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異世界でも強いだけでリア充出来る訳じゃない  作者: 脱力呼吸法
第2章 赤の迷宮と骸骨達の騒乱
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市街戦その壱

はい、ようやく戦闘開始です。ヒャッハ~てな感じで行きます。

南〇聖拳と北〇神拳だったら、断然、南〇聖拳みたいな感じで。

 「「霧崎、いくぞ!!・・・「「「お前飯食ってんじゃねえ!!」」」

怒り狂った巨漢とダークエルフに、生け贄代わりの煮込んだ肉と野菜を挟んだパンを差し出して怒りを鎮める。ぼりばり、とどちらが野人わから無いような勢いで霧崎の傑作は喰いつくされた。

「ナにがアった?」

「その話は馬車の中でします。急いで下さい」

何だか知らないが見たことの無い若い女性が、噛み殺さんばかりの剣幕で唸ったので、霧崎は素直に従黙って付いていくことにした。

スイングドアを蹴り開け建物の裏手に回ると、そこには魔改造された五人乗りの馬車が圧倒的な存在感を醸し出している。それを引く馬も尋常ではなく、全身の血管が浮き上がり、筋肉が躍動している。

「さあ、早く乗って下さい。まずは西区迷宮入り口で行きます。その後に赤の迷宮という順番です。野人さんは赤の迷宮の方に回って下さい。いいですね?」

いいですね、てなんだよ?などと緊急事態に尋ねる暇も無く、

「黙っていて下さい、舌を噛みます」

馬車が爆発的な加速で走り出す。


 「・・・グぅ」

加速のGで後ろに体が持って行かれ、路面の凹凸に視点が上下に揺れ、カーブのたびに二輪走行する四輪の馬車は霧崎の忌まわしい記憶を開放する。

 あれは確か、修学旅行の時のこと。いや、考えるな考えるな考えるな考えるな。

そうだ、日本刀だ。日本刀、意識を封印。

「うギャア!」

馬車が宙を舞った。尻に浮遊感、股間の辺りがすっぽ抜ける恐怖で、霧崎の横隔膜が収縮する。

 今わかった、人は大地を離れては生きていけないと。


「着きました、セレナさんトーレルさん!」

「おう!」と巨漢が広場に飛び降りる。ダークエルフの女は無言で着地。そのまま迷宮の入り口に躊躇い無く飛び込んでいく。

 ごう、と空気は咆えた。続いて肉が裂け、骨が爆ぜる不快な音が霧崎の処まで届く。

「・・・行きますよ」

努めて平静な女の声を合図に再び馬車が加速した。



 南区にある、赤の迷宮入り口の広場に着いたのは、それから約五分後の事だった。すでに広場にはテントが張られ、負傷者が治療される回復魔術の光が午後の石畳を淡く照らしている。入り口前では待期の兵が最後の武器点検を行っていた。

殺気だった広場の入り口で馬車は急停止した。女の声に促されるままに霧崎が馬車から転がり落ちる。酷い運転にやられた三半規管は絶望的なまでに霧崎の平衡感覚を狂わせ、止めとばかりに昼のスープとパンの混合物が逆襲を腹の中で訴えていた。

「・・・じょ・・で・・・か」

何か耳元で囁く奴がいる様だが何を言っているのか理解できない。景色は人の踏み入れない高次の領域の如くぐにゃぐにゃに歪んでいる。

つん、と霧崎の鼻を酸っぱい臭いが突いた。誘われるように腹から昼飯の残骸を吐く。

無茶な内臓の動きに肋骨と肋骨の隙間が悲鳴を上げた。

「・・・ハぁ、・・・ハぁ。戦う前かラ死ヌぞ・・・こレは」

一吐きしてようやく体が落ち着いてきた。

「大丈夫ですか?」

正常に戻った霧崎の知覚によれば、先程の声はあの殺人運転手のものだったようだ。

「アあ、ありがトう」

「では、この認識票を付けて、あの右のテントで腕に巻く赤布を貰って来て下さい。迷宮内は乱戦に近いので、それが無いと味方に討たれますよ」

特にあなたはね、と女は霧崎の顔を見て軽く笑う。

「・・・あア、了解ダ」

言い返す気力も無く霧崎は適当に流す。

それと、と女が霧崎を呼びとめる。どうせ、からかわれるだけなんだろう。霧崎は期待せずに振り返った。

「ご武運を」

その時の笑顔を霧崎は忘れない。たとえ、それがサービススマイルに過ぎなくても、おそらく自分はああいうモノのために戦うんだろうなと、そこで何となく直感した。

「ワかった」

そう言う事だった。


 指示されたテントで認識票を見せると、一悶着あってから識別布が渡された。テントすなわち司令部指示によると霧崎は遊撃の混成部隊。若干味方との連携が気になったが、そこはアドリブで行くしかなさそうだ。精々味方の刃で死なないよう気張るしかない。

「ここだ、ここ」

きょろきょろしている霧崎を見かねたのか声が飛ぶ。ここってのはどこだ?などと茶化そうものなら八裂きにされそうな空気を読んで霧崎は大人しく声の元に向かう。現れたのはいかにも冒険者と言った風体の部隊で、装備にまとまりが無くそれぞれが醸し出す雰囲気も、実力者から雑魚までと実に多様性に富んでいる。その隣の市の兵隊と思われる統一された槍兵の部隊と比べればその特徴は猶、分かりやすい。

こっちだ、と振られる手の主はオーソドックスなロングソードと盾を装備した、中堅っぽい男である。

あれ、知り合いなんて居たっけか。男に霧崎が訊ねると、いいやお前なんか知らんと返された。

「はは、怒るな怒るな。お前さん腰の剣を見たところ極東のサムライと言う奴だろ。俺だって生き残りたいから周りを腕利きで固めておきたいんだ」

悪びれずにそんな事を言った男はヤフタレクと名乗った。

「ヤフタレク?神話の英雄?」

「おふくろが付けたんだよ。恥ずかしいからタレクでいい」

ところで、と男が話題を変える。

「お前さん、メイの知り合いか?」

ああん?と男が凄むが、霧崎はそんな女性は知らない。

「だから、お前をここまで連れてきた可愛い女がいただろ?」

ああ、と霧崎も合点がいった。

「何?コの戦いが終ワったら結婚すルのか?」

「それ言った戦士は戦死することになっているから」

やめろ、とタレク石畳を叩く。

「デ、どこガ好きなんだ?」

おっぱいか?霧崎の声が大きくなる。確かさっきの女の人は巨乳だった記憶が在る。

「うむ、おっぱいだ」

「おっぱいカ」

「おっぱいだ」

霧崎とタレクの卑語に触発されたのか周囲でもうむ、うむという賛同の声が上がった。

「じゃア生きて帰らなキャなぁ」

「あったり前だぜ」

ばしり、とタレクは固めた右拳を左の掌に叩きつける。耳を澄ませれば周囲の部隊でもおっぱい、おっぱいとさざ波のように影響が広まっていた。

やめんか、と貧乳派と巨乳派の戦争が起こる前に隊長の一喝でおっぱいは沈静化した。


「そろそろ出番だぞ、魔術部隊が動いた」

タレクの忠告に少し遅れて号令がかかり迷宮の出口から長槍部隊が撤退する。入れ代わりに突入するのはローブをはためかせ、杖を掲げる魔術師の一団。剣と槍での戦いとは違い、扉越しにも爆音と閃光が広場を揺らす。それは時間にして僅か十分程度。

「入れ替わるぞ!!」

何処かの誰かの号令で地獄の蓋が開かれた。

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