第二話
準備を終えた俺たちは、すぐにランブルーム領へと出発した。ランブルーム領へは徒歩で3日ほどで到着するはずだ。自動車があれば数時間で着くのだろうが、生憎と俺のイマジンプリンターでは自動車を作り出すことはできなかった。ちなみに、自転車ならば作ることはできる。
「そういえば、リーンヴェリアさんはその格好からして騎士団員なのですか?」
「リーンヴェリアとは呼びにくいだろう、私のことはリンと呼んでもらって構わないぞ」
ライトが話しかけると、リーンヴェリアが俺たちに優しく微笑みかけた。
「それで私はランブルーム騎士団員で副団長をしているんだ」
「副団長? すごいじゃないですか!」
「でも副団長がわざわざ鉱石採掘の手伝いをしているのか?」
リンが周りをキョロキョロと見回した後、こそこそと耳打ちするように話し始めた。
「それが、実は我々騎士団は、近いうちに邪教徒が集まる闇の教団を討伐する予定なのだ」
「や、闇の教団?」
なんか怪しいワードが出てきたな。
「ああ、そいつらが主に魔法を使う奴らでな、それで魔法を無効化するアンマギアが使えるんじゃないかということになって、採掘を手伝うことになったんだ」
鉱石を採掘して邪教徒も討伐するなんて、最近の騎士団はマルチタスクなんだなあ。
「そういえば、採掘はどうやってやるんだ? あの大きな機械とやらは持っていけないだろう?」
「ああ、採掘は手持ちタイプの工具を持っていくよ」
「そういうのもあるのか」
「手動だとちょっと技術が必要だが大丈夫だろう」
「器用なやつなんだなあ」
「まあ俺は掘削については専門じゃないんだが、切削から精密さを除いたようなものだから問題ないさ」
「そうなのか。それにしても、コジローはどうしてそんなに切削加工が好きなんだ?」
そう言ってリンは俺の顔を不思議そうな顔で見つめた。
「俺が前に居た工場が切削に命を賭けている人が集まった職人集団でな。そこで俺は一から切削のいろはを叩き込まれたんだ」
「なんか大変そうだな」
「大変だったさ。でもそれ以上に楽しくて、周りのみんながキラキラと輝いて見えた。俺もあんな風になりたいって思ったんだ」
「そうなんだ」
「でも、まだまだあの人達には追いつかない。俺はもっともっと切削加工を極めたいんだ!」
俺は太陽が輝く空をまっすぐに見上げながら、あの頃の事を思い返した。みんな元気にやってるだろうか。
俺たちが出発して数時間が経ち、陽が落ちて辺りに少しずつ闇の帷が落ちてきていた。
「そろそろ野営の準備でもするか」
「そうだね」
そう言って俺とライトは荷物を下ろしてテントの設営を始めようとした。
「え? このまま夜通しで歩くんじゃないのか?」
「いや、流石に夜は危ないだろ。疲れるし」
「え〜? 私は休まずに2日でここまで来たぞ?」
嘘だろう……? 意外と脳筋騎士なのか、リンは?
「す、すまんが俺たちには無理だ。休ませてくれ」
「仕方ないなあ」
そう言ってリンは荷物を下ろした。
俺たちはリュックの中からテントの部材を取り出して組み立てた。
次に俺たちは、食事の準備を始めた。食事を作るのはライトの仕事だ。ライトの手元を見ると、今日は干し肉を使ったシチューのようだった。完成を待っている間に、俺はパンを切り分けることにした。
「ごはん♪ ごはん♪」
リンは既にスプーンを持って準備万端だった。ちょっとは手伝って欲しいなあ。
「はい、できましたよ〜」
ライト特製シチューが出来上がった。俺はシチューを器によそってリンへと渡した。
「熱いから気をつけろよ」
「わーい、いただきまーす」
なんか食事を目の前にすると子供みたいだな。クールな女騎士のイメージだったのだが違うのかもしれない。
「美味しい!」
シチューを一口食べたリンは目を輝かせた。
「そうだろう? ライトは料理と魔法は得意なんだ。コミュニケーションは苦手だけどな」
「余計なことは言わなくていいよ……」
「おかわり!」
俺とライトがシチューに口を付ける前に、リンからおかわりの要請がきた。
「は、早いな……。はい、どうぞ」
「ふふ〜ん♪」
器を返してもらったリンは勢いよくシチューをかき込んだ。俺たちも食うか。そう思ってスプーンでシチューを口に入れようとした時だった。
「おかわり!」
嘘だろう……? こいつ、食い尽くし系女騎士なのか?俺とライトは青い顔で器にシチューを盛った。
「リンさん、パンも食べたらどうかな?」
「パンならもう食べたぞ?」
なん……だと……? パンを入れていた器がすっかり空になっていた。ていうか、俺たちの分のパンまで食ってしまっていた。
「まずいぞ……このままでは俺たちの分まで全て食い荒らされてしまう」
「リンさん! この固い干し肉をどうぞ!」
「お! 干し肉は好きだぞ! ……うーん噛みごたえがあるなこれは!」
「今だよ! 干し肉が時間を稼いでいるうちに食べよう!」
俺たちは必死でシチューをかき込んだ。急いで食べたから味もくそもなかった。
「ふう、食べたな〜。でももうちょっと食べたいかも」
「このお茶で勘弁してください……」
脳筋はらぺこ騎士のリンにライトが淹れてくれたお茶を渡した。
「ありがとう! それにしても、君たちはあんまり荷物を持っていなかったように見えたのに、どこにこれだけの物資を隠していたんだ?」
「あー、それはな、これを使ってるんだ」
俺は大きめのリュックサックを指差した。
「この大きさのリュックには入りきれないだろう?」
「いや、これは異次元リュックなんだ」
「異次元リュック?」
「そう、このリュックにはどれだけでも物を入れることができるんだ」
俺は食器や調理器具をリュックの中に入れていった。すると、スイスイとリュックの中に物が入っていった。
「どうなってるんだそれは? 魔道具なのか?」
「俺もよく分からんけど、そんな感じのものなんじゃないか?」
これは前に行った遺跡の中で見つけたリュックなのだが、いくらでも物が入れられるので非常に重宝している。
「でもだな、これちょっと持ってみ」
俺はリュックをリンの前にぶら下げた。リンが不思議そうな顔でリュックに手をかけた。
「うえ!? 重っ!」
リュックがズシンと地面に落ちた。
「このリュック、物はたくさん入るんだけど、その分重くなるんだよね」
「そうなのか……。でもコジローは普通に持ってなかったか?」
「俺は鍛冶屋だから筋力が強いんだよ」
「そ、そういうものなのか?」
実は転生した時にステータス割り振りみたいなのができたのだが、その時に俺は筋力と器用さに全振りしたのだ。鍛冶屋は筋力と器用さが命なのだ!
「コジローは筋肉バカだからなあ」
「なんだと? 筋肉はバカじゃないぞ! それならお前は魔法バカじゃないか!」
「は? 魔法のこと何にも分からないくせに! 大体加工なんて魔法でやればもっと上手くできるはずだよ」
「なんだと? 切削は金属と工具の物理的なコンタクトによって引き起こされるマリアージュなんだ! 魔法なんかで上手くできるもんか!」
「なんだと物理ジジイ~」
「やるのか魔法エルフ~」
「おいおい、喧嘩するんじゃない」
ヒートアップした俺達をリンが諌めた。
まったく、ライトは魔法至上主義で困る。
そうして俺たちは会話もそこそこに、その夜は眠りについた。
そんなこんなで、俺たちは途中の村で食料を大量に買い込んだりしながら旅を続けた。おかげで出費が思ったよりも嵩んでしまった。やっぱり代金もらおうかな……。
そうして3日目、俺たちはついにランブルーム領の鉱山へと辿り着いた。
「ようやく着いたな〜」
「食料が尽きなくてよかったね……」
「本当にな……」
俺とライトはリンの方を向きながら嘆息した。あの後も、リンの食欲は凄まじかった。七つの大罪だったら絶対に暴食担当だろう。
「二人とも、準備はいいか?」
「ああ、さっさと終わらせちまおう」
「よし、じゃあ早速中に入ろう!」
そんなリンの掛け声と共に、俺たちは鉱山の入口へと向かった。




