42、秘密の多い夫婦、姫の後を自力で追う
毎週月曜日投稿作品です。
私事で申し訳ないのですが、3年前にリウマチを患いまして薬との相性がなかなか合わず現在も痛みと闘いながら、パートの仕事が実質制限され働けなくなった時間を利用して小説を書いております。
最近体調が思わしくないため、手首の痛みが引かず執筆活動が難航しております。
定期的に投稿したいのですが、構想はあっても文字にすることが叶わず、以後は間隔を開けて投稿となることをお許しください。
この作品のストックが完全に尽きましたので次回の投稿は未定です。
気長に待って頂けると幸いです。
よろしくお願い致します。
マリエルは記憶の応酬で身体が疲弊していたが、昔のように倒れる程ではないことに安堵した。
あの頃に比べれば、体も大きくなり体力があるのが要因と思われる。
一度倒れた時には父が大騒ぎして城中が蜂の巣を突付いたように大事になったのは、昨日のことのように覚えている。
今は父はいないとはいえ、同じように騒ぐ、もとい心配してくれる存在がいる以上気をつけた方がいいだろう。
特に今はマーシーやジオンがいないのだから・・・・。
あの2人は今どうしているだろうか。
勝手に1人でオルリアに来たことを怒っているだろうなあ。
・・・・怖いなぁ・・・。
ブルリとマリエルは1人震えた。
◆
その1日前のジオン夫婦はというと・・・。
「待て!マーシー!!」
ドドドッと目一杯、黒馬走らせている妻に後方から叫んでいるのはデュリカーナ王国の王女付き護衛のジオンだ。
王都から離れた荒野を走り抜けるジオンの後方には、建物の灯りがポツポツと見える程度だった。
すでに王城から離れたこの地を馬で駆けっているのは、周囲を見渡しても2人だけ。
自身の護衛対象である王女が何を血迷ったのか、隣国へと帰還する使者と共に竜に乗ってオルリアに行ったのは数時間前のことだ。
本当にあの姫さんは!
お転婆にもほどがある!
しかし今回は王妃様が後押ししたこともあり、侍女の立場であるマーシーは怒りを表には出さなかった。
けど、怒ってないわけじゃない。
注意深く様子を見ていたら、案の定だ。
木の幹のまま姫さんの愛黒馬であるフォースに乗り、オルリアに向けて全力疾走を始めやがった。
本当こいつの頭の中は姫さん一色で妬けるやら何やら。
俺は置いていって不安はねーのかよ!
「一度止まれ!お前に合わせてたらフォースがつぶれるぞ!」
「!!」
その言葉に一旦頭が冷えたらしい。
徐々にスピードを落として黒馬の足が止まった。
軍用の馬とはいえ、ほぼ1日中走らされては体力ももうほとんど残ってねーだろう。
ほらみろ。ほとんど虫の息じゃねーかよ!
すぐさまフォースに繋がっている綱を持ち、これ以上妻が暴挙にでないように制御する。
「今日はもうこれ以上進むのは危険だ。フォースももう今日は無理だ」
苦虫潰したような顔の嫁を見て、深いため息が出る。
何だかんだといって、こいつも姫さんと同類だよなあ。
本当手のかかる。
「ちょうどいい、森がすぐ側にある。今日はこのまま野宿するぞ」
「こんなところで?!」
「お前が文句言うんじゃねーよ!最短でオルリアに行きたいのか道なき道を選んで走ってたのはお前だろうが!」
グッと押し黙った嫁を横目に小さな森の中腹で見つけた川原に2頭の馬を離し、焚き火に必要な薪になりそうな枝を探して回る。
戻ってくれば石が積まれており、そこに枝を置くと火付け石で火を起こした。
周りを見渡すがあいつがいない。
馬は揃って川の辺りにいるし、どこに行った?
野宿と聞いてこの場所に石で囲いを作ったことから、そう遠くに行ってないと思うが。
トイレか?と思っていたら一本の紐に何かぶら下げて川の上流の方から帰って来た。
「おい、なんだそれ?」
「見りゃわかるでしょう。魚よ、川魚」
「いやいやいや!お前なんも持ってなかっただろう!なんで紐に6匹も括られてあるんだよ!」
どこから用意したのか。
嫁の手に握られた紐に括られた川魚6匹がいる。
「何でって、さっき川で取ってきたからでしょう」
突っ込みどころ満載だな、おい。
「小1時間も経ってねーのにどうやって取るんだよ!」
「え、小石で」
「・・・・・・・はい?」
「小さい頃、遊びでしなかった?川の水面に石を投げて何回跳ねるか」
「やったな」
「その要領で水面に浮かんだ魚に当てて取るのよ」
「いやいやいや!それで取れねーから!」
つーか女のお前が川原で小石投げて遊ぶとかおかしいだろう?!
「取れたからこの収穫なんじゃない」
ズイっと紐を持ち上げた先で数匹の魚が揺れていた。
俺の嫁はアマゾネスか何かか?
姫さんも王族として規格外だが、嫁も大概普通の女と比べると規格外だよ。
まあそういう俺が標準かと言われるとNOなんだが。
それでも無愛想な俺の嫁になってもいいっていう奇特なやつで、愛想つかさずに一緒に居てくれるのだから、有り難い存在ではあるが、時々こいつのことはわからなくなる時がある。
男爵家の出とはいえ、身のこなしは女のものより男に近いし、多少の武術の心得もあるのか、俺が守りやすいように姫さんを誘導することもある。
こいつが自身のことを言わない以上、検索するつもりもねーが。
道具を使わず魚取るとか、それはどうなのよ?
そんなことを考えている間にも、嫁は手頃な枝で魚を串刺し、焚き火の周りに置いていく。
手際がいいな、おい。
ま、こいつが何者かなんてどうでもいいんだがな。
そこは俺や姫さんを絶対に裏切らないという自負があるから。
そこん所だけしっかりわかっていれば、後はどうでもいいと俺は思っているから、そこはいいんだけどよ。
深く考えてたら、俺が馬鹿を見ることも多いのでもうやめよう。
ただ大きな嘆息が出るのは許してほしい。
夜の帳が落ち始め、周りが見渡せなくなる暗さになった頃、夕食が出来上がったようだ。
「これ、もうよさそうよ」
言われて、無言で枝に刺された魚を受け取ると思いっきり腹部分にかじりついた。
それを見た嫁もモソリと魚にかじりつく。
少し冷え込んで来た外気温に、ブルリと体を震わせながら足元に積んでいた枝を焚き火の中に放り込んだ。
バチバチという音と赤く燃え盛る様子を目にしながら嫁に話しかけた。
「お前このまま馬使って強行軍でオルリアに行くつもりか?」
「当たり前でしょう!それ以外の選択肢なんてないわよ!」
「・・・・お前の選択肢は1日でも早く姫さんのところに行くことだろう。俺が言ってるのは手段の話だ」
意味がわからないという顔で嫁が見ているのをわかっていながら、もう何本か枝を焚き火に投下した。
「馬でどんなに速攻で移動してもここから国境までは1日半以上かかる。そこからオルリアの王城まではさらに2日だ。馬ではどんなに急いでも移動に3日半ちょいかかる。けどある手段を使えば国境からオルリアの王城まで2時間とかからな、グエッ」
胸ぐらを嫁に掴まれ、その力に流石に驚く。
息が苦しいぞ!こら!!
「その手段って何?!」
頭を大きく揺さぶられ、酸欠で意識が薄れる前にベリっと引き剥がした。
「息苦しいわ!俺を殺す気か?!」
「それよりその手段って何!」
俺が生きるか死ぬかの話にそれよりとは何だ?!
「手段」
ズイっと下から睨めつける嫁にこいつは・・・と、諦めの嘆息が出る。
「デュリカーナとオルリアの国境にはオルリアの軍の駐屯地があるんだよ。そこにあの生き物がいる」
「それって・・・」
「あれを乗りこなせれば最短で王城まで2時間弱で着ける。もっともあの生き物に近づくだけでなく乗りこなし、操縦することが大前提だがな」
「誰に言ってるの。姫様のためなら乗りこなして見せるわよ!」
いやいやいや、そこは冷静になれよ。
眉間に皺を寄せた俺に、嫁は黒い笑みを浮かべた。
「姫様には感謝せねばならないわね。ジュリアスで竜への耐性は、充分できてるわ」
「確かに耐性はできただろうが、ジュリアスとその辺の野生の竜を一緒にするなよ。あの竜は特別だったんだ」
「野生がなんぼのもんよ!私を舐めんじゃないわよ!」
握り拳を夜空に掲げる嫁を、遠い目で見つめたのは仕方ないと思うぞ。
本気で俺の嫁はアマゾネスだったと肩を落とした。
そうと決まれば、とっとと寝て明日に備えなければと、嫁はいそいそと俺の足元に座ると数秒で寝やがった。
足元から体が出ないように抱き寄せたが、複雑な面持ちで嫁を見た。
遭難者などの冷え込む時期の対処法。
2人の場合、互いの体温を利用して暖を取り冷えに対応する。
言われなくても行動を当たり前にするこいつは本当に何者なんだ。普通の貴族令嬢の行動ではない。
自身も嫁に言っていないことがあり強く出れない部分があるが、嫁にも秘密がありそうだと嘆息した。
ジオンの出自はデュリカーナでは秘匿とされているが、彼はアンジェリーナの祖国デュエンケルの出身者だ。
14年前自国の皇女を頼りに国を飛び出した親族の1人で、王太子アランの呼びかけに応えた結果だった。
アンジェリカとアラン。
異分子の2人を思い出し、ジオンもこの後勃発するであろう邪竜との決戦に向けて覚悟を決めた1人だった。
避けられようのない現実に、自分の出自を思い出し乾いた笑みが溢れる。
それでもこれまでの記憶を思い返しても、他者と結婚し家庭を築いたことがない自分が、今回は守るべき御方以外に大事な人が出来たことは驚き以外の何者でもない。
そういう意味で今自分の腕の中で眠る愛しい存在をぎゅっと抱きしめた。
「お前が何者であっても俺は離しはしないし、守ってやるよ」
誓いを立てるジオンの顎に、下から嫁が寝たまま思いっきり張り手で張り倒され夫の顔だけが仰け反った。
ジオンは顎を真っ赤にしながらこめかみに怒りマークを乗せて心の中で呟いた。
(お前はそういうやつだよ。知ってたけどな!)
外套を目深に被り、嫁の腕ごと抱きしめ外套の中に入れると夜風を凌ぎながら森の中で一夜を明かした。
翌朝陽が昇る前の地平線にうっすらと太陽の陽が覗く頃、ジオンは嫁に叩き起こされた。
昨夜同様に顎に今度は頭突きされ、虚無顔で嫁を見る。
「お前どんだけだよ」
「何がよ、それよりここをすぐに出発するわよ」
「国境の検問所まではどうしたって1日半以上はかかるって言ったろう。昨日のような強行軍で行っても、着くのは夜だ。その時間には検問所は閉まってるんだ。急ぐ必要はない」
「夕方には着くかもしれないじゃない」
「無理だ、ここから先は街を経由する以上、馬を今までのように走らせれば怪我人が出る。殺人者になりたくなければ馬が疲弊しない程度に行くんだ」
向かい合っていた嫁からチッと舌打ちが聞こえたが、無理なものは無理だ。
結局2日かけて国境まで向かえば、検問所で嫁が暴走した。
昨日は大雨に降られながら移動したが、本日は快晴。
太陽が真上に位置し照りつける日差しの元、検問所で嫁が駐在員に乱暴に突っかかり意味不明なことを言う嫁を羽交締めに近い状態で、拘束。
駐屯地在住の見知った補佐官がまだいると見込んで、ジオンは自分の名前を告げて呼び出してもらった。
数分後飛び出して来た補佐官は記憶より老けていたが、自分も人のことは言えない。
事情を説明して飛竜を一頭借りたい旨を伝えれば、案の定嫁を気にしていたようだが、まあこいつなら大丈夫だろう。
それどころか本気で竜に乗り込み、夫を置いていく気満々で操縦し始めた時には肝が冷えた。
慌てて竜の綱を握り込み説教する。
「お前は後ろに下がれ!」
「邪魔しないで!」
「竜の操縦を甘く見て姫さんに会う前に死んでもいいのか!?」
数百メートルの上空を飛ぶ怖さを知らないからそんなことが言えるんだ!?
そう言えば嫁は下唇を噛んで俯いたが、その頭にポンと手を置いて切実に訴えた。
「頼むから俺を頼ってくれ。そんなに俺は頼りないかよ」
「違う。私は、、、」
「いいから後ろに下がれ。俺が操縦する。その方が何倍も安全だし最速で王城に着ける!」
馬の操縦で下手な者と上手い者とではスピードが違うように、竜の操縦も練習が相当いる。
昔取った杵柄で姿勢良く竜に乗り込むジオンに、マーシーも素直にその腰に手を回した。
ただしここの人たちと違ってジオンは座ったスタイルで竜に跨っていたが、体が柔らかいマーシーも同じように跨り座って夫の腰に抱きついた。
駐屯地にいる騎士たちがそんな2人をポカンとした表情で見ていたが2人は気にせず、頭はもう王城に向かっていた。
「行くぞ!」
ジオンのその声にマーシーの意識は完全にマリエルに向かい、ジオンの操縦で無言の飛行2時間後に王城に着いた。
ジオンは記憶を頼りに竜御殿がある庭に降り立った。
出入り口を教えていたおかげでマーシーは、竜が地面に足が着くと同時に飛び降り、当然マリエルを訪ねて御殿の方へ突っ走った。
御殿の玄関先でディークファルトの乳母、カーラが対応してくれたようだが、ここから見て嫁の様子がおかしい。
竜から降り立ち、駐屯地に戻るように竜の体を叩けば竜は空高く飛んで駐屯地方向に猛スピードで飛び去って行った。
出入り口の前で力無く肩を落としている嫁に「どうした?」と聞けば、嫁は立ったまま意識を失っていた。
どういうこと!?
カーラの様子から嫁は言葉を発する前に疲れがピークに達し、意識を失ったようで、困惑気味だ。
そんなカーラに身分証の札を見せ、自分たちがマリエルの護衛と侍女であることを告げ面通しをお願いしたが、目当ての姫が現在ここにはおらず、街に降りて行っていると告げられた。
本当にじってしてないな、あの姫さんは!
俺たちがいないから好き放題してんだな!?と思ったのも束の間。
強行軍でここまで来たジオンは嫁同様、気が抜けて気を失いそうになった。
カーラに姫が戻るまでどこかで休ませてほしいと頼み、案内された部屋に引きずるように嫁と移動した後は、ほとんど覚えていない。
狭いベットの上に夫婦揃って倒れ込み死んだように寝こけた。
帰って来たらタダじゃおかんぞ、姫さんよ、、、、。
朦朧とする意識の中、ジオンはなけなしの気力でそう思った直後完全に意識を失った。
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冒頭でも記載した通り、次回は未定です。
体調との戦いなので、かなりゆっくり更新となると思います。
よろしくお願いいたします。




