38、ジファーグ王国
毎週月曜日投稿作品です。
「さて、(誰とは言わぬが)嵐も過ぎ去ったことですし、勉強をしましょうか。ジファーグ王国についてでしたね」
イーサンとテーブルを挟んだ向かい側にマリエルとサラは座わった。
いきなり始まった勉強会に疑問を持っていたサラは話の内容に驚いた。
「ジファーグ?皇太子妃殿下の祖国ですか」
「ええ」
室内でイーサンは自身でお茶を入れる為「座ったままで失礼します」と紅茶葉をティーポットに適量入れ、お湯を注いだ。
「マリエル姫が先程、皇太子妃殿下に会われて不穏なものを感じ報告に来られました」
今朝の力を見知っているサラはハッとしてマリエルを見つめた。
「これからあなた方は妃殿下とは義姉妹となられます。その上でジファーグ王国のことも知って頂きます」
頷く2人にイーサンは眉間に皺を寄せた。
「妃殿下は自分はおこぼれで妃になったいわば身代わり花嫁だと言われたのでしたね」
イーサンのマリエルに向けた言葉にサラは驚愕な表情になったが、城の下世話な噂をする侍女達の言葉を思い出し、俯いた。
「シャーロット様はそう言っておられたわ。ジファーグ王国の者なら皆公然と知る事実だと」
「誰の身代わりだとおっしゃっていました?」
「第一王女ギャレット様」
マリエルの言葉に、イーサンは眉間の皺そのままに目を閉じると大きく首を横に振った。
ゆっくり瞼を開け一点をジッと見据えた後、話始めた。
「まず、その解釈は間違っています。シャーロット様は知らされていないのでしょう。うちは最初から妃殿下として結婚の打診をしていたのは第五王女シャーロット様です」
器を用意するとイーサンは、3人分の紅茶を注いた。
「ではなぜジファーグ王国では間違った情報が行き交っているのです」
マリエルの言葉にティーセットを各自の目の前に置いたイーサンは嘆息する。
「あの国の王位継承問題と深く関わっているからです」
「王位継承・・・王子誕生で継承順位が変わったことですか?」
サラの言葉にイーサンは頷く。
「知っての通りあの国では第五王女のシャーロット様が生まれるまでは男児が生まれず、第一王女が立太子として認められていました。ところがシャーロット様誕生から13年後、王子がお生まれになった。第一王子誕生時、第一王女は19歳。翌年には王女の立太子宣明の儀が行われ、同時に国内の有力貴族の男性との結婚も決まっていたと言われています。そんな時に王位継承順位が覆る。第一王女には何が起きると思います」
「有力貴族の結婚破棄の申し出、ですか」
マリエルの言葉にイーサンは肯定した。
「ええ、女王の伴侶、王となることで有益が生まれるはずだった貴族にとっては大誤算です。破棄を申し出され王家は困惑した。正当な王子が生まれたことは国にとって喜ばしいことなのに、この時ばかりは国を揺るがす程の混乱を招いた。その原因となったのは、第1に第一王女は大変勤勉でジファーグ1の王になるだろうと誰もが持て囃す程優秀な方だったこと。第2にジファーグ王国の王は高齢で第一王子が王と立志するまで生きていられるか微妙な状態であったことなどが挙げられます」
ここでイーサンは口の乾きを癒す為、紅茶を口に含んだ。
「問題の火種になったのは、王子誕生で上位貴族達が手のひらを返したように第一王女と距離を取り始めたことです。ジファーグ1の王になるだろうと持て囃されていた第一王女にとっては王位が遠退いて初めて自分の価値とは何かを考えたのでしょう。その結果、王の座に固執し始め、下位貴族を味方につけて内乱にまで発展したことです」
「第一王女様は随分大胆な方ですわね」
サラがそう言えば、イーサンも肯定する。
「王に相応しい気質の持ち主で大変な自信家でもあります」
イーサンの言い方はオブラートに包まれてはいるが、大胆で男気のある鼻持ちならない女性ということ?とマリエルは虚無顔になった。
「なるほど、王としては大変価値はあるけれど、女性としては・・・・と言ったところですか」
サラの言葉にイーサンは苦笑いした。
「重臣の立場から言わせてもらえば、妃殿下となられる方には、王に従順で影で王や国を守ってくれるような方が望ましい。それ故こちらはシャーロット様一択で申し込んだはずなのですが、タイミングが悪かったとしかいいようがない。申し出の直後に王子誕生で内乱に巻き込まれる事態に陥った」
「巻き込まれた?」
マリエルとサラが困惑する中、イーサンは話を続けた。
「内乱を理由に結婚の打診の返事が滞り、こちらからの再度の要請にジファーグ王国はこともあろうに、サイラス殿下の妃に第一王女のギャレット姫をもらってほしいと言い始めたのです」
行動には理由がある。
内乱を収めたかったジファーグ王国にとって、もはや国を脅かす第一王女は厄介な存在であり、彼女さえいなければ内乱を制圧できる。
この段階でジファーグ王国がオルリアに第一王女を妃にと推した理由。
小国ジファーグ王国と大国オルリア王国。
「つまり、ジファーグ王国の女王より大国オルリア王国の王妃の方が魅力的だとジファーグは第一王女を説得し、内乱を収めようとした。ということですか?」
マリエルの言葉にイーサンは大きく頷いた。
「ええ。しかしこちらとしてはサイラス殿下を差し置いて、前に出るような妃は望まない。そう言って向こう側の要請を跳ね除けたはずなのですが、聞き入れられない、聞く耳を持たない状態にさすがにあの時のサイラス殿下は苛立っていましたね」
紅茶を口に含み、当時を思い出しているのか苦い顔のイーサンにマリエルは質問する。
「ジファーグ国の内乱が起きていた頃、サイラスお義兄様はいくつですの?」
「サイラス殿下28歳、シャーロット姫13歳・・・・・ギャレット姫20歳です」
え!とマリエルとサラは目を見開いた。
マリエルは自分自身とディークファルトは一回りも離れていると少し気にしていたのだが、皇太子夫婦は15歳差なのね。
ビックリである。
「それはジファーグ王国の考えることもわからなくもないかも」
とサラは口元が引きつっている。
「お義兄様と年格好も近いギャレット様をと考えるのは仕方ないと思いますが、事実と違うことがそのまま生きていることが納得いきません」
マリエルの言葉にイーサンは、ええ。と頷いた。
その後、2人の王子妃に紅茶を勧めるイーサンに2人はカップに口をつけた。
「こちらからの再三の要請にギャレット姫でなければと推してきたジファーグ国の目論見は、戦争回避の為にギャレット姫の目をオルリアに向けること。ジファーグが国をあげて取り組んだのでしょう。その証拠に内乱は鎮圧。その頃からギャレット姫は頻繁にサイラス殿下の前に現れるようになっています」
「どうやって回避しましたの?」
「結婚適齢期を使ったのですよ。当時20歳のギャレット姫は王となる為、元々結婚を20歳と定めていたが破棄され、王族としては行き遅れの姫となった。王女側にとっては結婚を急ぎたい。だが婚約も不成立の状態でオルリアが情勢不安(もちろん嘘)で、すぐには結婚はできないと言われた場合、ジファーグはどうします」
「もともとシャーロット様一択のサイラスお義兄様がギャレット姫に結婚申込みはほぼ無いに等しい。けれど行き遅れた場合、また内乱になる可能性も出てくる。そうなる前に別の結婚相手を見つける?」
マリエルの言葉にイーサンは肯定した。
「ええ、うちから手を回してとっとと別の国に行って頂きました」
シレッと言うイーサンにええ〰〰〰!!怖!と震える。
サラも顔に青筋たててティーカップを持ったままイーサンを見ていた。
「ただ思っていたより時間がかかった。ギャレット姫を嫁がせるのにシャーロット姫に結婚を申し込んで3年もの月日が立っていました」
紅茶を飲んでいたサラは首を傾げた。
「それでは計算が合わないのでは?」
何がとマリエルはサラを見た。
「妃殿下は20歳の時にオルリア国に嫁がれています。一年間の婚約期間があったとして3年間は何があったのです?」
20歳?!そうか13歳で求婚し3年厄介事を抱えていたならシャーロット様はその頃16歳。婚約する19歳まで時間が空く。
マリエルはイーサンの次の言葉を待った。
「第一王女の手前なのかギャレット姫が嫁がれた後、ジファーグが妃にと次に推してきたのは第三王女だったのです」
「え?!」
問題解決した話かと思えばまだ続きがあった?!
「シャーロット様に話をすぐ持っていけばギャレット姫が乗り込んで来ると恐れてのことか、シャーロット姫に危害を与えさせないためか。いいや、ジファーグ王国はオルリアを利用したのですよ」
利用?
物騒な物言いに驚くマリエルとサラに、ティーカップに替わりの紅茶を入れたイーサンは一口、口に含みフウと息を吐いた。
「ジファーグ王国は慢性的な財政難です。正直王女達の結婚資金もままならないほどです。そこでジファーグ王国は考えた。第一王女の結婚は内乱を収めた以上に、オルリアがその結婚の間に入ったことでジファーグ王国にとって大変有益となった。シャーロット姫との結婚に固執している我が国の足元を見られたのですよ。次々と余っている王女たちの嫁ぎ先を斡旋させれば国として更に利益を得る。とね」
その言い分にマリエルは眉を顰めた。
「第一王女同様に他の王女の結婚にオルリアが関わったのですか?」
「第一王女の結婚後ジファーグ王国は当時20歳の第三王女を差し出そうとして来ました。こちらの意図を知っているはずなのにと憤りを感じながら最初は無視していたのですが、財政難の国の姫を娶ろうという者は現れず、交渉は平行線。結局第三王女の結婚相手もこちらが見繕う羽目になったのです」
「よく他国の方へ説得できましたわね。財政難より有効なカードがあるのですか?」
「彼らはオルリア国へ恩が売れるのですよ」
自虐的な笑みを浮かべるイーサンに不本意だったのだなと二人悟った。
なるほど、目先の利益より先への投資か。
マリエルは丁度いい温度になった紅茶を飲んだ。
「その後も足元見られたように第三王女が終わった後は、第四王女とジファーグは推してきた。これで最後だろうとそちらも処理しました。ようやく御大の姫が出て来てこちらが安堵したのは、サラ嬢が言われたようにシャーロット姫が19歳になられた時です」
長い・・・。結婚を申し込んで実に6年かかってるの?!でもそれって、とマリエルは身を乗り出した。
「それだけ長い間シャーロット様一択ってことはシャーロット様を好きだから。ですわよね」
「もちろんです」
ではなぜ、ああまですれ違いが?困惑するマリエルにイーサンは眉を下げた。
「皇太子殿下は口下手なのですよ」
「言い過ぎや過剰表現はどうかと思いますが、いざという時くらいは愛を囁いてほしいですわよね、女性としては」
サラの辛口コメントに先程のクリストファーの所業を思い出し、苦笑いを向けるマリエルだった。
イーサンはごもっともで。と肩身を狭くして紅茶を飲むしかなかった。
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次回は来週月曜日UP予定です。




