第三話
鉱山の入口に行くと、騎士団らしき男が数名詰めていた。
「あ! 副団長!」
「見張りご苦労。何か異常はないか?」
「はい、異常は見当たりません」
「そうか、今から我々が採掘に向かう。すまないが、人を集めておいてくれるか?」
「了解であります!」
「それから、君は何かあった時のために医療班を呼んでおいてくれ」
「了解しました」
そう言って、騎士団員は外へと駆けて行った。
「リンって本当に副団長だったんだね」
テキパキと騎士団員に指示を飛ばしているリンを見て、ライトが呟いた。ちょうど俺も同じ事を思っていた。
「そう言ったろう? なんだ、信じてなかったのか?」
「いや、別にそんなわけじゃないけど……」
なんとなく気まずくなって俺たちはリンから目をそらした。食事の時のリンを見ていると、とても騎士団の要職だとは思えないんだよなあ。
俺達は残った騎士団員に挨拶をすると、鉱山の奥へと入って行った。
鉱山の中は魔法石の灯りが備え付けられてはいるものの薄暗く、静かだった。その薄暗さも相まってか、鉱山の空気は冷たく肌寒い。そんな薄気味悪い坑道を俺たち3人は慎重に進んで行った。なんだか幽霊でも出てきそうな雰囲気だったが、モンスターはおろかネズミの気配すらなかった。
「ここにはモンスターとかは出てこないのか?」
「いや、ここにはそういった類のものが出たという報告は無いな」
「そうなのか。珍しいな」
普通はこういう坑道にはでっかい蝙蝠やらアンデッドやらのモンスターがいるものなんだが。何か理由があるのだろうか?
「よし、そろそろ着くぞ」
リンがそう言うと同時に、小さめの城が建てられそうなほどの空間が目の前に広がった。
「なんだここ? わざわざ掘り広げたのか?」
「いや、元からこういう空間があったらしい」
「鉱山というより遺跡みたいだな。この先にアンマギアの鉱床があるのか?」
「ああ、もうすぐだ」
そこから少し歩くと、大きな壁に突き当たった。その壁は一面が青白く輝いていた。これがアンマギアの鉱床だろう。
「うわ〜っすごいな! 鉱床っていうより壁だなこりゃ」
「そうだろう? 早速採掘に取り掛かってくれるか?」
「承知!」
俺はリュックから長い筒のような物を取り出した。
「それが工具なのか? 筒みたいだが……」
「ああ、この先っぽのところにヒヒイロカネの刃先を取り付けてあるんだ」
リンに工具の先を向けた。
「本当だ! 小さいのがいっぱい付いてるな」
「こいつを回転させて穴を開けるんだよ。ライト、電気よろしく」
「オッケー」
ライトがマジックストーンに両手をかざして雷魔法を放った。バッテリーが充電されると同時に、俺の手の中の工具が回転を始めた。俺はその工具をアンマギアの壁に当ててゆっくりと前へ力を込めた。
「おお! 掘り進めてるぞ!」
工具の長さいっぱいまで突き進めて、工具をアンマギアから抜き出した。すると、アンマギアの壁にぽっかりと穴が開いた。
「すごいな! なんか槍みたいだな」
「ドリルと言って欲しいなあ」
正確にはスローアウェイドリルっていうやつだ。
「はい! 私も! 私もやりたい!」
そう言ってリンが手を上げて俺を好奇心に満ちた目で見てきた。
「私は槍を使うのが得意なんだ!」
「槍じゃないんだが……。じゃあ俺が肩車するから、上の方に穴を開けてくれ」
「了解~」
俺はドリルをリンに手渡してから、リンを肩車して持ち上げた。それにしてもこいつ足細いな……。あの大量の食料は一体どこに吸収されているのだろうか? 謎が多い女騎士だ……。
「それじゃあ穴開けるぞー!」
「ゆっくり押し進めるんだぞ。あんまり早く突くと、軸がブレてうまく穴が開かないからな」
「わかった!」
リンは元気に応えると、ドリルを回転させてアンマギアに当てがった。
「わあ、すごい! 思ったよりスイスイ進んでいくな!」
そう言ってリンはどんどん穴を開けていった。体幹が強いのか、ドリルの反動を受けてもリンの身体がブレることはなかった。さすが騎士。
ゴゴゴゴゴ……
途中、なんだか壁が小さく振動しているような気がしたが、すぐに治まった。なんだろう? まさか崩れたりしないよな……?
そうして、ぐるりと一定間隔で円を描くように穴を開け終えた。
「よし、最後の仕上げだ!」
俺はリュックの中から人間一人分あろうかという大きなハンマーを取り出した。
「そんなもんまで入ってたのか!? そりゃ重いはずだ……」
「危ないからどいてろ〜」
俺は大きく振りかぶって、穴を開けたアンマギアに向かってハンマーを横薙ぎに振った。
バキィィン!
大きな衝撃を受けたことにより、アンマギアの開けた穴に沿ってヒビが入った。同じように何度かアンマギアを叩くと、アンマギアの大きな塊が取り出せた。
俺は採れたアンマギアを持ってみると、思ったより軽かった。比重が小さいのだろう、これならば防具にしても重さでスピードが落ちることはない。良い材料だ。そんなことを考えながら、俺は塊を外へと引っ張り出した。
「すごい! どんどん掘り出そうよ!」
リンがそう言ってドリルを振りかぶったその時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
凄まじい振動が坑道内を襲った。
「じ、地震か? いや、壁が……壁が動いてる!?」
アンマギアの方を見ると、壁がずるずると動き出していた。みるみるうちに壁がせり出し、それが大きな亀の形になった。
「げっ! ランドタートル!? もしかしてアンマギアはランドタートルの特殊個体だったのか?!」
「大きいな〜! 流石にこの大きさのランドタートルは私でも食べきれないなあ」
「食べるんだ!?」
「バカなこと言ってないで逃げるぞ!」
俺たち3人は外へ逃げようと広間の入り口へと走った。
ドンッ!
大きな音と共に、ランドタートルが空中へと跳んだ。そしてドスンと音を立てて俺たちと入り口との間へ降り立った。
「げげっ!? 逃げ道を塞がれたぞ!?」
「もう倒すしかないよ! ファイアボール!」
ライトが両手をかざして魔法を放った。しかし、ライトが放った火の玉は、ランドタートルに当たると同時にシュッと消滅してしまった。
「うわっ! 魔法効かないんだった! どうしよう!?」
ゴアアアアアア!
ランドタートルが雄叫びと共にこちらへと向かって来る。俺は急いでリュックから大楯を出し、踏み潰そうとしてくるランドタートルの前足を受け止めた。
ズガンッという鈍い音と共に俺の足元が沈む。受け止めることはできたが、それ以上はどうしようもなかった。どうすればいい!?
ふと後ろを見ると、リンがドリルを持っておろおろしていた。もう一度ランドタートルの方へと目を向けると、ランドタートルの腹に何か光るものが見えた。
「あれは……ライト! ランドタートルの足元を撃って動きを止めてくれ! リンはこっちに来てくれ!」
「「わかった!」」
そう言って二人が動き出した。
「ライトニング!」
ライトが雷魔法でランドタートルの後足付近の地面を撃ち抜いた。地面がえぐれ、ランドタートルの足が沈み込んだ。これで少しは時間が稼げるだろう。
「リン! この足をそのドリルで貫くんだ!」
「なるほど! 了解!」
そう言ってリンがドリルを回転させた。そして俺が受け止めているランドタートルの足を一気に貫いた!
シュイイイイン! ドリルから軽快な切削音が鳴り響く!
グオオオオオ!
リンのドリルが貫いた瞬間、ランドタートルが苦しそうに呻いたように見えた。
「よし! もう一本穴を開けろ!」
「おりゃああああ!」
雄叫びと共にリンがランドタートルの足をもう一度貫いた。
グオオオオオ!
「ナイス! リンはどいてろ!」
そう言って俺は大楯を思いっきり上へと押し上げてランドタートルの足元から抜け出た。
「どっせええええい!」
そして俺は大楯をハンマーに持ち替え、穴が開いたランドタートルの足を思いっきり撃ち抜いた。
バキィィィィィィ!
鈍い音と共にランドタートルの前足が吹き飛んだ。
オオオオオオ……!
足を一本失ったランドタートルがバランスを崩して倒れ込んだ。
「ここだあ!」
俺はランドタートルの腹へと潜り込み、横薙ぎにハンマーを振り抜いた。腹に衝撃を受けたランドタートルが仰向けにひっくり返った。
「よし! リン! このコアをそいつで貫くんだ!」
「よしきた!」
俺とリンは仰向けになったランドタートルの腹に跳び乗り、腹の中央へと走った。そこには黄色いコアが妖しく輝いていた。こういう鉱物系のモンスターにはこういうコアがあるもんだ。こいつを壊せば動かなくなるはずだ!
「貫けえええええぇぇ!」
リンが回転するドリルをコアへと突き立てた。キィィィィン!と甲高い音を立ててコアが抉れていく。
「硬い~!」
「手元のツマミを時計回りに少し回せ! 回転数を上げて一気に削るんだ!」
「おっけい!」
「ステップを入れるんだ! 力を入れたり抜いたりを繰り返すんだ」
「なんか分からんがやってみる~!」
バキィン!
そうしてドリルを突き立てられたコアにヒビが入り、ついに割れた。その瞬間、ランドタートルの動きが止まり、ドスンと力無く倒れ込んだ。
「やったあ! 討伐したぞ!」
リンが歓喜の声を上げた。ライトも俺たちの元へとやってきて、わあわあと歓喜の輪を作り上げた。
「やれやれ、とんだ鉱物採集になっちまったなあ」
俺は討ち取ったランドタートルの上に大の字になって寝転がった。




