第四話
見事、ランドタートルの特殊個体を撃破した俺たちは、ランドタートルの体から崩れ落ちたアンマギアを採取しまくった。ドリルで穴を開け、ハンマーで叩き、アンマギアを持ち運びできる大きさに砕いていった。
「ウヒョー! 大漁大漁!」
「ありがたや〜ありがたや〜」
そうやって俺とリンがアンマギアを採取しているうちに、ライトには外へ行って応援を呼んでもらっていた。しばらくすると、ライトが呼んだ騎士団たちがやってきて、砕いたアンマギアを次々と外へ運んで行った。
「これは……一体何があったんだ……!?」
「団長!」
リンと俺のところに騎士団の団長がやってきて驚いた様子で話しかけてきた。
「君がコジロー君かい? 大事になる前に解決してくれてありがとう!」
「いえいえ、大したことではないですよ」
「それにしても、ランドタートルの特殊個体がいたとは……アンマギアの鉱床の正体はこいつだったのか」
「正確には、アンマギアを食って変態した個体みたいです。奥の方に本当の鉱床がありましたから」
「そうなのか、いやはや本当に色々と助かったよ」
団長さんが俺に向かって握手を求めてきた。俺はその手を快く握った。
「本当にありがとう。そうだ、今回の件について礼金を支払わせてくれないか?」
「いえいえ、アンマギアを少しもらえれば大丈夫ですよ!」
「いやいやどうか払わせてくれ! 色々とお金がかかっただろう? 食費とか」
「あっ」
最後に団長が耳打ちしてきた言葉で、俺は礼金を受け取ることにした。確かにお金かかったからな……。
そうして、アンマギアと礼金をゲットした俺たちは、しばらく働いた後に自分たちの店へと帰ることにした。帰りは騎士団が馬車を用意してくれたので、行きよりも早く帰ることができた。ありがたい。
「ふいー、やっと帰り着いた〜」
「ただいまー」
「ただいまー」
なぜかリンも一緒に帰ってきていた。何しに来たんだこいつ?
「胸当てと盾を作ってくれる約束でしょ!」
そういえばそうだった。すっかり忘れていた。
「じゃあ、今着けてる胸当てをくれ。それを元に寸法を計るから」
「いや、その……これよりもちょっと大きめに作って欲しいんだけど……。今のは……ちょっとキツくなってきてて……」
そりゃあんだけ食べればキツくもなるだろう。俺はリュックからメジャーを取り出した。
「じゃあ測らせてもらうか。ほら、胸当て外して手を上げて」
「やだ! 恥ずかしい!」
そういう感情、こいつにもあったんだな。
「それじゃあ作れないだろ! ほら! 言うことを聞け!」
「うう……しょうがない」
「ほら、動くんじゃない。正確に測れないだろ」
もぞもぞと落ち着きのないリンに苦戦しながらも、なんとか測定を終わらせることができた。
「なんだ、別に太くないじゃないか」
「うう……汚された……」
人聞きの悪いことを言わないで欲しい。
俺は測定したデータを元にノートパソコンでCADを開いて寸法を入力していった。ノートパソコンはイマジンプリンターで作り出すことができた。でも、CAD/CAM以外のソフトを起動することができなかった。おそらく元の世界でそれ以外のソフトをあまり使ってこなかったからだろう。ちなみに、CADとは製図をするソフトで、CAMとはCADデータを元に加工機で使うプログラムを作成するためのソフトだ。
胸当てと盾は以前に作ったことがあったので、その時のCADデータを流用することにした。そしてそのデータをCAMへと流して加工プログラムを作成した。
「よーし、それじゃあ作るぞ〜」
俺は5軸加工機にちょうどいい大きさのアンマギアを取り付けて加工を始めた。あとはプログラムが終わるまで待つだけだ。
加工機がサクサク削っているのをリンは扉の窓に張り付いて見ている。フフフ、リンにも切削の素晴らしさが理解できたようだな?
「リンは騎士団と一緒にいなくて大丈夫なのか?」
「え? うん、団長には言ってきてるよ」
「もしかして副団長って暇なのか?」
「失礼な! 色々仕事はあるんだぞ! ご飯の献立決めたりとか!」
それは副団長がやるべき仕事なのか? それにこいつが献立決めたらとんでもない量になりそうで怖いな……。
「闇の教団とやらを討伐しにいくのはいつなんだ?」
「それは来月かな。アンマギアを使って色々と準備があるみたい。何? 手伝ってくれるの?」
「いや、それは遠慮しておく」
「ちえーだめかー。でも鍛冶屋なのに戦闘もすごかったよね? なんでなの?」
「珍しい材料を求めてたら、色々なモンスターと戦うことになるんだよ。それで、いつの間にか慣れちゃってんだ」
「そうなんだ。でも、でっかいハンマーでゴリゴリ戦うスタイルは珍しいよ」
「鍛冶屋だからハンマーを使うのは当然だろう?」
「そ、そんなもんなの?」
鬼に金棒、鍛冶屋にハンマーなのだ。
「コジローはハンマーに情熱を注ぎすぎなんだよ」
「なんだよ、ライトは魔法に頼りすぎなんだよ。最後に物を言うのは己の肉体だ!」
「魔法があれば武器なんか要らないんだよ! 身体は魔法のための道具さ!」
「また喧嘩する!」
そんな話をしているうちに、加工機のプログラムが終了して胸当てが完成していた。
「うーん、うん! 悪くない出来だ!」
俺は加工機から胸当てを取り出して仕上がりを確認したあと、バリを削り取ったりして最後の仕上げを行った。
「最後にこのバンドを取り付けて……よし、完成だ!」
俺はできたてホカホカの胸当てをリンへと手渡した。
「やったー! 早速着けちゃお!」
リンは受け取った胸当てをいそいそと着け始めた。
「わあ! ピッタリ! さすが〜!」
サイズは丁度良いようだった。色合いもアンマギアの青色とリンの銀髪がマッチしていてとても似合っていた。
「いいんじゃないか? よく似合ってる」
「えへへ、ありがと」
リンはこっちを向いてにっこりと笑った。笑ってる分には可愛いんだがなあ。
同じような感じで盾も加工機を使って作成し、リンへと渡した。これで約束は完遂だ。
「よーし、これで闇の教団も圧殺だぞ♪」
「可愛く物騒なことを言うんじゃないよ」
俺はルンルンなリンを見ながら加工機を掃除した。
「よし、これで心残りは無いか?」
「縁起でもない言い方しないでよ……。あ、そうだ、あのドリルってやつも貸してくれない?」
「ドリルも? なんに使うんだ?」
「いやーあの岩にサクッと穴が開く感触が忘れられなくてさ。盾とかも貫通できそうだし使えそうかなって」
「なんか怖いこと言うな……。あれは対人用ではないんだが……まあいいか。ちゃんと返しに来いよ」
俺はリュックからドリルを取り出してリンへと手渡した。
「ありがと! それじゃあ私は戻るよ! またね!バイバーイ」
そう言ってリンは店から出ていった。忙しないやつだ。
「騒がしい人だったね」
「そうだなあ。これで食事も普通の量で済むようになるな」
俺たちはリンが出ていった扉を少し名残惜しそうに見つめていた。
————
「コジロー! 見て見て! 新聞に騎士団のことが書いてあるよ!」
あれからしばらく経った後、ライトが今日の新聞を手に鍛冶場へとやってきた。
「どれどれ? おー、うまく教団を制圧できたようだな」
新聞には『銀鈴の戦姫、獅子奮迅の活躍!』という見出しが書いてあった。銀鈴の戦姫ってもしかしてリンのことか? 活躍したようで何よりだ。
「でもリンは銀鈴っていうより銀の銅鑼だよな。ギャンギャンうるさいし」
「確かにそうかも」
ライトが笑って同意した。
「誰が銅鑼よ! 失礼ね!」
鍛冶場の入口から銀の銅鑼のような声が聞こえた。
「あれ? リン? 来てたのか」
「ドリル返しに来いって言ったのはあなたでしょ!」
そう言ってリンはドリルを俺に手渡してきた。フレームに赤黒いシミがついていて、なんだか背筋が冷たくなった。後でしっかり洗っておこう……。
「教団の討伐はどうだった?」
「うん! 名物のおまんじゅうがおいしかったよ!」
「そういうことじゃなくてだな……」
相変わらずの暴食っぷりだった。
「いや、作ってもらったこの盾、すごかったよ! 飛んでくる魔法を全部かき消しちゃうんだ!」
「そうか、実戦でも使えるみたいだな。うちのラインナップに入れるか」
「うん! 盾を前にして突っ込んでいったら教団員がどんどん吹き飛んでいったんだよ!」
騎士じゃなくて重戦車みたいな使い方するな……。やっぱり脳筋なのだろうか。
「胸当てはどうだった?」
「あ、これも良かったよ! 教団員の魔法剣を受けても傷一つ付かなかったし!」
「結構危ない場面もあったんだな」
「いや、面白そうだからわざと受けてみたの!」
「お前度胸ありすぎだろ!?」
やっぱり銀の銅鑼なんじゃないか?
「それでね! 今日は耳寄りな情報もあるんだ!」
「情報? なんだ?」
リンはこちらに歩いてくると、机の上に地図を広げた。
「ここの雪山にね、氷のように冷たい金属があるんだって! それでレイピアを作ってよ!」
「氷のように冷たい金属? 聞いたことないな」
「クールな私にピッタリでしょ?」
「グールの間違いじゃないのか?どうせそれでかき氷でも作ろうって魂胆なんだろ」
「なるほど! それいいね!」
どうやら余計なことを言ってしまったようだ。
「じゃあ早速出発しましょう!」
そう言ってリンは俺の腕を引っ張って店の入口へと向かった。
「おい! まだ俺は行くとは言ってない……ちょ!? 力強っ!」
「がんばってねコジロー」
「お前も道連れだよ! ライト!」
俺はライトの腕を掴んで引っ張った。
「うわー! いやだー! 助けてー!」
そうして、俺たちは暴食の鬼神に連れられて店を後にした。
新しい鉱物を求める俺たちの旅は続くのだった。
了




