39、脅威なまでの感情と、能力
毎週月曜日投稿作品です。
シリアス回、、、。
勉強会途中、外では雷が近づいおりゴロゴロという音が大きくなっていた。
更に雨足が強くなり室内にも雨音が大きく聞こえ始め、イーサンの声すら聞き辛いほど壁に叩きつけられる雨音だけが室内に響いていた。
勉強会を中断し3人で雨が鎮まるのを待っている時だった。
「雷がどんどん近づいて来てますね」
隣にいるサラが声をかけて来たのでマリエルも話に合わせて話す。
「思ったより強い降り方ですが、街は大丈夫でしょうか」
「城下町は整備されているので大丈夫ですが、地方の田舎だとこのままでは土砂災害や浸水被害が出る可能性はありますね」
イーサンも参戦しそう答えてながら窓の方へ顔を向け、続いてマリエルも持っていたカップソーサをテーブルに戻しながら窓に目を向けた時、空がピカっと光ったと同時にドン!と地を揺らすほどの音が響いた。
その時だった。
マリエルは無防備な状態から他者の強烈な感情が怒涛のように脳内に流れ込んで来て、頭が割れる程の痛みを覚え目を大きく見開き、頭を抱えて悲鳴を上げた。
「きゃああああああ!!」
苦悶な表情で痛みで頭を押さえ、うずくまったマリエルにイーサンとサラは驚いた。
「姫?!」
「マリエル様?!」
雷を恐れて悲鳴を上げたわけではない様子に、隣にいるサラも目の前にいるイーサンも狼狽するしかなかった。
この時マリエルは他人の断片的なフラッシュバックの記憶と共に、珍しく声までもが脳内に響ていた。
あまりの膨大な記憶の波に飲まれながら最初この記憶が誰のものか分からなかったが、途中この感情を受け止めなければと気持ちを強く持った。
この感情は、王太子妃シャーロットのものだ!
脳内に響く声と彼女の記憶がリンクして来る。
『いい気にならないことね!あんたは私の身代わりでしかないのよ!』
随分と横柄な態度の女性がこちらに向かって言い放っていた。
シャーロットと同じ栗色の髪に琥珀色の瞳の女性。
と言うことは彼女が第一王女ギャレットか?
シャーロットは清楚で可憐なまでにおっとりした性格同様、百合のようにしっとりした美しい顔立ちだが、目の前の女性は悪女と言っても遜色ない顔をしていた。
同じ系統の顔立ちでありながら、目は吊り目で顔はシャーロットよりシャープだろうか。勝気な表情と態度を見るからに横柄だ。
妹に向ける表情にしては憎しみが滲み出ていて、マリエルは自分に向けられるその感情や表情に恐怖で震えた。
その後も彼女から好き勝手言われているビジョンだけが脳内に入って来る。
『あの方は私を忘れられないのよ。だからジファーグの王女に拘るの。あんたはおこぼれであの国の王妃になるのよ!』
次から次へと場面は切り替わるが、シャーロットの感情だろうか。
恐怖、悲しみ、寂しさ、虚しさ、ほんの少しの怒りと、そして憤り。
脳内に響く声とビジョンに割れるような痛みに加え、シャーロットの感情で心臓も痛くなりそれぞれに手を置き絶えるが、他は機能しなくなったのか俯いた口元から涎がこぼれ落ちる。
『いいこと。いずれあの方は私を迎えに来てくださるわ。それまで王妃の暮らしを堪能すればいいわ。だって私があの方の元に戻ればあんたなんてお払い箱なんだから、その後の人生自分1人で切り抜けなさい。そこまで私は面倒は見ないわよ!』
『なんて卑しい子なのかしら。たかが第五王女のくせにオルリアの王妃になろうだなんて!なぜあんたが私より大きな国の妃になってるのよ!』
物を投げられ自身に当たる感覚を受けながらもっとひどい罵詈雑言が聞こえて来たが、流石にこれ以上は聞いていられないと思うほど、相手の女性から放たれる怒気にマリエルはシャットダウンした。
そうしなければ自身の精神が壊れそうだった。
それにしても何て記憶の数々なの。
あれでは、シャーロットがおこぼれで妃となったと思っても仕方のないものだった。
冷や汗を流しながら、ハアハアと肩で息し、頭が上げられないほどマリエル疲弊した。
「姫?!どうされました!」
「マリエル姫!」
マリエルは手を翳し何でもないと静止した。
息を調えると椅子に座り直し大きく息を吐いた。
「ごめんなさい。あれは・・・たぶんシャーロット様の記憶ですわね。強烈なイメージが急に頭に入り込んで息が出来ませんでした」
真っ青な顔で椅子に座り直したマリエルにイーサンが問う。
「例のビジョンですか」
「ええ。・・・ここオルリアに来るまでの記憶でしょう。ジファーグでシャーロット様は、もう一人の女性。あれはギャレット様かしら?相当罵詈雑言を言われたようです」
「なんと言われていました?」
「知りたいですか?」
「ええ」
イーサンの言葉に深刻な表情を向けたマリエルは意を決し、2人に向き直った。
「これは一度しか使えませんが、今私が見聞きしたことをお2人にお見せします」
マリエルは左手をテーブル中央に置く。
「私の手に触れて下さい。指先1つでも構いません」
何が起こるのか不思議顔のイーサンとサラはマリエルの手に触れた。
すると頭の中に先程マリエルが見た記憶と声が響く。
衝撃的な体験と見聞きした内容のえげつなさに、大きく目を見開いているイーサンとサラにマリエルは眉を下げた。
「ごめんなさい、本当はもっと沢山の声があったようなのだけれど、あれだけを拾うのが精一杯だったわ」
「十分です」
あんな鮮明なビジョンを拾えるのかとイーサンはマリエルを驚愕な眼差しで見つめた。
「もし本当の事実を知らず、先程見聞きした事を妃殿下が経験されていたら、おこぼれの身代わり妃と思われていてもおかしくはありません」
深刻な表情のサラに悲痛な面持ちになるイーサンは頷いた。
「ええ」
「不安だと思うのです。このまま子を産んでいつまで自分がここに居られるのか。姉の影に怯えているのに、この城では心を許して相談できる方もいないなんて、妊婦には本当優しくありません」
マリエルの言葉にイーサンは大打撃を受ける。
外ではイーサンに同調したようにピカ!ドンゴロゴロ!ピカ!ゴロゴロ!と忙しなく雷を落していた。
「皇太子夫婦がぎこちない関係であることは知っていたのです。ですが、ここまで意思の疎通が取れていないとは」
落ち込みMAXのイーサンは顔を両手で覆いクシャリと前髪を握った。
不甲斐ないと嘆く大の男に、マリエルは静かに言った。
「イーサン反省することは悪いことではありませんが、起きた事を悔やんでも仕方ありません」
「そうです。今は一刻も早く妃殿下の憂いを取り除き、健やかなお子様を産んで頂くことが先決です」
マリエルとサラの言葉にイーサンはそうだといつもの冷静さを取り戻した。
「イーサン、人の負の感情は己の精神にも影響を気足します。今あなたが落ち込んだ現象もその1つです。同時にシャーロット様が受けた傷でもあるのです。その分、重要度は理解できますよね」
「ええ。下手をすればお腹のお子様の命に関わることになります。早急に対策を打たねばなりません」
「侍女の件は先程の赤の騎士団のご婦人方でいいかしら?」
「ええ、この後すぐに動きます」
マリエルとイーサンが議論している横でサラは思案顔を向けた。
「・・・それなのですが」
サラの言葉にマリエルとイーサンは、他に何かいい案があるのかと見やる。
「私が護衛兼話し相手でシャーロット様に着きましょう」
真顔で言うサラは冗談を言っている風ではないし、今はシリアスな場面である。
ただ何故にサラ様が?と思わざるおえない。
それはイーサンも同じだったようだ。
「サラ嬢、あなたは3ヶ月後にはクリストファー殿下との結婚を控えています。勉強もあります。そのあなたが妃殿下の護衛とはどう言う意味です」
「その言葉通りです。結婚後は義妹としてでも構いません。お力になれるならこのサラ、妃殿下のお側におります」
つまり今後、妃殿下とは友好な関係を築き支えたいという意思表示だった。
「それに妃殿下の元にいれば、クリス様も大人しくして下さるだろうし」
とボソリ呟いたサラの言葉がマリエルだけに聞こえた。
そんなに婚約者から愛を囁かれるのは苦手なのだろうか?と思いながらマリエルはイーサンに質問した。
「イーサン、サラ様は結婚後どこに住まわれますの?」
「この城内の一角にクリストファー殿下専用の離宮を建設中です」
「なら深く考えずにお任せしてはどうです」
「マリエル姫」
「私も出来る限り妃殿下のところに行ってお話相手くらいしようと思っています。それに敵はどこに潜んでいるかわかりませんからサラ様がシャーロット様の側に居て下さるなら心強いですわ。もちろん侍女の募集は別途お願いしますけど」
「しかし勉強会はどうされるのです」
「妃殿下のところでしてもよろしいのでは?賑やかになっていいと思うわ」
コロコロと笑うマリエルの横でサラも頷く。
「講師は妃殿下にして頂くのはどうでしょう。博識の高さでシャーロット様は有名ではありませんか」
マリエルとサラの言葉にイーサンは黙るしかなかった。
「勝手には決められません。殿下方に伺って見なければ」
「そうですわね。サイラスお義兄様には現状を認識して頂いて妃殿下の憂いと取って頂かないといけませんしね」
「先程の見聞きはもうできないのですか?」
「ええ、あれは私が拾ったものを外に放出する際にそのまま他人にも見せられるものなので、何度も見れるものではないのです。先程も言ったように負の感情を抱えたままでは今度は私の精神にも左右されるので、長く留めることもできないのです」
「残念です」
あれを皇太子に見せれば簡単だったのにとイーサンは悔やまれた。
「もう一度拾うことはできないのですか?」
サラの言葉にマリエルは曖昧に笑った。
「先程の感情は離れた私にも流れてくる程の強いものでしたから、勝手に拾ってしまったのでなんとも言えませんが、シャーロット様が今も思い悩んでいらっしゃるなら拾えるかもしれません。試してみましょう」
マリエルは目を閉じると意識をシャーロットへと向けた。
王妃の間にいるシャーロットは、、、。
「駄目です。疲れたのか寝てしまわれています」
「離れていても感知できるものですか?」
驚きの表情を向けるイーサンに苦笑いを向ける。
「先程移動中にも言いましたが難易度が上がればそれだけ労力もかかり私の疲労が溜まります。最近はありませんが、小さい頃はそれが原因でよく熱が出ていましたから。人の力です。限界はあります」
「安易に用いるものではないということですね」
神妙な面持ちで語るイーサンにマリエルは頷く。
「ええ、私から進んで他人の感情を拾うことはありません。プライバシーに関わることでもありますから。先程のように人の感情の高ぶりに反応した思いが暴走し勝手に入ってくることがほとんどです」
「でもそれは辛いことですよね?」
先程の痛みに崩れるマリエルを思い出しサラが眉を下げる。
「大丈夫です。よほど強い感情でない限りここまで流れ込んで来ることはないのです。これまでにも勝手に暴走した感情に出会ったことは今回を含めて2回目なのです」
「と、いうことはそれだけ妃殿下の精神は荒れている。ということですね」
「はい」
神妙な表情の3人は、この後入室して来た者たちの呑気さに一瞬毒気が抜けるのである。
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次回は来週月曜日UP予定です。




