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幼馴染のテイムモンスターですが何か?~VRMMOでキャリーしてたらユニークモンスター扱いされて世界中から追われてる件~  作者: あずーる


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第四話 素人が。他愛もない

 間近で見上げる冒険者ギルドタワーは、もはや建造物というより垂直に聳え立つ岩山だった。

 外壁を覆う巨大な石組みの目地にはうっすらと苔が蒸し、見上げる首の角度が90度に達しても、最頂部は遥か上空の白い雲に隠れて見えない。見張り塔すら足元に霞むその威容に、喉の奥がカラカラに乾くのを感じる。


「近くで見ると……マジでデカいな」

「ほら、マキマキ行くよ! 早くスレイヤー登録しないとクエスト受けられないから!」


 翼を折りたたんだモモが、俺の手首を強引に引っ張る。

 大理石の床を踏み締め、活気に満ちたギルドタワーの一階大広間へと足を踏み入れた。


 吹き抜けの天井からは巨大な魔法石の魔導灯が吊り下げられ、眩い光が周囲を照らしている。カウンター越しには幾重もの列が形成され、装備を整えたスレイヤーたちが喧騒を奏でていた。


「次の方、どうぞー!」


 愛想の良い受付NPCの明るい声が響く。モモは「はーい!」と元気よく手を挙げ、俺を引っ張ってカウンターの前へと滑り込んだ。


「モモさん、こんにちは。今日はどういったご用件でしょうか?」

「えっとですね! この子のスレイヤー登録をお願いしたくって!」


 モモが俺の背中をポンポンと叩く。受付の女性NPCは、黒縁メガネの奥の瞳を瞬かせ、俺の全身──毛深い黒鋼の体毛と、不格好な猿の容姿──を注視した。


「……恐れ入ります、モモさん。申し訳ありませんが、テイムモンスターのスレイヤー登録は受託できかねます」

「えっ!? 登録できないの!?」


 モモの肩が大きく跳ねる。


「はい。スレイヤー登録は自律した意思を持つプレイヤー固有の権利となります。従魔として登録されている個体は、あくまでプレイヤーの所有物扱いとなりますので……」


「ハッ! バッカじゃねーの!? これだから下級止まりの新人はよぉ!」


 背後から、鼓膜を不快に揺らす下品な笑い声が聞こえた。

 振り向くと、身丈ほどもある無骨な大太刀を背負った男が立っていた。身につけているのは、金属の光沢を放つ中級クラスの重装甲。


「なんだあいつ……?」

「……ベッツ。いっつも初心者に絡んでマウント取ってくる、ウザい人」


 モモが露骨に眉をひそめ、声のトーンを落とす。ベッツと呼ばれた男は、ニヤニヤと歪んだ笑みを浮かべながらジリジリと距離を詰めてきた。


「そんな雑魚テイムモンスターとちんたらままごとしてないでさぁ、俺と楽しいことしようや。中級ダンジョン、キャリーしてやってもいいぜ?」

「……お断りします。私、友達と遊んでるので。あと、触らないでください」


 ベッツの手が、モモの鱗で覆われた肩へと伸びる。

 モモが体を強張らせ、後ろへ引こうとした瞬間──


 バシッ!!


 乾いた打撃音が、大広間の喧騒を切り裂いた。


「……あ?」


 ベッツが呆然とした顔で自分の手元を見つめる。

 俺の手が、反射的に動いていた。ベッツの手首を横から手甲で叩き落とし、モモと男の間に割り込むように一歩踏み出していた。


 我ながら、考えるより先に身体が動いていた。幼馴染が嫌がっている手つきで触られようとしているのを見過ごせるほど、俺の神経は太くない。


「なんだぁ……? しつけのなってねえペットだな。ご主人様の顔に泥塗る前に、教育が必要みてぇだ」


 ベッツの額に太い青筋が浮かび、背中の大太刀の柄へ手が伸ばされる。重厚な金属音が響き、刃渡り一メートルを超える長刀が引き抜かれた。


「かかって来いよ。中級装備程度の雑魚が」


 喉から出たのは「うほ、うほほほあ!」という野性的な咆哮だけだったが、俺は嘲笑を込めて指先をクイックイッと挑発するように動かした。


 周囲のスレイヤーたちが一斉に足を止め、こちらに視線を注ぐ。


「おっ、なんだなんだ? 乱闘か?」

「あれ、ベッツじゃん。相手……ブラックエイプ?」

「いやいや、流石にブラックエイプじゃ中級プレイヤーに勝てるわけないだろww」

「俺、ベッツに一万ジーロ賭けるわ!」

「こんなん賭け成立しねーよバーカ!」


 観客たちの下世話な歓声が渦巻く。誰も俺をプレイヤーだとは思っていない。ただの生意気な従魔が、身の程知らずに中級者に喧嘩を売ったと高くくっている。


「一撃で終わらせてやるよ、糞猿がぁぁッ!」


 ベッツが大太刀を大きく右後方へ引き絞る。

 攻撃予備動作が長い

 過去作で何千回と見た大太刀カテゴリの基本モーション。威力が高い分、振り下ろすまでに明確なタメが発生する。PvPで初手からこんな大振りを繰り出すなど、素人以外の何者でもない。


 重心が前に傾いた瞬間、俺は左足の爪で床を力強く蹴り、身体を右側へ滑らせた。


 ビューンッ!


 頭上を虚しく切り裂く大太刀の風圧。

 間髪入れず、ブラックエイプの強靭な背筋を利用し、身体を捻りながらベッツの無防備な顔面へ右の爪を叩き込む!


 ブスッ!


「ぐあっ!?」


【スキル『爪攻撃 Lv1』を獲得しました】


 鮮血のエフェクトが舞い散り、ベッツの頭部が大きく揺れた。


「おお!? 避けた!?」

「いや、まぐれだろ!」


 野次馬からどよめきが起きる。だが、ベッツはすぐに態勢を立て直すと、顔の傷を血で汚したまま歯を剥き出しにした。


「舐めるなよッ!」


 大太刀の柄を短く持ち直し、最速の突きを繰り出してくる。

 直線的で隙の少ない鋭い一撃。今度は予備動作がほとんどない。


(ちっ……!)


 反撃の隙がない。俺は泥を蹴ってバックステップを重ね、紙一重で尖端をかわし続けるのが精一杯だった。冷や汗が毛深い皮膚を伝う。


「ほら見ろ! さっきのはやっぱりまぐれだ!」

「防戦一方じゃねえか。まあ、中級が雑魚猿に負けるわけねーわな」


(パターンを変えるか)


 相手は俺が距離を取って逃げ回ると踏んでいる。

 ならば──踏み込む。


 二歩後退すると見せかけ、右足の裏で強烈に床を捉え、逆に前傾姿勢でベッツの懐へと跳び込んだ。


「なっ……!?」


 予想外の接近に顔を歪ませたベッツが、咄嗟に大太刀を横へ薙ぎ払う。

 広範囲を薙ぎ払う緊急回避攻撃。だが、それすらも俺の計算内だ。


「甘い」


 薙ぎ払われる刃の直前、俺は両膝を限界まで溜め、垂直に跳躍した。

 視界の下を、ギラつく刃が滑り抜けていく。


 宙で身体を半回転。落下の重力速度をすべて乗せ、右の拳をベッツの左頬へ直撃させた!


 ドゴォッ!!


「ふぐっ!?」


 勢いを殺さず、着地と同時に相手の右腕の関節へ向けて、渾身のカカト落としを叩きつける!


 バキッ!


「あがぁっ!?」


 鈍い衝撃音が響き、ベッツの右手から大太刀が滑り落ちて石畳に転がった。手が強烈に痺れ、指先がピクピクと痙攣している。武器を拾い上げるどころか、数秒間は握ることすら不可能な状態だ。


(終わりだ)


 無防備になった無骨な顎へ、下からの回転回し蹴りを叩き込み、体勢が崩れたところへ喉元を撃ち抜く強烈な上昇アッパー!


 ドカァァンッ!!


「がっ……は……っ!?」


 ベッツの身体が宙に浮き上がり、そのまま背中から床へ崩れ落ちた。

 一瞬の静寂の後、彼は眩い光の粒子となって雲散霧消した。


 静まり返る大広間。

 誰も口を開かない。誰も動かない。ただ、転がったまま消えない大太刀の余韻だけが残っていた。


「な……なんだぁ、あの猿……?」

「おい……お前、幻覚でも見せてんのか……?」


【格上プレイヤーを撃破しました】

【ボーナス経験値を獲得します】

【レベルが 1 → 11 に上昇しました】


 赤黒いログが視界に躍り出る。圧倒的なレベル差補正と格上撃破ボーナスが重なり、一気にステータスが跳ね上がった。


「ふぅ……いい経験値だったぜ」


 息を吐き出し、パサパサと手を払う。

 その時、隣から猛烈な力で腕を引かれた。


「ちょっと! もう何やってるのマキマキ! 早くここから離れるよッ!」

「お、おい、モモ!?」


 顔を真っ赤にしたモモに手を強く引かれ、俺たちは呆然と立ち尽くす観客たちの間を縫うようにして、大慌てでギルドタワーの外へと駆け出した。


 ◇


【モンスレ雑談スレッド Part 15】


 67:名無しのスレイヤー

 なあ、さっきギルドタワーの前で乱闘あったの見た奴いる?


 68:名無しのスレイヤー

 見た見た。

 ベッツと謎の黒猿だろ?


 69:名無しのスレイヤー

 黒猿って何だよwww


 70:名無しのスレイヤー

 ブラックエイプ。

 竜人の女の子が連れてた奴。


 71:名無しのスレイヤー

 あれテイムモンスターなんか?


 72:名無しのスレイヤー

 らしいぞ。

 受付でスレイヤー登録しようとして断られてたの見た。


 73:名無しのスレイヤー

 テイムモンスターってスレイヤー登録できないだろ普通。


 74:名無しのスレイヤー

 だから断られてた。

 で、その直後にベッツがその竜人にしつこく絡んで乱闘発展。


 75:名無しのスレイヤー

 ベッツって一応中級だよな? 装備も固めてたはずだけど。


 76:名無しのスレイヤー

 で、結果は?


 77:名無しのスレイヤー

 黒猿の圧勝。

 てかベッツ一滴も血が残らんレベルでボコられてた。


 78:名無しのスレイヤー

 ?????


 79:名無しのスレイヤー

 動画上がってたから見たけど、これマジ???

[動画URL:ギルド前・謎の暴徒猿]


 80:名無しのスレイヤー

 うわ何これ怖……


 81:名無しのスレイヤー

 ブラックエイプってあんなフレーム回避みたいな動きする奴だっけ?


 82:名無しのスレイヤー

 するわけねぇだろwwww

 大太刀の振り下ろしを完璧なタイミングで横ステップで避けてるぞこれ。


 83:名無しのスレイヤー

 俺もブラックエイプテイムして連れてるけど、指示出さなきゃ棒立ちか適当に泥投げるだけだぞ。

 あんな空中からのカウンターパンチとか関節狙いのカカト落としとか知らんスキルなんだが。


 84:名無しのスレイヤー

 AIがおかしいのか?


 85:名無しのスレイヤー

 特殊なレア個体説。


 86:名無しのスレイヤー

 イベントの先行配布とか?


 87:名無しのスレイヤー

 それなら公式から告知あるはずだろ。


 88:名無しのスレイヤー

 ベッツ、中級名乗るのやめた方がいいんじゃねこれwww


 89:名無しのスレイヤー

 いやでもあの猿の動き、中の人がプロ格闘家レベルだぞ。

 指示出してるドラゴン娘の方も何も喋ってなかったし、勝手に動いてたっぽい。


 90:名無しのスレイヤー

【求】あの超ハイスペック黒猿の捕獲場所

【出】ゴールド50,000


 91:名無しのスレイヤー

 無理だろ、そもそも生息地サルツス密林の雑魚だぞ。


 92:名無しのスレイヤー

 そのドラゴン娘に直接聞きに行けばよくね?


 93:名無しのスレイヤー

 猿がベッツ倒した直後に、慌てて手引っ張って街の外へ走っていったわ。

 今どこにいるかは誰も知らん。

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