表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/18

03. パケ詰まりも胃酸もデバッグします


「の、野村部長……。いったい、どうしたら……」

「……お引き取り願おう。これは我々の手に負える人材ではない」


野村が面接を打ち切ろうとした、その時。

佐藤が持ち込んでいた業務用のノートPCから、突如としてけたたましい警報音が鳴り響いた。


――ビーッ! ビーッ! ビーッ!


「な、なんだね!?何が起こった!?」

「『Zシステム』の死活(しかつ)監視アラートです!! なんだ……!?CPU使用率が、計測不能(N/A)!?」


画面を埋め尽くす、毒々しいほどに真っ赤なエラーログ。さらに佐藤の胸ポケットで、社用スマホが狂ったように震えだした。


―― ピリリリリリリッ!!!


焦った佐藤が反射的に通話ボタンを押した瞬間、鼓膜(こまく)を破らんばかりの怒号が飛び出した。


『おい佐藤ッ!! 何してやがるっ!?!?』


「ひっ、く、黒川さん!?」


『アラートは見たな!? トラフィックがパンクした! DDoS(ディードス)なんて次元じゃねぇ、未知の攻撃……いや、サイバーテロだ!!』


「サ、サイバーテロぉおお!? 」


『今すぐ戻れ!!『X-CORE(エクスコア)』に侵食される前に、物理遮断する!! ケーブルを引っこ抜くぞ!! 』


「野村部長、すみません!! 俺、戻らないと……ッ!!」


真っ青な顔の野村。ノートPCを取り落としそうになる佐藤。

パニック寸前の面接室で、結衣だけが静かに眉をひそめていた。


(……これは、最高神様の力の波動……。天界からの情報操作に人間界(かれら)のネットワークが耐えられなかったのでしょう)


全知全能の至高の存在が、人間界の狭い回線に無理やり割り込んだ副作用。神が招いた災厄だ。

ならば、それを直すのは女神としての責務に他ならない。


「失礼します」

「え?」


結衣はスッと佐藤を押しのけ、キーボードに手を置いた。


「――私が、調律(デバッグ)しましょう」


次の瞬間、佐藤は己の目を疑った。


スタタタタッタタッタッタタタタッ!!


それはタイピングではない。まるでピアノの超絶技巧演奏だ。

十本の指が残像となり、打鍵音が重なって一つの重厚な「旋律」になる。


「ぶ、部外者が、なにを!?」

「待ってください! 今、下手にいじると何が起きるか……!」


野村と佐藤が真っ青になって叫ぶが、結衣の耳には届かない。

彼女瞳の奥で、青く美しい光が瞬く。その視界は、モニターの文字ではなく、システムを流れる光の奔流を捉えていた。


(――見えました。……これでは、蛇口に滝を流し込むようなものです)


ゲートウェイの入り口で、処理しきれない神のデータが巨大な津波となって、後続の通信を押し潰している。


結衣の指が激しく踊り、やがて決定的なキーへと伸びる。


『おい佐藤!? 聞こえてんのか! 今すぐ……』


「今ですッ!」


――ッターン!


エンターキーを叩く音が、鋭く響き渡った。


一瞬の静寂。ファンの回転音が止まる。

直後、赤く染まっていた画面が、波紋が広がるように、一斉に美しい緑色の文字列へと書き換わっていく。


『SYSTEM: ALL GREEN』


「完了です」


結衣は涼しい顔で振り返った。


「……い、いま……何を……?」


「パケットのヘッダに、『宇宙真理の一端』―― いえ、プロトコル違反のメタデータが内包されていました。ゲートウェイのバッファが飽和し通信不能になっていたため、キーストロークを介して電気信号を打ち消し、経路を確保したのです」


「「……はい?」」


佐藤と野村が、魂の抜けたような声でハモる。

結衣は小首を傾げ、一瞬後、もっともらしく頷くと、うすい微笑みを浮かべた。


「要するに……『パケ詰まり』です。巨大なデータが入口を塞いでいました。取り除きましたので、もう流れます」


「……パケ詰まり……? いや、でも……」


佐藤の手がだらりと下がる。


『……なんだ……!? パケットが……消えた……!?』


佐藤のスマホのスピーカーから、黒川の驚愕した声が響いた。


呆然とする人間たちに、彼女は慈愛に満ちた――反論の余地を封殺する、完璧な微笑みを向けた。



「では、面接の続きを。――――――次のご質問をどうぞ」




野村部長は、震える手で胸ポケットからネーム印を取り出した。

迷いを振り払うように振りかぶり、力いっぱい履歴書に叩きつける。


―――ダンッ!!


「……採用ッ!!!」


「ええっ!? 部長、正気ですか!?」

「いいんだ佐藤くん! 腹は括った。私が――この私が、全責任を取る!」


野村は充血した目で叫んだ。


「もはや我が社は断崖絶壁……。ここから救い出してくれるなら、相手が神だろうが悪魔だろうが構わん。私は、貴女という可能性に賭ける!」


「承知いたしました。デジタル・ハーモニー社の一員として尽力いたします」


結衣は静かに立ち上がり、野村へ右手を差し出した。

野村が躊躇(ためら)いがちにその手を握った、その瞬間。


――ズアッ!!


「……っ!?」


掌から、温かく鋭い「衝撃」が突き抜けた。

驚きに目を見開く野村の前で、結衣は左右対称の完璧な微笑を浮かべ、小さく(ささや)いた。


「――微力ながら、あなた方を『真理』へと導きましょう」


呆然と立ち尽くす佐藤の前で、規格外の女神の入社が決定した瞬間だった。



本日21時に更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ