目のセレナの足音。


かつ、二度目、黒革の長靴が迷宮の石床を叩く。


かつ、三度目の足音でトーレルは目を閉じる。


直後、瞼を貫くほどの光量が広間を呑みこんだ。

竜狩りは某人気ハンティングゲームですね。

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