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幼馴染のテイムモンスターですが何か?~VRMMOでキャリーしてたらユニークモンスター扱いされて世界中から追われてる件~  作者: あずーる


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5/10

第五話 懸賞金五万ゴールドの黒猿

 人目のない裏路地に佇む木造の宿屋。その一室へ滑り込むやいなや、俺たちは扉を固く閉ざし、太い木の(かんぬき)を落とした。

 ギルドタワーでの喧騒は、分厚い壁一枚を隔てただけで遠くくぐもった音へと変わる。


「その……なんかすまんな。ついかっとなって手が出た」


 床にどっかりと腰を下ろし、毛皮で覆われた頭をかく。

 桃花──モモは、威圧感のある竜人の翼をふわりと収めると、膝を折って俺と目を合わせた。その瞳に苛立ちのの色はなく、どこか誇らしげですらある。


「ううん、いいよ! 助けてくれてありがとうね、マキマキ!」

「それにしても……スレイヤー登録すらできないとはなぁ」

「どうする? リセットしてやり直す?」


 問われ、俺は己の肉厚な黒鋼の爪を見つめた。


「うーん……まあ、モンスターも案外悪くない。もう少しこのまま続けてみるわ」


 そう口にした瞬間、フロアの下──1階の階段吹き抜けから、聞き慣れた甲高い声が届いた。


「桃花~! ご飯できたわよ~! 真樹くんの分も作っちゃったからね~!」


 桃花が素早く部屋の扉を開け、手すりから身を乗り出すように階下へ声を張る。


「はーい! 今降りまーす!」


 通信の向こうではなく、生身の喉が震えるリアルな音響響き。桃花がこちらを振り向き、ニシシと八重歯を覗かせた。


「だってさ! お昼ご飯にしよっか、マキマキ!」

「おう」


 主メニューログアウトの操作を行う。視界が急速に白濁し、重力感が変化していく。


 ◇


 ずっしりとしたVRゴーグルを頭から外し、汗ばんだ額を袖で拭う。隣ではすでに桃花がゴーグルを床に放り出し、バタバタと階段を駆け下りていた。


 1階の居間に降りると、色とりどりの具材が美しい放射状に並べられた冷やし中華の皿が二つ、湯気を立てるお茶とともに並んでいた。錦糸卵の黄色、キュウリの緑、紅生姜の鮮烈な赤。


「すみませんおばさん、俺の分まで作ってもらっちゃって」

「いいのよ~! 食べ盛りの男子高校生が遠慮なんてしないの!」


 エプロン姿の美奈子さんが、弾んだ声でレンゲを並べてくれる。


「それにしてもさぁ……ログインしただけで結局何も進まなかったね」


 タレを絡めた麺を箸で啜りながら、桃花が頬を膨らませる。酸味のある醤油タレの香りが鼻をくすぐる。


「そんなこともないぞ。レベル11まで上がった」

「えっ、レベル11!? いつの間に!?」


 桃花の箸がピタリと止まり、目を丸くして身を乗り出してきた。


「あのベッツとかいうのと戦ったら、結構経験値もらえてさ」

「へ~! 1回の戦闘でそんなに上がるんだ!」

「ちょっとあんたたち! ご飯中にゲームの話ばっかりして!ちゃんと勉強もしないとだめよ。はい、これは食後のデザート!」


 美奈子さんがトレイに乗せて運んできたのは、二つのプリンだった。一つは小ぶりだが滑らかな質感のなめらかカスタードプリン。もう一つは、生クリームとカラメルソースが贅沢にかかった特大のデラックスプリン。


「わーっ! デラックスとなめらかカスタード! どっちにしよう!」

「モモが好きな方選べば?」

「うーんなめらかカスタードも捨てがたいけど……こっちの方が量多いからデラックス!」


 桃花が迷わず特大のカップへ手を伸ばすのを見て、俺は苦笑しながら手前のなめらかカスタードを引き寄せた。


 容器のフィルムを剥がすと、つやつやとした美しい光沢の黄身色が顔を覗かせる。同時に、濃厚なバニラとミルクの甘い香りがふわりと立ち上った。プラスチックのスプーンを差し込むと、抵抗感なくすっと沈み込む。


 一口、口へ運ぶ。

 絹のように滑らかな口当たり。噛む必要すらなく、舌の熱で甘やかすようにほどけて広がっていく。


「……うわ、これやっぱりおいしそう! マキマキ、ちょっと頂戴!」

「はいはい、どうぞ」


 スプーンですくい、口元へ差し出す。桃花は迷いなくパクリと食いつき、うっとりと頬を緩ませた。


「ん〜〜っ! なめらか! はい、マキマキもお返し!」


 代わりに差し出されたのは、彼女のデラックスプリンの欠片だった。口に含むと、先ほどとは対照的な、卵のコクが凝縮された少し硬めでしっとりとした食感が広がる。


 食後、自発的に空いた皿をシンクへ運ぶ。


「あら真樹君、ありがとうねぇ」

「いえ、ごちそうさまでした。作ってもらったお礼です」

「ふふ、うちの子も真樹君くらい気遣いができるといいんだけどねぇ。……桃花のこと、よろしくね」


 洗剤の泡を洗い流す美奈子さんが、ふと声を落として柔らかく微笑んだ。

 その視線の先では、桃花が最後の一すくいまで愛おしそうにデラックスプリンを味わっている。


「……はい。任せてください」


 食器を片付け終え、階段へと向かう。


「よーしマキマキ! お腹もいっぱいになったし、ゲーム再開するぞー!」

「駄目よ桃花! 先に勉強しなさい!」

「うぇー……はーい、わっかりまーしたぁ……」


 あからさまに肩を落とし、ズルズルと足を引っ張りながら二階へ上がっていく幼馴染。

 俺も美奈子さんに頭を下げてその後に続いた。


 案の定、部屋に入った瞬間、桃花は勉強机をスルーしてVRゴーグルへ手を伸ばしていた。

 その手を、上からひょいと掴んで制する。


「何するのー、マキマキ!」

「さっきおばさんに勉強するって言っただろ」

「言ってませーん! バレなきゃ大丈夫でーす!」


 開き直る顔の額めがけて、容赦なく人差し指でデコピンを弾いた。


 パチンッ!


「いたっ! 何するのさ!」

「そんなことばっかりやってるから赤点取るんだよ」


 俺は本棚から、角すら折れていないピカピカの数学の教科書を引き抜いた。開いた痕跡すら存在しない新品同様の紙の匂い。溜息を吐きながら、それを机の上に広げる。


「じゃあ、ここから復習始めるぞ」

「はーい……」


 つまらなそうにシャーペンを鼻と上唇の間に挟み、変顔で抵抗を示す桃花。俺は気にせず、桃花の全く使われている気配のない英単語帳を借りて勉強を始める。


 数分後。


「はい! 先生! 全然わかりません!」

「ああ……ここはな、この頂点からここに補助線を引くんだよ。ほら見えて来るやろ?」

「わー! ほんとだ、すっごい! マキマキ天才!」

「はいはい、天才天才」


 そのまま集中が途切れかけた桃花の背中を叩きつつ、約2時間が経過した頃。


 トントン、とノックの音が響いた。


「はーい」

「まあ桃花、ちゃんと勉強してるのね。偉いわ。喉乾いたでしょう、冷たいお茶持ってきたわよ」


 扉を開けた美奈子さんが、感心したように目を細める。


「えっへん! どうってこともないわよ!」


 鼻を高くする桃花を横目に、美奈子さんが部屋を辞していく。足音が1階へ降りていくのを確認した瞬間、桃花が小声で耳元に擦り寄ってきた。


「ねえねえ、もうママの巡回終わったし、ゲーム始めてもいいよね……?」

「……まあ、今日のモモにしてはよく頑張った方だな」

「やったーっ!」

「しーっ! 声が大きい!」

「ごめんごめん!」


 速攻でベッドへダイブし、ゴーグルを装着する二人。視界が急速に光へと包まれていく。


 ◇


『──Welcome back to Monster Slayers: Legend──』


 システム音が鳴り響き、薄暗い宿屋の木壁が視界に立ち現れる。

 身体を起こすと、手のひらに伝わる粗悪な木の感触。毛皮の重み。無事に再ログイン完了だ。


「よーし、じゃあ街の露店でも覗いて──」


 閂を外し、宿屋の重い扉を開けて外の通りへ踏み出した、その瞬間だった。


「──いたぞぉぉぉっ!! 懸賞金50000ゴールドの黒猿だぁぁッ!!」


 突如として爆音のような大声援が通りに響き渡った。


「なっ……!?」


 反射的に身構える。

 通りの両脇から、武器を構えた数十人のプレイヤーが一斉にこちらへ向けて雪崩打つように押し寄せてくるのが見えた。目の色が尋常ではない。飢えた狼の群れそのものだ。


「俺が先に捕まえる!」

「手柄を横取りするな! あの猿を突き出すのは俺だ!」


「おいおいおい!? 懸賞金ってなんだよ! 乱闘しただけでここまでなるか!?」

「知らないよ~! 私なんにも聞いてないっ!」


 急速に縮まる距離。数本の矢が足元の石畳に突き刺さり、甲高い音を立てる。陸路は完全に塞がれていた。


「モモ! 飛べるか!?」

「任せてっ!」


 桃花が背中の巨大な黄金翼を一気に広げ、強風を巻き起こしながら俺の胴体を両腕で抱え上げた。


 バサッッ!!


「重っ!? ちょっとマキマキ重い! ダイエットしてよ!」

「仕方ないだろ! 今の俺、ブラックエイプなんだから!」


 凄まじい重力とともに、身体が垂直に浮き上がる。

 足元で捕獲網や魔法のエフェクトが空を切るが、すでに俺たちの足は地上10メートル以上の高空へ達していた。


「あいつら空へ逃げやがったぞ!」

「逃がすな! おい、あんた竜人だろ! あれを追いかけてくれ!」

「ええ!? なんで俺が巻き込まれて──」


 振り返ると、空中に逃れた俺たちを追って、街のあちこちからワイバーンに騎乗したスレイヤーや、同じ飛行系の種族たちが続々と飛び立ってくるのが見えた。雲を刺すような羽ばたきの群れ。


「本気で追ってきてるじゃねえか! どこまでしつこいんだ!」

「どうするの!? このままだとスタミナ切れで落ちちゃうよ!」


 桃花の荒い息遣いが背中に伝わる。この大人数を振り切れる場所、かつ追手の視界を遮れる障害物が多いエリア──。


「サルツス密林へ行くぞ! あそこなら本物のブラックエイプがうじゃうじゃいる! 紛れ込めば撒ける!」

「そこまでスタミナ保つかなぁ!?」

「頑張れ! 無事届いたら、デラックスプリン3個奢りだ!」

「もう一声!」

「……チッ、コーヒーゼリートッピングもつける!」

「乗ったぁぁぁぁッ!!」


 桃花の黄金翼が爆発的な速度で羽ばたき、空を切り裂く。

 背後に伸びる無数の追撃部隊を従えながら、俺たちはサルツス密林を目指して、一直線に空を駆け抜けていった。


【モンスレ雑談スレッド Part 16】


 101:名無しのスレイヤー

 黒猿に懸賞金5万ゴールドかかってて草


 102:名無しのスレイヤー

 マジ? 誰が出してんのそれ


 103:名無しのスレイヤー

 ギルド前の動画見た大手ギルドの幹部らしい

「あの動きをする個体を捕獲して解析したい」ってよ


 104:名無しのスレイヤー

 5万ゴールドって、序盤なら高級武器一式買えるレベルの金額じゃねーかww


 105:名無しのスレイヤー

 で、捕まったん?


 106:名無しのスレイヤー

 いや、今日宿屋から出てきたところを大勢で囲んだらしいんだが


 107:名無しのスレイヤー

 捕獲成功か?


 108:名無しのスレイヤー

 逃げられた


 109:名無しのスレイヤー

 草


 110:名無しのスレイヤー

 どうやってあの包囲網抜けたんだよww


 111:名無しのスレイヤー

 ドラゴン娘が黒猿抱えてそのまま垂直離陸した


 112:名無しのスレイヤー

 力持ちすぎるだろそのドラゴン娘wwww


 113:名無しのスレイヤー

「重い!」って悲鳴上げながら飛んでったらしいぞww


 114:名無しのスレイヤー

 その後、ワイバーン部隊含む大空追撃戦に発展してて笑った


 115:名無しのスレイヤー

 現在進行形で見ものじゃねえか

 どこ向かってんだ?


 116:名無しのスレイヤー

 サルツス密林方面


 117:名無しのスレイヤー

 あっ……(察し)


 118:名無しのスレイヤー

 サルツス密林って……ブラックエイプの群生地やんけ


 119:名無しのスレイヤー

 あいつ、同種の群れに混ざって身を隠す気か!?


 120:名無しのスレイヤー

 どれが5万ゴールドの猿かわからなくなるやつwww


 121:名無しのスレイヤー

 賞金稼ぎどもが密林のブラックエイプ片っ端から狩り尽くす未来が見える


 122:名無しのスレイヤー

【速報】サルツス密林、賞金稼ぎによるブラックエイプ乱獲時代へ


 123:名無しのスレイヤー

【求】見分け方

【出】情報提供料1000ゴールド

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