41、王太子の戸惑い
毎週月曜日投稿作品です。
マリエルサイドに戻ります。
南の応接室内で、緊迫した空気の中、廊下が騒がしくなりマリエルはデジャヴ?と扉の方を見れば、同時に開かれた戸口で、モタモタとクリストファーとディークファルトが牽制し合いながら入ってこない状態が目に入る。
「そこを退いて下さい!兄さん!!」
「ディーこそ退きなさい!」
2人のやり取りに状況が掴めず呆然と見つめるしかなかったマリエル達だったが、後ろで呆れ顔のサイラス達が見え神妙な面持ちに戻る。
「お前らいい加減にしろ!また年功序列で入室するのか?!」
サイラスが怒鳴ればディークファルトが言い募る。
「先程は年長者からだったのです。今度は年少者からでしょう!」
「ずるいぞ、ディー!」
ディークファルトとクリストファーのやり取りに嫌気がさし怒鳴ったのはルーカスだった。
「喧しい!いいから早く入れ!」
ギャーギャーと騒いでいるロイヤル達にイーサンが呆れ顔を向けた。
「何事です。兄弟喧嘩なんてするような年でもないでしょうに」
「「誰のせいだと思ってるんだ!」」
ディークファルトとクリストファーの剣幕にイーサンの片眉が上がった。
私のせいだとでも言うのか。
イーサンはサイラスを見るが首を横に振られた。
イーサンに焦点を当てたクリストファーとディークファルトは一斉に入室。
続いてサイラス達も入室してきた。
「イーサン、会議を抜けてまでするような勉強会とは何だ」
サイラスの言葉にイーサンとマリエル、サラは表情を硬くした。
「何もされなかったか?!」
と、クリストファーはサラに詰め寄り
「イジメられなかったか?」
とディークファルトはマリエルを囲った。
緊張感のない婚約者にさすがのマリエルも脱力した。
「何かとは何です?空気を読んでください!クリス様」
サラの剣幕にクリスはこの世が終わったような表情になる。
そんなやり取りを見たディークファルトはマリエルを見つめるが、マリエルは嘆息後「ディー様のバカ」と呆れ顔を向けた。
こちらも傷ついた表情になるが、それどころではない。
「私が誰のために一肌も二肌も脱いだと思っているのです」
恨み節たっぷりにイーサンがサイラスに向かって言えば、私か?!と目を見張る皇太子に、事の顛末を話すと思考が停止したのか見動き1つしなくなった。
ルーカスや他の兄弟も騒ぐことをやめ、サイラスの動向を見守るが余程ショックなのか王太子は浮上してこない。
見かねたルーカスが、まずは何から手をつけるかとその場を仕切り始めた。
「まず侍女の選別を私が行います。侍女教育も含めてカーラとも相談します」
イーサンの言葉を皮切りにサラも口を開いた。
「私は護衛兼相談役として妃殿下の元に行きます」
結婚が近い婚約者が仕事優先とばかりに皇太子妃に就くと聞き、クリストファーは焦り声を上げる。
「サラ?!」
「勉強会は妃殿下の元で行うことになりました。講師は妃殿下にお願いすることにしたのですが、よろしいですね」
有無を言わせないサラの表情にクリストファーは黙った。
「私もできるだけシャーロット様のお話相手になって、サラ様と一緒に勉強しようと思うのですが、ディー様よろしいですか?」
「シャーロット義姉上のところで?」
「はい、あそこへは許可のない者は入れませんし、男性もサイラスお義兄様かここにいる方くらいでしょう。お勉強もシャーロットお義姉様が見て下さるなら私も安心ですし」
そこへ場を読まぬ発言をしたのはクリストファーだった。
「勉強は私が見ようと思ってたのに」
その言葉に反応したのはルーカスだった。
「ふざけんな!政務はどうした?!」
「そうですよ!それなら俺が見ます!」
ディークファルトまでもが参戦し、ルーカスのこめかみの血管が浮いてくる。
「だから!」
そこに割って話に入ったのはマリエルだ。
「ディー様、お仕事を蔑ろにする方は好きではありません」
マリエルの辛辣な言葉にディークファルトは一瞬で意見を変えた。
「うん、義姉上に頼もう」
「話が進まん!お前らは黙っていろ!」
ルーカスに一喝され、クリストファーとディークファルトは黙るしかなくなった。
ようやく静寂が訪れ、ルーカスがイーサンを見た。
「俺たちは何かすることはあるか?」
ルーカスの言葉にイーサンは首を横に振る。
「今あるとすればサイラス殿下くらいでしょう」
「・・・・・俺?」
心ここにあらずのサイラスはビクリと肩を震わせ、ゆっくりと顔を上げた。
「ええ、あなたです」
現実を逃避しているように、まだ状況を理解していないサイラスにイーサンは頷き、続いてマリエルも追従した。
「すぐにでもシャーロットお義姉様の憂いを取って下さい」
「事は急を要します。下手をすればお腹の子に影響が及びます」
サラにまで言われて、ぐったりと背後の壁に寄りかかり顔に手を置き考えるサイラスにマリエルはふと気になることを口にした。
「イーサン1ついいですか?」
「何でしょう」
「皇太子妃にシャーロット様をと望んだのは理解したのですが、そもそもジファーグ王国に拘ったのは何故です?」
「皇太子妃の条件は細かく決めていました。まず国内の貴族は1番に外しました。これ以上力をつける貴族は不必要と判断したためです。その上で他国に目を向けた場合、候補者がいくらかいたのですが、サイラス殿下がその中で選ばれたのが、シャーロット様だったのです」
「選んだ基準は?」
「基準ですか」
「財政難の国に結婚を申し込み、6年もの歳月をかけてでも欲したのはサイラスお義兄様なのですよね。国としての有益の為なのか、個々の感情故の行動だったのかです」
「それは殿下のみが知ることです」
「嘘つきね。いくら博識が高いとはいえ力を持たない国の人間を有益と言い張るなら、本当にお飾りの妃が必要だったと言っていることになるわ。そんな妃を必要としてたの?この国は」
「・・・・」
「今更取り繕っても仕方ないでしょう。何故隠すのです?」
「結構気にしてるんだよ」
ルーカスの言葉に、マリエルは何に?と問う。
「もしかして年の話ですか?」
クリストファーの言葉にサイラスがビクリと身体を揺らした。
それにはクリストファーも呆れ顔を向けた。
「え!今更でしょう。それに年の差ならうちもそんなに変わらないですよ」
「うちは9歳差か」
ディークファルトはマリエルの肩を抱き口にする。
「うちは11歳差ですよ」
クリストファーの言葉にルーカスは苛立だちそうに睨んだ。
「それを言ったらうちだって9歳差だ!問題はそこじゃない」
「では見初めた年齢のことですか?」
サラの言葉にクリストファーが反応する。
「どういう事だい?」
「婚約が決まった時、妃殿下は19歳でいらしたので私も気にしなかったのですが、先程の話では13歳の妃殿下を見初めたのだとか」
そもそもこの国の王子たちが結婚に消極的になり結婚が遅くなったのも、引きこもり王のユーグが仕事を放り出したことへの弊害だろう。
龍がいる国と言っても他国から侵略されないわけではない。
周辺国との小競り合いがある中で一番乗りで結婚したルーカスでさえ20代後半で結婚したが、国内内部の分裂を避けるために王位継承権を破棄してでも結婚に踏み切ったと聞いている。
それでも王太子に万が一後継者が生まれなければ、ルーカスの息子の1人を養子にする案も浮上していると政治に詳しい先生は言っていた。
現在王太子妃が懐妊し、懸念事が無くなり、他の王子たちも結婚の流れに拍車をかけ今に至るわけだが、それほどオルリアの王族達は民の暮らしを優先し、自分たちのことを後回しにして来た上で暮らしやすい国を築いているのだ。
その事情を知っているからこそ、年齢は皆無とマリエルも参戦する。
「理屈ではないと思うのです。私など6歳の頃にディー様と出会って、今思えば運命の出会いだったのだと思っています。13歳のシャーロット様に運命を感じたと言われたところで私は引きませんわよ」
「トドメを刺してどうするマリエル」
げっそりとしたルーカスに言われマリエルは首を傾げた。
「刺しました?私」
「俺は思わないが」
ディークファルトの言葉にルーカスはお前は、そうだろうよ!お前は!!と心の中で叫んだ。
「たぶんそこを常識で当てはめたら、尚更シャーロット様は噂の方に信憑性が出るから自信が出ないのでは?」
マリエルの言葉にイーサンが反応する。
「つまり当時13歳の自分より年の近い成人した姉に懸想をしたと思い込んでるということですか?」
「ええ」
「腹を括るべきでは」
クリストファーの言葉にサイラスは頷けなかった。
「真実を口にするべきです。少なくとも愛しているのが誰なのかはっきり伝えて下さい。そこはサイラスお義兄様の矜持は捨てて下さい」
本気で刺しに行った?!
「マ、マリエル。ちょっと待て」
ルーカスの静止を振り切ってマリエルは言い募った。
「すべてを失う前に」
え、と皆がマリエルを見つめた。
「この先、何もしなかったら、シャーロット様もお腹のお子も失いますよ」
「失うってどういうことだよ」
ルーカスの弱い声色にマリエルは真剣な表情でサイラスを見据えた。
「今、サイラスお義兄様には2つの道が用意されています。1つは思いを告げ、夫婦間の距離を縮める方法です。もう1つはこのまま時が過ぎるのを待つ場合です。ですがその先には明るい未来はありません」
後者のように何もしなかったら、シャーロットもお腹のお子も失う。という言葉に繋がるのか。
ルーカスは黙って兄に視線を向けた。
確かに矜持を捨ててでも行動を起こさなければいけない大事な場面なのかもしれない。
「兄上」
ルーカスが兄に声をかけようとした時、マリエルからさらに辛辣な言葉をかけられた。
「せめて孤立無援にさせていたことくらいは謝って下さい。今後は嫌な思いはさせないこと、不必要な存在だから孤立させていたわけではないことをきちんと説明して差し上げて下さい」
孤立=不必要の経図がサイラスの脳内で響いた。
「不必要?」
「関心があれば普通は気付くはず。と私なら思ってしまいますもの」
大きく見開き傷ついた表情をした後、部屋を飛び出したサイラスに、緊張していた面々は肩の力をハーっと抜いた。
「しかしさすがですね」
イーサンはマリエルに向かって言葉を発した。
「何が?」
「2つの道まで見えるとは思いませんでした」
「ああ、あれね」
眉を下げたマリエルは申し訳なさそうに項垂れた。
「ごめんなさい。あれはハッタリです」
え!と誰もがマリエルを凝視した。
「だってあそこまで言わないとお義兄様動きそうになかったから、つい」
ついって。
呆れる皆の前でマリエルは言った。
「でもそんなもの見えなくてもこのまま何事もなく、なんて済まないでしょう。シャーロット様のあの感情の乱れは普通じゃなかった。相当のストレスを抱えている状態ではお腹のお子も無事生まれるかも危ういですから。現に気分が優れないことが多々あると聞きましたから」
マリエルの言葉に同じ女性として理解できるサラも頷いた。
「不自由さを無関心と捉えるなら不必要な者と認識していても納得ですわね」
「ええ」
マリエルは深刻な表情でイーサンに言い募る。
「それにあの記憶が正しいとなれば、いずれあの姉君は何らかの行動を移されるでしょう。そうなった時、護れるのはサイラスお義兄様だけです。知ったからには今、早急に動いて頂かなければこの国から皇太子妃は消えますよ」
そこまで聞いた他の面々は、ハッタリとまでは言い切れないな。と顔を強張らせた。
ルーカスもイーサンも深いため息を吐いた。
マリエルもフーッと息を吐くとイーサンに注文した。
「と、いうわけでイーサン。サイラスお義兄様を団魂世代並みに働かせるのは辞めて、時間を作って下さい」
「団魂世代って」
「だってそうでしょう。まるで顔も見たくないと言われているように、夜は妃が寝た後に帰り、朝は早朝に出て夫婦間で挨拶もないなんて」
「ああー、その辺の色恋事情をイーサン兄に分れと言うのは酷な事ですね」
ガシガシと頭を掻くサックスは「この人恋愛不感症なんですよ」と言い放った。
何?!と目を見張ったのはディークファルトだった。
「なのにお前、昔俺に女の1人でもいいから口説けとか言ってたのかよ」
「そりゃ、臣下として殿下を心配するのは当然でしょう」
「大きなお世話だ?!」
いけしゃあしゃあと言うイーサンにディークファルトは腹ただしそうに叫んでいた。
そんな二人を見ながらルーカスは嘆息する。
「まあ、兄上が働き過ぎなのは否めないな。イーサン、仕事で俺たちに回せるものは回せ。確かに今の皇太子夫婦には少しでも時間を作った方がいい」
「承知致しました。では早速お願いしたいことがあります。殿下方、執務室まで同行願います」
仕方ないと皆がゾロゾロと応接室を出ている時、ディークファルトの手に引かれながら退出していたマリエルは首を傾げた。
(恋愛不感症?)
サックスの言葉に引っかかるものがあった。
恋愛不感症と言われたあの時、イーサンから流れた微かに流れてきた感情には、誰かを思う深い愛情を感じられた。
ただその相手に問題があるように思えた。
濃い金髪に金色の瞳の美しい女性、哀愁漂うユーグ王、ユニコーン、黄金の滝、白磁の女神像。
断片的ではあったが一瞬それらが見えた。
(もし思い違いでなければ、あの方は・・・)
不可解なことが多い記憶だった。
けれど今は皇太子夫婦が最優先だ、とマリエルは頭を振り被った。
心配そうに覗き込んだ婚約者にマリエルは微笑むと足取りは重かったが歩を進めた。
窓の外では相変わらず、先が見えぬほどの大降りの雨が降っていた。
次回は来週月曜日UP予定です。
よろしくお願いします。




